第七十三話 友達と二人きりで
仕方なく唯菜を部屋に招き入れたのだけれど、男子の部屋に女子を入れて問題になったりはしないだろうか。修学旅行なんかじゃないので問題はないと思うけど、わざわざ男子と女子の部屋を遠くにしているのだからダメなのではないかという考えも浮かんでは消えていたのだ。
「部屋の造りって微妙に違うもんなんだね。私達の部屋にはテレビが置いてあったけどここにはテレビも無いもんね。でも、この旅館ってアンテナが無いのかテレビが全然映らないんだよ。何故かインターネットに繋がってるテレビなんでネットで色々と見れてるから別にテレビなんて見れなくてもいいんだけどね。部屋に戻ってテレビでも見ようかなって思っても二人が寝てるからそんな事も出来ないし、そこまで見たいのも無いんだよ。右近は何か見たいのとかあったりするの?」
「俺もあんまり見たい番組とかは無いかも。動画とかもあんまり詳しくないし、何もやることが無くて暇で暇でしょうがないってときに何か見てるくらいだからね。唯菜に言われるまでこの部屋にテレビが無いってのも気付かなかったくらいだからな」
「ところで、右近は普段どんな番組とか見てるの?」
改めて聞かれると答えにくい質問だと思う。毎回決まってみる番組なんて何も無いし、たまにスポーツを見るくらいで自分からテレビを見ようと思ったことなんて無いかもしれない。実家にいた時は誰かが見ている番組を見ていたこともあったけれど、一人でいる時はテレビを見ているよりも本を読んでいる時間の方が長かったような気がする。両親の影響なのか祖父母の影響なのか、俺はそんなにテレビに興味を持たずに過ごしてきたのだ。
「そういう風に聞かれても毎週見てる番組とかないかも。テレビもゲームする時くらいしかつけてないからな」
「そういうもんだよね。私も小さい時はよく見てたんだけど、最近じゃあんまり見なくなってるかもな。スマホはよく見てるんだけどさ、テレビって私が見たいのを見せてくれないから見なくなっちゃったかも」
お互いに買ってきた飲み物も空になったのでもう一度買いに行こうかと思ったのだけれど、そんな俺の様子を見てなのか唯菜は立ち上がるとそのまま部屋から出て行こうとしていた。
「やっぱり自分たちの部屋に戻ることにするよ。右近と話をしてたら眠気もどこか行っちゃったみたいだからね。右近は疲れていると思うから少しでも休んでてね。私がここで寝てたらさ、政虎君が返ってきた時にビックリしちゃうかもしれないもんね。そうなったら政虎君だけじゃなく右近にも迷惑かけちゃうと思うからさ、だからいったん帰ることにするね。右近はちゃんと休んどくんだよ。夜にどこか買い物に行きたいとか言い出すかもしれないからね」
「唯菜は何か欲しいものでもあるの?」
「私は何も無いよ。もしかしたらだけど、千雪ちゃんとか何か思いつきで欲しくなったりするんじゃないかなって思ってね。みんなの真似して何か欲しくなっちゃうことがあるかもしれないでしょ。さすがにタバコとかお酒を欲しがるとは思えないけどさ、普段は身近にあるコンビニが車で行かないといけない距離だなんてなかなかないからね。いつもなら気楽苦に行けるはずなのに、気軽に歩いて行ける距離じゃないって気付いた時ってそこに行きたくなっちゃうもんだと思うからかな」
「確かにな。いつもは近くにあって便利なものが遠くにしかないってのは地味にストレスかもな。政虎とかゲームも好きだからこの部屋でゲームできないって知ったら悲しむかもな」
「ゲームだったらさ、今はテレビにつながなくても出来るやつもあるみたいだし、そこまで困ったりはしないんじゃないかな。ゲームも全然やらないんで詳しくはないけど、大学でもゲーム機もってきて遊んでる人とかいるもんね。政虎君はあんまり外で何かしてるってイメージはないけどさ、右近も一緒にゲームとかしたりしてるんでしょ?」
「わりと一緒にやってるかも。唯とか愛華も一緒にやることが多かったよ。最近は千雪も一緒にやること増えてきたかもしれないな。唯菜も俺達と一緒にゲームとかするか?」
「ゲームはあんまりしたことないんで下手だと思うし、政虎君の家に行くってのはちょっと遠慮したいかな。遊びに行くのが嫌とかなんじゃなくて、私がみんなの中に加わるとお互いに気を使い合ってギクシャクしちゃいそうだなって思ったんだよ。右近はいつもと変わらないような気はするけど、政虎君とか唯ちゃんは私にも気を使ってくれると思うんだ。愛華ちゃんと千雪ちゃんはちょっとわからないけど、私は二人にも気を使って何もしゃべらないで帰っちゃいそうな予感もしてるよ」
いつの間にか俺達は政虎の家で遊ぶようになっていた。時々は俺の家だったり唯の家だったりするのだけれど、基本的にはいつも政虎の家に集まってゲームをしたり漫画を見たり課題をやっていたりするのだ。何もしても自由な感じではあるけれど、みんな決まったことを繰り返しているだけに過ぎないのだ。俺と政虎は基本的にずっとゲームをやっているし、愛華も時々俺達と一緒にゲームをして過ごすこともあるのだ。
そんな中、唯だけは一人で晩御飯の準備をしていたりもする。政虎のために唯が心を込めて作った料理は政虎には世界一だと好評なのだが、俺も愛華もそこまで美味しいとは思わなかった。食べる人によって好みはあるのだろうけど、基本的に唯が作る料理は政虎が美味しいと思うかどうかでしかないのだ。
「じゃあ、いつか遊びに行くことがあったら何かデザートでも作っていくよ。美味しいかはわからないけど、それなりに食べられると思うからね。じゃあ、夜までおやすみ」
俺は甘いものも好きなのだ。唯菜が何を作るのかわからないけれど、俺はまだ見ぬそのデザートがどんなものなのか気になってしまっていた。
政虎は唯菜が作ったと知ったら残さずに食べると思うし、愛華も唯も綺麗に食べていそうな気はしていた。
俺はたぶん普通に美味しく食べるんだろうな。
家に帰ったら早速その事を政虎に提案してみようかな。もしかしたら愛華は反対するかもしれないけど、こればっかりはその時にならないとわからないよね。




