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何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない  作者: 釧路太郎


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第七十一話 やっぱり、お兄さんの良さなんてわからないです

 帰りたそうにしているお兄さんを無視して私は再び海へと飛び込んでみた。顔まで濡れるのが嫌だったからジャンプして海入っただけなんだけど、ちょうど波が来たところだったので思いっきり倒れ込んでしまった。

 水の中に顔まで浸かったのは小学生の時に行ったプールの時以来だったけれど、あの時とは違って水の中から見える景色は青く優しい感じがしていた。

「大丈夫?」

 お兄さんは私を抱きかかえながら心配そうな顔を見せてくれていたけれど私はお兄さんがなんでそんな顔をしているのかわからなかった。

「大丈夫ですよ。泳げますし」

「そうなんだ。俺はてっきり千雪ちゃんは泳げないものだと思ってたからさ、ちょっと心配になっちゃった」

「別に、心配してくれるのは良いんですけど、そんな風に抱きしめてくれなくても大丈夫ですよ。ほら、ここってそんなに深くないですし」

「あ、ごめん。溺れてるのかと思っちゃったから」

 お兄さんは私を優しく抱えたままゆっくりと立たせてくれた。私がどれくらいの時間海の中で空を見ていたのかわからないですけど、お兄さんはたぶん私が海の中に沈んでからすぐに助けてくれたんでしょうね。椅子から結構距離もあったと思うんですけど、すぐに助けてくれたっていうのはちょっとだけ嬉しいかもしれないです。

「あの、ちょっとだけ不公平なんでしゃがんでもらっていいですか?」

「え、しゃがむってここで?」

「はい、お願いします」

 私の言葉の意味を理解出来ていないお兄さんは不思議そうな顔をしてしゃがんでくれた。意外と素直に言う事を聞いてくれるんだなって思ったのだけれど、それよりも早く私はお兄さんの頭を思いっ切り海の中へと沈めてみた。

 突然の出来事に焦ったお兄さんは思いっきり暴れていて物凄い水しぶきがあがっているのだけれど、なぜか私の手を払いのけようとはしなかった。お兄さんは物凄く暴れていて水しぶきも凄いのだけれど、私の方に全然水が飛んでこないのだ。なんでだろうと思って薄眼をあけて見てみると、お兄さんの手は前後ではなく左右に思いっきり動いていた。どうしてそんな器用なことが出来るのだろうと思って見ていたのだけれど、だんだんとお兄さんの動きが遅くなってきたのでちょっとだけ心配になってしまって頭を押さえている手を離してしまった。

 私が手を離したのと同時にお兄さんは顔を海中から出すと何度も何度も大きく息を吸っていた。まるで全力疾走でもしたのかと思うくらいに息が上がっているお兄さんはちょっとだけ涙目になっているようにも見えた。

「ごめんなさい。ちょっとやり過ぎました」

「大丈夫、いいのいいの。俺もすぐに千雪ちゃんの事を助けに行かなかったからさ。海の中に消えた時に遊んでるのかなって思ったんだけど、もしかしたら俺と同じで泳げないのかもしれないって思ってね。そう考えると仕返しされても仕方ないかなって思っちゃったからさ」

「え、ちょっと待ってください。お兄さんって泳げないんですか?」

「うん、全く泳げないよ。水の中に潜ったのだって今ので二回目くらいだと思うし、息を止めていても意外と苦しいもんなんだね」

 なんてことだ。私はてっきりお兄さんは泳げるんだと思っていた。今にして思えば、お兄さんは海で最初に遊んだ時もちょっと前に遊んだ時も泳いだりなんてしてなかったな。ずっと海の中を歩いていた。泳げないお兄さんを私は海に沈めたというのか。それって、とても良くないことをしてしまったという事じゃないだろうか。

「ご、ごめんなさい。お兄さんが泳げないなんて知らなかったんです。泳げる人に対してもやって良い事じゃないように思えますし、本当にごめんなさい」

「全然気にしなくていいよ。千雪ちゃんが俺の頭を押してくれなかったら俺は全身で海を体験する事も無かったと思うしね。でも、次は俺のタイミングで海に入らせてね」

 泳げないんだったらもっと怒っても不思議ではないのにお兄さんは私に怒ったりしなかった。それどころか、海に入れたことを喜んでいるようにも見える。何で泳げないのに海の中に沈められて喜んでいるんだろう。もしかして、本当に変態だったりするのかな。そうだったとしたらますます理解出来なくなっちゃうよね。

 そう言えば、お兄さんが誰かに怒ってるところって見た事が無いかも。そんなに付き合いが長いわけでもないんで当然と言えば当然だし、お兄さんに対して悪口を言っている人がいても気にしてないみたいなんだよね。右近君の事を悪く言う人がいたら怒るのかなって思ったけど、そもそも右近君に悪口を言う人なんていないだろうし、それは愛華ちゃんもお姉ちゃんも同じだよね。一番悪口を言われそうなのは私だと思うけど、そういうのも聞いたことは無いかも。

 ちょっと前だけど、右近君にお兄さんが怒ったところを見たことがあるか聞いてみたんだった。その時はお兄さんが一回だけ怒ったことがあるって話だったんだけど、それは桜さんがストーカー相手から直接被害を受けた時って話だったんだよね。お兄さんは自分が何か言われたり何かされても怒ったりしないみたいだけど、それって好きな人のためになら怒れるって事なのかな。その被害に遭ったのが桜さんじゃなくてお姉ちゃんでもお兄さんは怒ってくれたりするのかな。そんな事はお兄さんに聞けないけどね。

「お兄さんって、今千雪がしたことで怒ったりしないんですか?」

「別に怒る理由なんて無いでしょ。千雪ちゃんはそうしたいって思ったからやっただけでしょ。だったらそれを受け入れるのも大人の役割なんじゃないかな」

「それって、千雪の事を子供だと思ってるって事ですよね。お兄さんって自分の事を保護者だって思ってるって事なんですよね?」

「いや、そう言うわけじゃないけど」

「別にいいですよ。じゃあ、もう一つ仕返ししちゃいますね」

 私はさっきお兄さんが私にしてくれたみたいにお兄さんの体を持ち上げようとしてみた。でも、お兄さんの大きい体は海の中で浮力があっても持ち上げることが出来なかった。無理をすれば持てるとは思うんだけど、その時にバランスを保っていられるか自信は無かった。もう一度お兄さんを海に沈めるなんて私には出来そうになかった。

「急に抱きついてどうしたの?」

「どうしたのって、さっきお兄さんがしてくれたことをやり返しているだけです。ほら、こんなに可愛い子に抱き着かれてお兄さんは嬉しいって思いますか?」

「え、ああ、うん。嬉しいよ」

 お兄さんはそう言ってくれましたけど、あんまり嬉しそうに見えないんですよね。これが私じゃなくてお姉ちゃんや愛華ちゃんでも同じような反応をしてるんでしょうね。

 お姉ちゃん。お兄さんの良さって何なのか全然わかりませんよ。

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