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何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない  作者: 釧路太郎


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第六十四話 俺が隣にいても声をかけられる髑髏沼愛華は美人なんだな

 髑髏沼愛華はきっと機嫌が悪いんだろう。お互いに別の方向を向いてベンチに座ってはいるのだが、時々視線を感じていた。そのたびに髑髏沼愛華は俺にしか聞こえないような感じで舌打ちをしてくるのだが、そんなに嫌だったら俺の隣に座ったりなんてしなければいいのにと思う。他に空いているベンチが無いのだから仕方ないことだとは思うけれど、それならまだみんなと一緒に水着を選んでいればいいのにな。

「何か嫌な事でもあったのか?」

「別にないけど。強いて言えば、あんたがそこにいることくらいかしら」

「俺がここに居ることくらいって、俺の方が先に座ってたんだけど」

「チッ。そういう細かいことはどうでもいいのよ。鬼仏院右近はまだ戻ってこないの?」

「どうだろうな。空いている席を探すって言っていなくなったけどさ、どこまで行ってるんだろうな」

 俺のスマホには何の連絡も届いていない。何かあれば連絡の一つでも来るのだろうと思うのだけれど、今のところ何の連絡も届いてはいなかった。荷物もたくさんあるのでむやみやたらと探し回る事なんて出来ないし、この荷物を髑髏沼愛華に任せて一人で探しに行くのも違うような気がするんだよな。そんな事をしたらみんなから文句を言われてしまいそうだ。俺に荷物を任せた鬼仏院右近もみんなと一緒に文句とか行ってきそうだけど、奴は後でこっそり謝ってくるんだろうな。いや、なんだかんだ言ってみんなあとで文句を言った事を謝ってはきそうだ。

 店の前を通る人は相変わらずそれなりにいるのだけれど、水着屋の前だというのに女性よりも男性の姿の方が多くなっているように思えた。

 なんでそんなに男が増えているのだろうと思ったのだけれど、集まっている男たちはみんな何度も店の前を素通りしている風を装って店内にいる女性客を見ているっぽい感じに思える。もちろん、水着を試着しているところを直接見ることが出来るわけではないのだけれど、中には水着姿のまま店内を歩いている人もいるらしく足を止めている男性も多くいたのだ。

 そんなに水着姿が見たいものなのかと思ってはいたけれど、俺も唯菜ちゃんが水着を試着してるんだったら見てみたいなという思いはあったりするので完全に否定する事は出来ないのである。

「あんたさ、今変なこと考えてない?」

「別に考えてないけど。そういう愛は今何を考えてるんだよ?」

「別に何も考えてないわ。ちょっとお腹空いたなって思ってるだけだけど」

「さっき食べたばっかりだと思うけど。何か買ってこようか?」

「そこまでしなくていいわよ。それに、今一人になったら知らない人に話しかけられそうだからそこにいてよ」

 髑髏沼愛華はたぶん他の人よりもナンパをされてきているんだろう。実際に何度もナンパをされているところは見かけてきている。それだけの経験があれば声をかけてくるのがどんな人なのか見ただけでわかるもんなんだろうな。それはそれで凄い特技だと感じていた。

「そういう事だったらさ、ハンバーガーでも買ってこようか。チーズバーガーでいいか?」

「あんたは自分で何を言っているのかわかってるの。私は知らない人に話しかけられたくないって言ってるのよ。あんたみたいなやつでも近くにいてくれたら話しかけてこないと思うんだからそこに黙って座ってなさいよ」

「そうは言うけどさ、俺が近くにいるのは嫌なんじゃないの?」

「そうね、近くにいるのはいい気はしないけど、それ以上に知らない人に話しかけられるのってストレスなのよ。あんただって知らない人に話しかけられるの嫌でしょ」

「イヤだとは思うけどさ、そんな経験したことないからわからないや」

「あ、ごめんなさい」

 俺の方をチラッと見た髑髏沼愛華はその一瞬で何かを察したのだろう。普段とは違って素直に謝られてしまったことに対して俺は少しだけ傷付いてしまった。

 それからしばらくはお互いに無言になっていたのだ。唯も千雪ちゃんも水着選びにはまだ時間がかかるようで一向にこちらにやってくる様子は見られず、海に入らないと言っていた唯菜ちゃんも二人とは少し離れて水着を選んでいるようだ。あんまりジロジロと見ていると髑髏沼愛華にまた舌打ちをされてしまいそうだな。


 それなりに時間は経過しているはずなのに誰も俺達の所へ戻ってこなかった。

 何人か髑髏沼愛華にナンパを試みようとしている人はいたのだけれど、今日の髑髏沼愛華はそんな相手には完全に無視を決め込んでいるようだ。いつもなら少しくらいは話を聞いてあげていると思うのだけれど、今日に限っては一切相手にしようというつもりもないみたいである。

「今日は話を聞いてあげないんだな」

「何よ、その言い方は。別に普段だって知らない人の話なんて聞いてないわよ」

「その割には知らない人と話しているところをよく見る気がするんだけど」

「それはたまたまでしょ。それに、知らない人と話しているところを唯ちゃんに見られて変な誤解とかされたらいやだし」

「そういうもんなんだな。でも、唯は愛が誰かと話してたとしても変な誤解とかはしないと思うけどな」

「そうだとは思うけど、それでも嫌なのよ」

 何となく誰がが近付いてきている気配があったのだけれど髑髏沼愛華が俺と話をしているのに気付いてその気配は感じられなくなった。感じられなくなったというか、俺の後ろを名残惜しそうに通り過ぎていく後ろ姿が視線の端に入り込んできていた。

「あのさ、こんなことあんたに言いたくないんだけど、そっちじゃなくてこっちを向きなさいよ。あんたが私と同じ方を向いてたら話しかけてくる男も減ると思うし」

「いや、そっちを向いたら水着屋を見てるみたいで嫌なんだよ。そういうのが好きな人みたいじゃない」

「別にあんたはそんな事気にする感じでもないでしょ。良いからこっち向きなさいって」

「それだったらさ、愛が俺と同じ方を向けばいいだけじゃないのかな」

「あんたは本当にバカなの。そんなことしたら唯ちゃんの事見られなくなっちゃうでしょ。ちょっとは考えなさいよね」

 なんでそんな事で俺は怒られなくてはいけないのだろうと思ってしまった。それに、そんなに鵜崎唯の事を見たいんだったら一緒に水着を選んでいればいいのにと思ったのだけれど、たぶん髑髏沼愛華は自分と鵜崎唯のあまりにも違う姿に何か悲しい感情を抱いてしまっているんだろうな。それを察した俺は何も言葉を発することが出来なくなってしまい、そっと座り直すことにしたのだった。

 自然と漏れてしまった俺のため息は憐みの感情なんてこれっぽっちも無かったのだ。ただ、俺の足はなぜか髑髏沼愛華の踵に軽く踏まれているのであった。

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