第六十三話 桜さんの良さに気付いてしまったかも
千雪ちゃんもそうだけど愛華ちゃんも私の胸の事をいじりすぎだと思う。私だって別に好きで大きな胸になっているというわけでもないんだから、その点は気を使って欲しいとは思っているんだよね。でも、そう言うことを言ってくるって事は私が言い返してもいいって事だよね。今は近くに政虎も右近君もいないからちょっとくらい意地悪してあげようかな。
「千雪ちゃんも愛華ちゃんもあんまり私の事いじめちゃダメだって。私だって好きでこんな風になってるんじゃないからね」
「イジメてるわけじゃないよ。千雪はお姉ちゃんみたいな大人になりたいって思ってるから参考にしたいだけなんだもん。だからね、もう少しお姉ちゃんのオッパイを千雪たちにも見せて欲しいなって思うよ。愛華ちゃんもそう思うよね」
「そうだね。私とはちょっと違う感じだからどんなもんなのか気になるってのはあるかもしれないね」
「ちょっとってレベルじゃないと思うけど。お姉ちゃんよりも小さい桜さんよりも愛華ちゃんは小さいじゃない。胸の大きさだけだったら千雪ともそんなに変わらないと思うんだけどな」
「さすがにそれは無いでしょ。私は確かに小さいほうかもしれないけどさ、千雪ちゃんほど小さくはないと思うよ。アンダーは私の方が小さいと思うし、その分私の方が大きいと思うよ」
「そんな事言ってもわからないじゃない。じゃあ、後であっちにあった下着屋さんでちゃんと測ってもらって比べてみる?」
「そこまではしなくてもいいんじゃないかな。ほら、体調とか時間帯とかでも変わっちゃうと思うし、千雪ちゃんにはまだ必要ないのに測ってもらうとかお店の人に迷惑だと思うな」
「それを言ったら愛華ちゃんだって必要ないと思うんだけど。千雪が必要無いって言うんだったら愛華ちゃんも必要無いって事になっちゃうんじゃないかな」
私は二人のやり取りを見守ろうと思ったんだけど、何もしてないのに二人とも勝手に落ち込んじゃってるんだよね。このままだったら私がいつもの仕返しをしてもただ単に意地悪な人になっちゃいそうだね。なんで私がたまに仕返しをしようとしたらこの二人は勝手に傷付いてしまっているんだろう。
桜さんは海には入らないって言ってたけど楽しそうに水着を選んでいるみたいね。可愛らしい感じの桜さんがどんな水着を選ぶのか気になって近付いてみたんだけど、なんだか紐がいっぱいある複雑な水着を見ているよ。あんな感じの水着はどうやって着たらいいのかわからないし、もしも解けてしまったらどうしたらいいんだろうって気になるな。もしかしたら桜さんって、私達よりもずっと積極的な人なのかも。
「桜さんが見てる水着ってなんだか凄いことになってるね」
私が急に話しかけちゃったんで桜さんはちょっと驚いているみたいだけど、すぐに私の方を向いて笑顔を作ってくれたよ。
「本当に凄いよね。こんなのどうやって着たりするんだろうって思って見てたんだよ。ちゃんと隠れてはいるけどさ、ちょっと動いたら隙間から見えちゃうんじゃないかって思って確認しちゃってたんだよね」
「そうなんだ。桜さんは可愛い系の水着とか似合いそうだなって思ってたんだけど、そう言ったセクシーな感じのも似合いそうだよね」
「ええ、そんな事ないと思うよ。私はそんなにスタイルも良くないしさ、こういうのは唯ちゃんの方が色っぽく着こなせると思うんだけどな。でも、さすがにこんな凄いのは着れないよね」
「うん、そもそもどうやって着るのかもわからないんで想像も出来なかったよ。でも、桜さんは私よりもずっとバランスの良いスタイルで魅力的だから水着とか着てたら右近君もちょっと見惚れちゃうかもしれないよね」
ここで政虎ではなく右近君の名前を出したのは無意識だったと思う。でも、その無意識の中でも私はこれ以上桜さんに政虎の気持ちを奪ってほしくないという思いがあったのだろう。政虎も友達としては桜さんよりも私の事を選んでくれるとは思う。恋人としてってなると政虎は桜さんの事しか視界に入ってないようなんだよね。模様替えをする前の部屋を政虎に見られてから私に対する恋愛感情というものがスッと亡くなったと思うんだけど、それは右近君も同じだって言ってたな。あの時は私も政虎が遊びに来てくれたという気持ちで舞い上がってしまっていたから失敗しちゃったんだよね。あの魔法陣のお陰で政虎を呼ぶことが出来たとは思うんだけど、その魔法陣のせいで政虎に距離を置かれたって思うと複雑な気持ちになっちゃうよね。
「右近君が私の事を見てくれるんだったら海には入れないけど水着になっちゃおうかな。でも、ここで余計なお金を使っちゃうと自由に使えるお金が無くなっちゃうかもしれないしな」
「お金の事は気になっちゃうよね。でも、旅館の宿泊費も交通費も気にしなくていいからね。今回は私達の家の事情で招待するって形になるからそこは心配しなくていいんだよ。お金がかからない分だけオシャレして桜さんが今よりも可愛くなってくれたら私も嬉しいって思うからね」
「でも、さすがに無料ってのは悪いと思うんだよね」
「大丈夫大丈夫。その分後でどうやったら観光客を呼べるようになるか考えてもらえればいいからね。たぶん、遊びに行く時期は私達以外には地元の人しかいないと思うんだけど、その状況を変えるためにはどうしたらいいのか考えてもらいたいんだ。それが向こうの人のためにもなる事だからね」
「それだったらいいんだけど、やっぱりお金を出さないってのは気持ち的に落ち着かないんだよね」
「それだったらさ、あの場所が気に入ったら自分のお金で遊びに行ってくれたらいいんじゃないかな。それがあそこの人達のためにもなると思うんだよね」
桜さんはじっと考えている。私の言った事を真剣に考えてくれていると思うんだけど、まだ行ったことも無い写真だけでしか知らない場所にもう一度行く事なんて普通は考えられないよね。
でも、桜さんは私の顔を見て真っすぐ素敵な笑顔を向けてきたのだ。そんなに真っすぐな笑顔を見せられたら政虎が好きになっちゃう気持ちも理解出来ちゃうかも。
「そうだね。それが良いかもね。まだ行ったことが無い場所なんで想像も出来ないけど、私達の意見を取り入れてくれて少しでも力になれるんだったらさ、自分のお金で行ってみたいって思えるかも」
政虎がなんでこんな女を好きになったんだろうってずっと思っていた。ゼミや他の授業の様子を見てても私と何が違うんだろうって考えていた。それでも、私にはその違いなんて見付けられなかったんだ。私と桜さんの違うところなんて外見くらいだろうって思ってたんだけど、桜さんは私と違って何事に対しても真剣に考えて真っすぐに向き合っているんだろうな。
私は自分の力や魅力を信じ切ることなんて出来ないし、すぐに逃げ出しちゃったりもするんだけど、そんなところを政虎に見透かされちゃってるのかもしれないね。
この事が理解出来たって事だけでも、桜さんを誘って良かったなって心から思うことが出来るよね。千雪ちゃんも愛華ちゃんも何に対しても真っすぐに向き合う事なんて出来ていないと思うんだけど、桜さんはどんな時でも真っすぐに向き合っているんだろうな。




