第六十話 胸が大きいと水着選びも困ります
政虎を誘うためとはいえ桜さんを誘う事には少しだけ葛藤もあった。もしかしたら、政虎と一緒に過ごすことで桜さんの気持ちが揺らいでしまうのではないかという思いもあったのだけれど、ゼミの時間やカフェに行った時の感じを見ていると私が心配しているような事態にはならないと思う。ただ、それも私の希望的観測なだけなのでどうなるかわからないという恐怖はあったのだ。
「私の事も誘ってくれてありがとうね。唯ちゃんとはもっと仲良くなりたいなって思ってたから嬉しいよ。でも、本当に宿泊費とか払わなくても良いの?」
「それは大丈夫だよ。おばさんたちが仕事で関わってる旅館でサービス向上のために気付いたところを色々と教えて欲しいって事みたいだからね。最初は逆に謝礼を貰うみたいな話になったんだけどさ、さすがにタダで泊まらせてもらってお金までもらったら悪いんじゃないかな。って事になって帰ってから感想をまとめて送ることになってるんだよ。一人一人の感想と全体で感じた事を教えて欲しいって事なんだけど、正直に言うとね、私も愛華ちゃんも千雪ちゃんもあんまりそう言ったところに気付けないと思うんだよ。千雪ちゃんは勉強は出来てもサービスの事とかわからないと思うし、私も愛華ちゃんも千雪ちゃんよりはわかったとしても見落としもあると思うからね。でも、桜さんはカフェでバイトしてるからそういうのも得意だろうし、右近君からも桜さんの接客は凄いし気配りとかも出来てるからってのを聞いたことがあるんだけど、そんな桜さんがいてくれたら旅館の人達も喜ぶんじゃないかなって思ったんだ」
「私は別にそこまでプロって感じじゃないかもよ。来てくれる人に楽しんでもらえたらいいなって思ってるだけだからね。それでもいいんだったら感想とか書けると思うよ」
「そうしてくれると助かるよ。部屋は二人ずつになるんだけど、愛華ちゃんと同じ部屋でもいいかな?」
「私は大丈夫だけど、逆に愛ちゃんは私と一緒で大丈夫かな?」
「それなら大丈夫だよ。ちなみになんだけど、桜さんって寝る時に電気をつけたままにしておく人だったりする?」
「え、寝る時は暗くしてるよ。小さい時は暗いところが怖かったりもしたんだけど、今は電気がついてる時になって寝れないんだよね。それがどうかしたの?」
「それなら良かった。私と千雪ちゃんは完全に暗いと寝れなくてさ、愛華ちゃんに寝る時は電気を消せって怒られてるんだよね。そんな事もあって愛華ちゃんは私達とは同じ部屋で寝ることが出来ないって嘆いてたんだよ。桜さんが来てくれなかったら私と千雪ちゃんか愛華ちゃんが寝れなくなってたかもしれないんだ。ありがとうね」
「寝る時って環境とか体勢とか拘りあるもんだもんね。私は布団があって暗かったら平気かも。割と大雑把なのかもね」
政虎が好きになっていなければ私はもっと桜さんと仲良くなれていたのかもしれない。なんて考えが浮かんだんだけれど、政虎が桜さんの事を好きだったとしても私は気にせずに桜さんと仲良くなれる気がしてきた。
話している感じやお店に来るまでの様子を見ていると、一度も政虎に視線を向けていた事が無かった。これはきっと政虎に関して興味が無いという表れなのだろう。右近君の事は何度か見ていたのでそういう事だとは思うのだけれど、右近君は話している時以外は桜さんの事を見ていないという事がちょっとだけ気の毒に感じていた。
「お姉ちゃんはさ、泳ぐの好きだって言ってたからこっちの競泳用の水着が良いんじゃないかな。海とはいえ本気で泳いだっていいと思うんだよね。だからさ、この競泳用の水着が良いと思うよ」
「そうだな。千雪の言う通りだと思うな。唯ちゃんは水泳が好きならたまには本気で泳ぐのもありだと思うぞ。これなんか着たら速く泳げるんじゃないかな」
「だよね。千雪もそう思うな。愛華ちゃんと同じこと思ってたよ。あとね、お姉ちゃんはこのダイビング用のスーツも良いんじゃないかなって思うよ。お姉ちゃんは海に潜るのも好きだって言ってたと思うんだけど、こういう本格的なのを着て潜るのもありだと思うな。え、千雪は泳げないから遠慮しとくよ」
愛華ちゃんと千雪ちゃんはなぜか私に競泳用の水着を勧めてきていた。別に泳ぐこと自体は嫌いじゃないしそう言った水着を着て泳ぐこともあるかもしれない。ただ、海に来てまでそんな水着を着て泳ぐ必要なんてないだろう。
「じゃあ、お姉ちゃんの水着はこれで決まりだね。桜さんもこれが良いと思うよね。ね。ね」
「え、さすがに海でそれを着るのはどうかと思うよ。プールとかだったらまだわかるけど、海でそんな本気で泳ぐってトライアスロンでもやってるのかなって思われちゃうんじゃないかな」
「そんな事ないって。ね、愛華ちゃんもお姉ちゃんにはこの競泳用の水着が良いって思うよね?」
「そうだよ。唯ちゃんはそういう水着を着てスイスイ泳いでいる姿が絵になると思う。一番似合っているという話も出ているな」
「そっか、二人がそこまで言うんだったらそれにしちゃおうかな」
「うん、そうした方が良いよ。お姉ちゃんにはこういう水着の方が似合うと思うよ」
「間違いないな。唯ちゃんにはそういう守ってくれそうな水着の方が似合うと思うよ」
「でもな、このタイプの水着って伸縮性がほとんどないから胸が潰れて痛くなっちゃうんだよね。たぶんだけど、桜さんも着たら胸が苦しいって感じちゃうんじゃないかな。二人は平気そうだけど」
千雪ちゃんと愛華ちゃんは私が水着を着ることで自分との違いを見せつけられるのが嫌なんだろう。その気持ちは何となくでしか理解出来ないんだけど、そう言うことはあんまりやらない方が良いと思うんだよね。
政虎は私の水着姿を見てもなんとも思わないんだろうけど、政虎の中の男の部分が反応してくれるかもしれないという望みもあるんだよね。だから、私はちゃんと可愛らしい水着を選ばないといけないという思いもあるんだよ。
でも、この二人はそんな事を知ってか知らずか私に変な水着を勧めてくるんだよね。これはちょっとだけお仕置きをしておいた方が良いかもしれないね
「せっかくだからさ、三人で似たような水着にしようか。サイズ的に二人に合わせるのが難しそうだからデザインは違う感じになっちゃうかもしれないけど、色は一緒で同じタイプのを選ぶようにするからね。三人でお揃いの水着とか着るのいいかもしれないよね。普段はお揃いの服とか着たりしないし、いい機会だから似たような感じの水着を選ぼうね」
二人は私から目を逸らして嫌そうな感じに見えるのだけれど、私の可愛い姿を政虎に見てもらうためなんだから多少は犠牲になってもらわないとね。
私を陥れようとしたんだから反撃をされても仕方ないって思わないといけないんだよ。
「水着を着たところの写真は桜さんに撮ってもらおうかな。二人はそれでいいよね?」
返事が無いという事は同意してくれたという事なんだろう。私だって好きで胸が大きくなったってわけじゃないんだし、二人とは違うってところをちゃんと形に残しておいた方が良いのかもしれないよね。政虎もその場で見るだけじゃなくて後から見返すことが出来た方が印象に残ると思うし、今後のためにも必要な事だと思うんだ。




