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何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない  作者: 釧路太郎


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第五十七話 限定のパンを買えると嬉しい気持ちになる

 いつもは売り切れている限定のパンを買うことが出来た事もあって俺はいつもより機嫌が良かったのだと思うけれど、そんな姿を誰かに見られているとは思いもしなかった。

「右近君ってさ、嬉しいことがあるとそんな感じになるんだね。ちょっと意外かも」

「え、いつから見てたの?」

「いつからって、あのパン屋から出てきた時から見てたよ。私も今からパンを買おうかなって思ってたからね。右近君はどのパンを買ったのかな?」

 自分でも驚いてしまったのだが、俺はいつも買えない限定のパンを買えた嬉しさを隠しきれないようで袋の中身を唯に見せびらかしていたのだ。

「これって数量限定のやつだよね。私は一回も食べた事ないんだけどさ、どれくらい美味しいんだろうね」

「どうなんだろうな。俺も初めて買えたから味はわかんないんだよね。家に帰って食べるの楽しみなんだ」

「へえ、意外と子供っぽいとこあるんだね。知ってたけど」

 男はいつまでも子供っぽいところがあるとはよく聞くけど、俺もそうだったという事には気付いていなかった。今まで付き合ってきた彼女達からもたまに言われていたような気はしていたんだけど、それはただの会話のネタだと思っていたのだ。ただ、いつもは売り切れいてるパンを買えたくらいでテンションを上げている事を子供っぽいというのは否定することが出来ないな。

「お待たせ。私もいくつか買ってきたから一緒に食べようよ。千雪ちゃんもいるけど大丈夫だよね?」

「ああ、俺は気にしないよ。千雪の方は大丈夫なのかな?」

「大丈夫だと思うよ。千雪ちゃんから右近君にお願いがあるって言ってたからね。次のゼミであった時に頼もうって思ってるみたいなんだけど、出来るなら早い方が良いかなって思ってね。頼める人って右近君くらいしかいないんだよね。政虎には頼めない事だからね」

「それってさ、あんまりいい予感がしないんだけど、大丈夫だよね?」

「大丈夫だと思うよ。少しだけ負担に感じちゃうかもしれないんだけど、私も右近君なら頼まれてくれるんじゃないかなって思ってるからね。勝手な話だけどさ」


 久々に入った唯の部屋は当然のように整理整頓が行き届いていて掃除もしっかりしているようだ。あれだけインパクトのあった魔法陣が無いというだけで印象はかなり変わってしまうのだと思ったけれど、ベッドサイドに無数に置いてあるぬいぐるみが全部こっちを向いているというのは少しだけ恐怖を感じてしまっていた。

「適当に座ってくつろいでてね。千雪ちゃんを呼んでくるから待っててね」

 適当に座れと言われてもどこに座るのが正解なのだろうか。とりあえず、俺はベッドに背を向ける位置に腰を下ろすと何気なく部屋の中を見てしまっていた。変わったモノなんかは無いし不気味な気配なんかも無い。強いて言えばベッドの上にあるぬいぐるみの数が尋常じゃないというだけなのだが、唯はあのぬいぐるみたちに囲まれて落ち着いて寝ることが出来るのだろうか。俺にはそれが不思議でしょうがなかった。

「お待たせ。千雪ちゃんは勉強してるみたいだからキリの良いところまでやったら来るって。右近君はコーヒーと紅茶ならどっちが良いかな?」

「俺はどっちも好きだからな。唯が飲みたいほうを飲んでみたいかも」

「じゃあ、冷蔵庫に水出しコーヒーが入ってるからそれにしようか。ちょっと甘いんだけど平気かな?」

「バイト先で飲むコーヒーは大体甘いから平気だよ」

 唯が出してくれたコーヒーはほのかに甘味を感じる程度でスッキリとした味わいであった。いつも飲んでいるアイスコーヒーよりも飲みやすいのでゴクゴク飲んでしまいそうなのだが、そんなにがっつくものでもないだろう。俺はゆっくりと味わって飲むように気を付けることにした。

「どうかな。飲みづらいとかないかな?」

「いつも飲んでるアイスコーヒーよりもスッキリしてる感じで飲みやすいかも。お風呂上りとかだったらグイグイ飲んじゃうかもな」

「そうかもね。たくさんあるからいっぱい飲んでも良いからね」

 俺は唯の言葉に甘えたわけではないが、最初の一杯をグイっと飲み干してしまった。コーヒー特有の苦みや酸味をあまり感じることも無くスッキリとしていた事もあって一気に飲み干してしまった。

 さすがに二杯目も一気に飲むような事はしないのだが、軽く口を付けただけでも次々と飲みたくなってしまうのは不思議な感覚であった。政虎が唯の料理を食べている時はこんな気持ちなのかなと少しだけ感じることが出来たのであった。唯の料理は確かに美味しいとは思うのだけれど、政虎が絶賛するほど特別美味しいとは思わなかったのだけれど、このコーヒーはいつも飲んでいるアイスコーヒーと比べても凄く俺の好みに合っているように思えたのだ。

「美味しそうに飲んでくれて良かったよ。右近君が買った限定のパンと合うと良いんだけどね。結構甘いパンだって聞いてるから大丈夫だとは思うけど、もっと濃い味のコーヒーの方が良かったら淹れるからね」

「ありがとう。でも、このコーヒーが美味しいから大丈夫だと思うよ。唯はどんなパンを買ったの?」

「私はね、クロワッサンを買ったんだよ。千雪ちゃんの分はメロンパンなんだ。あと、アンドーナツも買ったんだけど右近君も食べるかな?」

「このパンを食べ終わって余裕があったら貰おうかな。持ってる時から思ってたんだけどさ、このパンって重さもあって食べごたえもありそうだからさ」

「そうかもね。私はそれを一人で食べきれる自信が無いかも。でも、右近君なら大丈夫だと思うよ」

 俺と唯は期末も近いという事もあってレポートや提出物の確認なんかをしながらパンを食べていた。数量限定のパンは一つ食べただけでもお腹がいっぱいになるんじゃないかと思うくらいにボリュームもあるのだが、それ以上にガツンと来る甘さが満腹感を増長しているような気がしていた。今ならアンドーナツを食べても甘味をそれほど感じないんじゃないかとも思っていたのだけれど、口に運ぶと普通に甘さは感じてることが出来ていた。


「それでね、千雪ちゃんから後で言われると思うんだけどん右近君にお願いしたいことがあるんだ。ちょっと右近君に負担をかけることになると思うんで無理にとは言わないんだけどさ、良かったら私達と一緒に海水浴に行って欲しいんだ」

「海水浴は良いんだけど、俺に負担なんて無いと思うけど」

「それなんだけどね、右近君って運転免許もってるよね?」

「うん、持ってるよ。車は無いけどね」

「それでなんだけどさ、レンタカーを借りてそれを運転してもらいたいなって思っているんだよね。もちろんレンタカー代とかガソリン代は私達が払うんで金銭的な負担は右近君にはかからないんだけど、運転してもらうって事は可能だったりするかな?」

「それくらいだったらいいよ。でも、海水浴なんて小学生の時のキャンプでやったきりかも。政虎も誘うんだよね?」

「その予定なんだけど、今のところ決まってるのは私と千雪ちゃんだけなんだ。政虎と愛華ちゃんと桜さんにはまだ声はかけてないんだよね。なので、右近君と私達の三人になる可能性もあるんだけど、平気かな?」

「日程にもよると思うけど、みんな大丈夫なんじゃないかな。でもさ、唯菜も誘うのって珍しいね。唯と唯菜ってそんなに仲いいわけじゃないよね?」

「うん、正直に言うと私と桜さんはそんなに仲は良くないと思うよ。でも、千雪ちゃんと桜さんは友達だからね。色々と良くしてもらってるみたいだからね」

「千雪と唯菜ってそんなに仲良かったんだ。でもさ、そんな事は置いといて、今年の夏は青春を満喫できそうだな」

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