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何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない  作者: 釧路太郎


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第五十四話 余計な事は言わない方が良い

 今日も常連さんがたくさんやってきてくれたおかげで暇な時間も無く終わった一日だったのだけれど、今日は珍しく俺よりも唯菜の方が遅く終わるようだ。

 公園を散歩している時に聞いたのだが、近いうちに店長からラテアートの作り方を教えてもらうという話になっていたそうだ。今日がその初日だという事なのだが、失敗したラテアートが次々と休憩室に運ばれてくるのは勘弁してほしいなと思ってしまう。

「唯菜ちゃんは器用だからすぐに出来るかもって店長と話をしてたんだけどさ、思ってるよりも不器用だったのかもしれないね。でも、なんで最初から人の顔にしようと思ったんだろう」

「なんでなんですかね。作ってみたいのとかあるんじゃないですかね。ほら、唯菜っておじいちゃんとかに凄く好かれてるじゃないですか、そのおじいちゃんの顔とか作りたいって思ってるんじゃないですかね」

「それはあるかもしれないね。まあ、失敗したのもこうして飲めるから私的には嬉しいんだけどさ、さすがに二人でこの量はきついよね。店長と唯菜ちゃんもそんなに飲めないと思うし、右近君のお友達を何人か呼んで飲ませてあげても良いと思うよ。それか、全部持って帰って右近君が一人で飲んじゃうのもありかもね」

「さすがにこの量は一人じゃきついですよ。大木さんはあとどれくらい飲みますか?」

「そうだね、私は今持ってるこれで終わりにしようかな。あんまり飲み過ぎるとお酒はいらなくなっちゃうからね。私はお風呂上がりの一杯のために生きてるからさ」

 いつも俺の仕事終わりを待っている唯菜もこんな感じで大木さんと話をして待っているんだろうなと思っていた。大木さんは一応副店長という立場になったそうではあるのだけれど今までとあまり変わらず事務仕事を片付けることが多いみたいだ。店長がいつもお店に立っているという事もあって他の社員の人が事務仕事をやる機会が多くて困っていると愚痴を言っていたこともあったのだけれど、大木さんはあまり接客が好きじゃないみたいなので今みたいな関係が一番安定しているのかもしれないと俺は思う。ただ、店長はバイトにも好かれているし常連さんにも好かれているのでお店に出ること自体は良いことだと思うけれど、その厳つい見た目のせいで初対面の子供はほぼ全て目が合っただけで泣いてしまう事が多い。お店から帰る頃には嬉しそうに手を振ってくれるくらいに仲良くなっている姿をよく見るのだけれど、見た目だけで判断すると完全に外国の殺し屋か性格の悪い格闘家のようにしか見えないのだ。

「右近君はさ、唯菜ちゃんとよく一緒にいるみたいだけど、付き合いたいって思ったことないの?」

「ないですよ。俺は唯菜とは付き合えないですから」

「相変わらず即答だね。家で働くきっかけって唯菜ちゃん絡みだって来てるんだけどさ、それって唯菜ちゃんが好きで追っかけてきたってのが理由なんじゃないの?」

「好きってのはないですね。友達としてならありますけど、恋愛感情としてはないです。たぶんなんですけど、俺ってあんまり女の子に対してそういう感情を持てないんですよね。誰か特定の相手とだけ仲良くするっての難しいなって思うんですよ」

「へえ、その割には右近君って毎回違う女の子と付き合ってるようだけどさ、それって完全に恋愛感情が無いって事なのかな?」

「まあ、そうなりますよね。でも、それを納得したうえで俺と付き合いたいって言ってくれたら付き合うって感じですね。付き合うって言っても昼くらいから夜まで一緒にいて、そのまま終わりって感じになるんですよ。それが本当に恋人なのかって言われたら俺は悩みますけど、相手の女の子がそれでもいいって納得してるみたいなんで俺はそういう風に考えないようにしてるんですけどね」

「最近の若いこの考え方は私には理解出来ないな」

「俺にも理解出来ないですけどね」

「じゃあさ、仮に私が右近君の彼女になりたいって言ったら付き合ってもらえるのかな?」

「どうですかね。他の女の子と同じ感じで良いんだったら付き合いますけど、そうなったら唯菜から嫌われちゃうと思いますよ。唯菜の親友と俺が付き合ったことあったんですけど、その時の唯菜って三日くらい寝込んだって言ってましたからね。でも、唯菜の親友って俺と一緒にいる時間をフルに使って唯菜の良さを色々と教えてもらってただけだったんですよ。その事がわかって唯菜も元気を取り戻したんですけど、唯菜が落ち込んでる時に俺はいったい何をすればいいんだろうって思ってましたからね」

 俺は告白されれば余程の事が無い限り断ったりなんてしない。付き合うと言っても半日くらい一緒にその辺でブラブラするだけの事が多い。あとはどこかのお店かカラオケにでも行って過ごすことが多いのだけれど、相手の家に行くことは無いし俺の家に連れ込むことも無い。手を繋ぐくらいはする時もあるのだけれど、それ以上の事をしたことなんて一度も無いのだ。

 たくさんあったラテアートの失敗作を半分ほど飲み終えたのだ。残りあと数個と言うところで事務所のドアが開いたのだが、そこにはちょっとだけ怒った表情を見せている唯菜が追加のコーヒーを持って立っていた。

「大木さんは右近と付き合ったら私怒りますからね。店長に行って大木さんの休みの日だけ出勤にさせてもらうようにしますよ。もちろん、右近も私と同じシフトにしてもらいますからね」

「私の休みだけ出勤って、週に二回だけになっちゃうじゃない。そうなったら私が常連さん達に怒られちゃうよ」

「私は本気ですからね」

 唯菜はそう言いながらも表情を若干崩して頬を膨らませて大木さんに近付いていた。大木さんは少し気まずそうな感じで視線を唯菜から逸らして目の前のパソコンに向かっているのだが、唯菜は俺の横を通り過ぎて大木さんのすぐ隣で立ち止まっていた。

「私と右近はもう帰りますけど大木さんってまだ仕事残ってるんですよね?」

「うん、もう少し残ってる仕事と今日の売り上げを集計して終わりかな」

「そうなんですか、いつも大変ですね。じゃあ、ここにある五杯も飲んでいいですからね。仕事大変だと思うけど頑張ってくださいね」

「いや、私はもう四杯も飲んで」

「大変だと思うけど頑張ってくださいね」

「いや、四は」

「大変だと思うけど、残りの仕事も頑張って終わらせてくださいね」

 大木さんは実際には二杯しか飲んでいないと思うのだけれど黙っておいた方が良いかもな。あの感じだと店長も結構な量を飲んでそうだから大木さんを助けたりなんてしないんだろうな。

 普段は優しくて思いやりのある唯菜だけど、何かのきっかけであんなに怖くなることもあるんだな。あの無言の圧は中々味わうことが出来ないんだろうなと思いつつも、出来ることなら味わってみたくはないなという思いだった。

 ただ、こちらを向いた唯菜の手にはなぜか二杯のカフェラテが残っていたのだけれど、俺のお腹にはそんな余裕はないのだと言いたいのに言葉が出てこなかったのだ。

 優しい笑顔の唯菜ではあるけれど、俺の顔をじっと見ているその瞳がなぜが怖く感じてしまっていたのだった。

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