第四十五話 俺はなぜか女子中学生と二人で蕎麦屋にいる
誰かと一緒にいて気まずいと思う事なんて無いのだけれど、さすがに女子中学生と二人っきりというのは気まずく感じてしまう。ちょっと前に鬼仏院右近から鵜崎千雪と二人でご飯を食べに行ったと聞かされたのだが、その時は女子中学生と二人だけでご飯に行くなんてどうかしてるんじゃないかと思っていた。
「あの、そんなに黙ってられると千雪も困っちゃうんですけど、お兄さんってお姉ちゃんと一緒にいる時もそんな感じなんですか?」
「いや、そう言うわけじゃないけど君と二人っきりで何を話せばいいのかわからなくて」
「それは千雪も一緒なんですけど。もしかして、お兄さんって自分から何か話題を出すことって出来ないんですか。お姉ちゃんと一緒にいる時も右近君と一緒にいる時も自分から何か話を振る事ってあるんですか?」
「そりゃ、そういう時もあるけど、君と何を話せばいいのかわからないというか。この状況が何なのかさっぱりわからないんだけど」
「今の状況とか別にどうでもいいじゃないですか。千雪がお姉ちゃんに頼んでお兄さんと二人でご飯を食べに行ってみたいって言ってその頼みを聞いてもらっただけなんですし。でも、なんで私を誘って食べにくるお店が蕎麦屋なんでしょうか。お蕎麦は好きですけど、ここって食べ終わったらすぐに帰るような場所ですよね。お兄さんは千雪とあんまり一緒にいたくないって事ですか?」
「そう言うわけじゃないんだけどさ、たまにはこういう店も良いんじゃないかなって思ってね」
俺も女の子とご飯を食べに行くのに蕎麦屋はどうなんだろうって思ってはいた。長年連れ添った夫婦であれば蕎麦屋に行っても何もおかしくないと思うのだけれど、俺と鵜崎千雪のようなよくわからない関係の二人が行くような店ではないと思う。食べ終わってさっさと帰ってしまうことが出来るのは俺の性格的にありだとは思うけれど、この店の選択が本当に正しいと思うのかもう一度鬼仏院右近に聞いてみたくなってしまった。
「あの、目の前に千雪がいるのにそうやってスマホをいじろうとするのって不快なんですけど。もしかして、お姉ちゃんから千雪とご飯を食べに行ってくれって頼まれたのをノルマか何かと考えていてお兄さんはその義務を果たせばいいやって思ってたりしませんか?」
「そんな事は思ってないけど、君もそうやってスマホをいじってるし」
「千雪は良いんですよ。お兄さんが何も話しかけてこないのが悪いと思いますし。それに、右近君からお兄さんに関する情報とかも貰ってるんで確認してただけです。でも、お兄さんって本当に右近君が言ってたような感じなんですね。もう少し面白い人かと思ってたんですけど、そんな感じにオドオドしているの意外でした」
「右近から何を言われてるのかわからないけどさ、俺は別にそんなに面白い人間じゃないと思うよ。面白い人間だったらもう少し友達とかもいたと思うし」
「それはそうでしょうね。お兄さんの大学での行動とか見てたら家河合愛になりたいって思わないですし。でも、なんでこんなお兄さんの事をお姉ちゃんは好きになってしまったんでしょうね。千雪なら好きにならないと思いますけど」
「俺もそこは疑問なんだよね。なんで唯は俺の事をそこまで好きになってくれてるんだろうって思うよ。俺は他に好きな人がいるってのを伝えているし、その気持ちがある限りは唯と付き合えないって言ってるんだけどな」
「そういうところなんじゃないですか。千雪がお兄さんの立場だったら報われない恋なんて諦めてお姉ちゃんと付き合ってると思いますよ。お姉ちゃんは顔も可愛いし性格もそんなに悪くないですし胸も大きいですからね。千雪が今まで聞いてきたお兄さんの話と実際に見たお兄さんではギャップが凄いですけど、それも恋の力なのかなって思いますからね。お姉ちゃんに聞いても千雪が納得出来るような答えは聞けませんけど、お兄さんのどこにそんなに惹かれるのか自分でわかったりします?」
「自分でわかるかって言われてもな。正直に言って、俺は自分の良さなんてわからないよ」
自分を客観視する事なんて難しいとは思う。でも、俺の良さを客観視して見ろと言われた時の難しさはそう言った類のものではない。自分自身でも俺が人に好かれる要素なんて無いのは承知しているのだ。俺が片思いをしている唯菜ちゃんに嫌われているのは重々承知しているし、髑髏沼愛華が俺に対して必要以上に辛辣に接してくるのも理解は出来る。ただ、鵜崎唯から向けられる恐ろしいほどの愛情と鬼仏院右近から俺に対する何においても優先されていると感じるほどの信頼に関してはその理由が全く見当もつかない。なぜそこまで対極的な感じになるのか俺も納得出来るような答えは無いし、その理由だってわからないのだ。
「お兄さんの良さってなんなんでしょうね。お姉ちゃんに聞いても右近君に聞いてもはぐらかされるばかりですし、具体的な事って何も教えてくれないんですよね。お兄さんが普通の事をしててもお姉ちゃんはそれを嬉しそうに見てますし、右近君もお兄さんが何かやらかしても気にしてないみたいなんですよね。お兄さんがやらかした普通におかしいなって思うような事でも二人には武勇伝か何かだと思われているんですかね。千雪にはその感覚がわからないですし、どちらかと言えば愛華ちゃんの考えの方が千雪には近いかもしれないですよ」
「たぶんだけどさ、右近と唯の考えって普通じゃないんだよ。俺に対してなんでそんな風に思ってくれるのかわからないんだけどさ、俺は別にそれを嫌だとは思ってないんだよね」
「自分に好意を向けられてるんだから嫌だって思う必要はないと思いますよ。でも、千雪はお兄さんに好意を向けられたらちょっと嫌だなって思うかもしれないですけど。どうせなら右近君に好かれたいなって思いますけど、それは無理なんで何とも思いませんけどね」
俺は別に鵜崎千雪に好かれたいとは思っていないし何かあっても面倒だなと思ってしまうんじゃないかな。鵜崎唯のいとこでなければこんな風に話したりなんてすることも無いと思うのだけれど、何でこうして二人でご飯を食べに来ているのかもわからなくなってきた。
そうこうしている間に頼んでいた蕎麦が二人の前に並べられたので黙ってそれを食べていた。初めてくる店ではあったけれど鬼仏院右近のおすすめだけあってとても美味しくいただくことが出来たのだ。何より、食べている間は会話も無く食事に集中することが出来たのでありがたかった。




