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何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない  作者: 釧路太郎


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第百話 第一部 完

 お世話になった旅館の人に挨拶をして車に乗り込もうという時に千雪ちゃんのワガママが発動した。食事中は大人しくしていたというのに、こうも態度が変わるものなのかと思ってしまった。

「ねえ、帰りは千雪が前に乗りたい。右近君の隣が良い」

 急にそんなことを言いだした千雪ちゃんではあったが、俺はこれも反抗期ゆえの行動なのかなと思って見守ることにした。ここに来る時は道案内が必要だったので鵜崎唯が助手席に座っていたのだけれど、帰りはさすがに道に迷う事もないと思うので座席なんて誰がどこに座ってもいいと思っていた。

 みんな俺と同じ考えだったようで誰も千雪ちゃんが助手席に座ることに反対する事も無かった。唯菜ちゃんが鬼仏院右近の隣に座りたいとか言い出すのかなと思ったりもしたんだけど、鬼仏院右近の隣ではなくこの旅行中に仲良くなった髑髏沼愛華の隣に座りたいようだった。人と関わること自体が嫌いな人間である髑髏沼愛華と仲良くなるなんて唯菜ちゃんは凄い人だと改めて思ったのだが、そう思うとそんな唯菜ちゃんに嫌われている俺っていったい何の罪を背負っているのだろうという気持ちにもなっていた。

「じゃあ、運転するのは右近君で、その隣は千雪で決まりだね。千雪の後ろは愛華ちゃんと桜さんで、一番最後はお姉ちゃんとお兄ちゃんでいいよね。嫌だって言っても千雪はこれじゃないと帰らないからね」

 またしても千雪ちゃんのワガママが始まってしまったのかと思っていたのだが、鵜崎唯は嬉しそうにニコニコとしていた。昨日の言葉を聞くまでも無く鵜崎唯が俺の事を好きだというのは知っていたし、帰りの車で俺の隣に座れるというのがそんなに嬉しいものなのかという思いもあった。だが、鵜崎唯が嬉しそうにしていたのは俺が隣に座るという事だけではなかったのだ。

「ねえ、今千雪ちゃんが政虎の事お兄ちゃんって言ったよね」

「ああ、そう言ってたと思うよ」

「今までは政虎の事をお兄さんって呼んでたのにね。何か心境の変化でもあったのかな?」

「反抗期だからお兄さんって呼ぶのが恥ずかしくなったとかかな」

「違うんじゃないかな。お兄さんよりお兄ちゃんの方が恥ずかしいと思うんだよね。ほら、千雪ちゃんってまだ子供なのに大人に混ざって勉強してるから大人っぽく振舞わなきゃって思ってるんだよね」

「それはわかるかも。まだ中学生なのにしっかりした大人っぽいとこあるもんね」

「でも、今まで政虎の事をお兄さんって呼んでたのに急にお兄ちゃんって呼ぶようになったのはどうしてなんだろうね。大人っぽく見られなくてもいいって思うようになったのかな?」

「さあ、どうなんだろうね。本人に聞いてみたらいいんじゃないかな」

「そんな事は聞けないよ。だって、千雪ちゃんは今反抗期の真っ最中なんだからね。素直に答えてなんてくれないさ」

 行きの車の中では隣にいた千雪ちゃんにずっと足を踏まれていたのだけれど、帰りの車の中では隣にいる鵜崎唯の手がずっと俺の太ももの上に優しく置かれていた。

 俺と鵜崎唯は特に会話も無かった。特別何か話そうとも思わなかったし、鵜崎唯も時々俺の方を見て微笑む以外は外に流れる景色を見ている。俺は外の景色を見たり車内の様子をうかがったりしているのだが、千雪ちゃんは鬼仏院右近と楽しそうにお話をしている。髑髏沼愛華と唯菜ちゃんは俺達を気にしてなのかわからないけれど、鵜崎唯と同じように外の景色を眺めているようだ。

 千雪ちゃんは時々後ろを振り向いて鵜崎唯を心配そうな目で見ているのだけれど、鵜崎唯はそれに気付くことも無く外の景色をずっと見ていた。車がトンネルに入って外の景色なんて見えなくなっていても鵜崎唯は外をじっと見ているのだが、窓に映る鵜崎唯の顔はいつもとは違って少し照れているように感じて、俺は思わず太ももの上に乗っている鵜崎唯の手を握ってしまった。

 俺の手が触れた瞬間に鵜崎唯の体は一瞬だけ硬直したように感じた。だが、鵜崎唯はそのまま手のひらを太もも側から上に向けると俺の手を握り返してきた。

 予想外の行動に出られて俺の方が驚いてしまったのだが、鵜崎唯の手は俺が太ももで感じていたよりもずっと小さく柔らかかったのだ。握り返す力もそれほど強くなく、優しく包み込まれている感覚はとても気持ちの良いモノであった。

 あの日見た鵜崎唯の部屋の魔法陣とぬいぐるみの恐怖はいまだに頭にこびりついて離れないのだけれど、そんな事を気にしないでいれば俺は鵜崎唯と楽しくやっていけるんじゃないだろうかという気持ちになりつつあった。

 ただ、斜め前に座っている唯菜ちゃんの横顔を見ているとその思いも少しずつかき消されて言って、若干の恐怖だけが残るようになっていたと。あの魔法陣がどんな意味のある物なのか俺にはわからない。もしかしたら、俺の幸せを願ってのモノなのかもしれないという思いもあるのだが、それでもあの魔法陣の中央に置かれたぬいぐるみが俺の事を真っすぐ見ていた姿が忘れられない。

 いや、あの時の魔法陣の中央に置かれていたぬいぐるみは俺の事なんて見ていなかったような気もするのだが、そんなにじっくりと見ていたわけでもないので俺には何も確信は無かった。

 それでも、俺の中にあの魔法陣は特別な何かを思わせるだけのモノではあったと思う。もしかしたら、この旅行に関係があってあの神社とか裏にあった祠なんかが関係してるのかもしれないな。


 なんて、そんなはずがないよな。


 さて、家に帰ったらあの地域に人がたくさんやってくるようなレポートを書かないとな。随分とお世話になったんだし、少しでも多く力になれるように頑張ろう。

 俺の手を握っている鵜崎唯の笑顔を見た俺はそう思ったのだった。

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