⑥
「それじゃあはじめるとしようか。…今日の出会いに、乾杯!」
会場に集まった皆の前でおれだけ挨拶をして拍手で迎えてくれる。100人とは言わないけど結構な人数がいて圧倒されたが長くなるし後は個別でしようかーと横からジョニーが言ってくれたため、せっかく席が用意されていたのだが立食会みたいな状態になった。外見のみの判断にはなるが男女は半々で男性は20〜40代の範囲で、女性は全体的にもう少し若い印象だった。どちらも美形が多くて目の保養になる。
ジョニーはおれのそばにいてくれてそこにそれぞれ使用人がきて簡単なあいさつをしてくれる感じでひとりひとり顔を覚えていく。料理やお酒もマイがみつくろって持ってきてくれてふたりでそれをつまみながら酒を飲み話す。一通り皆と話せたかなというところでふとジョニーがキツそうなことに気づく。別におれはそういうことに関して敏感とかはないが小学生のときに自分のことを名探偵と錯覚していたくらいには観察とか洞察には自信があってなんとなくわかった。
「ジョニーさん、疲れてるみたいだから休んだほうがいいんじゃないですか?」
と言うとジョニーの顔は少し驚いたような感じになってああやっぱり疲れているのを隠していたんだなと思う。
「うん…。ちょっとだけ忙しくしてたからもしかしたらそうかもしれないね。」
やっぱり声にも元気がなくなっていて、今の指摘で緊張の糸みたいなものが切れたかもしれない。
でもと続けようとするジョニーを遮って男ーー使用人が割ってはいる。
「横から失礼いたします!旦那様!それでしたら私がお部屋までお連れいたします!」
それを皮切りにいつも働き詰めだからたまには早く休んだ方がいいですーとか旦那様が最も疲れているのは皆知っていますよーそうです今日はもう休んでもらって明日元気な旦那様にお会いしたいですーとかみんなが詰め寄っていてでもジョニーは首をたてに振らない。たぶんおれのせいだ。
「ジョニーさん。皆さんこう言ってますし、今日は休まれてはいかがですか?こう言ってしまうとなのですが、私も長くお世話になろうと思っている身でして、またお時間があうときにでも、今度はゆっくりどうでしょうか?」
それを聞くと本当かそう思ってくれて嬉しいと言ってどんどんジョニーの力が抜けていくのが見てわかる。それがとどめになって付き添われて退出していく。もしかしなくてもおれを歓迎しようと、この場所を気に入ってもらおうと尽力してくれていたのだろう、それがとても嬉しく感じる。途中で誰が付き添うとかどうとか揉めたりしてて申し訳ないが面白い。ほんとうに慕われているようだ。会場からでていくのを見送ってさてどうしようかなと思う間もなく話しかけられる。
「旦那様へのお声掛けありがとうございます。」
中性的な声に肩までの短髪、ぱっちりとした目と長いまつ毛、くびれた腰の細い体つきで背もおれよりやや低く利発さを感じさせつつも庇護欲を掻き立てる様相のこの女性はーーオブリだったはずだ。顔と名前はひとりひとりちゃんと覚えようと意識して聞いてはいたがどうしても記憶の中で曖昧になってしまう中この人物だけは覚えていた。だって男の娘の匂いがすごいもの。パンツルックですごくきれいな体の線をしていて胸のふくらみはわずかもないように見えるがくびれのせいかあるようにも見えて一人称は僕じゃなくてボクって感じですごくいい匂いがする。大人びているようではないのだが細かな仕草からどこか蠱惑的な印象を与えてくる。こんなに可愛い子が女の子のはずがないと頭の中で声が響いたところで続く言葉に我にかえる。
「旦那様は今日の準備のために昨日から少しばかりの休みもとられていなかったんです。私どもに言いつけて任せていただけると良いのですがそういう方でもなくて…。たまに思いつきで急な行動をとられる方なのですが、いつも食事の仕込みをしている私たちを直接労いにきていただくばかりか、会場の準備までいっしょに手伝っていただいてしまって…」
おれはジョニーのことが急激に好きになる。これまでは自分の直感に自信をもって我が道を突き進む行動力あふれる人だとか、それのみで会ったばかりのおれに良くしてくれる善人だとか事実とか行為についてしかみていなかったが、人柄もやはり素敵でそうでないとこれほど多くの人に慕われているはずがないのだ。
また、オブリの後ろからも1人男がきて声をかけてくる。長身痩躯のイケメンでオールバックの金の長髪に鋭い眼光だが物腰の柔らかさから威圧感を与えてこない男だ。
「私からも皆を代表して感謝を。旦那様はお休みになられましたが、予定通り会は続行します。どうか心ゆくまでお楽しみください。」
ありがとうございますーと感謝を告げているとぎゅっとおれの右手が握られる。一生握っててほしいその犯人は上目遣いのオブリだ。
「ボクたち、せいいっぱいおもてなししますね?」
魔性だ!