⑤
お茶し終わると今度は部屋を案内してくれるとのことだ。ジョニーとアンは少し用事があるといってはずし代わりにメイドのマナを呼んでくれた。彼女はおれのために新しくこの屋敷に招かれた使用人らしくて、彼女は今朝がたここに来たらしくて先ほどまで屋敷内のあれやこれやを教えてもらっていたらしい。いやメイド服じゃん。萌え文化は世界共通か(違う)。背は同じくらいできっと長いであろう黒髪は邪魔にならないようにキュッとお団子に結われている。切長の目が素敵であいさつして微笑んだときに少しまなじりが下がっておれの心は奪われた。可愛すぎる。
「ジョージです。いろいろご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします。」
互いにまたペコリと頭を下げて上げるとそれではご案内いたしますーといって客間をでると迷いない足取りで歩くマイは後ろ姿も凛としていて可愛い。
これまた階段は登らず少し歩き渡り廊下を通って隣りの棟に移動する。そこの一階の一室を好きに使ってよいとのことだ。ジョニーは敷地内の家をあてがってくれようとしていたのだが謹んで辞退した。管理できないし申し訳なさすぎる。管理できるようにメイドも一緒に手配してくれたらしいが。マイは本当に優秀なメイドらしくてもともとはこの土地を含む国サージの首都タリスで最大規模を誇る使用人派遣ギルドで若くして十指にはいる逸材だったらしい。昨日がちょうど派遣先の更新のタイミングだったようで急遽連絡がはいりジョニーが直々に彼女の今後の時間を全て買い取ったらしい。会員制の高級ギルドで派遣先での契約期間中は同意があれば使用人としての業務に支障を来すことでも何でもするということだ。おれもその例に漏れないと自己紹介のときに告げられた。ぐへへ。
などと考えていると部屋について入る。広さはたぶん12畳くらいで真ん中には1人用にしては広すぎるテーブルがあってやっぱり椅子は2つある壁際に食器のはいっている棚、台所らしきつくりの場所もあった。入って右手にはさらに扉があってきっと寝室だろう。
「おお…」
おれの1人暮らしの経験から部屋といったらもっと狭いワンルームのイメージしかなくってそのギャップでちょっと感動する。台所はやはり水道もコンロもないが流しのシンクはあって火はわかりやすくってかまどがある。そばにわられた薪もあるが火種はどうするのだろうか。ここに来てやっと魔法の予感がする。最後に寝室の方にいくとマイが扉をあけてくれてキングサイズのベッドがでんと待ち受けていてでけーとまた声をもらす。他にもタンスやクローゼット等収納とその中身があって広さとしては10畳くらいだろうか。ベッドに座ると少し硬くて寝心地がよさそうだ。横になってみるとやはり気持ちよくてキングサイズというのも一役かっているだろう。
「…夕食までおやすみになられますか?」
今日の夕食はジョニーたちといっしょにとることになっている。顔合わせのようなもので使用人たちも勢揃いするらしい。
おれはいやいいやと答えて寝かしていた上半身を起こしマイと話したいななんて考える。
「水をいただけますか?マイさんの分も」
と言うとかしこまりましたと頭をさげて部屋をでて程なくして戻ってくる。おれはその間にリビングの方に移り座って待っていて彼女にありがとうといって着席を促す。おれはなんとなく緊張しているのを感じてマイの注いでくれた水で口をしめらせてから話しかけた。
「…ご趣味を…お聞かせ願えますか…?」
話そうと思ったけど特に話題がなさすぎてお見合いみたいな質問になってしまった。
「自分磨きです。いかにしてよりよい仕事を行うか徹底して工夫することは欠かしたことがありません。ジョージ様にも最高の時間を過ごしていただくことに尽力させていただきます。恥ずかしながら私めに至らぬ点がございましたらご指摘いただきたく存じます。改善させていただきます。」
イエイエこちらこそよろしくお願いしますーといってペコリ。
「マイさんのあとに言うとアレなんですが、おれはお酒をのむのが好きですね。今晩の食事でもだしていただけるそうで、楽しみにしています。」
お酒の存在はジョニーとの会話で確認済みだ。日本酒を含めておれが知っている程度のお酒は全てこの世界でも作られているらしいが、日本酒(米の酒)はあまりおいしくないらしい。少し残念だ。
「そうなんですね。お好みの銘柄などありますか?」
しまった会話が広げれない。さすがに分からない。
「銘柄にはこだわりはありませんが醸造酒が肌にあいます。なんでも好きなんですけどね。マイさんは?」
なんでも好きなのは本当だ。
「私は嗜む程度ですが葡萄酒が好きです。仕事柄さまざまなお酒の出会いがあるので、ジョージ様の好まれそうなものを見つけたらお勧めいたしますね。」
わずかに笑みをたたえてまたおれの心を奪う。可憐だ。
ありがとうと答えてまた世間話をする。1日のうちに世間話をしすぎておれはもうおれについてはなせることがないくらいだ。やれ魔法だのなんだのいろいろと気にはなるが聞かないしあわてない。そんなに頭がよくないんだから一個ずつ直面したことから覚えていけばいいのだ。
外から入る灯りだけで相手の表情を見ることが難しくなったころで鐘が鳴り夕食の時間だと知る。時計はあるけど1台しかなくてそれがこの鐘と連動しているらしいくて朝と晩と昼食の前後で1日4回なるようになっているとのことだ。時計の見方や読み方も現実と変わらない(翻訳の力で時計が読めるだけかも?)のでありがたいが、一般的には時間はほとんど細かくしている人はいないとのことだ。というのも腕時計はなく懐中時計はあるけど狂いやすくてそもそも正確なものも少なくて、時間で仕事してる人以外は気にしないんだと。
会話のキリがよいところでマイが立ち上がり部屋の扉をあけてくれる。
「ありがとう。また案内お願いします。」
と言うとマイはかしこまりましたといっておれの後に続いて部屋をでて扉を閉めて前を失礼いたしますーとおれの前を歩いておれは後ろ姿を見るのも楽しい。屋敷のみんなに会うのも食事も楽しみだ。