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1話?プロローグ?です!
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おれは朝5時にスマホでセットしてあったアラームが鳴り目が覚めるがすかさず停止、30分後に再度なる様に設定してあるアラームがなるまで本気の二度寝を敢行する。30分後のおれはさらに30分かけて起きる意思を固めて布団からでてメシなり身だしなみを整えるなり出社の準備をするだろう。モーニングルーティンというと格好いいだろうか。最近は夜の気温は一桁台まで冷え込み、そのおかげでやはり朝も寒い。日頃の疲れもあるので人間そうきびきびと動けるものではないのだ。まだ眠い。アラームをとめたおれはやはり3分とかからず眠りにつくが夢のなかでは目が冴えている。
初めて経験するタイプの夢で辺りは真っ白というかなにもない空間におれは存在していて、いったいどこに接地しているのかは分からないがまっすぐ立っている。少しの間キョロキョロとしているとあたかも最初からそこに存在していたみたいに机と椅子と男ひとりがおれの前だか後ろだかに現れた。
「お待たせしまして申し訳ありません。近藤貞治様、いきなりですがあなたには異世界に行っていただき、そこでしばらく生活をおくっていただきたくおもいます。」
「あなた誰ですか?」
突然の申し出には驚くがとりあえず無礼なやつだとおもい、それが態度に滲みでた。
「失礼いたしました。…個体名はないのですが単なる1200番と認識していただければとおもいます。いわゆる神のーーあぁいえ、あなたの価値観に合わせて表現するなら、あなたが暮らしている世界が生まれるきっかけをつくった存在の末端のものです。」
なるほど。
「神で伝わりますよ。信仰してはいませんが」
おれは1200番とやらの丁寧な言葉選びと態度に最初に感じた不快感をひっこめる。神の末端のもの、とか面白い日本語だなど思うが今はそういうタイミングではないのだろう。そういえばおれはこの1200番とやらとちゃんと会話をしようと思っていて、なんとなく今の光景が夢とは少し違うものであるということがなんとなく理解できていた。なにかこの男の発言には説得力というか納得させるちからのようなものを感じて、そのまま会話を続ける。
「えぇ、と、理由から聞いてもいいですか?」
謎展開の初体験すぎて曖昧極まりない質問になったが、ギリギリ愛想笑いは添える。
「近藤様はこちらで選出していた条件を満たす集団のなかの1人で無作為に選ばれました。条件は思想や価値観などです。異世界に転移していただく理由としましてはそちらの世界へ新しく高度な文化、文明を導入した際の試料をとるためです。人類の未来のため、になります。」
そんな大きなもの背負わせないでほしい。
「ぼく以外にも同じような状況の方がいるということですか?」
「はい」
へぇ〜「期限というか、期間のようなものはありますか?自分自身の生活とかもあるんですけど」
「期限などは特に設けておりません。こちらに必要な試料が揃うか、近藤様が死亡されるまでになります。その間こちらでの時間は経過いたしませんので生活のご心配は少ないかと存じます。死亡した場合も近藤様の現在の肉体に魂を戻しますので、そちらでの生活が損なわれることはございません。また、お願いというかたちをとってはいますが拒否をしていただくことは認められません。ご要望があればですが転移前後での記憶の消去などは対応させていただきます。」
魂。これまたぶっ飛んだ単語がでてくる。おれをおれたらしめている我のようなものだろうか。話の流れからするとこれから異世界で新しく受肉をするということだろうが、脳みそが違うのに魂とやらがはいればそれはおれになってしまうのだろうか。考えても仕方ないので考えるのをやめる。なぜか拒否しようという選択肢は微塵も浮かばなかった。ホームシックにならないかだけが気がかりだ。
「転移ーー受肉したあとの生活や生き方をみたいということですね?金銭や言語などの生活基盤をきずくための最低資本等はどのようになっているのですか?」
「はい。これから向かっていただく場所では金銭などは準備しておりませんが、そちらで言う身分証のようなものがなくとも簡単な生活基盤はつくれるかと考えております。文字をふくめ言語等は全て近藤様にご理解いただけるように翻訳され、近藤様の言葉にはある程度の説得力がはたらくようになっております。また、ある程度の生活基盤が整うまでは、よい巡り合わせが訪れるよう配慮を行います。」
文明レベルはこの世界に比べて低いのか?言葉の壁がないのはありがたいが…説得力?おれがこの男から感じてしまう話の飲み込みやすさがおれの発言にものっかるということだろうか。いずれにせよなんだか楽しみになってきた。
おれが話を飲み込んだ様子が伝わったのだろうか、1200番が口を開く。
「他ご質問等ございませんか?」
特にないと思いながら少し考えてみるとすぐに出てきた。
「あ服!受肉後の服は準備していただきたいです!…着衣の習慣はないんですか?」
「ご心配なさらず。衣服の生成も受肉と同時に行わさせていただきます。着衣の文化が一般的な世界ですよ」
1200番はクスリと笑ったように見えておれは少し安心したことに気づく。少し緊張していたのかもしれない。ここまでの質疑応答が主体な様子からするに、本来はここで異世界の情報を収集するのはあまり望まれていないのかもしれない。ようはポンとおれを見知らぬ地に放り込みいかにして生きていくのか見たいのだろうし、話している間終始手もとを忙しく動かしている1200番の時間を奪うのも申し訳ないと感じた。柔らかく丁寧な対応もあるだろうが相手の言葉に説得力とやらがはたらいていると、その相手のことを好意的に捉えてしまうのだろうか。
「あとは質問は大丈夫です。ありません。」
「ありがとうございます。それでは、良い旅を」
えっ
と思ったのも束の間、おれの意識はプツリと途切れ、また間をおかずに覚醒する。辺りは森とか林っぽくて体はその茂みのなかで横たわっていたようでおれは体を起こす。そのあいだに服を着ていることに気づき謎の安心感。
「剣と魔法の世界か聞くの忘れてたなあ…」