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Day-1、こんにちはイギリス


“welcome to England”


こんにちは。

現在、僕はロンドン・ヒースロー空港にやってきています。

いや、凄いですね、大勢の人で賑わってますよ。

これがロンドン。

流石ロンドン。


「……」


僕は一体何をしているのだろうか、

初めての1人旅、

それも国境を超えての壮大な旅。

あまりにもハイテンションでおかしくなってしまったのだろう。


閑話休題。

現在、僕がいるロンドン・ヒースロー空港は、ロンドン郊外にある巨大な空港である。

5つのターミナルがあり、東京国際空港(羽田空港のこと)やシカゴ・オヘア国際空港に次ぐ、年間利用者数が世界トップ10に入る有名な空港でもあった。


ガラス張りの渡り廊下。

外を見れば、そこにはは多くの飛行機が泊まっていた。

僕の乗っていた飛行機はどれだろうか。

探してみようかと思ったが、いかんせん機体の数が多い。

見つけるのは無理だった。


白い床に動くエスカレーター。

途中で案内表記が見てみたが、書かれてあったのは全てアルファベットだった。


「上手く行けるかな……」


行き先は母さんの友人が住んでいるヨークと言う町だ。

ロンドンから電車で行く事になっている。

しかし、中学3年生の僕が一人で異国の旅など出来るわけが無い。

だから日本にいる母さんと向こうの家族──ホストファミリーの提案で、ロンドン・ヒースロー空港のロビーで待ち合わせることになっていた。


地図を見てみる。

僕がいる場所はヒースロー空港のターミナル2。

まずはエスカレーターに乗って、地下連絡通路に向かう。

それから入国審査をパスポートなどを見せ、通過したらその先にある場所で荷物の受け取り。

そして、ホストファミリーと合流する。

言葉にすれば簡単だ。


しかし、流石と言うべきか、ここはイギリスが誇る世界最大級の空港──ロンドン・ヒースロー空港である。


日本でも迷いかけたのだ。

迷わないと言う自信はない。

だけど……。


「やるしか無いよな」


ホストファミリーを待たせているのだ。

遅れるのは迷惑だろう。

そう思い、早速移動を開始しようとしたのだが──。


「やばい……表記が全部英語だ……」


当たり前である。


ここは日本では無く、イギリス。

当然、表示は全て英語である。

この事実は、改めて僕が海外にいることを実感させていた。


「こう言う時に翻訳機があればな……」


母さん曰く、ネイティブの英語を学ぶ訳だから、翻訳機を持っていくなど言語道断らしい。

言いたいことは分かる。

でも、僕は英語が壊滅的だったからここに来たんだよ?

少しの単語しか分からない。

どうやって合流すれば良いんだよ。


「単語帳もダメだったしな……」


ついつい口に出してしまう。

母さんは追い打ちを書けるように、僕が愛用していたピカピカの単語帳を持っていくことも禁止にしてしまった。

この仕打ちで途方に暮れていた僕は、中学生時代に習った曖昧な英語力と周囲の観察力だけが頼りとなっていた。


──これならもっと勉強すれば良かった。

1年前の自分を恨みたくなってしまう。

まあ1年前の僕はこうなる事なんて予想すらしなかった訳だが。


みんなに続くように地下連絡通路を歩き、ターミナル2Aと言う場所に出る。

そこにはターミナルとは比べる事が出来ないほど、数多もの外国人で賑わっていた。


「外に出るには、確か……入国審査が必要だったな」


入国審査。

海外旅行で必ず行われる最初の難関。

出かける前に幼馴染のリンと散々練習していたので、海外旅行素人の僕でもそれは頭の中に入っていた。


「それで……」


──入国審査の場所って、何処?

向かうの場所が分からなければ、スタッフや人に聞けばいい。

普段の僕なら絶対にそうしただろう。

しかし、何度も言うようにここはイギリス。

英語の国である。

つまり、行き交う人はほぼ英語を使用とする人々。

“excuse me”くらいしか言えない僕にとっては、入国審査の場所を人に尋ねるなど、ほぼ不可能であった。


「……」


ふと、周りを見てみる。

辺りのターミナルは、機内に搭乗していた観光客やスタッフが、空港を行き交っている別の国から来た観光客と合流し、大きな流れを作っていた。

おそらくこの人達も飛行機から降りたばかりなのだろう。


──これに続けば良いのかな?

そんな事を思いながら、ひたすら歩く。


その選択は間違っていなかったようだ。

しばらくすると、大きな広場に出た。


『welcome』と書かれた青い旗。

遠くに映る巨大なスクリーン。

ドーム状の白い屋根。

多くの観光で賑わっている広場。

ここが入国審査が行われている場所だろう。


「面倒だな……」


実に面倒。

しかし、やらなければずっとここにいる事になる。

大きくため息を吐き、僕はそのまま入国審査のゲートへと足を進めた。


ゲートは……あれか。

遠くに見える門みたいな場所。

そこには各国からやってくる多くの観光客で賑わっていた。

しかし、今がまだ夏休みが始まる少し前ということもあり、思っていたよりかは人の数は少ない。


1時間くらいだろうか。

ちょっと長い列。

まるで遊園地のアトラクションに並んでるような感覚だ。

待つのは少し面倒だが、ここを通り抜けらないと何も始まらない。


「ゲームでもするか」


スマホを取り出し、アイコンをポチッと押す。

好きなことをやれば、時間はあっという間に過ぎるというものだが、まさにその通り。

先ほどまでは長蛇の列だったのが、今ではあと数人で順番が回ってくる所まで来ていた。


2人前。

そして前の人の質問が終わり、いよいよ僕の番だ。

並んでいる時にマニュアルは読んだ。

大丈夫だ。

心の中で自分を鼓舞し、一歩前進。

審査の人は人柄が優しそうな女性だった。


まずは「ハロー」と挨拶。

ぎこちない発音だったが、どうやら通じたようだ。


「How long will you stay in this country?」


えっと……『どのくらい滞在しますか?』かな?

このくらいなら僕でも分かる。

夏休みが終わるまでだから……1ヶ月で良いんだよな?


「about……one month」


「OK. Do you have a return ticket? 」


「えっと……」


空港の案内用紙を見る。

『帰りのチケットはありますか?』か。

空港で母さんから貰っているので、ここは「yes」と頷いた。


「what do you──」


「えっと……learning? 違うな……留学って何て言うんだ?」


悪戦苦闘。

しかし、ここで戸惑ったら、戻されるかも。

僕は持っているフルの英語知識を利用して、なんとか答えることができた。


「thank you」


終わった。

ネイティブによる過酷な入国審査。

入国初めての試練をなんとか乗り越え、奥にあった荷物受け取り場で赤いキャリーバックを回収する。


あとは空港にある待ち合わせのフロアに向かうだけ。

そこで現地の人と合流すれば、今日の試練はほぼクリアしてようなものだろう。


「えっと、何処に居るんだろ……」


ただ問題のある。

ここは世界最大の空港。

その為、待ち合わせのフロアは僕の想像以上に人が多く、何処にホストファミリーがいるのか僕には分からなかった。


遠くにあるテレビ。

聞こえてくる異国の言葉。

ここですれ違ったら、一貫のおしまいだ。

さっき以上に神経を使わなくては。


「とりあえず、電話してみるか」


こういう時こそ、文明の利器に頼るべきである。

ただこんな場所で電話してもおそらく半分も聞こえないだろう。

どうしようかと思ったが、ここは空港。

運良く、目の前には、大きなコーヒーのチェーン店が店舗を構えていた。


「ちょうどいい」


真っ直ぐ進み、レジに行く。

英語が馬鹿な僕でも、コーヒーを頼むくらいは出来た。

空いていた椅子に座り、コップを口付ける。

長旅の疲れが少し取れたような気がした。


──そろそろ、連絡するべきかな。

コップを机に置き、ポケットからスマホを取り出す。

それからいろいろと操作をし、電話を掛ける。


幸いに、2コールも鳴る前に出てくれた。


「あっ、やっと出てくれました」


電話番号の持ち主とは違う声が。


「心配してたのですよ?」


「……」


電話の向こうから聞こえて来たのは、意外な人物だった。

いや、なんで出てくるんだよ。

小さく息を吐きながら、声の持ち主の名を言う。


「はい。 貴方の凛香です」


知ってる。

おかしいな……母さんに掛けたよね?

どうして?

出る前に変えたのかな。


「それにしても、全く出てくれませんでしたね。 何度も電話を掛けたのですよ?」


「あっ、ごめん」


「墜落したのかもって、心配したのですよ?」


「……」


いや、それは跳躍しすぎだと思う、

それに勝手に殺さないでくれ。

スマホから聞こえる声を聞きながら、僕は呆れの息を吐いた。

せっかく疲れが回復したと思ったのに……これじゃあ逆戻りだ。


「それよりもコウくん。 何で連絡しなかったのですか? 飛行機に乗ったら連絡してって約束しましたよね?」


ああ、日本を飛び立つ時にそんな事言ってたな。

僕はつい10時間前の事を思い出す。

僕も忘れていなかったよ。

でもね?


「あの……」


申し訳無さそうな口調で、幼馴染の攻撃を中断させた。


「機内モードって知ってる?」


日本を飛び立つ時、何で気づかなかったんだろうね。

盲点だったよ。


「……」


ドジっ子リンちゃん

「あっ……」と思ったのか、しばらく無言状態になった。


「えっと……その……」


僕の一撃がよほど効いたのだろう。

無言だった彼女は──。


「お養母様が呼んでます。 変わりますね?」


「えっ……」


あっ、逃げた。

おいおい。

薄い電子端末から聞こえてくる声が現状で一番聞きたくない物に変化してしまった。


「はいはい。 愛しのリンちゃんからお電話変わりました。 貴方の母でーす! 10時間振りね。 元気にしてる?」


もうやだ。

ちょっとおかしな幼馴染の次はハイテンションな母親。

別にテンションは嫌いではない。

でも、慣れない異国や長旅で疲労している身からすれば少し鬱陶しいと感じてしまう。


「その質問には後で答えるとして……聞きたい事があるんだけど──」


「待ち合わせのこと?」


「うん……うん?」


なんで分かるの?

貴方はエスパーか何か?

でも、母さんだし……そんなものだよね。


「なら、向こうから来ると思うわ」


「向こうから?」


「そうよ」


「……」


向こうからか……いや、でも向こうから来るって言われてもね?


「遊園地の真ん中で、ある特定の人を見つけられると思ってるの?」


目の前に広がる人混み。

果たしてやって来れるのか。

そんな事するなら、電話番号を教えて欲しいものだ。

だけど、母さんは「ふふ」と笑うと、「コウちゃんの服装なら一発で分かるわ」と返した。


「服装……」


母に言われ、僕は自分の服装を見る。


「……確かにね」


黒いズボンに白いシャツ。

そして黒いジャンパー。

他のみんなは半袖なのに、一人だけ長袖である、

こんな場違いみたいな姿を見ている人物など、この空港には僕以外いないだろう。


「5分経っても来なかったら、また連絡してね?」


「そうするよ」


端末を耳から離す。

そして、赤い受話器ボタンを押そうとした時に「待ってよ」と声が寂しそうな声が聞こえたが──この際無視だ。

無視。

機内モードを知らない娘なんて知りません。


「来なければどうしよう……」


唐突に不安が襲ってくる。

今の状況も。

そしてこれからも。


「……」


果たして、上手くやっていけるのか。

一応、日本人とは聞いているけど。

英語を学ぶ為にやってきた以上、どこまで日本語を使用して良いのか分からない。


どれだけの時間が経っただろうか。

周りから聞こえてくる言葉は未知の言語。

──帰りたい。

そんな思いが強くなってくる。


「ホームシックか」


留学生でよくある現状とは聞いていたたが、本当に起こるんだな。


「もう一度、掛けてみるか」


ポケットから端末を取り出し、電話アプリを開く。

さっきまでは鬱陶しいと思っていた声も、今では恋しくなってきた。

連絡先一覧から母さんの名前を押す。

そして緑色の発信ボタンを押そうとした時、僕の背中から突然日本語が投げつけられた。


「貴方が天城 晃介君ね?」


「えっ?」


──日本語?

異国で聞いた初めての母国語。

それは僕を驚かせるのに充分であった。


待ち合わせの人かな?

電源を切り、慌てて振り返る。

そこに立っていたのは、可憐な少女であった。


フリルの白シャツに黒いロングスカートを身につけた女の子。

髪はシルバーゴールドで輝いており、瞳の色はライトブルー。

僕と同じくらいの背丈だろう。


総称を一言で言うなら、凄く可愛いだ。


幼馴染のリンもかなりの可愛い女の子だが、彼女は別の意味で可愛かった。

それは可愛いと言うよりも、綺麗と言った方がニュアンス的には似合っているだろう。


「そうでしょう?」


そして彼女の小さな口から発せられる透き通る声。

その全てが完璧であった。


「そうですけど……」


小さく頷く。

いきなりの美少女。

驚きのあまりに、不安だったものが消えてしまった。

でも一体何の用だろう。

彼女が待ち合わせの人なのかな?


浮かび上がる疑問。

少し離れていた少女の顔が近づいたのは、そんな時だった。


「……」


──ち、近い。

思わず、一歩下がってしまう。

海外はスキンシップが多いと聞くが、この娘もそうなのだろうか。


「あの……」


声を掛けてみる。

返事は無いようだ。


「えっと……」


顔に何か付いているのだろうか。

ジーッと見つめる少女。

彼女の蒼い瞳はずっと僕を見つめていた。


「……」


しかし……。

目の前に広がる少女の顔。

輪郭は綺麗に整っており、肌は雪のような白い。

先程は綺麗と言ったけど──可愛いと言った方が似合う。

リンは美少女であるが、この少女は別のベクトルで美少女であった。


もしの話だ。

もし彼女と付き合えるなら、その人はかなりの幸せ者だろうな。


しかし、現実は非情と言うもの。

神は二物を与えなかったようだ。


「……なんて言うか、冴えない顔ね」


……ん?

今なんて言った?


聞き間違い……だろうか。

少女の小さな口から漏れた言葉は僕を驚かせるのに充分であった。


──どう言う事?

そう質問しようとする。

しかし、不運にも彼女の言葉と重ねなってしまった。


「あんまり関わるつもりはないから」


捨て台詞は吐くように、さっとその場から離れる少女。


「……」


見た目と言動の離れすぎたギャップ。

僕はそのポカーンとした口を閉じることが出来なかった。


ホストシスターはかわいい少女。

そんな僕の幻想は、呆気なく崩れ去るのだった。


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