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Day-2、観光③と電話


アイスを食べ終えた後、僕たちはヨーク駅に戻っていた。

昼前に来た時よりも観光客は増えており、ターミナルはかなり混雑していた。


「すごい人がかり……」


まるで試合後のサッカースタジアムのバスターミナルみたいだ。

本当に大勢の人混み。

駅に入って行くのが難しそうに見える。


「いつもこんな感じよ」


「そうなんだ……」


流石ヨーク。

感心していると、隣にいたスミスティーさんが「駅に行くの?」と尋ねてきた。


「駅?」


「見たいんでしょう? 入れるわよ?」


「そうなの?」


駅って簡単に入れるの?

日本だとほとんどの駅に改札口があるから、電車に乗る以外の用で入る事はよほどの事がない限り無理だろう。

だけど、このヨーク駅はどうやら違うらしい。


「改札が無いのよ」


知ってる。

昨日──初めて来た時は本当に驚いたものだ。

でも、それだとどうやって支払うんだろう。

やってくる時は向こうの駅でキップを買うから良いとして、ヨーク駅から行く時は?


そんな事を質問してみる。

すると彼女は意外そうな目で僕を見ていた。

「良い質問じゃない」って。


「答えはなんだと思う?」


「えっ?」


答え?

いや、分からないから質問したのに……。

でも、考えてみるのも面白いかも。


「そうだね。 例えば……」


事前に見せるとか?

実際、昨日の特急内で切符を見せられたから。

日本だって特急の指定席に座ると、確認させられるから。

ここでもそうしているじゃないかって。

まさかな、とは思う。


だけどまさかだった。


「その通りよ……」


当たったのが驚きだったのか」よく分かったわね」と目を見開いていた。


「じゃあ、行きましょう」


「うん」


やっとじっくりと観察できる。

昨日は全く時間が無かったので、まったく見ることが出来なかった。

だけど今は違う。


ガラスの扉を開け、駅に入る。

壁には旗や時計が飾ってあり、椅子の向こうには大きな地図が見えた。


改札口のない正面玄関を抜け、そのまま真っ直ぐ移動する。

道は2手に別れており、どちらかもプラットフォームに降りれるらしい。

行きは右側──エディンバラ方面から来たので、今度は左側のロンドン方面の道を進むことにした。


しばらく歩き、大きな空間に出る。

駅のホームだ。

ドーム状の天井。

てっぺんがガラス張りになっており、より一層の広さを感じさせる。


「こっち」


エレベーターに乗って、歩道橋に移動。

2階から見た駅の景色はまた別物だった。


──すごい。


カーブの途中に造られている構造。

ホームから天井まで全てが曲線を描くように作られている。

まさに独特な雰囲気。


「向こうに行けば博物館よ」


「そうなんだ」


橋を渡った先。

駅の向こう側の出口に、イギリスでも有名なヨーク国立鉄道博物館があるらしい。


国立博物館か。

どんな場所なんだろう。


「行きたいの?」


「興味はあるかな」


鉄道自体はあんまり詳しくないけど。

でも、博物館なら訪れてみたい。

そんな事を告げると、彼女は「なら明日ね」と返事した。


「明日?」


どうして?

せっかくすぐそばにあるのに。

怪訝に思っていると、彼女の口が開いた。

「かなり広いわよ?」と。


「広い?」


「ええ、少なくとも1日で見終えるほどではないわ」


「そうなんだ……」


そんなに広いのか。

日本でも1日では終える事が出来ない博物館はいくつかあるけど、ここもそんなに大きいらしい。


「じゃあ今、少し見て、明日また来るのは?」


「そんなに見る時間は無いと思うけど……」


そう言って、時計を指差す彼女。

チラリと階段に設置された時計を見てみれば、既に15時を指していた。


「確かに……」


もう3時か。

てっきりまだ2時くらいだと思っていた。


──あまり、おすすめはしないわ。

そんな言葉が付け足される。


「分かった」


──明日、また来ることにするよ。

ここまで言われたらしょうがない。

また明日訪れることにしよう。


「賢い選択ね」


静かに呟き、クルリと反転するスミスティーさん。

彼女はそのまま「じゃあ、戻りましょう」と告げた。


「うん」


博物館を背に、来た道を引き返していく。

それから1時間ほどスミスティーさんと一緒にヨークの街並みを観光し、僕たちはホスト宅に戻る事にした。



***



耳に響くコール音。

1回、2回──。

そして3回目のコールが聞こえる前に、『コウくんですか?』と懐かしの幼馴染の声が聞こえてきた。

リンだ。

昨日ぶりの再会である。


『おはようございます』


「おはよう? ああ、そっちだと朝なのか」


『はい。 早朝の5時ですね』


「5時?」


そんなに早くに?

あまりにも早すぎる。

ちょっと悪いことしちゃったかも。


「ごめん」と謝罪。

だけど彼女は『問題ありません』と笑って許してくれた。


『もう太陽は登ってますから』


「そっか……」


──早起きだね。

なんて呟いてみる。

すると、幼馴染は『そんな事ありませんよ』と笑い声で応えてくれた。


「そっちはどう?」


『問題ありませんよ。 ただ、少し退屈ですね』


「そっか……」


こんな感じで近況報告。

聞いた話によれば、リンの友人(女の子)がゲームのガチャで爆死したらしい。

それをクラスチャットに投稿したとか。


しかし、音量を大きくし過ぎたかな?

ちょっと耳が痛い。


『昨日──いえ、今日はどうでした?』


今度はリンが僕に質問する番だった。

彼女が「昨日」と言ったのは、こっちが日中の間に向こうで1日経過したからだろう。


「今日?」


『はい』


さて、どんな事を話そうか。

いろいろとあったからな。


「……長くなるよ?」


『構いません』


「分かった」と返答、

それから話す内容を上手く要約しながらボソボソと語り出してみる。

朝の出来事からミュージアム・ガーデン。

お昼にイタリアレストランのパスタ料理に、公園でアイスを食べたことなど。


話している途中、『良いですね』と相槌したり、『どう言う感じでしたか?』なんて質問してくるから、思ったよりも長くなってしまった。


「──だから、明日は彼女と一緒に博物館の方に行ってみるよ」


『そうですか……』


まるで自分の事のように頷くリン。

やっぱり昔からずっと一緒にいたからだろう。

僕の性格を熟知していた彼女のおかげで、小さな事でもどんどん話が弾んでいた。

例えそれがどんなに些細なことでも。


『私も行ってみたかったです』


「そっか……」と言う返事と共に沈黙が訪れる。


考えていなかった訳ではない。

リンの同行。

電話越しの会話でも楽しいのだ。

一緒に観光すれば、更に楽しくなっただろう。


だけど現実は無常。

彼女はここにはいない。


「じゃあ、さ」


『はい?』


──写真、送るよ。

気づいたら、そんな言葉が自然に出ていた。


『写真ですか?』


「うん。 僕が観光で撮った写真をメールで送ってみる」


「どうかな?」と提案してみれば、リンは『良いですね』ととても楽しそうな返事が返ってきた。


『楽しみです。 それに──』


「ん?」


最後の方に小声で何かを言っていたような気がする。

でも、上手く聞き取れなかった。


『あっ、なんでもありませんよ』


「そうなの?」


なんだろう。

ちょっと気になる、

だけど、リンが何でもないと言う以上は深く追求は出来ない。

僕は少し未練が残りながらも、話題を戻した。


「そう言えば──」


雑段は続く。

しかし、時の経過というのは楽しいほど早く進んでしまうもの。

あっという間に終わりの時間になってしまった。

午後10時。

そろそろ寝ないといけない時間だ。


「じゃあ、もう切るね」


誠に遺憾の極みだ。

心残りである。

だけど、もう会えない訳ではない。

また明日の夜に電話すれば良い。


『分かりました。 また明日に会いましょう』


「うん。 おやすみ」


──おやすみなさい。

彼女の言葉と共に、電話が切れた。


明日は博物館か。

早く行ってみたい。

スマホを充電器に差し込み、ベットの中に潜り混む。

そういえば……。


「日付訊くのを忘れたな……」


何やってるんだ僕は。

そんな情けない自分の独り言が部屋にこだました。


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