#05 “救世主”
舳先が海面へと出て自重で海面に艦首部の底面を叩きつけるように浮上し終えると「艦首発射管、緊急発射!それと同時に、各砲座。射撃用意」と立て続けに発令した。水雷長のノーヴァと砲撃長のルドゥリアはディスプレイを操作して魔導式魚雷1本と6発の榴弾《HE弾》と装薬を装填させた。
「全発射管、スタンバイ!」
「各砲座。照準誤差なし、装填良し!」
「一斉射撃!」
「「――ぅてぇ‼」」
海中を魔導式魚雷1本と共に、轟雷のような音を響かせて3基6門の主砲塔から弾丸が弧を描くように飛び出していった。
「主砲着弾まで、12秒」
艦長や他の乗員が祈る中、6発の内の3発が綺麗に帆船に着弾すると同時に8本の魚雷が命中し巨大な水柱が8本分も上がった。
「――3発至近弾、3発命中!魚雷は・・・、全命中‼」
「砲撃長、弾種切り替え。焼夷弾へ」
「主砲、誤差修正マイナス2度。焼夷弾に切り替え、装填完了次第発射!」
今度は前部の1番と2番砲塔だけの射撃だったが、それでも4発全て命中という戦果を挙げた。
「命中!命中!」
ちなみに先程から結果を報告しているのは、副艦長だ。
それと、言い忘れていた。俺とレイクッドは兄妹だ、だから戦闘中でもノラスやレイと言った略称を言ってしまう。
「「――敵の増援を確認、大型砲船5隻と衝角帆船4隻!」」
その時、電探長のレヴェルと電探長のデゥーフがほぼ同時に叫んだ。流石、姉妹。いきピッタリだ。
「砲撃長、敵大型帆船に魔導士が乗って居ると思え」
「了解、全主砲。≪魔導信管弾《VTM砲弾》≫装填!・・・――装填完了‼」
「撃ち方、始めぇ!」
「――ぅてぇ!」
船体が傾き転覆するのを防ぐために同時のように見える砲撃は、わざと3秒ほどずらして砲撃している。
また、≪魔導信管弾《VTM砲弾》≫とは、第二次大戦中に開発されてゼロ戦を多く堕としたVT信管砲弾の亜種だ。魔術式や魔導機関が発する特殊な音波を感知すると信管が作動して炸裂し、殺傷威力を持つ砲弾内に仕込んでいる三角錐状の鉄片を拡散させる。
「・・・5秒前――3、弾着、今!」
6発のVTM砲弾が迫ってこようとしていた敵大型帆船5隻を、爆沈や大破に追い込んでいった。
「敵大型帆船4隻爆沈、1隻大破!」
「1番砲塔に緊急装填、照準マイナス2度!」
「誤差修正、指命!」
「――撃てぇ!」
「発射始め!」
40口径62・6センチ連装主砲塔の凄い自慢とは、次発装填装置があるところだ。これにより砲弾がかいくぐって来た船に2回目の発射が素早くできるという事だ。さらに、各砲塔上部には近接防御火器《CIWS》を1基ずつ配置させているため防空・防御面は心配ない。
え?ズルだって?はぁ・・・。それくらいしないと、いくら最強たって海中ではただの的にしか過ぎないよ。
○○〇
大破し傾斜していた1隻となった敵大型帆船は2度目の砲撃を加えようと1番砲塔が狙いを定めた時、大砲の火薬に引火したのだろう。木端微塵に吹き飛び、爆沈した。
「大破していた敵大型帆船、爆沈!」
レイの声が発令所に響いたのとほぼ同時に、恐れを成したかのように一斉に回頭して逃げて行った。
「全主砲塔、攻撃止め」
「全発射管、攻撃止め」
ノーヴァとルドゥリアが独自の判断で砲塔や発射管扉を畳んだ、これにてエウランド皇国沖にてナームス傭兵国との戦闘を終えた。
その後、居住区に避難させていたロワイヤル号の乗員やベラス船長らをエウランド皇国に送り届けると「君達の事を広めておくよ、“鉄鯨”ではなくて“救世主”だってな。ガハハ!」と言われた。
ベラス船長らは今回の事を感謝するかのように、帽子や手を振りアディス級潜水艦を見送っていた。




