#22 SBD
艦内が激しく揺れる中、「第1区画から第6区画まで、火災と浸水発生!」という砲術長の悲鳴が響き渡っていた。
「ただいま戻りました、配置に着きます!」
急いで帰って来たレイクッドが戦術長の席に着くと、「指命!」と聞いて来た。
「左舷注水、復元せよ!」
「左舷、注水開始!」
現在の傾斜は15度、戦艦系統は20度以上傾くと砲撃が出来なくなる。それはこのアディス級潜水戦艦でも言えることだ。
『機関室より発令所へ! 浸水している! 圧壊まで持って1時間!』
その時、機関室に居る機関長が切羽詰まって連絡してきた。水の音や機関音が偶に音声に入って来る。
「待っていろ、戦術長を向かわせる」
『もう、持たないよ!』
ティルスからのインカムを切って、「レイ。 ティルスを救助して来い、それと念のために牢獄の方も見て来い」と指示を出した。
「は、はい!」
発令所を駆け足で出ていった後、「防水区画、閉鎖用意」と通信長に指示を出した。
「りょ、了解!」
「敵機撃墜率、100パーセント! ――っ、嘘でしょ? 南より、SBD接近!」
SBDとはドーントレスの事で、ダグラス社が開発し第二次世界大戦期にアメリカ海軍で運用された偵察爆撃機だ。
電探長がヒステリックに叫び、砲術長は混乱していた。
「あー、もう! 右舷機銃群、大破!」
「近接防御火器《CIWS》起動しろ、砲術長!」
「は、はい‼」
艦内に非常警報が鳴り響き始めたので、「(あ・・・、これ。 死んだわ)」と悟った。
○○〇
ゆっくりと艦が水平に戻って来たことを実感していると、500キロ爆弾1発が近くに着水して爆破した衝撃が艦を揺らした。
「至近弾!」
聴音手がヘッドホンを耳から外して驚いていると、ボフォース40ミリ4連装機関砲1基から出た弾が炸裂して急上昇しようとしていたSBDに着弾した。それによって主翼を吹き飛ばされたSBDは空中分解しながら海面に着水して沈んで行った。
「敵機、撃墜!」
電探長がSBDと表示された信号が消滅したのを見て安堵するかのように腰を深く座りなおした。
「デゥーフ、零式水上偵察機が飛んでいるのなら近くに艦船がいるはずだ。 見つけてくれるか?」
「了解」
「ルドゥリア。主砲は撃てるか?」
「問題ないと思います、ただ・・・」
「ただ?」
「うぅん、何でもありません」
首を振って否定したルドゥリアに首を傾げていると水浸しになったレイと咳込んでいるティルスが発令所にやって来た。
「た、ただいま、戻りましたぁ~」
「コホ、コホン。 し、心配かけましたぁ~」
「丁度良かった、ティルス。 機関室は?」
「もう駄目、水面下。だけど、出力系統はこっちで管理できるから致命傷じゃないよ」
「そ、そうか。 よかった・・・」
その時、「敵艦、発見!重巡摩耶と戦艦比叡! 3時方向!」と叫んだデゥーフによって空気が変わった。
高雄型重巡洋艦3番艦の摩耶は、通称ハリネズミと呼ばれるほどに多彩な対空機銃や高角砲座を持っている。主武装は203ミリ連装砲塔4基8門、副武装には側面にある610ミリ魚雷発射管だ。
金剛型戦艦2番艦の比叡は、主武装は45口径356ミリ連装砲塔4基8門、副武装には側面にある50口径152ミリ単装砲塔7基14門を有する快速戦艦だ。




