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大切なことを忘れた学校のアイドルはギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔にざまぁされた。

作者: だぶんぐる

感想でいただいたタイトルを元に書かせていただきました。

元ネタの別視点バージョンです。


元ネタ分からないと難しい内容かもしれませんので、よければ、

『ギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔に魂を売り渡し俺を地獄に捨てた幼馴染学校のアイドルにざまぁしてみせる』(https://ncode.syosetu.com/n6433he/)


『ギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔は学校のアイドルに地獄に落とされたアイツにざまぁさせたい』

(https://ncode.syosetu.com/n6925he/)


を、ご覧いただければ。

「テメエに変われるってことを教わったつもりだったが、結局テメエは変われてねえよ。あの頃のままだったな」


目の前にいる髪も心も真っ黒なハズの女はギザ歯を見せつけながら笑った。


ああ……そうだ。私は、あの頃のままなんだ……。




「天羽璃々《あもうりり》は学校のアイドル」


そう言われるくらい、私は学校の人気者だ。

明るい茶色のふんわりボブ、小柄だけど、出るところは出てる。

ぶっちゃけ、モテる。


彼女の名前は、来馬晶きばあきら

黒髪ロング、170を超える長身、そして、ギザ歯。

彼女のことは、小学校から知ってる。

といっても、幼馴染とかではない。小学校4年の時、同じクラスになって以来の知り合いだ。

私の幼馴染は他に居た。


私と来馬の間で寂しそうな眼をしてる男子。

それが私の幼馴染、小角伏人おづのふすとだ。

半年前までは髪もぼさぼさで猫背、テンションが高すぎて他人と会話が出来ない変なヤツだった。けれど、伏人は変わった。

髪を整え、肌も綺麗だし、テストも学年末二位だったみたいだし、筋肉もついたみたいだし、それに何より、目が変わった。正直イケメンというほど目鼻立ちがはっきりしてるわけではないけれど、自信に満ちた目は伏人をかっこよく見せていた。

誰がここまで変えたのか。答えは分かってる。あの女、来馬だ。

『あの日』以降、いつでもどこでも伏人は来馬と一緒に見かけるようになった。


あの日。


それは、私が伏人に告白された日。


『天羽! 俺と付き合ってくれ!』

『ごめんなさい、気持ちは嬉しいけど付き合えないの』

『そっか……でも、ちゃんと向き合ってくれてありがとな!』


そして、握手。


なんで握手? 意味が分からなくて怖かった。

そして、告白の翌日。


『昨日さあ、小角にコクられたの! 気持ち悪かった~! 身の程を知ってもらいたいわ~! 勉強も運動も普通、顔もさえないクラスカースト最下位のヲタクと、私が釣り合うはずないでしょ! 最後意味不明な握手させられて、超手洗ったわその後! ま、アイツ私に惚れてるからなんか困ったことあったら私に言いな。アイツに押し付けるから。キャハハって、小角!?』


告白されたことをネタにしていると、トイレの外に小角がいて話が聞こえていた様だった。

私は、聞かれた焦りや恐怖、恥ずかしさ、怒り、色々なものが入り混じり、慌てて教室へ。

そして、泣きながら、小角にフラれた腹いせに力づくで迫られたと言いふらした。

これで私のポジションは守られる。

そう思った。


そして、その後、相変わらずいじめられてる小角のもとに来馬がやってきた。

来馬は、長身で黒髪、目つきが悪い、そして、ギザ歯だ。口もうまい上に悪く、誰もが言い負かされる悪魔のような奴だ。

その来馬がわざわざ別クラスの教室まで来て小角を守った。

私はそれが気にくわなくて来馬に食って掛かった。


「あらあ、来馬さん。これはクラスの問題だから部外者は出て行ってくれない~?」

「あ? お前誰だ?」

「ああ、カースト下層の人間は私のことなんて拝むことも今まで出来なかったのね。天羽よ」

「あ、もう……? すまん、ちょっとわかんねえな。アタシの知ってる天羽といえば、小学校で同じクラスだった、あれえ、おっかしいな~、あの天羽さん、だとすれば、この天羽さんは……」


と、何か厚めのアルバムみたいなのを取り出す。小学校名が書いてあるので卒業アルバム……。

卒業アルバム!!!!


その瞬間、私の身体が震えはじめる。


「あんた……それ……!」

「あもう、あもう、ちょっと待ってくれ思い出すわ。小学校の時のあんた見れば、今のあんたとつながるかもしれな……」

「ぐふふふふ! 小学校の時の天羽さん!? 俺にも見せてくれ」

「やめろ!」


私の味方をしてくれてた男子に金切り声で叫ぶ、私。

でも、仕方がない、あのアルバムは見られたくない。

あれを見られたら、私の居場所が……




小学校の頃、特に五年生。

私は凄い太ってて、おかっぱ。勉強も運動も苦手で、得意なことは何一つなく、教室の隅っこで絵を描いているような女の子だった。はっきり言ってモテなかったし、クラスでも好かれる存在ではなかった。

そして、同じ境遇の来馬と仲が良かった。来馬は今と変わらず黒髪ロング、長身で、ギザ歯。

教室の端っこで本を読むような子だった。

私たちは、二人で放課後よく話をした。昨日のテレビ、読んだ本、学校の話、そして……好きな人の話。来馬は当時好きな人がいないと言っていた。強いていうならと国語の和田先生を挙げていた。私は迷わず幼馴染を挙げた。


「おい! りり! かえるぞ!」

「ふっくん! うん! じゃあね、きばさんバイバイ」

「あ……うん。ばいばい、あもうさん……お、づの、くんも……」


来馬と放課後話をしてると、伏人が迎えに来てくれて、手を繋いで一緒に帰る。そんな日常。

私はその日常が大好きでずっと続けばいいと思っていた。

伏人と結婚すると思っていたし、両親に伝えると、応援してくれた。お父さんはちょっと涙目で。お母さんは、じゃあ、もうちょっと伏人君に好かれるよう色々頑張らないとね、なんて言ってきたけどそんな必要はないと思っていた。

だって、私は伏人の幼馴染で、伏人と毎日登下校をして、伏人のことを誰よりも知ってるから。

けど、私の自信は小学校六年、伏人と久しぶりに同じクラスになれた時に脆くも崩れ去る。


「おづのー! 今日昼休みはサッカーな!」

「おづのくん! あの、この前はとしょいいんお手伝いしてくれてありがとう! あの、おれいで、これ、あげる!」

「おづのっちおづのっち! ビーム!」

「ぎゃああああああ! っていうか、一気にしゃべんなよお。わけわからん!」


笑いの渦の中心。人気者のポジションに伏人はいた。

私はその時初めて、伏人を遠く感じた。

伏人は男女関係なくみんなに好かれていた。みんなのヒーロー。それが伏人のポジションだった。

私は?

私は、ぽっちゃりでおかっぱ、運動も勉強も出来ないで、目立たない。

教室の隅っこ。

それが私のポジション。


駄目だ駄目だ駄目だ。

変わらないと。あそこに、クラスの中心にいる伏人の隣に行かないと。

だって、私が一番伏人のことが好きで、伏人のことを分かっているから。


その日、私は初めて伏人と一緒に帰らなかった。

何か言いたそうな来馬を置いて、伏人の顔も見れないままに、泣きながら家へと急いだ。

そして、お母さんに泣きついた。今思えば、支離滅裂な内容だったような気がするが、とにかく、クラスでの伏人、私、このままじゃ伏人と結婚できないこと、お母さんの言うことは正しかったこと、一気に話した。

そして、がんばりたい、とお母さんに告げた。

お母さんは、ふっと微笑んで、私を抱きしめてくれた。

その日から、私は変わり始めた。

途中で投げ出していた習い事を再開し、勉強も真面目に、お母さんに手伝ってもらってダイエットの為の運動も始めた。お菓子も我慢した。

伏人の為にと色々お手伝いもした。

来馬が手を貸そうとしてくれたりしたが、


「だいじょうぶ。これはあたしがふっくんにしてあげたいから」


と、頑として譲らなかった。

その頃から、来馬とは疎遠になり始めた気がする。


そして、小学校卒業、中学入学してから、私は大きく変われた。


「こんにちは~! 小さなお嬢様! お名前は、あ、もう? じゃあ、あもっち! 今日はとびっきりかわいくしてあげるからね!」


お小遣いを溜めて初めて行った美容院で、髪をめちゃくちゃ可愛くしてもらった。

運動も続け、お母さんのヨガ教室にも通い始め、どんどん痩せたし、その、胸も大きくなり始めた。

性格も伏人がアニメで好きって言ってた元気なキャラを意識して、明るくふるまえるよう頑張った。

伏人はいつも私を褒めてくれた。

そして、私はまた頑張った。

幸せだった。

伏人に褒められて、頑張って、かわいくなって、幸せだった。


中学校一年の文化祭で私はミスコンをとった。

嬉しかった。私の頑張りをみんなが褒めてくれたような気がした。

そして、その頃から男子から告白されることも多くなった。

それもまた、私が認められていくようでうれしかった。

でも、私は伏人の為にここまで頑張ったから。


「ごめんなさい、好きな人がいるから、お付き合いは出来ません!」


伏人に、私の大好きな人に、想いを告げたいから。

けれど、なかなかそのチャンスが訪れなかった。

いきなり人気者のポジションになった私はいろいろなところからお誘いを受けた。

それが私は嬉しくて、みんなの期待に応えたくて、がんばった。


「あの、天羽、さん」

「ん? ああ、ふっくん! ごめーん! 今日もちょっとたあくんやマーチのみんなでカラオケに行くから。あ、ふっくんも来る!?」

「あ、お、おう!」


伏人は、思春期でちょっとめんどくさい感じになってたけど、それでも、私には付いてきてくれて色々と手伝ってくれた。

伏人はサッカー部の補欠だったし、まだ中学校では誰も狙っていないみたいだったから。独り占めしてた。頼ればなんでもしてくれた。そんな伏人が大好きだった。

出来ないところも可愛くて、『しょうがないなー、ふっくんは』って私は助けてあげられることが幸せだった。助けてあげると伏人は一生懸命頑張った。

それが嬉しかった。二年生になって、クラスが離れた時はショックだった。

クラスのみんなが私をすごく頼ってくれたから、なんとか寂しさは紛れた。


けれど、その頃から、伏人は、頑張らなくなってしまった。


部活も休みがちだし、授業もよく寝てる。

だから、サッカー部のレギュラーにもなれないし、テストもいつも赤点。

補習も行ってないのに、何故か先生から怒られないから、同級生の間では『小角は媚び売って補習回避してる』って言われていた。

私は、恥ずかしかった。

幼馴染がそんなになってしまって。

私は伏人に何度も、もっと頑張ろう、伏人なら頑張れるよ、なんで頑張らないの、と言い続けた。

その度に、伏人はへらへら笑って『ごめんごめん』と言っていた。

私は伏人のことが嫌いになり始めていた。

そして、もう一人。私は来馬も少しずつ嫌いになり始めていた。


来馬とは、中二と中三でクラスが同じになった。

身長は160後半で、すらっとしてて色白、黒髪ロング。何故か前髪を下ろしてあまり顔が見えなかったが、小学校の頃の来馬の顔の造形を知る私からすれば、切れ長な目、すっとした鼻、本当に美人だと思った。

それに、来馬にはなんだか自信が見えた。それが私の心をざわつかせた。

私は、来馬に苦手意識を持った。そして、その思いが募っていき、少しづつそれが嫌いに変わっていった。もしかしたら、あの美人が本気を出したら、私のポジションがという焦りもあったのかもしれない。

『来馬晶は不良でやばいヤツ』と言いふらした。前髪で隠れてるから、目立つのはギザ歯。そして、まわりとあまりなれ合おうとしないし、長身。そして、何より二年連続でミスコンをとった私の言葉を誰もが信じた。結果、来馬はクラスでハブられた。

けれど、来馬にとってはどうでもいいようだったし、相変わらず口がたって、目つきが悪いい長身、そして、悪知恵が働き、誰もかなわなかった。

あまりにも思い通りにならない来馬に苛立っていたら、友達が来馬の鞄を捨てた。

捨ててくれた、というべきなのかもしれないが、私は、焦った。

それは流石にやりすぎな気がした。

でも、私はグループの中心。そこから外れるわけにはいかなかった。

放課後、こっそり捨てたというゴミ捨て場に走り、鞄を拾った。

けれど、めちゃくちゃに汚れたその鞄を私はどうすればいいか分からず立ちすくんだ。

すると、こちらにくる足音が聞こえた。誰かが来る。

慌てた私は鞄をもう一度、ゴミ捨て場に捨ててやり過ごそうとした。

やってきたのは……伏人だった。

髪はぼさぼさで、肌もにきびだらけの、何もがんばらない伏人。


「あ……天羽」

「こんなところに、何しに来たの?」

「あー、えっと、ちょっと、な」


何となく分かってしまった。

多分、伏人は来馬の鞄を探しに来たのだ。

私を迎えに来た教室で、多分話を聞いてしまったのだろう。

でなければ、こんなところに来る用事なんてない。

それに、伏人は、そういうヤツだから。

私は顔が熱くなるのを感じた。多分、これは怒りだ。苛立ちだ。

なんで、こんなことは頑張れるのに!


「天羽、さ……あまり、人のことを悪く言うなよ」


その瞬間、私の中で何かが壊れた。


「……来馬みたいな不良を庇って、私のことは、信じてくれないんだ」

「信じるって……俺は、お前が……」

「うん、大丈夫。分かってる。心配してくれてありがとう。じゃあ、帰ろうか」

「あー、ちょっと、教室とかで待っててもらってもいい? ちょっと、用事あって」

「そっか。じゃあ、今日はいいや。さよなら」


私は、視線を泳がせるかっこ悪い幼馴染を置いてけぼりにして私はその場を去った。

その日から、小角はただの幼馴染になり、小角と一緒に帰ることはなくなった。

その日、私は珍しく一人で帰った。仲良しグループプラス小角という団体で帰っていたこともありいつも時間がかかっていた帰り道も今日はあっという間で、お母さんがびっくりしたくらいだった。


「今日は、早いわね」

「一人で帰ったから」

「伏人くんは? 一緒じゃなかったの?」

「知らない」

「でも、伏人くんも大変よねえ、ご両親が……」

「知らない!」


お母さんまで小角の味方をするのかと私は声を荒げて自分の部屋に駆けこみ、予約してた美容院の準備をさっさと済ませて家を飛び出した。

それ以来、お母さんが小角の話をすることはなかった。


美容院では、相変わらず美容師のお姉さんが色んな楽しい話をテンポよくしてくれたが、その日の私はどうにも楽しく感じられず、愚痴ばかりを話していた。

ぼっちの来馬、頑張らない小角、二人の悪口を延々繰り返した。

終わり際、お姉さんは、鏡越しに私を見て言った。


「あもっち……SNSとかでもそうだけどさ、見えないところで悪口言ってたらね……自分の見えないところ、心が、悪くなっちゃうんだよ」


私は、何も、言えなかった。

ぷすりと針が刺さって、じわじわと全身を血塗れにしていくような感覚。

体中が汚くなって、全てが腐っていって、否定されていくような。

けれど、私は抗った。

真正面から「クソ」とか言ってくる来馬が正しいみたいじゃないか。

お姉さんを睨みつけ、私はそれ以降別の美容院に行きはじめた。


けれど、


「心が、悪くなっちゃうんだよ」


お姉さんの、優しく切なそうな声が、


「天羽、さ……あまり、人のことを悪く言うなよ」


伏人の、悲しそうな声と重なって、耳から離れなかった。


それから、私はその声を振り払うかのように、みんなの人気者であり続けた。

中三でもミスコンをとって前代未聞の三連覇を成し遂げた。

高校に入っても、最高の日々を過ごしていた。

小角と来馬が何故かいたが気にならなかった。

来馬は相変わらず、人から避けられていたし、小角は私の頼みをなんでも聞いてくれた。

いや、時に、あの悲しそうな顔をして断ってきたが、そんなものはカウントしない。

小角は、パンや漫画雑誌を買ってきてくれたりしたし。

けど、ふと、気付いた。

小角は、いつからか、私のことを褒めなくなった。

それに気付いた日があの、告白の日だった。

小角をフッたあと、ふと気づいたのだ。

小角は、私を褒めなくなった。

いつからだろうか。とにかく、私は腹立たしくなった。ただの小角の言葉なのに、私のポジションを脅かすような気がした。

大丈夫、と言い聞かせる。あんな告白、物の数にもはいらない。

私は、入学してからも、多くの男子から告白を受けていた。

けれど、なんだか誰もが違う気がして、断り続けていた。

友達には理想が高いと言われた。

理想なんてない、強いて言うなら、やさしい人だ。

みんな違う気がした。


そして、私は理想の人に会うことなく、高校一年を終えた。

新学期。私は、クラス替えの結果を友達に教えられ、教室へと向かった。

私と同じクラスで嬉しいと一緒にみんなついてきてくれた。

うん、うれしい。

ここが私の居場所なのだ。


そして、教室での最初の居場所。

出席番号一番だから、入り口一番すぐそば。後ろの生徒はもう来てたらしい。

見覚えあるような気がするけど、でも、多分知らない男子。

本を読んでいた。最初が肝心。


「あ! あなたが後ろの人? ひゃー本なんて読んで真面目だねえ! よろし、く……」


男子が顔を上げると、その顔は良く知った、知らない人がいた。


「ああ、天羽か。おはよう」

「お、お、おは、よう」


小角だった。顔はすごく大人っぽく男らしくなっていたけど、なんだか昔の小角に似てるな、と私は矛盾したことを考えていた。そんなことを考えていたら、先に私の友達が話しかける。


「えー! 小角くん! 雰囲気変わってない!?」

「どうしたの!? そんな感じだったっけ」

「まあ、ちょっとがんばってみた。褒めてくれてありがとう」


小角が笑った。すごくいい笑顔で。そういえば、去年の二学期からなんだか雰囲気が変わっていった気がする。

突然坊主にした時があった。あの時の小角は、なんだか妙にすっきりした顔をしてた。

あの日くらいから、小角と目が合うことが少なくなり、私は妙に苛立ったことを思い出した。

けれど、そこから、小角は少しづつクラスと打ち解け始め、変わっていったんだろう。

小角は、がんばったのだ。


「ね、ねえ!」


私は思わず机に両手を置いて乗り出す。小角が近くにいる。かっこいい。


「あんた、本当に変わったね。い、今なら、今のあんたなら私付き合ってあげ……」

「おい、アタシの下僕に手を出してんじゃねーぞ」


私の、言葉を遮るように、ハスキーボイスが聞こえてくる。

一度聴いたら忘れられない声と顔がすぐに合致するハスキーボイス。


「はあ~、またあんたなの! き、ば……」


来馬は、前髪を分けて顔をしっかり見せていた。

私が思ってた通りの、美人。

珍しくお化粧もして、手足も細く姿勢もいい、まるでモデルみたいだった。


「おい。いい加減胸を押し付けるのやめろよ、来馬」

「セクハラだな、小角」


軽口を叩きあう二人のリズムは心地よく、長年連れ添った相棒のような感じで、その重みが、私を殴りつけた。

小角は、変わった。

いや、元に戻った?

その時私は、自分が告白された時に感じる『なんか違う』の『何と違うのか』、『高すぎる理想』と言われる『理想の正体』、『私の求めるやさしい人が誰なのか』に気付く。


伏人だ。

伏人だったんだ。


小学校の頃、かわいくない私といつも一緒に帰ってくれていつも笑顔にしてくれたふっくん。

中学校の時、沢山褒めてくれた伏人。そして、私がいけないことをした時ちゃんと諫めてくれた伏人。

高校生の時、あれだけ私が嫌っていても、頼った時には応えてくれた小角。


私は、いつの間にか、私しか見なくなっていた。

私がなりたい私は、『伏人に大好きって言ってもらえる私』だったのに!

私の中で後悔が渦巻く。私は、変わったつもりでいた。

けど、変わりたい自分になれていなかったんだ。


「テメエに変われるってことを教わったつもりだったが、結局テメエは変われてねえよ。あの頃のままだったな」


来馬の声が刺さる。


「ざまぁ」とぽつりと聞こえた。


来馬をちらりと見ると、来馬は、ギザ歯を見せて笑っていた。

けれど、目はどこか悲しそうで……それがまたあの時の伏人に重なって、泣きそうになった。


その日は、自分が恥ずかしすぎて、泣きたくて、じっとしていた。

誰とも、今のかっこわるい私に会ってほしくなくて、休み時間も教室を飛び出して、トイレで静かに泣き続けた。

最後の授業は移動教室で帰ってきた時、私の机には、私の好きなチョコの小袋がおいてあった。


多分、伏人だ。


昔、私が泣いていると伏人はいつもこれをくれた。

伏人の妹もこれが好きらしくて持ち歩いていると言っていた。


私は、放課後になると飛び出した。

家に帰って、お母さんに泣きついた。

お母さんは微笑みながら私を抱きしめた。

そして、久しぶりに伏人の話をしてくれた。

中学校の時両親が離婚したこと、それで、伏人のお父さんが追い詰められて伏人に手を出していたりしたこと、妹が心を病んでしまって伏人に依存し続けたこと、そして、それを伏人は耐え抜いて高校入る直前に漸く落ち着いた事。

私は、何も知らなかった。知ろうとしてなかった。私のことばかり伏人に知ってもらおうとしてた。

テストの補習が見逃されていたのも、先生たちが伏人の家庭環境を理解していたからだろう。

あんなに明るくふざけていたのも、伏人なりに誰にも気づかれないようにしようとしていたのかもしれない。いや、きっとそうなんだと思う。


私は、お母さんにお礼を言うと、ずっと足を運んでいなかった、あの美容院に行った。

美容師のお姉さんは、私を見て一瞬驚いていたけど、すぐに笑顔で出迎えてくれた。


「いらっしゃい」

「あの、すみませんでした!」

「いいよ、ここにまた来れるようになってくれて嬉しいよ、カット?」

「はい、あの、ショートカットにしてもらえませんか?」

「お、ボブやめる?」

「ボブは莉奈さんが選んでくれた素敵な髪型なので、またしたいんですけど……あの、一回、生まれ変わりたいというか、その……」

「……あっはっはっは!」


思いっきり笑われた。


「あーごめんごめん。半年くらい前に、同じようなこと言われてさあ。なんか思い出して嬉しくなって」

「へえ、なんで嬉しく?」

「あー、その辺は話すの難しいかな。あ! その男子、坊主にしたんだよ! あもっちもどう?」

「流石に無理ですよ!」


私は、笑ってた。なんか、しあわせだった。

次の日、教室に行くと、小角と来馬が楽しそうに漫画の話をしてた。


「いや、アンケートの一番は〇オのハコだろ」

「〇ボコ一択だわ。馬鹿か」


私もちょっとその話に加わりたかったけど、我慢して二人に声をかける。


「おはよう!」

「ち! クソ女、か……」

「ああ、天羽、おは……」


二人が固まる。楽しい。


「えへへ、思い切ってショートカットにしてみました! どうかな?」

「え、ああ、うん……すっきりしたみたいで、よかったな」


小角は、丁寧に言葉を選んで私に言ってくれた。うれしい、しあわせ。


「おーおー、失恋でもしたか? モテ女のくせに」


来馬がギザ歯見せつけて煽ってくる。ウケる、たのしい、しあわせ。


「ショートカットにしたら、もっとモテるかなーって、ねえ、小角的にはどう? 好き?」

「「は?」」

「あ、ああ……うん、うん?」

「てめえ、人の男に手を出す……いや、あの」


テンパる二人。たのしい、しあわせ。

大丈夫よ、来馬。あんたの彼氏を奪えると思ってないから。

でも、もし、許してもらえるなら、幼馴染に、仲良しに戻りたいの。

それに、あんたとも、小学校のあの頃みたいに。

変われ、私。


「今までの、こと、本当に、私が悪かったと思ってるから、その、私が、がんばって変わるところを見て、ほしいの……もし、それで、認めてくれたら、あの、仲良くして、ほしいん、だけど……」


拒絶されたら、諦める。

拒絶されたら、諦める。


「見せてもらおうか、変わっていく天羽の力とやらを」


CV赤井秀○とかいいながら、小角が笑っている。うれしい、しあわせ。


「じゃあ、焼そばパン買ってこいや」


来馬がギザ歯を見せつけてパシらせようとしてくる。あほか、しあわせだわ。


「やーん! 一人じゃさみしいから、小角、一緒に行こ?」


私は、小悪魔系女子風に小角に迫る。身体は触らないけど。


「てめえ……! さっきから、アタシの」

「アタシの? 何? 小角はあんたの何なのよ」

「アタシの……! あ、アタシの……!」

「いや、来馬無理すんなって、〇惨様に怒り狂う〇治郎ばりに血管浮き出てるって!」

「アタシの男だ!」


うん、知ってるよ。

けど、本当に、本当に、あんたが万が一に、小角を捨てたら私が助けてあげるからね。


小角が、真っ赤な来馬を見て、こっちを見て苦笑してる。

来馬は、恥ずかしいやら宣言できてうれしいやらで、ちらちらギザ歯を見せている。

私は、思いっきりしあわせいっぱいで、恥ずかしがる来馬を小馬鹿にするように言った。


「ざまぁ」


私の忘れていた大切な人を手に入れたあの頃の親友に悔し紛れの祝福の言葉を贈った。


お読みいただきありがとうございました。


よろしければ、ブックマークや☆評価お願いします。


読んでくださった方からのリクエスト?(勝手にそう思っています)に応えて書くのは初めてですが、楽しかったです。また、奇跡が起きれば挑戦してみたいです。


大いなるざまぁを期待した方すみません。


元ネタ読んでなくてちょっと分からなかったという方は、

『ギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔に魂を売り渡し俺を地獄に捨てた幼馴染学校のアイドルにざまぁしてみせる』(https://ncode.syosetu.com/n6433he/)


『ギザ歯黒髪ロング長身女子悪魔は学校のアイドルに地獄に落とされたアイツにざまぁさせたい』

(https://ncode.syosetu.com/n6925he/)


あと、そのカップルがただただ幸せな砂糖工場。

『彼氏尊死、凶器はギザ歯、ギザ歯彼女は最強です。』もよろしければ。

https://ncode.syosetu.com/n6929he/6/

何もなく、ただただ甘い日々です。



改めまして、お読みくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これを待ってた。 最高でした。 [一言] 自分の考えたタイトルで書いて頂きありがとうございます。 予想をはるか上の作品でした。 前向きになれるざまぁって良いですね。
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