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グルムンドの壁。2/4

そしてその二人——、

着こんでいたローブを向かい来る空気とおどらせて空を飛ぶセティスに、後方から空中を駆けて追いついたデュエラが声を掛ける頃合い。


「セティス様、セティス様‼ ちょっと待ってください、です‼」

 「——割と全速力で飛んでるのに、速い。しかもバック走で」


覆面の眼に当たる部分に付いた透明なガラス越しにセティスが振り返ると、背面を前方に向けて呪われた金色の瞳がセティスの瞳と鏡合わせにならないように話しかけていて。


「それ、【空歩】系の魔法だよね」


セティスが真っ先に気になったのは自分と並走するデュエラの足の裏が跳ねる度に僅かに視認できる透明な板のような存在。それが魔法によって作り出されているものだという事は魔力感知を使わずとも、周りの環境を見渡せば明白。


「え、あ、はい。【《《龍歩》》】で御座います、です‼ そんな事より、なのですよ‼」


しかし、デュエラにとってはそんな事である。彼女は斜めに肢体を跳ねさせて崖へと駆けつつ、話を無理やりに元に戻す。


「セティス様のその武器の部品だった魔石は、カトレア様の治療に使われて無くなってると思うのですが、どう戦うので御座いますか?」


彼女も危惧していたのだ。イミトらと同様に、彼女の戦闘手段についての事柄を。

すると、セティスは少し考え込む。


「……君も、意外に頭が良い。でも、その心配は不要」

「加工した【魔石】は、まだ——あるから」


そして考えた結果、僅かに何かをはばかりながら自身の現状を端的に伝える。

——例え、一つ二つと魔石が無くなろうと戦闘に支障は無いと言った具合に懐から掌ほどの大きさの魔石を取り出し魅せつけて。


「なるほどなのです。やっぱり、その筒から魔法を放つ戦闘スタイルなので御座いますね」


そんなセティスの言い分に、どうやら知りたかったのは彼女の戦闘方法に変更が無いか否かだったらしいデュエラは微笑む。その笑みは僅かに揺らめいた顔布の隙間から覆面越しのセティスの視界にも入って。


そうすると次は、デュエラの番であった。

「——……デュエラ、さんは?」


「ワタクシサマは土魔法を少しと、ハハサマから教わった体術を少しだけ」


セティスもまだ、デュエラが如何な方法で魔物と戦うかを知らない。これまでに垣間見せてきた高い身体能力と両手に付けられたクレアが授けたという鎧の手甲を見れば、肉弾戦で戦う事は判り切ってはいたが——、意図していなかった急造の戦時同盟としての連携をはかる意味合いが互いに大きかったのだろう。


「じゃあ、私が少し離れて援護する。崖にへばりついた魔物はお願い」

 「了解なのです。でもその前に——」


そうして、互いの戦略を簡素に話し合った末、彼女らは互いにほぼ同時に同じ目的地を見据える。



「——崖の下の掃除、ね」


最初に動いたのは、セティス。覆面の魔女は凄まじい速度で空を水平に飛行していた箒の柄の先を空に向け、思いっきりブレーキを掛けるが如く動かして、空中に居ながらに器用な体捌たいさばきで箒にまたがっていた姿勢から箒のに佇む姿勢に移り変わったのだ。


「【魔弾装填エルエナ・ブリュッセ魔我土亀エルッゼ・トーン】」


そして身に着けていた腕輪から光をあふれさせ、デュエラに魅せた先ほどの魔石を腕輪の光の中に押し込んで武器を完成させる。一方、繊細な動きを細い体で魅せつけたセティスとは違い、デュエラの行動は——まさに豪快そのものであった。


「【大龍紋グラデュメッジ下剋上ハローアロウ——】」


空歩、デュエラ曰くの龍歩で最後に踏み出した後、地面に降り立った彼女は地面を足の裏で削りながら進行方向に進む勢いを抑えつつ、右手を地面すれすれに近づけて大地を抉り始める。


そこから始まったのは、二人の膨大な魔力の増長。魔法の前兆であろう。


崖の下でうごめいていた魔物たちも、ようやく彼女らの存在に気付き各々に雄叫おたけびを上げてた。


だが——、

「「【災害顕現ギュラビデュース‼】」」


デュエラは抉った地面から、まるで巨大な雪だるまを転がすように岩石を放り、

セティスは肩に担いだ大筒から激しい閃光を放つ。


——爆発。


まずデュエラのころがした岩石は進行方向に向かいながら地面の土や岩を更に巻き込み巨大化していき、先陣を切っていた魔物の群れをき潰し、そこにセティスの放った光の塊のような弾丸が同じように魔物を轢き潰しながら衝突。


そこからセティスの弾丸はデュエラの岩石と相殺、破裂し、烈火を纏いながら衝撃波と共に小粒とは言えぬ小粒となったデュエラの魔法が四方に爆散、生き残った魔物の群れをあっという間に蹂躙じゅうりんしたのである。


「「……」」

それは——まさに阿鼻叫喚の絵面。魔法を打ち込んだ当の本人たちすらも意図しない威力と凄惨な結末に少し呆けてしまう。



だが——、

「お揃いの魔法名で御座いますですね‼」

「ん。最後の決めゼリフ被り」


それも刹那の事、最初の一仕事を終えた二人は安堵の息を吐いて我に返り、互いを仲間として頼もしく思う信頼を勝ち得たようである。


その頃——その光景を遠目に眺めていたイミト達はといえば、


「デュエラがやるのは分かっておったが、セティスも中々であるな」

 「——セティスが使ってんの、完全にバズーカ砲なんだが」


「そんな事を我に言われても知らんわ。デュエラの事も評価してやらぬか」

「いや、完全にバズーカ砲なんだが‼」


「我は貴様のそのノリが好かん‼ 散れい‼」

「バルス‼」


予想以上の二人の戦果に驚き、何処か肩透かしを食らった様子で茶番を重ねていた。


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