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稲妻の如く、そして——。2/5

——。


そして次の場面の始まりも、冒頭と同様に——


「——はぁ……はぁ……」


息を切らしたセティスから始まって。地下水道に開いた穴の最下層、そこから伸びる大きな横穴は暗く延々と闇が続いているようである。その闇が続く横穴から流れ込む空気を吸い、息を整えるセティス。


傍らに持っているガスマスクを握り締めつつ肩に担ぐ狙撃銃、頭上の穴から響いてくる雷鳴が激しい戦いを物語ものがたたびに、心がいている様子で彼女の持つそれらの道具を握る力が強まっていくのだ。



——そんな緊迫する状況の中で、闇に続く横穴の奧から小石を蹴る足音が一つ。



「よう。随分ずいぶんと無理したみたいだな、セティス」


「……イミト。遅い」



遅れてきた男は、決して騎士や英雄などとは申せない気の抜けた歩みで、黒い槍を担ぎながら悪童あくどうごときニヤケ面を披露する。


「そう言うなって、アイツが早すぎるだけだろ。俺は、ゆっくり楽しむタイプなんでな」


三白眼で息を吐き、嫌気が差したように不満を垂れたセティスに対し、悪戯いたずらな笑いをククと漏らし、彼は雷鳴のとどろく頭上の穴に視線を送りつつ座り込む彼女の前に平然とかがみ込んで。


「何の話してるか分からないけど、アレの話なら気持ち悪いとは言っとく」


そんな男を見つめてり固まった緊張を解くセティス。まぶたを閉じて吐いた息は完全に整い、もはや信頼に満ちた安堵の息でもあるようであった。


——イミト・デュラニウス。今回の襲撃を阻止するべく暗躍した首謀者しゅぼうしゃにして、城塞都市ミュールズに渦巻うずまいた陰謀を看破した張本人。



満を持して暗躍を終えて地下の戦場へと到達した男は、ここまで命懸けで戦っていた仲間の怪我の具合に視線を動かす。


「怪我は——……脇腹に一発か。油断したな」


 「わざと喰らった。少しかすっただけだし、平気」


すると彼女は、彼に心配を掛けまいと脇腹の傷を手で隠し、いつもと変わらぬ無表情をくゆらせる。けれど服ににじむ血や《《無理な力の使い方》》をしていたのだろう疲労感は隠せず、イミトは何かを考えた顔色で。



偏食悪食へんしょくあくじきかよ……で、どうする。これから」


それでも彼女の強がりをおもんばかってか、或いは何か隠す為か、再び雷鳴を轟かせる頭上に視線を移し、肩に槍を担いだまま立ち上がって彼女に遠回しの現状を尋ねた。



「……どうするって?」


 「んー。出来れば、お前には城に戻ってアルバランの連中の呪いをく手伝いをしてもらいたいんだが、意地でも師匠のかたきを取りたいってなら協力するし」


そして頭を掻き、質問の意味を訊いたセティスに、イミトはバツが悪そうな顔で言葉をにごす。


「ぶっちゃけ、()()()が無い訳じゃないけど、俺一人じゃアイツを倒す算段が付いて無いんだよな。最初から時間を稼いでツアレストの援護えんごを待つか、セティスに頑張ってもらおうって思ってたからな」


「……本当に、期待を外してくる。自分の思惑おもわく通りには進めるくせに、他人の期待通りにいかない人。ふふ」


そんな格好つけたがりの格好の悪さ、自身がしでかした悪戯いたずらの責任の取り方がわかからずになやあいらしさにセティスは母の如く微笑んで。そして彼女はイミトの言葉が意図いとする所を探り当て、ふぅと息を吐いた。



「——アディ・クライドは、アーティー・ブランドを倒せると思う?」


 「……無理だな。逃げ道が多すぎる」


次に向けるは気分を切り替えた真剣な面差し。頭上で鳴り響く続ける雷鳴のいさかいの最中さなか、セティスが彼にそうたずねると、彼もまた真剣に思考し、答えを返すに至る。



「——分かった。今回はゆずる、王子の呪いをいて和平調印に参加させれば良いんだよね」


「一人で戻れるか? ちょっと()()()には、まだ俺も用があるんだ」


その答えを受け、諦め混じりに瞼を閉じて、一息を入れるセティス。そんな彼女には目を向けず、頭上から聞こえている音に耳を澄ましている気配をにじませるイミト。



「……大丈夫。あと少しなら頑張れるから、色々と任せて」


やがてセティスは狙撃銃をつえ代わりに立ち上がり、服に付いた土やほこりを払う仕草。


「——頼む。それじゃ、さっさとスライム倒してくるから先に行ってベッドで休んでろ」


「うん。服は着たまま、寝とくから」


こうして、それぞれの新たな目的地を見定め、移動用の空跳ぶほうきを出すセティスと横穴からい出る為の足掛かりの凹凸おうとつを足で探し始めるイミト。



「はっ、そいつは良いな。脱がしてる間にビンタでもされそうだ」


もはや振り返らずに冗談めいて交わす会話に不穏は無く、明確な信頼関係があるようにも見えて、セティスはちゅうに浮かび始めたほうきまたがった。


「——……手には塩でもっとけば効果的?」


「お清めの塩はこれで最後だ。残りは今晩の夕食に使うから、もう無駄にすんなっての。悲鳴だけにしといてくれ。俺は()()しとくから止まらないけどな」


そして最後に尋ねてくるセティスの問いをイミトは鼻で笑い、ふところから小さな革製かわせいの小袋を取り出して背後のセティスへとほうり投げる。



「——ふふ……了解。ミュールズの城中に聞こえるように叫ぶから」


それを受け取り、最後に再び冗談めいた言葉を残してセティスは足で地面を蹴り上げてせまい横穴へと飛び立って。


「……頼んだぞ、早く逃げてくれねぇと、ベッドの中でお互いに燃え上がっちまうからよ——」


残されたイミトは、飛び立つセティスの背後に()()()()()()()()()を横目で見送りつつ、自分の役割の果たす為に雷鳴が轟く中で地面に槍を突き刺し、懐から魔石を取り出して魔力をあふれ出させるために歯で噛みしめる。


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