戯れに戯れて。2/5
「あ、カワイイ……」
とてもキューティーな黒兎のお面と表現すべきようなファンシーな絵柄。煌きを表現してような星の絵やニンジンの絵が添えられた彼自身が滲ませる悪行三昧の暗黒なイメージとは程遠いそれに、マリルティアンジュが思わず声を漏らす程である。
「イミトのは可愛すぎるのが問題。機能的な観点から考えて私のにすべき」
しかしながら彼女らは、そのイミトのデザインも気に入らない。
「わ、ワタクシサマのも角がイッパイでキチンと角を隠す機能が働いているのですよ‼ ハハサマも言っていたのです。木を隠すなら森の中だと」
己の考えた物こそ有用だと競うように、それぞれの黒い板を姫に改めて魅せるセティスとデュエラの二人。その勢いは真っ黒い装飾に塗れた馬車内部のソファーを少し深く沈める程の勢いで。
それでも——、
「えっと……その……カトレアが身に付ける物なら、カトレアが選ぶべきでは無いかと」
二人の圧に気圧されながら、戸惑いの姫は逃げ道を探すように両手を小さく掲げて事の優劣を付ける事を忌避し、責任逃れの弁明を、目を逸らしながら述べるに至る。
けれど或いは——ここで姫は選ぶべきだったのかもしれない。
「なれば貴様が考えよ、カトレアの角を隠す仮面を貴様が作ればカトレアも文句を言うまい」
「——え?」
事の成り行きを見守っていたクレアが、予想外の提案を馬車内部にもたらすその前に、姫は選ぶべきだったのだ。面倒な諍いを避けた結果——より大きな責任を負う事になるその前に。
「まぁそれが一番早い方法か。あの隠れ里から三日、そろそろ城塞都市に着くんだろうし」
しかし後悔は先に立たず、イミトの首を斜めに降ろす気怠そうな頷きが時を遡って戻る事も無い。馬車の小窓から見つめた景色は先ほどから変わらぬような森の中ではあったけれど、確かに時は進み、確実に目的地へと迫っている。
「でも、その前に嘆きの峡谷。誰にも見つからずに城塞都市に向かうなら、そのルートは必ず通る事になる」
故に彼女らも話を進めた。とても自然に、話題を変えて。
「魔物が沢山なのですよね、ワタクシサマ頑張って皆様ガタをお守りするのですよ」
「この世界の悲劇名所めぐりには慣れたもんだ。首の無いデュラハンの馬車で砦とか街とか平和に通れる訳もないからな」
「ここまで来れば強行突破で良かろうが。姫を乗せておるとバレなければ良いと我は言ったぞ」
いつの間にかと、カトレアの仮面の事などすっかりと思考から消え失せ、ここまでの旅路における思い出話。
「グルムンドの壁の時は、通常ルートで行きたいって言ってたのにな、姫様とカトレアさんは」
「……無用な争いは出来るだけ避けて頂きたく。それに勝手ながら、もう時間も少ないので」
呆れた様子で現状との対比を語り馬車内のソファーに背中を託したイミトに続いて、マリルティアンジュも気分を切り替えて真剣みのある面持ちへと表情を変えた。




