004
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車窓の外を、乳白色の薄明るい空と色とりどりの雑多な街並みが過ぎ去っていく。
二十両以上連結した、箒星のように煌く都市内魔導列車。数々の街を最大効率で結ぶ為、計算し尽くされた曲線を滑るように静かに進んでいく。
「中途半端な時間になっちゃったね。生活リズムが崩れて困るなあ。」
「追跡者の宿命だ。ギードの大捕り物で日暮れから夜明けまで街中を走らされたからな…。」
日中の仮眠の後、主従の二人は身支度を整えて街へ繰り出していた。
「昼夜が逆転して、ご主人様の健康管理が難しくなるから大変。」
「勝手に大変がらなくても、自分の健康くらい自分で管理するぞ。」
「本当に自分でできる?」
「…できないことはない。」
魔導列車は文字通り魔法の力を元に運行する交通機関であり、第二外環の全ての街を繋ぎ、街中の魔導バスと共に数多の市民の生活を支えている。
追跡者としての二人は常日頃から列車とバスを利用して楽園の四方に繰り出し、まるで放浪するように逃亡者たちを追い求めていた。
「ご主人様の健康管理は、私のしゅ…、仕事だから。それに私の方がずっと向いてるし。私だったら、自信を持って完璧に管理できるって言えるよ。」
「趣味って言いかけたか?」
「あ、ほらほら、壁にお日様が反射してて綺麗だよ、ご主人様。」
「露骨に話題を逸らすな。…眩しすぎるな。」
この日も、まるで世の常のようにデイルの方からファットに寄り添い、列車の揺れと流れる景色を二人で共有していた。
流れる風景の隙間から覗く空の果てを、中天まで高く閉ざしている巨大な壁面。
内苑と第一外環、第一外環と第二外環、そして第二外環と第三外環を隔てるそれは、楽園の民からは単に障壁と呼ばれている。
こちら側の車窓から見えるのは第二障壁。善と悪が拮抗する向こう側の煉獄と、悪が勝るこちら側の辺獄を隔てる長大な境界だった。
障壁は太陽の黄金の光を反射し、複雑に捻じれる街並みを無闇に輝かせている。
「うん…。目が灼けるくらいに眩しいね。」
「まるで、全てを拒絶する壁だ。」
「思弁と享楽に耽ることのできる向こう側の世界が、文字通り、やっと煉獄と呼べる場所なんだろう。ここは地獄の辺だ。いつでも切り捨てられる程度に放置されているに過ぎない。」
「またそういうこと言って。悲観的なんだから。」
「ここじゃあ、悲観的なのが丁度いい。」
ファットは目を薄めながらも遠景の光の壁を眺め続け、デイルはそんな主人を見て微笑み、大きな手を握って更に身を寄せる。
「ふふっ、気障なご主人様。酔っちゃった?」
「そういうふうに言えるところが、本当にお前らしい。…多少は酔っていないと、やっていけない。
俺は、酔わずにこの世界を彷徨えるほど強い人間じゃない。」
「知ってる。」
そして静かに目を閉じた。