016
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「昨日ぶりだな。友人。どうした、しけたツラをして。」
無色透明な強化プラスチック板を隔て、ギードが軽口を叩いて笑った。
この小さな面会室は何もかもが白い。容疑者を覆い尽くす、白い壁面と白い支給服。きっと、留置場全体が白いのだろう。清潔と無謬の隠喩だろうか。
ギードはさぞ居心地が悪いだろう。
「随分居心地が悪そうだな。くくっ。」
「お前が言うな。ギード。」
「それで? わざわざ御足労頂いて? 帝国観光は楽しめたか? 帝王塔は見たか?」
「残念ながら、上からここまで車で直行してきたからそんな時間はなかった。地下道の壁ばかりだ。」
「そいつぁ残念。また機会があるさ。なんなら、俺が案内してやってもいいぜ。ははっ!」
「ギードは、随分とご機嫌だね。」
「よう、デイル嬢ちゃん。今日も相変わらず綺麗だな。陰気なご主人様によくしてもらってるか?」
「うん。とっても。」
「そいつぁ重畳。おっと、それ以上無駄口を叩くなって顔だな、旦那。後ろの貴族様も。怖え怖え。」
絶対的な透明の境界を隔て、こちら側には俺とデイル、アテター・ラエルの三人。向こう側には白い服を着せられた痩身のギードと存在感を消した機脳族の警察官。公務者の二人は舞台装置に徹するかの如くそれぞれの監視対象の背後の壁際に控えている。
「俺がここに来た理由は分かっているな。」
ギードは俺の正面に座っている。黒く沈みながらも虹彩の輝きを秘めた双眸と目が合う。
「まず、ナウン・テスは無事だ。帝国の専門病院の集中治療室で、昏睡状態のまま生命活動を維持されている。それは、後ろの二級公務のアテターが保証する。」
「保証します。」
「…そうか。ああ。なら、いい。手間をかけさせたな。」
「じゃあ、前置きはこのくらいにして、そろそろ始めよう。お前と俺達が関わったこの事件について、自分なりの推測を並べていく。その後に、俺がお前に質問をする。いいな。」
「おう、勝手にしろ。今の俺に拒否権なんてねえよ。聞きたいことがあるんなら、しょっぱなでしてくれてもいいんだぜ?」
「お前から正しい答えを引き出すために必要な手順だと思っている。俺が真相に迫らない限り、お前はきっとしらばっくれるだろう。」
「そうかい。」
頬杖をついて斜に構えたギードの視線を受け止める。一度、横のデイルに視線を向ける。澄んだ碧眼。それから、もう一度ギードを見る。澄んだ黒い瞳。
これは戦いだ。対峙する者を飲み込もうとするような、異質な存在感。相手に不足はない。
「まず、最初の事件だ。
――六月五十日十八時過ぎ。場所はバーデイ段街の路地裏。テイデル・タジューという五級製造者がバラバラに切断されて殺害される事件が発生。目撃者は五級製造者のナウン・テス。彼女の証言により、三級狩猟者及び五級追跡者のシージード・ギードが容疑者として指名手配された。
ここまではいいな?」
「ああ。極めて客観的で端的な要約だ。誉めてやろう。」
「一言多い。その十日後、つまり昨日の七月二日――」
――七月二日早朝。四級追跡者及び三級狩猟者のサイトウ・ファットとサイトウ・デイルが逃亡中のギードを発見し、捕縛。警察局に引き渡す「ふっ、俺を捕まえられるとしたらお前たちしかいないと思ってたぜ」「どうだか」。
――同日午前。ナウン・テスが二日の深夜から未明にかけて行方不明となっていることが発覚。家族からの捜索願と同時に、警察から職務放棄による罪で逃亡者として指名手配される「クソだよなー。行方不明者を民間が追跡できる方便にもなってるってのは分かってるが」。
――同日午後。別件の、大量誘拐殺人事件の容疑者である五級製造者フェンブレン・ダヤタを追跡していた四級追跡者及び四級狩猟者リキッド・グイン、リアカネ・シャネリカがファットとデイルと合流「あのいい子ちゃんたちか。喰うなよ?」「死ね」。二つの事件に複数の共通点があり、関連が疑われる。
フェンブレンが潜伏していたと思われるバーデイ段街病院廃墟の捜索「その場所はどうやって突き止めた?」「バーデイ段街に潜伏中というのは警察から、廃墟が怪しいという情報は二級科学者で情報屋のタトタットからだ」「ああ、風聞蒐集家のあいつか。お前の冒険譚をえらく聞きたがってるんだってな」。
一人一人が二十回以上切断され、殺害された遺体を四人分発見する「うげ」。その時点で死後半日以上を経過と推定。隣室で、回収品と書かれた木箱を発見。箱の中には血と毛髪。そして、現場から被害者たちの四つの心臓が紛失していることが判明する「よく気付いたな。ああ、嬢ちゃんか」。
――本日、七月三日、正午。上述の追跡者四名が連名でナウン・テスの追跡依頼を受け、バーデイ段街の自宅へ向かう「ん? 午前中は何やってた?」。父親から、ナウンの交際相手の四級経営者カンクナット・ライが所有する秘密工場の情報を聞く。
――同日午後二時過ぎ。バーデイ段街下層に隠された秘密工場の捜索。入口に精緻な心臓のシンボルを確認。詰所にてカンクナットの死体を発見。右腕が切断されており、死因は失血死と推定。死亡推定時刻は、その時点の四十時間前から二十時間前。また、カンクナットにも心臓がなく、代わりに疑似心臓の魔導器が移植されていることが判明する「何か言うことは?」「特に何も。やっとくたばりやがったっていう並みの感想だけだ」。
カンクナットの血痕を追跡し、密造酒を製造していた工場と倉庫を捜索。倉庫内で身元不明の男と遭遇。男は恐慌状態に陥っており、手首に残されていた円型の傷痕から未知の魔法現象が発生。血液が体外に流出し鋭利な刃に変化するいう極めて攻撃性が高いものであり、最終的には両手と頭部にまで影響が及び、暴走状態になる。三級敵性体に相当すると判断し、やむなく交戦、殺害する「ま、しゃーない。気にするな」。男の体内にも疑似心臓の魔導器を発見した。
その後、倉庫内の木箱の中に意識不明の状態で詰められていた八名の人間を発見。木箱の規格と回収品という記載が病院廃墟に放置されていたものと一致。また、床に落ちていたギードとテスの毛髪を発見「そういう重箱の隅をほじくるような確認作業は好きだよな、お前。まさに今もそうだ」「黙っていろ」。そして倉庫の壁に、ナウン・テスの姉夫婦が暮らしているイルンカ底街の住所が書き残されていた。
秘密工場からの帰路、詰所内でカンクナットの死体から魔物化したと思われる巨大な心臓と遭遇「はあっ?」。攻撃され、交戦に入る。二級敵性体に相当し、自爆機能もあったため、ファットが十乖位の火球魔法で撃破「はー、あの糞野郎がねえ。ざまあだな。よくやったファット。ファックしていいぞ」「一々合いの手がうるさい。説明が終わるまで黙ってろ」「あーあ、観戦したかった」「……」「ご主人様。リラックスリラックス。ギードに怒るのは時間とエネルギーの無駄だよ」。…ファットとデイルはそのまま底街底部に落下。ここから、グイン、シャネとは別行動。
――そして午後六時。イルンカ底街で警察本部の二級公務者アテター・ラエルと合流した後、ツシイン夫妻の住宅で昏睡状態のナウン・テスを発見。夫人によると、ギードに頼まれて一時的に保護していたとのこと「ねーさんには悪いことしたわ。後で土下座しねえと」。テスの胸に疑似心臓の魔導器が埋め込まれていることを確認する。また手首には、倉庫で遭遇した男と同様の円型の傷痕が残されていた。
「――その後、ナウン・テスは地下帝国の医療機関へ緊急搬送された。俺達も一緒に帝国領内に入り、お前が収容されているこの留置場に向かった。そして、現在に至る。今は、七月三日、午後九時過ぎだ。」
「…あー、何というか。濃密な二日間だったみたいだな。心労、察するに余りあるぜ。ご苦労さん。」
「あまり驚いていないな。まるで、カンクナットが死んだことを含め、おおよその事を知っていたか、予想していたように見える。」
「そんな訳があるか。あの野郎が死んで化物になったって話はめっちゃびびったつーの。…で? それで話は終わりか?」
「いいや、全く。これは客観的な経緯を並べただけだ。これからが本番。事件についての推測だ。」
「そういえばそうだったな。いいぜ。拝聴してやる。」
「ここまで手掛かりを並べたら、もう一目瞭然だ。胸の魔導心臓と、手首の傷痕。テイデル・タジューを殺したのは、ナウン・テスだ。」
「ふん…。証拠うんぬんはいい。なんでそう思う。」
「テスが恐慌状態に陥り、血の刃の魔導が発動してしまったからだ。街中の路上でなぜ恐慌状態に陥ったのかといえば、突然何かに襲われたからと考えるのが自然だ。狂犬か、暴走したバスか、あるいは暴漢者か、…誘拐犯に。」
「誘拐犯ね。被害者がそうだったと?」
「そうだ。フェンブレンの事件を合わせて考えると、テイデル・タジューとカンクナット・ライ、フェンブレンの三人は共犯者だ。
…アテター特務捜査官。テイデル・タジューは、どのくらいバラバラにされていた?」
「遺体は、三十六個の断片に綺麗に切断されていました。短時間でそのような殺害を行うには、高度な魔法現象でなければ不可能です。」
「肉体の部位はすべて揃っていたか?」
「いいえ。被害者の心臓のみ現場から見つからず、現在も行方が分かっていません。」
「ということだ。つまり、お前は彼女を庇い、自ら罪を被った。事件の真相が簡単には明るみに出ないよう、テイデルの魔導心臓を持ち去ってな。」
「ははっ、たったこれだけの手がかりだけで、偉く想像力が逞しいことだな。」
「もちろん、これはもっともらしい推論に過ぎない。共犯者たちの裏も物的証拠も、これからの捜査で揃えていけばいい。間違っていたら、もう一度考える。秘密工場は瓦礫の下に埋まったが、掘り返せば色々な証拠が出てくるだろう。テイデルの殺害現場を精査すれば、魔法の時空痕が検出されないということが証拠の一つになるだろう。知っての通り、魔導器の時空痕は製造時にのみ発生するからな。」
「…ふん。御大層な推理を続けてくれ。」
「ナウン・テスの手首の、細かな傷痕も確認した。普段から不安定な精神状態だったため、魔導器が暴走しやすい傾向にあったのかもしれない。それでも、彼女は正気を取り戻すことができた。俺達の場合は無理だったが、一度暴走した状態を抑え込むことも可能なのだろう。そしてそれは、きっとお前がいたからだろうな。」
「……。」
「デート中だったのか、偶然その場に居合わせたのか、ともかくナウン・テスに正気を取り戻させた後、お前は自分から殺人の罪を被った。彼女にもそう証言するよう説得し、その場を逃走した。
資料にあった、遍話機で通報したというのも不自然だ。五級製造者の市民は、普通そんな高価なものを買う余裕はないんだ。この事件より前にカンクナットが買い与えていたという証拠もどこにもない。お前の遍話機で通報させた後、非常時の連絡用として隠し持っておくように言い含めたんじゃないのか。」
「想像は、自由だ。」
「なぜ、テイデルはナウン・テスを誘拐しようとしたか。回収品の対象だったからだ。もし彼女が抵抗しなければ、今頃は他の被害者同様に木箱に入れられていたか、バラバラに刻まれていただろう。」
「……。」
口数は少なくなっているが、ギードの目は欠片も意志の光を失っていない。真っ白な部屋の中心で、漆黒の瞳が白い蛍光を反射している。
「ではなぜ、回収品の対象者を誘拐しなければならなかったのか。そもそも、回収品とは何のことか。それは無論、魔導心臓のことだろう。その製造者が欠陥を認め、回収を決定したのだろう。元々、血液の刃という攻撃的な機能は搭載されていなかったか、搭載されていたとしても厳重なロックがかかっていたはずだ。白昼堂々、多少感情的になっただけで目の前の人間を惨殺してしまうような暴力装置は、欠陥品もいい所だ。そんな事件が起きればすぐに警察の手が入り、悪事が明るみに出る。
事実、その一歩手前だった。お前がナウン・テスを庇わず、魔導器を持ち出さなければ、警察の手で信じられないような犯罪行為が明らかになっていたはずだ。
お前は、事件の解明よりも、ナウン・テスの身の安全を優先した。
では、なぜお前はそうしたのか。」
ギードが真っ向から睨んでくる。強い輝きを受け止める。
「俺はこう見えて、想像力が豊かだからな。楽観的になれずに、最悪の事態を想定してしまう。カンクナットの魔物――疑似心臓体と戦っている時も嫌な想像をしてしまった。
心臓の代わりに胸に埋め込まれた魔導器が、遠隔操作によって意図的に停止させられたら、と。この事件の黒幕は天才で、狂っている。そこまでやってもおかしくはないと。遍話機という、遠隔通話も文章の送受信もできる高性能の魔導器が出回っている世の中だ。遠隔送信による機能停止くらい、やろうと思えばできるだろう。」
俺は真っ向からギードを見返す。
「事件が明るみになれば、魔導心臓について証言しようとするナウン・テスが殺される恐れがあった。いや、逮捕された段階で、それを知った黒幕に無理矢理沈黙させられるかもしれなかった。お前はそう考えたのではないか、そう危惧するだけの根拠を持っているのではないか、と俺は考えた。
相手が手段を選ばない犯罪者なら、口封じをする方法はいくらでもあるだろう。そしてもし、心臓という血液のポンプを止めて即死させる手段があるのなら、それが一番確実だ。それは最も強い脅迫になるだろう。
お前は、ナウン・テスの胸に魔導心臓が埋め込まれていることを知っていた。」
ギードは沈黙している。何も言い返してこない。
「では、質問だ。」
この質問が事件の核心になる。決定的すぎて、これさえ正解なら、他の推理が間違っていてもいいくらいに。
「お前の体内にも魔導心臓が埋め込まれている。そうだな?」
「なぜ、そう思う。」
長い沈黙の後、ギードは質問に質問を返してきた。
「大きな根拠は二つ。
一つは、お前を捕まえた時のことだ。俺が放った火球が直撃したにも関わらず、お前は火傷を負っていなかった。あの時は、単に魔法の手管で上手く防がれただけだと思っていた。
しかし単純に、魔導器によって循環する血液を通して、魔法的に全身が強化されていたというのが事実だ。血が暴走した男や、カンクナットの心臓の魔物に並の魔法が効かなかった時の感触とそっくりだった。それに、再生も働いていたんじゃないのか?」
「ふん、だとしたら、破格過ぎる性能だな。誰もが使えるような肉体強化の魔導器は未だに開発されていない。強化は魔法の基礎だが、その魔導器は究極の到達点の一つだ。生身の心臓を失うとしても、魔導器を移植してほしいという希望者が続出してもおかしくないな。」
「ああ。特に、将来に絶望した最下級の労働者ならなおさらそうかもしれない。そういうふうに騙されて…。
…話を戻そう。もう一つの根拠は、そもそも事件が起きてから昨日までの十日間、ナウン・テスが無事に生活できていたからだ。」
「…それがどうした。」
「よく考えたらおかしいだろう?
お前に魔導心臓がないのなら、報道で事件を知った黒幕からしてみれば、テイデルをバラバラにしたのはお前ではなくナウン・テスでしかありえない。そしてすぐに再度誘拐を試みるか殺したはずだ。警察の目があって直ちには無理だったとしても、悠長に十日も放置する理由は見当たらない。
しかし実際はそうではなく、お前がテイデルを殺したと知っても、黒幕はそれを疑わなかった。つまりそれは、お前の胸に魔導器が存在していて、暴走したのはお前だと判断されたということだ。」
「…だが、結局、テスは誘拐された。」
「ああ。回収対象には変わりないから、日が経って結局は誘拐されてしまった。他ならない、雇用者であり恋人であるカンクナットの手によって。彼女にとって、その魔の手から逃れることは不可能だった。だから、逃亡中だったお前が助け出した。あの倉庫でどんな混乱と恐慌が発生したのか…、結果としてカンクナットは致命傷を負い、お前はナウン・テスを救出し、残されたフェンブレンがそれを察知して病院廃墟に回収品として運ばれていた被害者達を急いで殺して逃げおおせた。
お前は、ナウン・テスを昏睡状態に陥らせたまま、彼女の姉に託すことを選択した。そして仕上げに、わざと俺たちの目の前に姿を現して、適当に逃げる振りをして捕まったという訳だ。俺をこの事件に関わらせるために。
どうだ?
大筋としては、こんなところだろう。」
「少ない手掛かりでよくもそこまで空想したもんだ。大した妄想だ。しかも自意識過剰でおかしいったらねえな。」
渇いた拍手を三度響かせ、ギードは鼻で笑う。大した奴だ。
「容疑者どころか、俺も被害者の一人ってわけだ。確かに俺にもその魔導器が埋め込まれているなら、移植手術がされた場所と執刀医を知っているだろうな。元凶の黒幕についても何か知っているかもしれない。
で、お前の根拠の弱い推理をどうやって答え合わせする?
俺を捕まえた街角で、俺が魔法を使っていなかったか、時空痕を精査するか?
それとも俺の体を切り開いて直接確かめるか?
これは俺の勘なんだが、エックス線撮影じゃあ医者には本物の心臓と見分けがつかないだろうよ。
まあどっちにせよ、話の続きは明日だな。おやすみ、ご苦労さん。」
「そうだな。だが。」
「私が触って確かめるわ。それが一番確実で、時間を節約できるもの。」
俺が否定し、デイルが後を続けた。
「おいおい、嬢ちゃんに俺を触らせて確かめるだって? 人の心が分かってねえなあ、このデカブツのご主人様はよう。俺なんかに触ったら嬢ちゃんが汚れるぜぇ?」
「違うわ。ご主人様に触れさせられるんじゃなくて、私が、あなたに触れるの。ギード。それに、そのくらいじゃご主人様は嫉妬なんかしないわ。分かっているでしょう?」
「…ふん。以心伝心、相思相愛ってか。あやかりたいもんだぜ。ったく。」
ギードは吐き捨てる。
汚い男言葉を使って、男のように。
漆黒の瞳で、透明な境界を隔て、黒く艶やかな長髪を背中に流し、強い意志を放出して対峙している。
デイルと同じ、希少な麗人族の少女。
彼女の実年齢は意味をなさないだろう。どれほど口が悪くとも。目の前にいるのは、麗しくも鮮烈な一人の少女だった。
「ギード。折角この世界で出会えた、数少ない同胞なんだから、私があなたを悪く思う訳がないでしょう。ご主人様も同じよ。」
デイルが細く白い指をギードに向かって伸ばす。その指先は強化プラスチック板に阻まれて止まってしまう。
それを見て、仕方なさそうに向こう側から伸ばされる、細く白い指。しかしそれも強化プラスチック版に阻まれて止まってしまった。
けれど俺から見ると、二つの指はちゃんと重なり合っているように見えていた。