天国での貴公子
94年5月1日、舞台はイモラ。アイルトン・セナは、後ろからシューマッハの追撃を受けていた。そして7週目、セナのマシンはステアリングにトラブルが発生。異常発生から1.8秒後・・・壁にぶつかった。 しばらくして、セナは目覚めた。そして目に飛び込んできたのは、真っ白な世界と一台のマシン。 赤と白に彩られたそのマシンは、紛れも無く彼が初めて王座を勝ち取ったときの、マクラーレン・ホンダ、MP4/4であった。 程なくセナは、妙な感覚に囚われ始めていた。「ここは果たして何処なんだ?しかも何でこんなところにマクラーレンがあるんだ?」 セナはしばらくマシンを見ていたが、やがてサイドポンツーンのあたりに1枚の紙が置いてあった。その紙には、こう書かれていた。 その車に乗れば、すべてが分かります。 まずは、乗ってみてください。 G・Vより セナは疑心暗鬼になりながらも、とりあえず車に乗ってみることにした。すると、奇妙なことが起こり始めた。マシンの色がだんだんかわっていくのだ。マシンの色が黒色になった所で、雨が降り始めた。かなり強い。そしてコースを走っているうちに、今走っている場所がポルトガルのエストリル・サーキットであることに気づいた。そして、チェッカーが振られた。セナが混乱しているうちに、次の変化が起こり始めた。マシンの色は黒から黄色に、そしてコースはガードレールに囲まれていた。モナコ・モンテカルロである・・セナは気づき始めた。これは自分のF1レースを「プレイバック」しているのだと・・・。 そして、セナはそれよりずっと「変で」、「ありえない」ものを目撃することになる。 彼はバックマーカーに行き当たった。しかし、そのマシンを抜き去った時、セナは目を疑った。 シムテック・フォード、S941。間違いなくこの舞台にはいないはずのマシンだ。そして、そのマシンを駆るドライバーは・・・ 「ラッツェン!ラッツェンバーガーじゃないか!」 ローランド・ラッツェンバーガー。94年シムテックに乗っていたこのオーストリア人は、 あのサンマリノgpの予選で命を落としていたのだ・・・ そしてセナは悟った。自分は既にこの世を去っていたことを。 おそらく彼もこの事態を知らないに違いない。 そこでセナは、彼にブレーキテストを仕掛け、マシンを止まらせることにした。 案の定、車の主は凄い勢いですっとんで来た。 「危ないな!何するんだ!」 セナは怒っている彼を諭すように、言った。 「いいか、僕も悪いことをしたと思ってる。だが、少し落ち着いて聞いてくれ。君は・・・もう死んでるんだ」 ラッツェンバーガーは呆気にとられた様子で、 「え?」と聞き返した。 セナは続ける。「嘘じゃない。というか、俺も死んでるんだ。さっき君を見たときに、気づいた。」 「えっ、そうなんですか?道理でおかしいことだらけだと思った。何でもうモナコなんだろうとか、ちょっと古い車が多いなあとは」 「テレビをつけてみろ、きっと追悼番組がやってると思う。」セナはひとまずホテルに彼を案内した。 「すいません、少しテレビを貸してくれますか?」カウンターの人は少しビックリしながらも、テレビを見せた。やはりそこでは、 「アイルトン・セナ、ならびにローランド・ラッツェンバーガー選手追悼番組」が放送されていた。 「てことは、本当に僕たち、死んでるんですね?」ラッツェンバーガーが訊ねた。 「そうだ。」セナが返答した。 「ところで、天国はどちらですか?」どうせ答えてくれないだろうと思っていたが、カウンターは丁寧に、 「ここから、10キロのところにあります」と道案内をしてくれた。 セナはしばし考えたが、結局行くことにした。とりあえず、行かねば始まらない。 セナとラッツェンバーガーはひとまず、10キロ先を目指すことにした。 モンテカルロを出て、10キロ直進。そこには「天国の入り口」と書かれた門があった。 かくして、天才アイルトン・セナの、文字通り「第二の人生」が始まったのである。 つづく
初めての小説投稿です。「もしも天国にもF1があったなら・・・」という空想で書き上げたものです。まだまだだとは思いますが、評価をお願い致します。