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この声が届いたなら  作者: 北条 夏
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第四話 変わった友人?

  《 水の月 五日 》

 

 

 魔獣同士の闘い、あの恐ろしい体験をし、子魔獣を安全そうな所に置いてから約三ヶ月が経とうとしていた。


 イラークは変わらずサバイバル真っ只中である。


 「はぁ……雨…雨…雨!雨!」

 

 ここ最近ずぅっと雨。


お陰で狩りに行ったり、やれることも少ないし。


 それに森とはいえ地面の水捌けが良すぎないか?いや、良いことだけどさ。

 

 外は激しい雨がふっている。


 ここ四日は同じ雨量で降り続けているのではないだろうか。

 

 

 

 イラークは、あれから更に上達した魔法を駆使して、洞窟の入り口全体を塞ぐように厚みのある木を嵌め、その一部にイラークが入るには大きいドア、小窓を作り、その小窓から外を覗きながら憂鬱な雨にため息を付いていた。


 雨にうんざりしながら、何を考えるわけでもなく、とりあえずお手製ベッドに横になる。

 

 中は昔より快適になっていた。入り口を塞いだ事で風が入ってこなく、砂ぼこりも入ってこない。

 

 ピョンダーの毛を使った枕や布団は気持ちいい。


魔法が上達した事により家具なども綺麗に作り直されている。

 

しっかりと家だ。


 「…とりあえず飯だな」

 

 むくりと起き木箱の中に入っている食材の中から、ピョンダーの燻製肉、野草、木の実、キノコを取り出しテーブルの中心に鍋の周りに食材を置いた。

 

 新しく作ったこのテーブルは長方形で中心を切り抜き、切り抜いたフレームに石を嵌め強化し、火を焚ける構造になっている。

 

 洞窟の入口付近に置いてある石で作った特製貯水槽から水をすくい鍋に入れ、魔法でテーブル中心の窪みに火を点け沸騰した所で食材を一気に入れる。

 

 暫くして前回大活躍だった謎の黒い液体、あらかじめピョンダーの骨を煮込んで作ったダシを入れ煮たたせる。

 

 具沢山で高カロリーなのでこのピョンダースープのみで1食になる。

 

 今日はこの雨でどうしようか考えながらスープを食べ終え、大分残ったスープは蓋をしてそのままにし、武装して外へと出た。



 この雨の中外へ出た理由。


それは、何日も続く雨で痺れを切らしたのもあるが、逆に今なら水魔法の練習がしやすくなるのでは、と考えたからだ。

 

  《 ジェナスの森 沼地 》

 

 行く場所は沼地から少し東に向かった所、前に西で怖い目に会ったばかりだから今度は東にそんな考えだ。


そして沼地に差し掛かろうとした時。


 「ガァァ……」

 

 沼地の西側から大きな聞いた事のない声が聞こえた。


 最後の力を振り絞ったような、まるで何かの断末魔の様な声に聞こえた。


 「…!おいおい…今回は勘弁してくれよ?…」

 

 イラークはとっさに態勢を低くしていた。


しばらく様子見し、西方面へのトラウマを更に強く育てながら、そそくさと反対側の目的地東へと向かった。


 イラークは時折立ち止まり羽の付いたペンを手に紙に何かを書いている。

 

 冥闇獣と煌雷獣との遭遇から地図を書くようにしていた。

 

 母親が紙を持って来た時は用途が何も浮かばなかったが、今やっと役に立つ訳だ。

 

 地図に地形、危険な魔獣の棲息地、隠れられそうな場所、食材の採れる場所等を書き込んで、なるべくどんな状況でも対処出来るようにしている。


 そして暫くすると風景が変わり始めてきた。


 地面には常に少し水が張った状態で木々も生えている。


洞窟から南東に進んだここをマングローブと名付けた。



 「これ以上奥に行くのは危険かな」

 

 マングローブの入口付近に戻り水の張っていない地面に魔法で小さな土の穴蔵を作り、そこに食料等を入れた鞄を入れた。

 

 そのまま入り口を少し入った所で魔法の練習を始める。


 そこからはイラークの集中力の出番だ。


水の槍を作ってみたり、水の盾を自分の前に浮かせてみたり、拳大の水玉を自分の周りに沢山発生させたりと、魔法の練習を始める。

 

 こういう事をやり始めるとあっという間に時間が過ぎる。かれこれ三時間はやっただろうか。

 

 「ん?」

 

 休憩しながら練習していると足元の水の下、泥が動いた感じがした。

 

 イラークは周りを警戒しながら動きを止める。


 するとすぐに前方の水面を盛り上げながら何かがこちらに向かって来た。

 

 足場が悪く下手に動くと危ないと感じ、自分の周囲一メートルの水を弾いて留めさせた、万全とは言えないがこれで少しは動けるはずだ。

 

 向かって来ていた盛り上がった水面が静かに無くなり、直後水捌けさせた地面から棒のような物体が三つイラークに向け飛び出してきた。


 「うお!危ね!」

 

 間一髪。大きく仰け反りなんとか避けた。


 体長四十センチ、大人の腕の二周り程の太さ、小さな足が四つそいつは蛇、いやまるで足の生えた蚯蚓の様な魔獣だ。

 

 イラークはその魔獣を土蚯蚓(ミーム)と名付けた。


 土蚯蚓は全部で三匹、イラークはすでにマングローブから水の張っていない地面まで後退していた。


 「出たな?うぇ…気持ち悪…」

 

 土蚯蚓が水面から地面に這ってくる、二匹は地面に潜り、一匹は上半身を持ち上げ無数の小さな牙が生えた丸い口をグチュグチュ音と泡出しながらイラークを威嚇している。

 

 イラークは自分の回りを覆うように拳程の水玉を回転させる。


 その数発を威嚇している土蚯蚓に飛ばし当てたが土蚯蚓はびくともしない。


 「パンッ」直後背後の水玉数発が外側に弾け飛んだ。


 背後からイラークに飛びかかった別の土蚯蚓が水玉に触れたのだ。

 

 これは現在試行錯誤中の防御魔法で、水玉で自身を中心に覆うように回転させ、それに触れた敵は激しく外に弾け飛ぶ。


 衝撃でダメージ、もしくは動揺させ一度後退させる狙いがある。

 

 土蚯蚓の体長だと文字通り水玉と共に弾け飛ぶ。しかしやはり土蚯蚓には効いてない様子だ。



 後は風しかない。


 威嚇を終えイラークに向かって来ていた土蚯蚓に対し風刃を放つ、が避けられる。


 そしてまた後ろの水玉が弾けとぶ。


 振り返り直ぐに後ろの土蚯蚓に風刃、土蚯蚓は後ろに跳び避ける。

 

 二匹の土蚯蚓を交互に牽制しながら風刃を放つ、飛びかかって来たら短剣で切りつける。


 そしてまた風刃、この繰り返しをする、がやはりどちらも避けられる。

 

 土蚯蚓は見た目の割に素早く、勘も鋭く簡単に攻撃を避ける。


 その為牽制しつつも少しずつ後退しながら土蚯蚓の縄張りから離れる事にした。


 もちろん土蚯蚓に縄張りが有ればの話だが、このままではどのみち消耗戦で負けてしまうという考えからだ。


 しばらく攻防していると突然、ガクッと体が崩れるような感覚に襲われる。


 イラークはこれを前にも体験した事があった。 


 「…っ!…魔力が」

 

 魔力の使い過ぎによる精神異常だ。

 

 体は元気でも魔力を使い過ぎると、異常な倦怠感、嘔吐、痺れ等が引き起こさせれ酷いと気絶する。

 

 イラークは正しく今異常な倦怠感を感じていた。

 

 思わず片膝を地面に着く、直後イラークの胸に地面から今の今まで隠れていた一匹の土蚯蚓が、勢いよく噛みつき、ちぎろうと体を回転させる。

 

 勢いでイラークは押し倒され仰向けになる、他の二匹も、寄って来ていた。


 そして土蚯蚓が噛みついていた革鎧は丸く噛みちぎられ、イラークは自分の上に乗っている土蚯蚓を両腕で掴み離そうとするが力が入らない。


 革鎧をペッと吐き出した土蚯蚓が、ぽっかり丸く空いた革鎧の隙間に牙を剥き出しで頭を突っ込んだ。


 「うあぁぁぁぁあ!」

 

 周囲にイラークの叫び声が響きわたる。土蚯蚓はイラークの胸に噛みつきながら体を回転させようとぐりぐりと動く。


 「!ぐあぁぁあ!」

 

 土蚯蚓が動く度イラークの悲鳴が飛ぶ。

 土蚯蚓は、しかしなかなか引きちぎれないでいる。

 

 イラークは鎧と服の間に、網目の大きな網のような物を巻いていた。

 

 これは森の中に生えている大木の一つから流れていた樹液でコーティングした細いツルである。

 この樹液は乾くとかなり硬くなる性質があった。



 生きた心地のしなかった体験を経て少しでも防御を高めたいと思った結果の簡易装備だった。


 しかしその簡易装備のおかげで肉にがっしり牙は刺さっているものの、肉を食い破り、骨を砕き体内から食い破ろうとする土蚯蚓をなんとか止めていた。


 イラークは異常な体の重さ、痺れを感じながら死ぬ時はあっさりなんだな。と思っていた。

 

 魔獣と人間、お互いに殺し合い食い合っている世界だ。


もちろん魔獣は魔獣同士食い合うし、人間だって殺し合い、極々一部には食べる人間だって居るかもしれない。

 

こうやって死ぬのも当たり前の事なのかもしれない。


 魔獣からしてみたら人間を魔獣と呼んでいるかもしれない。

 

 こんな広い世界で一人死ぬのは小さな事であっさりしている。

 

 そう色んな事を考えながら段々力が入らなくなっていくのを感じていた。


 土蚯蚓が全力で噛みちぎろうと体に力を入れた瞬間、土蚯蚓は三つになり吹き飛んだ。


イラークの胸には力なく噛みついている土蚯蚓の口が、胴体と言える場所は無く口から下が無かった。


土蚯蚓は切断されていた。


 「クゥォォォオオン!」

 

 甲高い魔獣の鳴き声がすると、イラークを食い散らかしてやるとイラークを挟むように寄ってきていた他の二匹の土蚯蚓は立ち止まり辺りをキョロキョロしていた。

 

 そして二匹が気付いたのか同時に同じ方向を見る。瞬間一匹が真っ二つに、もう一匹は空中に居た。


 がっしり足に捕まれながらなすすべもなく引きちぎられた。


 「──ク―ン──―ン─クォン!」

 

 イラークは目を覚ますと目の前に見覚えのある、いや見馴れた魔獣が居た。


 「…うっ…あぁ…助けてくれたのか…ルウ」

 

 「ウォン」


 「…ありがとな」

 

 イラークは前に保護した煌雷獣の子供の頭を撫でる。

 

 

 何故あの時の煌雷獣の子供が居るのか。

 それは偶然にも保護したあの日。


 

  《 闇の月二十六日 》

 


 連れて来てしまった。


 他所様の子を、これはあれか、誘拐ってやつか?


 …なんて一人でやってても虚しいな。

 

 安全そうな場所、つまり洞窟へ置こうとしたのだが。


 洞窟に近付くとルウが泣き叫ぶので、仕方なく洞窟から差ほど離れていない所に木を切り組み立てただけの簡易的な小屋を作りそこで一緒に寝泊まりし世話をしていた。

 

 洞窟の近くということもあり魔獣からの襲撃は無かったものの、ルウの我儘に振り回されて大変だった。

 

 まずご飯。


 俺が食べてる物はまだ食べれず、何度か調達しに行ってやっとルウが食べられる果物と小動物を見つけた。


 それらを小さく切って炒めた物しか食べてくれなかった。


 きっと他にも食べられる物はあるんだろうけど、探し回ってたら俺の体力がもたない。


 だから最初の内はそれだけしか食べさせなかった。

 

 他にも、好奇心が旺盛過ぎて目を離したら直ぐ何処かに行くし、睡眠中に起こされるしで大変だった。


 そんなこんなで一ヶ月もしたらルウは飛べるようになり、体も大人の猫程度には成長していた。

 

 そしてある朝イラークが起きたらルウは居なかった。


 巣立ったのだと思い、いつも通り生活して一ヶ月がたったある日、洞窟の外で夕食を食べていたイラークの目の前に突然空から大型犬程に成長したルウが現れたのだ。

 

 その日から不思議な事に魔獣であるルウが嫌がりながらではあるが、洞窟の入り口付近まで近寄れる為、たまに遊びに来るルウと散歩や、狩り、採取等をしていた。

 

 ルウは賢く言葉を理解出来るようなので、もちろんイラーク自身の事情も話している。


 ちなみに名前はいつまでもお前とかじゃ変だからとしっかりと話して決めた。

 


 《現在》



 「()ッ……」

 

 自分の胸に噛みついたままの土蚯蚓の口を取ろうとするも力が入らない。


 「ガゥ!」

 

 イラークの横に座りまだ小さい翼を大きく広げ、短く吠えるとルウの体が薄い緑色にひかり、イラークの体が薄い青色に光った。するとイラークは自分の体が暖かくなったように感じた。


 「ガァウ」

 

 ルウが抜いてみろと言っているように鼻先でイラークの腕を押す。


 「(いつ)…」

 

 自身に噛みついている土蚯蚓の頭を取り、イラークは不思議に思っていた。


 考えているとルウがまたあの魔法?を使う、イラークの傷が無くなっていった。


 「これは…すごいな。ありがとう。とりあえず装備もボロボロだし一旦洞窟に戻ろうと思うんだけど、このまま一緒に来る?」


 上半身だけを起こしルウの頭を撫でながら聞いてみるがルウの返事は当然決まっている。

 

 「クォーン!」

 

 もちろん行く行くー!とでも言ってるように翼と頭を上げている。きっと喜んでいるのだろう。


 


 ルウの護衛もありスムーズに洞窟に着き木製のドアを開けて入る。


 実はこのドアが大きめに作られているのは、ルウがどれだけの早さでどれだけ成長するか分からないためだった。


 「ふぅ~」

 

 鎧を全部脱ぎ捨て寝巻きになりベッドに横になり何気なく立て掛けてある時計を見る。

 

 行きは時間かかったけど帰りはこのくらいの時間しかかからない、か。


 そんなことより何だか疲れた。このまま寝れそうだ。


 「グアゥガゥ」

 

 「…ん?」

 

 イラークがルウの方を向くと片翼をテーブルに向ける様に差し、なんか良い匂いするんだけど、という顔をするルウがいた。


 「…はぁ~分かったよ。助けてもらったしね」

 

 イラークは木製の大きな器に朝食べたスープを入れルウに差し出した。

 実はスープも、そろそろルウが遊びに来そうだなと思い、多めに作っていたのだ。


 「そういえば、ルウはここに近寄れるけど、それも嫌々でいつも俺を外に連れ出そうとするのに今日は嫌そうにしないし…ん?そもそも家に入ったのとか初めてじゃない?何ともないの?」


 いつもなら中に入りたがらないから外で、出て来い遊び行くぞって(うるさ)く叫んでるんだけどな。

 

 「グゥ…?」

 

 ルウは首を傾げる。

 あれ、確かに、なんか入れたね、何でだろう?と言っているようである。


 「ん~まぁ良いか、お前なら今更入れても不思議じゃないしな」


 「グゥ?」

 

 スープを食べ終えいつもなら食後の毛繕いをねだってくるルウが洞窟の外を凝視している。


 「ん?どうした?」


 「グウゥゥ」

 

 何か怯えたような威嚇するような姿勢を見せるルウ。そして外へ勢いよく出て行ってしまった。


 「え…何?」

 

 イラークも万一の事を考え短剣のみ持ってルウを追う、どうやらルウは洞窟の上の方に行ったらしい。

 

 イラークは丘になってる家の上を登りルウを追いかける。


 少し走ると丘の頂上に着いた。ここは何度かイラークも登った事がある。

 

 頂上まで来ると森の中に少しだけ頭が出せる場所だ。


 だが遠く低い土地、しかも僅かにしか見えない為に来る必要の無い場所だ。

 

 追い付くとルウは目を細めて遠くを見ていた。


 イラークも同じ方向に目を向ける、すると大量の黒煙がかなり遠い所で上がっている。


 「あれは、村の方?」

 

 キョトンとしながらイラークは思考を回らせる。


 村よりも遠いんじゃないか?方角が違うんじゃないか?しかし…

 しっかりしろとルウの翼で尻を叩かれてハッキリした、やはり村の方だ。


 「ガァウ?」

 

 どうする?とでも聞いているようである。


 「行くか?いや行くしかないか。とりあえず近くまで行って煙が村からなのか確認するしかない…。ルウ。暫く帰って来れないかもしれないから一応留守番頼むよ」


 今までこんな事は無かったはずだ。


普通の火事くらいじゃここから煙は見えないはずだし、どちらにしても村で何かが起きてる事は間違いない。

 

 「…痛」

 

 痛みのする方を見ると目を閉じたルウがイラークの尻を尻尾で叩いていた。


 「……付いてくる気?」


 「…フスゥ」

 

 ルウは目を閉じたまま無言で頷く。


 どうせ暇だし、仕方ないからね。


と聞こえてくるようである。


 「悪いねなんだか…ありがとう。きっと着くのは夜中になる、行こう」


 洞窟に戻り無いよりはまし程度のボロボロになった装備を着け、短剣、食料を少し持ってルウと共に駆け足で村へと向かった。



 

 ────────閑話──────────

 

 

 ルウが賢い魔獣で助かった。


 名前を決めるのにそれほど苦労しなかったのだから。

 

 あの戦闘を見て直感で思い付いた名前でフリールと名付けた。



 ※保護して二ヶ月と少し



 最初はまんざらでもなかったようだが、どう書くのかとフリールにジェスチャーで聞かれ、地面に書き一文字ずつ読んだ。


 「フ」


 「グゥ」うむ。


 「リー」


 「ガゥァー」なるほど


 「ル」


 「グゥ」なるほどなるほど

 

 フリールは文字を書かれた地面を見ては、少し上を見て小声でグゥだのグァだの唸っている。


 まるで復唱しているみたいだ。


 だけどそれ…


 「……ぷはっ!ハハハッ!お前、言えてないぞ」

 

 笑っちゃ可哀想だと堪えて居たが、もう無理。これは無理。あの真剣な表情も相まって面白すぎる。


 手で顔と腹を覆い満面の爆笑である。


 「グルゥァア!」

 

 さすがに怒ったのか、イラークの腹を思いっきり蹴る。


 「はあ゛ぁっ!」

 

 小柄な魔獣の蹴りだがやはり魔獣だ、小石軽く蹴った様にイラークは結構転がる。


 ふんっ!とそっぽを向くフリール。


 「()ってて…そんな怒んなくても」

 

 腰と腹を擦りながら冗談だってば、と説得しているとまた尻に衝撃が走る。


 フリールは翼でバシッと軽くイラークの尻を叩いてから地面に書いてあるフリールの隣にリール、と足で書く。


 「ん?…リール?こっちが良いのか?」

 

 違う違う!と首を振る。


 そして尻尾でイラークを指して次に自分を指して

 「グァ」と鳴く。


 「フリールは嫌じゃないの?」

 

 そうそう!と頷く。


 「なるほど、フリールは嫌いじゃないけど俺が呼ぶ時はリールが良いって事か!」

 

 再びうんうん!と頷く。


 「でもリールだとちょっと変な感じだからなぁ……ルー…そうだ!ルウは?」


 「?」


 「…お前の親を見た時、銀色に近い灰色の毛並みで後ろには夕日が輝いてた…凄く綺麗だったんだよ。


そして、フリールは真っ白な毛並み、月と良く合いそうだなと思ってさ」


 「……クォーン!」


 「お!気に入ったか?」


 「グォン!」


 「よし!名前も決まったな…ほら」

 

 そう言うとイラークは右手を出す。


 「…グァ?」

 

 「なんだよその…何してんだこいつみたいな顔は!」

 

 めっちゃ恥ずかしいんだからなこれ!

 

 「ほら改めて友達だろ?…俺達」

 

 ルウはふんっ!とそっぽを向きながらも尻尾でイラークの手のひらを握る。


 「照れちゃってまぁ」

 

 ニタニタと笑っていたイラークだが、直ぐに発言に後悔し取り消そうとしたが遅かった。


 ルウは鋭い眼光で気持ち悪い顔をしている()()を睨み。


 そして尻尾で往復ビンタを食らわす。


 「…やっぱりそうくるよね?…痛だぁっ!だぁっ!」

 

 ちなみに尻尾はもふもふしているが見かけによらず結構痛い。いや、大分痛い。めちゃめちゃ痛い。

 

 そんなこんなで名前は決まっていた。

 


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