第二話 慈母の加護
新しい登場人物が出てくる度あとがきに紹介させてもらいますが、公開出来る所までしか公開出来ません。
物語が進んで行く内に公開出来る箇所も増えて行きます。
その場合は都度あとがきに再度紹介させて頂きます。
それはまるで他者に威嚇でもしているかのように、地に刺さっていた。
大きな木で作られた村をぐるりと囲む四メートルは有ろうかという塀、等間隔ではないが所々丸太を削り鋭利にした、トゲのようなものが塀から伸びている。
初めて見る者からしたら物騒もしくは野蛮という感想が生まれそうだ。
塀の一部に空いている出入りする為の門には警備兵が常に二人居るが、キーシャは良く出入りするので軽い挨拶をして顔パスすると、目の前には砂利で真っ直ぐ整備された七人くらいはすれ違えるだろう大通りと、その左脇には細い水路が通っている。
そして大通りから枝分かれするように細い道も通っている。
そして左右どちらを見ても木造の家屋、服を建物の前に置いて商売する者。
何かの動物を回しながら丸焼きにし慣れた手つきで捌いてカウンターに座ってる客へ出す者。
剣や短刀、木や皮で作ったような盾を売っている者。
果物を片手に持ち声を張り上げる者など露店が様々である。
この光景が通りを挟むように奥まで続いている。
そしてその光景を更に引き立てるように、カンカンと何か鉄を打ち付けるような音、露店で商売をする声、世間話でもしてるような人々の声、様々な音が交差している。
「ふぅ。」
一日歩いてサイナス村に着いたキーシャは、昔と比べものにならないくらい活気がある村をまだ慣れないと思いながら、いつ魔獣に襲われるかわからない緊張を解くようにため息を吐いた。
「キーシャ~!お帰り~!」
明るい、まだ幼なさを思わせるような声の持ち主が小走りにキーシャの元へ駆けつける。
やれやれ待ってなくて良いのにと微笑みながなら、少女の元へゆっくり歩いた。
「アリン…いつもわざわざ休憩使って待ってなくて良いのよ」
茶色のボブカットのような髪に、白シャツ、黒のパンツ、黒エプロンをした背丈はキーシャより少し小さいくらいであろうアリンは、息を少し荒くして、童顔に付いたそのクリっとした目でキーシャを見た。
「だって外にジェナミン草取りに行くって言うんだから普通心配するでしょ~」
「確かにジェナミン草は森の奥の方にしか無いけど、ルートさえ上手く進めば森灰狼の群れにも出くわさないし、私はそんなに弱くないわよ?」
ごめんごめんとアリンをあやす。
森灰狼は基本的に十から二十匹程の群で狩りをし自分より大きい敵にも立ち向かう事がある肉食魔獣なのだが、キーシャとて弱くわないのだ。
十五匹くらいなら余裕だろう。
「確かにキーシャならその辺の魔獣くらい大丈夫かもしれないけど、ジェナミン草なら市場で入るのを待ってれば良いのに」
若干涙目である。
「いつ入るか分からないし、無駄に高いし、沢山有るに越したことはないじゃない」
ジェナミン草は風邪や腹痛に効く薬草でサイナス村では粉末にして飲んでいた。
今は入ってくる量が少なく値段が高騰し使用一回分で百メルもした。
百メル有れば一日三食分賄えるくらいになる。
いくら昔より商人が来て活気付いたとしても結局はそんなすぐ便利な村、そして町へとはならない。
「でも沢山採って来たからしばらくは行かないわよ」
沢山っていう訳じゃないけど今回もしっかり採って来たし、不審に思われてないわよね。
はぁ…。こう何度も何度も理由付けてイラークの所に行くのも大変ねぇ。前はこんな事無かったのに。
まぁ村とは関係無い人達が沢山出入りするようになったわけだから、何日も留守にする場合はしっかり申告してから、なんて、村長さん達の考えも分かるけどもね。
避けられてる私ぐらいは別に良いんじゃない?って思うのよ。
ね?だってそうじゃない?元々私だって余所者だったわけだしさ、まだ新参者だしさぁ。
はぁ…ま、そんな事言ったって何も解決しないわね。
しかし、アリンは本当泣き虫ね、いや心が綺麗なのかしらね。
「それなら良いけど」
アリンの目はうるうると光っていた。
そもそもアリンがなぜ、村では避けられているキーシャにこんなになついているのか、それはさかのぼる事数年。
《数年前 サイナス村 酒場》
「お待たせしました~!」
「こっちにも一つ追加ー!」
「は~い!」
皆に避けられながらも何とか見つけた仕事場で忙しそうに働くキーシャ。
その酒場は木造でテーブル席が十二とカウンター席が十程ある、この村ではなかなかの広さをもった店だ。
この酒場【ズブロの酒場】のルールは三つ
・喧嘩揉め事迷惑行為は外でやれ
・従業員、客いかなる立場であれトラブルは自己責任
・悪質な輩には鉄槌を
ルールを破るとかなり怖い男達が出てくるとか何とか、真偽はどうであれ従業員の間で噂になっている。
そして今日も数人の従業員と沢山の客で賑わっていた。しかし不穏な空気が漂っているテーブルがあった。
酒場での喧嘩や揉め事はそれなりにあるが、今回は少し違うようだった。
「な、何ですか?」
「お前さっき俺に思いっきりぶっかけてくれたよな?」
「は、はい…ですからすみませんと──」
「謝罪はもう良いんだよ!…よし!今日お前何時に終わんだよ?終わってからちょっと付き合え」
あの子は確かアリンとか言ってたかしら、さっき持ってた飲み物盛大に全部かけてたのは確かあのお客さんよね。
また変に絡まれてるわねぇ。
「え…あ、後少しですけど」
あらら言っちゃうんだ、正直な子。
単純に怖くてそれどころじゃないのかしら。
それからしばらくし、店の客も残り少なくなり従業員もちらほら帰り始めていた。
「お疲れ様でした」
アリンは浮かない顔を絵に書いた様な顔で皆に挨拶をしていった。
「やっと来たか、どんだけ待たせんだよ」
「え…あ…すみません」
キーシャはそんな二人を後ろから眺め自分の仕事をしていた。
助けても良いのだがルールにもあるように自己責任なのだ。
アリンは暗い路地裏に入った所で疑問に思っていた事を話す。
「あ…あの…どこへ行くんですか?お詫びにご飯とかならあっちにお店が…」
「あ?誰が飲み行くなんて言ったよ、俺が泊まってる宿に行くんだよ」
進行方向とは逆を指差しているアリンの手を強引に引っ張る男。
「え!?それは、ちょっと」
「あ?今更恍けてんじゃねぇよ。服も身体も溢されたおかげでベタベタだからな、しっかり綺麗にしてもらわねぇとよ」
「え、ちょ!やだ!嫌だ!」
全身で抵抗してみるも相手はかなり体格差もある男、アリンの様な村で平和に暮らしている小さな女性では振りほどけなかった。
「…ちょっと!止めなさいよ!嫌がってるじゃないの」
まったく…ちょっと気になったから、ささっと華麗な手際で仕事終わらせて追い付いてみたら…何?このザ・ゲスなシチュエーションは。
今回はいつもの帰り道より少し遠回りの道を、たまたま通りかかったら、たまたまこの人達が居て、たまたま私が絡ん…私も絡まれたのだから良いわよね?
「あ?」
男が後方を振り返るとアリンより少し背丈が大きい程度の女性が立っていた。
「キーシャ!?」
アリンは何故自分を助けてくれるのか、自分も含め皆から避けられてるキーシャが何故助けてくれるのか分からなかった。
「なんだ?お前、母親か?」
ははおや…母親?
「そんな小せぇ体して、歳とると小さくなるって言うけど本当だな!」
と…し?
「キーシャ!この人武器持ってるから!逃げて!」
「その通り、ちゃっちゃと失せなお母様!お前らみたいに安全な塀の中でぬくぬく生きてきた奴には何も出来ねぇよ」
男は左側の腰に挿していた剣をちらりと見せる。
こいつ二度も、初対面に対して失礼な事を…母ですって?しかもぬくぬく生きてきたですって?なかなか言ってくれるじゃない、こんの小僧が。
「ほほほ…誰が母親ですって?そんな歳に見えるのかしら?」
こう見えて結構歳の割りにシワも無くて、肌なんて特に綺麗だと自負しているのだけれど?
「見えるから言ってんだろうが!」
ブォン、と音がすると同時にアリンと男の横に置いてある木箱が吹き飛ぶ。
「こんな所で魔法…いたぶられたいみたいだな」
男が剣を抜き威嚇する。
実戦経験があるであろう佇まい、そして乱暴な言葉使い、独特な雰囲気はその男が傭兵の類いを生業にしている事を物語っていた。
「言っておきますけどね、ぬくぬく育ってきてないですよ?私は、少なくとも貴方なんかよりはね」
すでに充分な怒りを覚えているキーシャは男に手を向ける。
「はっ!言ってろ!」
男はアリンを壁に突飛ばしそのまま一気に距離を詰めようと構える。
基本的に剣などの近距離武器を得物としているなら魔法を使う相手とは距離があればあるだけ不利になる。
中には投剣などの技術を身につけている者も居るが、それも所詮は牽制程度にしかならない。
例えこの男が使えた所でキーシャ相手では牽制にすらならないだろう。
両者の間は五メートル程の距離だろうか、男は慣れた身のこなしでその距離を一気に詰める。
剣先がキーシャの腹部を貫こうと迫った所で男の動きがピタリと止まってしまった。
「!…なん…だ?」
男は動かない身体を必死に動かそうとしているのだろう。
体から汗が急激に流れ出ていた。
「そのまま自分の行いを悔いなさい…。犯した罪を今。贖罪の時」
キーシャは剣を持つ右手を見ると短詠唱で魔法を放つ。
といっても何かがキーシャから放たれるということはなく何も起きなかった。
「ぐうぁ!?」
その声は男からだった、アリンは何が起こっているのか分からなかったが、男が剣を地面に落とすとアリンは男の手元を見てゾッとした。
暗いなか微かに見えるその光景は、普通の生活をしている者にはとても直視出来なかった。
男の右手は指の一本一本がそれぞれ別の方向に向き、手首が何周も回ったように捻れていた。
「まだそんなに痛くないでしょう。急に起こった事で身体がまだ痛みに追い付いてないでしょうから。でも、もうすぐ耐え難い激痛が走るわよ、少女に強姦しようとし、私に散々失礼な事を言った代償です。ゆっくり噛みしめなさいな」
「てめぇ…ざけんなよ!」
男は汗だくになりながら自らの右手をめちゃくちゃにした女に噛みつく勢いだ。
「そう。まだ足りないのね。じゃあ次は──」
「大丈夫!もう、大丈夫だから!ありがとう!行こ!」
「アリン、良いの?怖い思いさせられたのに」
「良い!あの男散々苦しむだろうし、キーシャが良い人だって分かったから」
「…アリンが言うなら」
「だからもう行こう」
アリンはキーシャの手を取り、走るようにその場を離れ、そのままキーシャの家を案内してもらった。
「良いの?」
「もちろんよ、あの後に一人だなんて怖いでしょ?」
「…うん、ありがと!」
帰宅するまでに色々あり家事をする気になれなかった二人はキーシャがジェミの酒場から貰ってきた余り物を広げて食事をしていた。
余り物とは言っても唐揚げにパン、野菜の炒め物、シチューと量も味も申し分無い程だ。
「それにしてもアリンは私が怖くないの?」
「怖くないよ、あ、嘘、あの魔法は怖かったけど、ってあれ魔法?あんな魔法初めてみたよ」
「そうねぇ魔法だけど…私の呪い、みたいなものよ」
「何かが発現しているようには見えなかったけど、呪いってキーシャ呪われてるの?」
「アリンは知らなくて良いのよ」
話した所で理解もどうする事も出来ないもの。
「えぇ、何それ~」
ブーブー、アリンはスープをつつきながら口を尖らせている。
「ふふふっ」
まだ小さな子供みたいな人、優しい娘ね、さっきも急いであの場所から離れて、元々避けられている私を騒ぎになる前に逃がしてくれて。
「…キーシャ。改めてありがとうね」
「もう、良いわよ私のストレス発散も兼ねてだったんだから」
「発散にしてはあの男結構悲惨だったけど…でもありがと!あぁいう流れ者の武装してる人と問題になると、誰も助けてくれないのが普通だからね」
アリンは少し寂しそうな顔をしていた。
村とはいえ、町になりつつあるここサイナスでは様々な人が行き交うようになり、どこから来たかも分からない様な人も沢山居る。
それ故揉め事が度々起きるが、内容によっては誰も助けてくれないのが現状である。
誰しも厄介事に巻き込まれたくないのだ。
田舎に住む人達は他人に野菜を譲ったり、互いに助け合うが、都市に住む人は他人に割と無関心であるようにサイナス村もそうなり始めていた。
「皆自分の事で一杯なのよ、仕方ないわ。」
私だって出来れば変に首を突っ込みたくわないもの。
今回はたまたま知ってる人で同僚だったからつい助けちゃったけど。
「なんだか寂しい村になってきちゃったね」
「そうね。でも悪い事ばかりでもないわよきっと」
「そうだよね!さってと、そろそろ寝るね!本当に今日はありがとう!」
「どういたしまして」
食べ終えた食器を片付けながらアリンに笑顔で答える。
《そして現在》
という事が有り、それから二人は良く一緒にご飯を食べに出掛けたり買い物したりという仲なった。
「それよりアリンあなた仕事中じゃないの?休憩の時間大丈夫?」
「……あっ…」
「…」
「…」
このまま付いてっちゃダメ?とでも言いたげな顔で見つめるアリン。
「…ダメよ」
「うっ。仕事終わったら家行くからねえぇぇー…」
みるみる声が消えていった。
まったく騒々しい子ね。
嵐の去った道を見つめていたキーシャは、強い睡魔に襲われ急いで自宅へと向かった。
一日歩いて今は夕時なのだから無理はない。
木造二階建ての家は入って直ぐ居間とキッチン、隣に一部屋、奥に脱衣場、二階に二部屋ある。
キーシャはとりあえず荷物等を整理してからイラークの所でもスープを温めるのに使った、鉄製の鍋と木製のヘラをとりだしながら今日は薬草を使ったスープにしましょうかと一人で呟きながら準備を進めていた。
「ガタンッ」
何かが落ちるようなぶつかるような音がした。その音の正体はキッチンから聞こえたように思えた。
そこには顔から冷や汗を流しながら横たわるキーシャが居た。
そこで自分が倒れた音だと理解した。
それほど突然で、そして疲れていたのか。
キーシャは力が入らず思う通りに動かない自分の体を何とか動かそうとするが、やはり動かない。
キーシャは少しずつ気が遠くなるのを感じていた。
そしてそのまま眠るように入らない力を抜く。
キーシャはあの日の事を思いだしていた、そう、イラークを洞窟で産んだ日の事を。
憎たらしい程に晴れわたっていた空、穏やかな森、泣きじゃくるイラーク、微笑んでいるキーシャ。
日は出ているが薄暗い洞窟の中でイラークを拭き、優しく抱き抱えている。
そんな状況をまるでもう一人が見ている光景のようにぼんやり思いだしていた。
すると目の前が光に照らされた。
「…起きた!?」
子供と間違えそうな幼さが残る声が聞こえた方へキーシャは目を向ける。
「…アリン」
「……。」
何も言わずに、ベッドに横たわるキーシャに抱きつくアリンの頭を撫でながら周りを見る。
どうやら村の小さな診療所のようだ。
「どのくらい眠ってた?」
「多分三、四時間だと思う。」
「…そう」
「別れた後仕事に戻って今日はキーシャ疲れてるだろうから、早く仕事切り上げて家事くらい手伝おうかなと思って家に来たんだけど…ドアの鍵してなかったみたいだから入ったのそしたら倒れてて…」
「そう。ありがとう」
「過労だろうってさ。しばらく仕事休んだ方が良いよ。キーシャの分も私が頑張るからさ」
このまま一晩だけ診療所に泊まる事になったが、一緒に居ると駄々をこねてうるさいアリンをなんとか帰した。
一人で考えたかったから看病してくれたアリンを無理矢理帰した。
そして一人天井を見ていた。
もうあまりもたないかも知れない。
そう思いながらどうする事もなく、ただただ天井を見つめる。
キーシャは決して病気などではない、至って健康なのだ。そう体は。
キーシャも始めは自分の症状の事を良く分かっていなかった。
自分は病気なのだと思っていた。
しかし診療所に何度行っても結果は同じ、健康そのものであった。
そんな日がしばらく続くと気付いた事があった。
魔法をある程度使うと症状が出ていた。
今回と同じ意識がふと消え失せるような感覚。
量もそうだが、特定の魔法を使っても発症するようであった。
イラークを洞窟に置いてから一年後始めてイラークの元へと行った時、一緒に食事を食べ沢山話した。
その時にイラークが言っていた事があった。
洞窟付近は危険な場所で誰も近寄ろうとしないのは皆が知っていること、故にキーシャはイラークをそこへ置いていったのだが。
何故か魔獣はイラークの家の周りに寄って来なかった、それを最初は何か魔獣が嫌いな物でもあるのではないかと思い探索もしてみたが、何も無かった。
そうこう何日も考えてる内にキーシャには推測が生まれた。
もしや、自分の力ではないか。
イラークを置いて来てから始めてイラークの所へ行く日まで、毎日、毎日、毎朝、毎晩、祈っていた。
ただ祈るのではなく、少しでも神に届くように、少しでも祈りが強くなり効果がでるように。
魔法陣を自分の足元に書いて膝をつき、毎回最低でも一時間は祈っていた。
イラークの安全を思って、自分のしたことの懺悔も込め。
魔法陣を書く習慣が薄れてきている今、キーシャは魔方陣の書き方など分からなかった。
本来魔方陣は複雑な魔法を発動したり、魔法を強力にしたり、新しい魔法を研究して実験に用いたりするものである。
ただ少しでも祈りが届くようにイラークが無事に生きられるように、それだけを思って子供の頃に本で見たことがある魔法陣をうっすら思いだし書いていた。
もちろん本の魔法陣ではない。
キーシャにはそれしか思い浮かばなかった。
何故出来たのか原理は分からない、効果もあまり分からない、だがイラークを守れている。
その事実だけがキーシャには分かった。
そして二度目に会いに行った時イラークにも全てではないがまだ推測の域のこの事を話した。
イラークも驚いた様子だったがイラークは喜んでいた。
まだあまり親の愛情を受けていないイラークには、その魔法がまるで母キーシャそのもののように自分を包み込んでくれている、そう思えていた。
そしてまた幾年か立った時推測は確信へと変わった。
初めての発症である、その時は診療所では病気などではないと言われた。
ただ何故か衰弱していると言われた、そして魔力も徐々に落ちていた。
その時キーシャは始めて分かった気がした。
この魔法は何という名前なのかも発動条件も分からないが、イラークを守ってくれている。
あの危険地帯でまだ子供のイラークが、かなり自分と離れているにも関わらずこの魔法のおかげで何年も生活出来ている。
しかしそんな便利な魔法が、ただ他の人よりも魔力が多い、いち人種に何の代償もなく使えるのか、正しい使い方、発動条件、エルフ並の莫大な魔力があれば可能なのかも知れない。
だが知らない、そんなものが有るのかも分からない。
そう、だとしたらやはり。
「私の、命」
キーシャはそう考えるしかなかった。
自分の命を少しずつ燃やし、それを原動力に発動している。
そう考えると筋が通る。
キーシャは病室の窓からイラークも今、見ているかも分からない星空を見つめていた。
人物紹介
名前:アリン(一九)
種族:人族(サイナス村 村人)
身長:一四五センチメートル
体重:???
能力値:全てにおいて人族の平均よりやや下回る
得意魔法:なし
固有魔法:なし
特徴:子供に見える容姿
ジェミの酒場で働く少女。
過去の事件をきっかけにキーシャと仲が良くなった。
背が小さく身体も華奢な為、十二才程の子供によく間違われる。
大きくはっきりとした目と髪型が童顔に拍車をかけているが、本人はこの髪型をかなり気に入っているらしい。
普段はおっちょこちょいな所も有るが、とても真面目でやる時はやるタイプ。ちょっと泣き虫。
勤務態度も良く周りからはたびたび妹の様に扱われているが、本人はそれをあまり良く思っていない。
ちなみに好きな人は居ない。
魔法を人に向けた事も無く、家庭魔法も人並以下という実力。
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名前:キーシャ(?)
種族:人族(?)
身長:一五○センチメートル
体重:四八
能力値:人族の平均を遥かに上回る魔力の持ち主
得意魔法:火・?・?・?・?
固有魔法:???
特徴:白髪混じりの赤毛、一児の母に見えない容姿
イラークの母親。
これまで様々な土地を放浪して来たがイラークを育てる為、そして歳には勝てないと内心思い始めている為、サイナス村に居を構えた。
しかし乙女心は消えておらず、歳など女性に対して失礼にあたる話題には基本機嫌が悪くなる。
サイナス村ではアリンと一番仲が良く、事あるごとに一緒に居る。というより相手が勝手に引っ付いてくる。
又イラークに過酷な環境を強いてしまった自分を責め続けているが、それでも力強く成長していくイラークを見ていると、喜びという感情も実は感じている。
機敏な動きは苦手だが、魔法にかなり長けているため戦闘の際は様々な魔法を駆使し戦う。