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影法師

作者: 石田 幸

小心な自身に向けて。

 残暑のじりじりと照りつける西陽を背に路地を歩く。


 帽子をかぶった自分の影が、ひょろ長く前方に延びている。



「もう、長くないかもしれへんな。」



 ふと、頭の中をそんな愚にも付かない想念がよぎる。


 五十路を前にして身体の変調に気付き、婦人科を受診したのが五日前のことだった。


「あ、えらい腫れてるなぁ。」


 内診のエコーに映し出されたモノクロの子宮の中。

 素人目に見ても明らかに肥大した右の卵巣。

 左の卵巣は人差し指の腹ぐらいなのに対し、右のそれは乳幼児の拳ほどもあった。


「わぁ…。」


 驚きよりも何やら気の悪さが先行して、思わず洩れた声にかぶさるように

「まぁ、悪い腫瘍やないと思うけど、一応検査しときましょう。」

と、淡々と医師は言った。


「検査結果がわかるのは十日後です。」

と受付で言われた。



「あと五日…。」

検査結果を知るのが、何か恐い気がしてならず、気をまぎらすように外に出て闇雲に歩き回った帰り道だった。


 夕刻迫る路地に映し出された自身の影法師は、不思議なくらい薄く、自分の人生がはかないものに思えて、柄にもなく感傷的になってしまった自分が情けなくもあり、皮肉な笑みが口元に浮かんで消えた。



阿呆あほやなぁ。」

誰に言うでもなく呟いて帰路を急ぐ。



 強い西陽の中、帽子を着た影が一層長く延びて、気弱な私をわらっていた。

 酷暑で体調不調から2ヶ月以上筆が遠のいていました。自身の体験を下敷きに書いた掌篇です。

 誰もが恐れる人生の終末期の近付きに対する気持ちを少し滑稽に書いてみました。

 夏の終わりのちょっとだけ物憂い気持ちと重ねて読んでもらえたらと思います。

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