美少女コンビ
続きでございます。
-side 市村咲-
新学期に入って以来、私はずっと隣の席の子が気になっている。
「いや、やっぱかわいすぎだろ...」
「席が市村さんの隣ってのもヤバいわ。あのコンビ最強過ぎる。マジ眼福...」
「肌めっちゃ綺麗だよね...どんな感じで手入れしてるのか聞いてみようかな...」
「あのメガネかわいいよね...私も同じやつ買おうかな...」
ていうか......何を言ってるのかまではよく聞こえないけど、とりあえずこんな感じで教室に居る大半の生徒が『その子』のことを気にしてる。
だって夏休み明けに見た目が変わる子は結構いるけど、この子ほど見た目が変わった子って見たことないもの。いや、ほんとイメチェンってレベルを完全に超えてるのよ。もはや変身と言っても過言じゃないと思うわ。
......だって座席表を見るまで私の隣の席の子が岬さんだなんて思わなかったもの。
1学期までは長い前髪で顔が完全に隠れてたし、静かで大人しかったから目立たなかった子だけど...一体どんな心境の変化があったんだろ。ていうか女子の私から見てもめちゃくちゃかわいいんだけど。男子たちも明らかに岬さんの方をチラチラ見てるし。
でも性格はそんなに変わってないみたいなんだよね。2学期になってからはクラスの子たちがちょくちょく岬さんに話しかけてるみたいだけど、あんまり上手く会話できてないみたいだし。なんか他人を怖がってるっていう感じがするのよ。
でも...よくよく考えると岬さんって1年生の時、亮とだけは偶に喋ってた気がするのよね...まあ、大体は亮から話しかけにいってたみたいだけど。
で、まあ最初は『事故をきっかけにちょっと仲良くなったのかな?』って思ってたんだけど...最近岬さんの素顔を見た時にね。ちょっとだけ頭に過ったのよ。
--もしかしたら亮は岬さんがかわいいことを知ってて一緒に話してたんじゃないか、って。
まぁ、もちろん亮は『かわいいから』っていう理由で女の子と友達になったりするような男の子じゃないよ? でも亮にフォーリンラブな私にとっては割と見過ごせない事態なのよね。だってただでさえライバルが多いのに、また1人かわいい女の子がライバルになった可能性があるんだもん。
だから、まあ、なに? ちょっとそういう恋愛的な意味でも岬さんは気になるし、どういう子なのか知りたいっていうのが本音なんだよね。
「あ、あのー、市村さん...私に何か用があるのかな...? さっきから私のことずっと見てる...?」
......しまった。なんか無意識のうちに隣の席をガン見しちゃってた。うわ、どうしよ...岬さんがちょっと怯えた感じでこっちを見てる...
「あ、あはは、なんかごめんね。いや、岬さんが1学期に比べると随分変わったみたいだからちょっと気になっちゃって」
「そ、そうなんだ...」
「う、うん。そうなの」
「...」
「...」
......え、どうしよ。会話が終わっちゃったんだけど。
ていうか...そもそも会話を続けるべきなのかも分からないよね。私と岬さんって何気に同じ中学校出身だし、クラスもずっと一緒だけどそんなに話したことないし。だから決して友達と言える間柄でもないし...
んー! でもやっぱり今岬さんが亮とどういう関係なのか気になるぅー!!
......よ、よし。もう少しだけ岬さんと話してみようかな。こんなのは私の柄じゃないんだけど、ちょっとだけ探りを入れてみるとしましょう。やっぱり亮との関係が気になって気になってしょうがないもの。このままじゃ授業にも集中できないわ。
というわけで意を決した私はもう一度隣のメガネ美少女に声を掛けてみることにした。
「......ね、ねぇ、岬さん。どうして岬さんは急に髪を切ろうと思ったの? なにかきっかけがあったりするの?」
うわ、どうしよ...ちょっと直球で聞き過ぎちゃった...これって結構失礼な言い方だよね...もしかしたら聞かれたくないことかもしれないし...
「ご、ごめんね岬さん! いきなり変なこと聞いちゃって! 答えたくなかったら全然答えなくても大丈夫だからね!」
「え、あ、いや...べ、別に謝らなくても大丈夫だよ。や、やっぱり市村さんも私の髪型気になるよね」
そんな風に少し吃りつつも、私に優しく返答してくれた岬さん。けれど先ほどから彼女は指先で髪を触ったり視線を右往左往させたりしていて、どうも落ち着いてないように見える。
...え? もしかして今私って怖がられてる?
「......ねぇ、岬さん。そ、その......わ、私って怖い?」
「い、いや、そういうわけじゃなくて...ただ市村さんとどうやって話せばいいのか分からなくて...そ、その、田島くんは私を庇って記憶喪失になったから...だから幼馴染の市村さんは私に何か思うところがあるんじゃないかな、とか思っちゃって...」
「...」
「今まで何度も謝ろうと思ってたけど、どうしても自分から市村さんに声を掛けに行くことができなくて...実は今までずっと市村さんと話したいと思ってたの...」
沈んだ表情で彼女が発した、その言葉を聞いた時。私の頭に浮かんだのは『あぁ、この子も私と同じなんだな』という感情だった。
学校ではほとんど言葉を発さず、つい最近までは表情も隠れていて感情が全く伺えなかった岬さん。その様子を見た私は、今まで彼女のことをクールで強い女の子だと勝手に思い込んでいた。
でも...多分それは私の勘違いだったんだね。
顔が隠れていても、感情が表に出なくても。きっと今まで岬さんは誰も知らないところで色んな思いを1人で抱え込んできたんだよね。顔がよく見える今ならそれが手に取るように分かるわ。
......そして私にはその辛さが痛いほど理解できる。
いや、もしかしたら事故の当事者の岬さんは私なんかよりももっと辛い思いをしてきたのかもしれないわね。だって...岬さんは何も悪くないのに今までずっと私に謝ろうとしていたんだもの。きっと私には想像できないくらい複雑な思いを抱えているんだと思うわを
だったら...私は少しでも岬さんの気を楽にしてあげたいと思う。
確かに岬さんは今後、私の強力なライバルになるかもしれないし、今までクラスメートとして深く関わってきたわけでもないわ。でもね、だからといって目の前で辛そうにしている子を放っておくのは違うと思うの。
--ていうか...辛そうな子を無視するような女の子を亮が好きになってくれるわけがないじゃない。
「......ねぇ、岬さん」
私は彼女が怯えないように穏やかに彼女に呼びかけた。
「は、はい」
「あのね、岬さんは誰にも謝らなくていいんだよ。もちろん私にも謝らなくていい」
「謝らなくて...いい...?」
「そうよ。だって岬さんは何も悪くないんだもの」
ああ、うん。なんか同じようなことをどこかで亮が岬さんに言ってそうな感はあるけど気にしない気にしない。実際、岬さんが悪くないのは事実だし。
それに私のターンはこれからが本番なんだから。ここからは絶対亮には言えない、私だからこそ言えることを岬さんに伝えてみせるわ。
「で、でも...色んな人が悲しい思いをしたから...やっぱり謝った方が良いんじゃないかなって...」
「うん。謝りたいなら謝ってもいいと思うわ。でもね、私は謝って欲しいと思ってる人なんて居ないと思うな」
「え...?」
...そして私は隣の席で暗い顔をしている彼女に向けて『私だからこそ言えること』を告げる。
「ふふ、だって亮の周りに岬さんを恨みそうな人なんているはずが無いでしょ?」
「...!」
何年もの間、亮を見続けてきた私は知っている。彼の周囲には今まで1度たりとも性格が悪い人など居なかったということを。
そうよ。亮が親しくしている人達の中に『理不尽に誰かを恨む人』なんて居るはずがないのよ。もちろん私も岬さんを恨んだことなんて1回も無いわ。謝ってほしいなんて全く思っていないのよ。
だって...謝ってもらっても亮の記憶が戻るわけじゃないもの。
結局岬さんが謝っても何も良いことなんてないのよ。謝られた側も謝った岬さんも辛いことを思い出して悲しくなるだけ。
--そんなの、何の意味も無いじゃない。
「岬さんも私も結局同じなのよ。事故が遭って辛い思いをしたっていうのは一緒なんだから」
岬さんも、私も、そして仁科さんや新島くんも。1度は皆辛い思いをしたけれど、今は亮と一緒に前に進み続けてる。楽しい日々を亮と共に過ごしている。
--だから今私が彼女に伝えたいのはこれだけだ。
「岬さんは亮に助けられた命を大切にして、これから楽しい高校生活を送るのが1番だと思う。多分亮も1番それを望んでると思うし、私もそのために何か出来ることがあれば手伝いたいと思ってるよ」
「あ、ありがとう...ありがとう市村さん...!」
「ふふ、いいって。いいって」
そう返答しつつ、涙目になっている彼女を見ながら私は思う。
--ああ、多分私たちは少し似ている、と。
彼女と出会ってからは随分と長い時間が経ったけれど。これから私たちは同じ人を好きになった者同士でライバルになってしまうかもしれないけれど。
--もしかしたら私たちは気が合うのかもしれない、と。
だから...私は少しだけ勇気を出して、こんなセリフを彼女に言ってみる。
「岬京香さん。もしよければ私と友達になってくれませんか?」
次回、先生登場。
そして1つ宣伝です。
自分のもう一つの作品である『幼馴染のパンツを毎日見ないと死ぬことになった件』が文芸ノベル企画にて銀賞を受賞しました。
審査員の方から高い評価をしていただけた作品ですので、まだご覧になったことのない方はこの機会に読んでいただけるととても嬉しいです。
※小説URL→ https://ncode.syosetu.com/n5676fz/




