変化の兆し
続きでごぜぇやす。
序盤は田島くんのツッコミがメインとなっております。
-side 田島亮-
ショッピングモール3階の映画館を後にし、1階のフードコートに向かう。さっき上映中に何も食わなかったものだから少し腹が減った。もう昼時だし一度腹ごしらえをしておくとしよう。
「...思ったより人多いな」
フードコートに到着。しかし、平日だというのに想像よりもフードコートの席が埋まっている。まあ席を占有しているのは専ら夏休み中の学生たちなんだが。おい、お前ら。せっかくの夏休みなんだからこんな所で集まってないで旅行とか行けよ。まあ俺も人のことを言える立場ではないんだが。
「さて、何を食おうか...」
満席というわけでもないし、とりあえず何か適当に食べ物を注文することにしよう。しかしこれがなかなか迷う。たこ焼き屋、ハンバーガーショップ、ラーメン屋のチェーン店などなど、なかなかバラエティに富んだ店舗があるのだ。というわけでいきなり1つ選べと言われるとなかなか決めがたい。優柔不断な性格というのは我ながら面倒なものだな。
「...まあハンバーガーでいいか」
うむ、迷った時は食い慣れているものを選ぶのが1番だな。やはりハンバーガーは至高。身体に悪いけどな。だが旨いものとは大抵身体に悪いものなのだ。チクショウ、世知辛い世の中だぜ。
そんな風に心の中で理不尽に文句を言いつつハンバーガーショップがある方へと歩いていく。自分で稼いだ金だし偶には高いメニューを頼んでやろう。さて、どれにしようかな。
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「いらっしゃいま...ってうわ! 亮じゃねぇか! こんなところで会うなんて奇遇だな!!」
ハンバーガーショップに到着。知り合い8号が現れた。
「翔...お前なんでバーガーショップの店員なんかやってんの...」
「いや、普通にバイトだけど」
「お前去年は3階で映画館の受付やってなかったっけ...?」
「あー、なんかアレ飽きたんだよ。だから今度は1階のバーガーショップに移動させてもらったわ」
「え、お前部活が忙しくて休みが不定期だから基本的に日雇いだろ...? そんな要望聞いてもらえるのか...?」
「俺の叔父がこのショッピングモールのオーナーなんだよ。それで『真面目に働いてくれるなら好きな時に好きな職場で働いていいぞ』って言ってくれてな。まあぶっちゃけコネだ」
日本ってクソだな。
「つーわけでお客さんよ、ご注文はどうする」
「ダブルチーズバーガーセット。ポテトはLサイズで飲み物はオレンジジュース」
「かしこまりー。あ、お客様、無料でスマイルのサービスも提供できますけどどうします?」
「男友達のスマイルとか死ぬほどいらん」
「チッ、つまんねぇな」
「おい、そこの店員。態度が悪いぞ」
「お会計は税抜きで850円になりやーす」
「税込で言えやクソが。え、えーと...消費税が10%だから税込は...」
「935円だな」
「税込も結局お前が言うのかよ! だったら最初から言えよ!!」
「ほら会計だ。はやく金を出せ」
「はぁ...じゃあ1000円から頼むわ」
そして俺はそんな翔のふざけた態度に呆れつつも財布の中から1000円札を取り出して代金の支払いを行った。
「...なぁ、亮、お釣りいる?」
「当たり前だろ!!」
「はっはっは、冗談だよ、冗談。そんなに熱くなるなって」
オイ、誰かこの店員クビにしろ。無駄なボケが多すぎるぞ。
「ほれ、お釣りの65円と番号札な。番号で呼ぶからその辺で待ってろ」
「あ、ああ分かったよ」
「ふっふっふ......」
「え、いきなりなんなの、そのニヤニヤした顔...腹立つな...」
なぜか謎のニヤケ顔を浮かべて俺の方を見つめ始める翔。マジでなんなんだよコイツ。もう注文終わっただろ。まだ何かあるのかよ。
...そして翔はニヤケ顔をキープしたまま最後に定番の台詞を言い放った。
「またのご利用お待ちしております」
二度と来ねえわボケが。
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フードコートでの昼食を終え、館内2階にある文房具屋に向かう。本当は文房具屋に寄るつもりはなかったのだが、昨日手持ちのノートの残弾がなくなったことを思い出したのだ。
というわけで現在俺はノートの補充目的で2階の文房具屋に向かっているのである。ついでにシャーペンも買っておくか。もうボロボロになってきたしな。
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「ノートってどこにあるんだろ...」
案内板を見ながら文房具屋に到着したのは良いものの、思いの外店内が広くてノートがどこにあるか分からない。なんか画材とか製図道具とかもあって無駄に店内が広い。ていうか文房具屋ならノートとペンは一目で分かるところに置いといてほしい。店内を歩き回って目当ての物探すのって地味にメンドくさいんだよな。
そして店内を歩き回ること数分。俺はノートが大量に並んでいる場所を発見した。
...そしてそこには俺がよく知っている少女が居た。
「え!? た、田島!? 田島がなんでこんなところに!?」
俺の姿を確認した途端に売り物のノートを両手に持ったままアワアワし始める少女。うむ、見慣れた光景だ。この子は意外と感情の上下が大きいからな。驚いた時は結構デカい声が出ちゃうんだよな。知ってる知ってる。
...つーか仁科唯じゃん。
「...お前ノート買いに来たのか?」
俺は仁科に話しかけつつ彼女の元へ歩み寄った。
「う、うん..まあそんなところかな...」
「奇遇だな。俺もなんだよ」
「...そっか。田島もなんだ」
「ああ、そうだ」
「...」
「...」
あれれぇー? おかしいぞぉー? 会話が続かないぞぉー?
ちょっと待て。何が起きた。いつもなら仁科から話題を広げてくるのに今日はそれがない。いや、まあ別にそれはいいんだけどさ、なんか今日は仁科がいつもより素っ気なくない? え、俺仁科に何かしたっけ? 別にそんな心当たりなんて...
いや、ちょっと待てよ...もしかしてこの前俺が仁科に電話した時に...
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『友達に頼られるのが迷惑なわけねぇだろ! つーか頼ってもらえたら嬉しいに決まってんだろうが!(キリッ)』
『お前にお節介だと思われようが、ウザいと思われようが俺は絶対にお前を見放さない!!(キリッ)』
『仕方ないだろ。カッコつけたいお年頃なんだよ(キリッ)』
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とか言っちゃったからイタイ子だと思われた!? いや、まあイタイよね! 通話終わった後に冷静になったらメチャクチャ恥ずかしくなったしな! その日の夜は変な汗出て枕が濡れちゃたしな! 枕は涙で濡らすものなのにな!! つーか『カッコつけたいお年頃』ってなんなんだよ! その言葉自体がもうメチャクチャダサいわ!!
「仁科...」
「な、なに?」
「ごめんなさい...」
「え!? なんで突然謝るの!?」
まるで川の水が流れるように。まるで時計の針が進むように。気づけば俺は超自然体で仁科に謝罪をしていた。
「え、急にどうしたの...? 田島に謝ってほしいことなんて何もないのに...」
「いや...なんか気づいたら息をするように謝罪の言葉が出ててな...」
「どういう人生を歩んだらそんな感情になるのよ...」
「さぁ...どういう人生なんだろうな...」
「ねぇ、なんで田島は私に謝らないといけないと思ったの...?」
そう言った仁科はいつもより少し真剣な表情で俺を見つめてきた。
「...いや、だから気づけば謝ってただけだって」
「嘘でしょ」
「本当だよ」
「嘘だ」
「本当」
「嘘!」
「本当!」
「嘘だよ。だってさっきからずっと私と目を合わせて話してくれないんだもん」
「本当...なんだよ...?」
俺は一瞬で負けた。
...え、でも本当のことなんて絶対話したくないんだけど。『イタイ発言をしてあなたに不快な思いをさせたかもしれないから謝った』とか言いたくないんだけど。だって恥ずかしいじゃん。謝ったんだからそれで許してくださいよ。お願いしますよ仁科様。
「私...田島に謝られるようなことなんてされてないのに...」
...おい仁科。それはずるいぞ。いきなりシュンとするのやめてくれよ。最近お前落ち込んでたみたいだからさ、そういう顔見るといつもより複雑な気分になるんだよ。
--はぁ...もうさすがに誤魔化しきれないか...
「...なぁ仁科、俺がお前に電話をかけた夜のことを覚えているか?」
「......うん、ハッキリ覚えてるよ。結構最近のことだし」
「あの時の俺ってさ、お前に色々なこと言ったじゃん?」
「...うん、そうだね」
「それでな、今思うと俺って結構偉そうなこと言ったと思うんだよ。あ、あとは、その...」
「ん...?」
「イ、イタイ事も言っちゃったかなぁー、なんて思ったり? お前に嫌な思いさせたんじゃないかなぁーとか思ったりして...」
「え、だから私に謝ったってこと...?」
「...はい、そうです」
「...」
「い、いや! なんつーの? あ、あれはついつい熱くなって色々言っちゃったんだよ! ほら! 去年俺が『初めて』皆の前で挨拶した時もイタイこと言っちゃってたじゃん!? ようするに男っていうのは熱くなるとイタイことを言っちゃう生き物なんだよ!! だから別にアレはカッコつけようとして言ったわけじゃなくてな!」
なんかメチャクチャ恥ずかしくなった俺は変な言い訳を並べまくっていた。いや、コレって言い訳になっているのかすら怪しいな。もうただの戯言じゃん。
「......ぷっ! あはははは! え、なに? 田島ってそんなこと考えてたの? ふふっ! おっかしーの!!」
...え、なんかメチャクチャ爆笑されたんだけど。
「別に私は嫌な思いなんてしてないよ。偉そうなことを言われたとも思ってない。励ましてくれて嬉しかったよ。田島には本当に感謝してる」
「お、おう...それは良かったです、ハイ...」
「ふふ、でもカッコつけてるなーとは思った」
「うわぁぁぁぁぁ!! やっぱりそうだったのかぁぁぁ!! 違うんだ仁科ぁぁぁ!! アレは思春期故の過ちなんだぁぁ!!」
「カッコつけたいお年頃なんだよね?」
「それ以上言うのはやめてくれぇぇぇ!!」
「ふふ、田島ってカッコつけようとしても全然カッコつかないよね」
「う、うるせぇよ...」
ふぅ...いつのまにか仁科がいつもの調子に戻ってくれたみたいだな...いや、俺はメチャクチャ恥ずかしい思いをしたわけだけども...でもとりあえずホッとしたわ...
「まあカッコつけようとしても上手くいかないのが田島らしいところなんだろうね。でも他の女の子にはイタイことを言っちゃダメだよ? また田島が恥ずかしい思いをすることになるからね」
「わ、わかったよ...つーかお前に言われなくても俺はもう2度とイタイ台詞なんか言うつもりはないからな...」
「いや、私にだけは言っていいよ? だって面白いし」
「いや、絶対言わねぇからな!?」
「えー、なにそれ。つまんないのー」
に、仁科め...最近落ち込んでたみたいだから気を遣ってたっていうのに...むしろ前より元気になってるじゃねぇか...はぁ...心配して損したな...
「...あ、いけない。私そろそろ行かないと」
「ん? どうした? 何か用事か?」
「うん。クラスの友達と映画を見る約束をしてるの。そろそろノートを買って映画館に行かないと」
「なるほどな。じゃあ今日はこの辺でお別れか」
「...うん、そうだね」
「またな、仁科。映画楽しんでこいよ」
「...うん、分かった。じゃあ私そろそろ行くね」
仁科は俺にそう告げると、くるりと体を回転させてレジの方へ歩き始めた。
...しかしなぜか彼女は3歩ほど歩いたところでまたこちらを振り返った。
ん? 仁科のやついきなりどうしたんだ? 何か俺に言い忘れたことでもあるのか?
そう思い、俺は仁科に声をかけようとした。
--だが、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「バイバイ! 亮! また学校で会おうね!!」
それはいつものように眩しい笑顔とともに言い放たれた別れの言葉。だがその台詞の中身はいつもとは少し違うものになっていた。
感想等、お待ちしております。




