忘れ物
続きでございます。
-side 田島亮-
「お前ら何やってんだ?」
やせいのRBIがあらわれた。ここは『ゆけっ! ポッ◯ャマ!』と言いたいところだったが、生憎俺には手持ちポ◯モンが居ないので普通に声を掛けることにする。
西「お、田島じゃないか。いやー、今日は珍しく部活が休みだからさ、吉原と脇谷を誘って3人でゲームしてんだよ」
亮「なんで駅前でゲームしてんだよ。誰かの家に集まればいいだろ」
脇「いやー、そうしたいところだったんだが俺たち3人全員の部屋のエアコンが壊れてしまっててな。暑すぎて敵わんから仕方なく駅に集まったというわけだ」
亮「いや、なんだよそれ。エアコンが3台同時に壊れてるって初めて聞いたわ」
まあコイツらの普段の行いが悪いせいなんだろうな(適当)
西「田島は今からどっか行くのか?」
亮「ああ。とりあえず隣町のショッピングモールまでな」
脇「...友恵ちゃんは連れて行かないのか?」
亮「は? 連れて行くわけねぇだろ。つーか今アイツ部活中」
脇「そ、そうか...」
え? もしかしてお前ちょっと落ち込んでる?
亮「...じゃあ俺そろそろ行くわ。またな」
西「おう。事故に遭わないように気を付けろよ」
脇「友恵ちゃんによろしくって伝えといてくれ」
吉「......じゃあな」
そして3人と別れの挨拶を済ませた俺は改札口へと向かうことにした。
...ってあれ? なんか吉原全然喋ってなくね? 何かあったのか?(※2学期・『RBI内乱編』へ続く)
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電車に数分間揺られた後、俺は隣町に到着した。
先程駅を出た俺の目の前には大型ショッピングモールが広がっている。今日の目的地はここだ。金さえあればそれなりに時間を潰せる施設。うむ、まさに金と暇を持て余している俺に都合が良い場所だな。中に映画館あるし。つーか去年岬さんと来たわ。
「...よし、じゃあとりあえず映画でも見に行くか」
確か最近一挙放送されていたアニメ、『星風学園探偵部の青春録』が映画化していたはずだ。まずはそれを見に行くとするか。
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......そしてin映画館。
「楽しみね! ダーリン!」
俺の右隣の席にアリス先輩。
「映画を見るのは久しぶりであります!!」
アリス先輩の隣には相川さん。
「それにしても田島とはよく会うネ。もしかしてオマエ私のストーカーアルか?」
そして相川さんの隣にリンさん。
......おい、マジでどうなってんだよ世間。狭すぎて圧死してまうわ。
〜10分くらい前〜
「よし、映画館到着っと。今日は券売機でチケットを買おうかな。去年岬さんと来た後に使い方覚えたし」
そう思いつつ俺は券売機の方へ向かおうとしたのだが...
「あー! 田島くんでありますー!!」
「まさか夏休みに二日連続で会うとは思わなかったネ」
「うふふ...こんなところでダーリンに会えるなんて...やっぱり私たちは運命の赤い糸で結ばれてるのね♪」
またまたまたまた知っている人達が3人並んで背後から現れた。
...はは、もう俺は驚かないからな。アレだろ? これ多分ドッキリか何かだろ? 今ちょうど俺をモニタリングしてるところなんだろ? 早く『大成功!!』の看板を持ったタレント出てこいよ。
「いやー、これはこれは。新聞部の皆さんではありませんか」
俺は驚かずに、むしろ悟りを開いたような心持ちで新聞部と向かい合った。
「あれ? 結構な偶然なのにダーリン普段より冷静じゃない? いつもならもっと驚いてる気がするんだけど」
「ま、まあ俺も成長してるってことですね。ほら、俺って成長期ですし」
「...フ、フン! その程度で威張らないでほしいネ! 成長期なのは田島だけじゃないアル!」
え、リンさん? なんでこのタイミングで俺にマウントとろうとするの?
「ワ、ワタシだって成長期アル! ほら! 去年よりも胸が大きくなったアr」
「はい、リンさんストップ」
俺は即座にリンさんの目の前に移動し、バイトの時と同じ要領で彼女の口を塞いだ。
つーか公共の場でいきなり何てことを言い出そうとしてんだこの子は! それと次バイトで会った時に色々意識しちゃいそうだからそういうこと言うのやめてくれマジで!!
「ぷはっ! またいきなり口を塞がれたアル!」
「すまないリンさん。君の名誉を守るためには必要な行動だったんだ。悪意は全くない」
「言ってる意味が分からないアル!!」
なんだろう...なんかこの子は放っておけないんだよな...俺が面倒見なきゃいけない気がするというか...小さい女の子を世話してる気分になるというか...
「......ずるいのであります」
「...え?」
「リンはずるいのであります! ワタクシももっと田島くんと仲良くしたいのであります!!」
するとリンさんの隣に居た相川さんが突然俺の袖を掴み、ほっぺたをリスのように膨らませながらこちらを見上げてきた。
「え、えーっと...相川さん?」
「瀬奈!!」
「はい!?」
「せ、瀬奈って呼ばないと許さないのであります!!」
え? この子もしかしてヤキモチ妬いてくれてる? 俺がリンさんとばかり喋るものだからそれがズルいってこと?
...え、何それ。かわいいんだけど。
「さあ田島くん! 早くワタクシを下の名前で呼ぶのであります!!」
「じ、じゃあ......瀬奈ちゃん」
「もう1回であります」
「せ、瀬奈ちゃん」
「えへへ、もう1回であります」
「瀬奈ちゃn」
「はい! ダーリンそこまで!!」
なんか突然アリス先輩による強制終了が入った。
「2人ともダーリンにくっつき過ぎ! ダーリンは私のダーリンなの! 映画も私の隣で観るの!! 上映中にうとうとしちゃってるかわいいダーリンを横から眺めたりするのも私なの!! ほら行くよ!!」
するとアリス先輩は俺の腕をぐいぐい引っ張って映画館の中へと歩き始めた。
「え!? ちょっとアリス先輩!? 俺まだチケット買ってないんですけど!?」
「どうせダーリンが見るのって『星風学園探偵部の青春録』でしょ? 大丈夫。ダーリンが瀬奈ちゃんたちと話し込んでる間にチケット4人分買ってきたから。元々私たちも同じやつ見る予定だったし」
「え!? 全員分買ってきたんですか!? お金はどうしたんすか!?」
「クレジットカードで一発!!」
「え!? 高校生なのにカード持ってんの!?」
「さあ行くわよ! ダーリンは私の隣の席ね!!」
「分かりました! 分かりましたから腕は引っ張んないで下さい! 自分で歩きますから!!」
「あー! 待ってくださいでありますー!」
「置いていかないで欲しいアルー!!」
こうして俺は新聞部員達と映画を観ることになったのである。
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結局俺とアリス先輩は半強制的に隣の席になったものの、上映中にアリス先輩からちょっかいを出されるということは特に無かった。いつものアリス先輩に比べると少しおとなしかった気がしたが、おそらく映画に夢中になっていたのだろう。
そして先程上映が終わり、劇場を出た俺たちは映画館のロビーで各々映画の感想を言い合っているところだ。
「いやー! 面白かったわね、ダーリン!!」
「はい。2時間でしっかりまとまってましたね。ファンとしては納得の劇場化でした」
「面白かったのであります! 2時間があっという間だったのであります!」
「ウチの学校には映画の中に出てきた『探偵部』なんて無いからネ。なんか探偵ごっこしたくなってきたアル」(※2学期・『みんなで探偵ごっこ編』に続く)
「ねぇダーリン、私たちはもう帰るけどダーリンはどうする?」
「あー、俺はちょっと寄りたいところがあるのでまだショッピングモールに残ります。残念ですが今日はここでお別れですね」
「...そっか」
「部長、そろそろ電車の時間アル。次の電車を逃すと結構待つことになるから急いだ方がいいと思うネ」
「そうね。じゃあ私たちはそろそろ行きましょうか」
「というわけで田島、今日はここでバイバイアル。次会うのは多分バイトの時になるネ」
「田島くんさようならであります! これからもワタクシのことは瀬奈って呼んでくれたら嬉しいのであります!」
「じゃあ私たちは行くわね。ダーリンもあんまり遅くならないうちに帰るのよ」
「分かりました。じゃあ皆さんもお気をつけて」
すると3人は俺の言葉にコクリと頷き、こちらに背を向けて歩き始めた。
「なんか...今日はアリス先輩がいつもより落ち着いてたよな...」
映画を観ている時に俺にちょっかいを出してくるわけでもなく、『遅くならないうちに帰るのよ』という、どこか先輩らしくない別れの挨拶。別に悪いことではないのだが俺はなんとなく今日の先輩に違和感を感じていた。
--そんなことを考えていた時だった。
「はぁ...はぁ...やっと着いた...」
息を切らしたアリス先輩が再び俺の目の前に現れた。おそらく走ってこちらに戻ってきたのだろう。
「はぁ...はぁ...はぁ...」
「えっと...どうしたんですかアリス先輩...? 劇場に忘れ物でもしましたか...?」
「はぁ...はぁ...うん、まあね...ちょっと『忘れ物』をしてたの...」
「あ、分かりました。じゃあ俺が店員さんに確認してくるんで、ここで待っててください」
そう告げた俺はアリス先輩に背を向けて受付に向かおうとした。
...しかしアリス先輩に背を向けた俺は背後から彼女に肩を掴まれて前に進むことができなかった。
「アリス先輩...?」
しかし俺が問いかけても先輩は答えず、今度はなぜか俺の耳元まで顔を近づけてきた。
...そして彼女は甘い声で俺に囁く。
「今度は2人で観に来ようね♡」
...それはまさに童貞を瞬殺する破壊力だった。
「な、な、な、な、な...!!」
振り向いて先輩と向かい合うも、突然のことに動転して何も言えないクソ雑魚な俺。
「ふふ、やっとドキドキしてくれた。今まで我慢してた甲斐があったかな」
「え...じ、じゃあまさか今日の態度がいつもと少し違ったのって...」
「うん、全部この瞬間のため。最近なかなか照れてくれないダーリンをドキドキさせるための作戦だよ」
...完全にやられた。新聞部と関わり始めてからは出会ったばかりの時よりも先輩がおとなしかったから完全に油断してた。なぜ俺は忘れていたんだ。この人はもともと『こういう人』だったじゃないか。
--自分の魅力に絶対的な自信を持ち、好意をためらわずに表現する。それが渋沢アリスという女の子なんだ。やはり出会った時からこの人の根っ子は変わっていない。
...そして去り際に彼女は言う。
「私がさっきダーリンに言った言葉。それが今日の私の『忘れ物』だったんだよ♪」
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