しりとりの鬼
今回は少し短めです。ご容赦ください。
-side 田島亮-
リンさんが合流した後、店主の爺さんは俺たちに仕事内容を一通り説明してくれた。
「お前さん達にやってもらいたい仕事は今説明した通りじゃ。何か質問はあるかい?」
「いえ、特にありません」
「ワタシも無いネ」
「じゃあ早速仕事に取り掛かっておくれ。といっても今は客が居ないからお前さん達がやることは特に無いんじゃがな! ガッハッハッハ!!」
「あ、あはは...」
「え、だったらオマエは別にワタシ達を雇う必要なんt」
「はい、リンさんストップ」
リンさんは相変わらず心の声がダダ漏れになってしまうようだ。ならば彼女のお口がやらかす前に俺が止めねばなるまい。というわけで俺は咄嗟に彼女の口を手で塞いだ。
「ぷはっ! いきなり何するアル!」
「店長! 仕事内容は覚えましたからあとは俺たちに任せてお休みになって下さい!」
「オイ田島! なんで無視するネ!」
「さあ店長! 早くお休みになって下さい!!」
「ほっほっほ、お前さん達は随分仲が良いようじゃな。じゃあ後は任せるわい。レジの前に椅子を2つ用意しておいたから使っておくれ」
すると爺さんは俺たちを一瞥してから2階の住居スペースへと戻っていった。
「リンさん、店長が椅子用意してくれたみたいだからとりあえず座ろっか」
「......フン、分かったアル」
どうやら俺に突然口を塞がれたリンさんは少々ご機嫌ナナメなようだ。
「.....よっこらせっと」
「オイ田島、なんでいきなり私の口を塞いだネ」
レジ前の椅子に座った瞬間、すぐに隣のリンさんから質問が飛んできた。
「ごめん、リンさんがちょっと失礼なこと言いそうになってたから、つい...」
「別に仕事が無いならワタシ達を雇う必要なんて無いと思っただけアル。人件費がもったいないネ」
「いや、まあ確かにそれはそうなんだけど...」
この子って良い意味でも悪い意味でも素直過ぎるんだよな。嘘はつかないけど正直過ぎるというか。まあ悪気は無いと思うんだけど。
「一応店長は目上の人だからさ。『オマエ』って呼ぶのはやめた方が良いかもね」
まあこの子はまだ日本語に完全に慣れているわけではなさそうだからな。これから少しずつ礼儀を学んでいけばいいだろう。
「目上の人に『オマエ』はダメ......うーん、じゃあ『貴様』って呼べばいいアルか?」
より悪化してますね。
「でもまさか田島と同じバイトをすることになるとは思わなかったネ。偶然って怖いアル」
「はは、ほんとそうだよね。でもリンさんはどうしてこのバイトをやろうと思ったの? あんまり稼げるバイトじゃないよね?」
「ただの暇つぶしネ。それと無料で駄菓子が貰えそうだと思ったからアル」
はは、動機は俺とあんまり変わらないみたいだな。
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「.....暇ネ。オイ田島、何か面白い話するアル」
「いや、確かに思ったより暇だけど...いきなりそんな無茶ぶりされましても...」
現在時刻は14:30。勤務開始から約2時間が経過した。
客が来ない。マジでやることが無い。なぜあの爺さんは2人もバイトを雇ったのだろうか。
「じゃあしりとりでもやる?」
「2人だとそんなに盛り上がらない気がするネ」
「あー、まあ確かに...」
「しりとり」
結局やるのか。
「じゃあ、リンゴ」
「ゴール」
「えーっと...ルビー」
「ビール」
「ル...ルンバ」
「バール」
「ル、ル、ル......ルール」
「ル○ズ・フランソ○ーズ・ル・ブ○ン・ド・ラ・ヴァ○エール」
「『ル』攻めするの早くない!? ていうかそれって『ゼ○の使い魔』の主人公のフルネームだよね!? なんで覚えてるの!?」
「こんなの一般常識アル」
随分と歪んだ一般常識だな......
「さあ田島、次はお前の番アル。『ル』攻めはやめてあげるから早く続きをやるネ」
「はは、分かったよリンさん」
結果的に俺たちは勤務時間が終わるまでの間ずっとしりとりをすることとなった。
...うん、15歳より前の記憶無いけど多分人生で1番長い間しりとりしたわ。まあ結局最後はリンさんの『ル』攻めをもう一回喰らって負けたんだけどな。でも意外と楽しかった。
まあ労働した実感は一切湧かなかったんだけどな。
次回も夏休みの話です。
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