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先生がチョロ過ぎる

続きです。

-side 田島亮-


 期末テストが終わり、部活動が再開された我が校にはいつも通りの賑やかな放課後が戻ってきた。


 陸上部の掛け声。金属バットの音。合唱部の歌声。吹奏楽部が奏でる音色。



「コラ、田島! なんだこの答案は! ふざけているのか!」


 

 そして空き教室で奈々ちゃん先生のお叱りを受けている俺。



 ......最後のはいつも通りじゃねぇな。



「おい田島、どうしてこんな答案になったのかワケを聞かせてもらおうじゃないか」


「い、いやー、なんて言うんですか? 先生っていっつも『空欄はできるだけ作るな』って言ってるじゃないですか」


「...まあそうだな」


「それで今回の世界史ってめっちゃムズかったんすよ」


「...らしいな」


「だから空欄を埋めようとした結果、そういう答案が完成しました」


「だとしてもお前はふざけ過ぎだ! 『ボラギノール条約』ってなんなんだよ! こんな回答初めて見たぞ!」


「『ファブリーズ協定』とか『エリエール国際会議』とか『ライザップ同盟』とかも書いた気がします」


「お前の回答のバリュエーションはどうでもいいんだよ! どうしてこんなことを書いたんだ!!」


「いやー、なんか思いついたカタカナ書けばワンチャンあるかなって思って」


「そんなのノーチャンスに決まってるだろ...」


 まあ回答時間が余り過ぎて暇だったから書いただけなんだけどな。


「でもなんで先生が俺の世界史の回答持ってるんですか? 先生って国語担当ですよね?」


「補習を受けて赤点は回避できるようになったようだが、田島の学力にはまだまだ問題があるからな。担任としてお前の点数の変動には常に気を配っているんだよ」


「はは、先生俺のこと好き過ぎでしょ」


「そんなこと言ってないだろ!!」


「え、じゃあ先生ってどんな男が好みなんですか?」


「...え?」


「いや、最近思うんですよ。先生に男が居ないのは先生の理想が高過ぎるからなんじゃないかって」


「今そんな話してたっけ...? ていうか生徒が勝手に教師の分析をするんじゃない! そもそも私の理想はそんなに高くないからな!」


「え? そうなんですか?」


「......多分」


「よし、じゃあ先生に質問です。もし結婚するなら年上と年下、どっちがいいですか?」


「さっきから何なんだよお前は!」


 補習の時間を潰すための時間稼ぎです。普段は真面目に補習受けてるけど、さすがにテスト直後に勉強できるほど俺は良い子ちゃんじゃないんです。


「ま、まあたまには世間話も良いじゃないですか。テストも終わったことですし」


「確かにテストの翌日に補習っていうのも可哀想な気はするが...」


「それで? 先生は結局どっち派なんですか?」


「......年下派」


 普通に答えてくれるのか。この人意外とチョロいな。


「やっぱイケメンの方がいいんすか?」


「い、いや、別に顔はあんまり気にしてない...」


「じゃあどんな人が良いんですか?」


「え、えーっと、それは...い、一緒に居る時に気を遣わなくてもいいような人...かな...」


 この教師、既に顔が真っ赤っかである。


「はは、先生って意外と乙女なんですね」


「う、う、うるさい! さ、さっきから何なんだよお前は!」


「今の話をまとめると先生は結婚するなら『年下で一緒に居る時に気を遣わなくてもいい男』が良いというわけですね。ふむふむ、なるほど、なるほど......え、それ俺じゃね?」


「は、はぁ!? な、なんでそうなるんだよ!」


「いや、だって俺って先生より年下だし結構ゲンコツ喰らってるから気を遣われることもなさそうじゃないですか」


「そりゃ教師と生徒の間柄だからな!」


「試しに俺と結婚してみます?」


「アホか! できるわけないだろ! 良い加減にしろ!」


「あ、すいません。確かにできませんよね。俺まだ17歳ですもんね」


「いや、年齢の話をしてるわけじゃないからな!!」



 いやマジでこの先生面白いな。話しててホント楽しいわ。



ーーー-------------------





「なんか急に眠くなってきたな...」


 柏木先生との補習おしゃべりを終えて直帰した俺はベッドに寝そべってモンスターをハンティングしていた。だがテスト直前に徹夜で知識を詰め込んでいたせいで俺の体力は限界を迎えたようだ。


 マジでヤバイ。バチクソ眠い。


「もうこのまま寝るか...」


 そう思って俺は目を閉じようとした。


 ...しかし、『バタン』という音と共に部屋の扉が開き、突然マイマザーが現れた。


「ねぇ亮、明後日から夏休みだけどアンタこれからどうするつもりなの?」


「え、夏休み? 別に何もするつもりないけど。つーかノックくらいしろよ」


 夏休みの暇を持て余すのは帰宅部の特権だ。学校から課題が出るだろうから何もしないというわけにはいかないかもしれないが、外に出て何かをするつもりは特に無い。だって暑いの嫌だし。



「じゃあアンタ、夏休み中はバイトしなさい」


「......は?」


「『は?』じゃないわよ。バイトしなさいって言ってんの」


「え、なんでよ」


「ウチにニートを住まわせるつもりは無いからよ」


「え、でも俺まだ学生...」


「夏休み中のアンタはニートみたいなもんじゃない。友恵は暑い中部活頑張ってるんだからアンタもバイトくらいしなさいな。言っとくけど口答えは許さないわよ」


「え...ああ、はい...分かりました...」


「よし、じゃあもうすぐご飯出来るからそろそろ一階したに降りてきなさい」


「...うっす」


 すると母は少し駆け足で再び台所へと戻っていった。


 

「バイトか...ダルいな...」


 まあ確かに金が欲しくないというわけではない。欲しいゲームとか結構あるしな。夏休みにガッツリバイトすればそれなりに懐が潤うだろうし、まあそれ自体は良いことだと思うんだよ。

 

 でも俺は超絶インドア派なんだよ。基本的に学校に行く時以外は外に出ないし。つーか休日は誰かから遊びに誘われた時以外はほとんど部屋から出ないし。炎天下の中で労働するくらいなら金なんて別に欲しいとは思わない。それよりも怠惰を極める時間の方が欲しい。



「はぁ...なんか楽そうなバイトがあれば良いんだけどな...」



----------------------



 夏休み初日の水曜日。見つました、超楽そうなバイト。


 そのバイトの名は駄菓子屋店員。


 時給は最低賃金で、店主のじいさんが休養している水曜日にしかシフトを入れることができない。しかし、仕事内容がレジ打ちと商品整理のみ。しかも1日に来る客の量はべらぼうに少ないときた。金をガッツリ稼ごうと思っておらず、純粋に楽をしたい俺にとっては好条件なバイトである。


 というわけで現在俺は近所の小学校の裏にある駄菓子屋へ向かっている。一応事前に駄菓子屋に電話をかけたのだが、『とりあえず水曜の12時に店に来ておくれ』と言われただけだったのだ。


 まあ個人経営の駄菓子屋だ。週1で給料も高くないし他にこのバイトをやろうとする奴なんて居ないだろう。多分面接無しで一発採用だろうな。



----------------------



 家を出て10分程歩くと『田中駄菓子』という看板が掲げられた古風な店が見えてきた。まさに『昭和の駄菓子屋』という感じの見た目で、周囲の建物と比べると一際ひときわ異彩を放っているような印象を受ける。


 よし、とりあえず中に入ってみるか。


「...誰もいないみたいだな」


 引き戸を開けて店内を見回してみたが、どうやら中には客も店主の爺さんも居ないようだ。


「ごめんくださーい」


 このままだとらちが開かないので少し声を張って店内に呼びかけてみる。


 すると店の奥から杖をついた白髪の老人が現れた。


「お前さんがウチで働こうっていう高校生かい?」


「は、はい。先日そちらに電話させていただいた田島亮と申します」


「ほっほっほ。少年よ、そんなにかしこまらなくてもよいぞ」


 店主の爺さんは電話をかけた時に抱いたイメージよりも温和な人だった。


「いやー、ダメ元で短期のバイト募集をかけてみたのじゃが、まさか学生さんが2人もウチに働きにきてくれるとは思ってなかったわい」


「......え? ここのバイト希望してるのって俺だけじゃないんですか?」


「もう1人高校生の女の子が来る予定じゃ。そろそろ来るはずじゃぞ」


 ...え、ちょっと待って。何それ聞いてないんだけど。週1の駄菓子屋のバイトなんて誰もやらなそうだから勝手に俺1人だと思ってたんだけど。しかも女の子かよ。全然知らない女の子と2人でバイトとかハードル高過ぎなんだけど。


 えぇ...なんか急に不安になってきたな...



 そして狼狽うろたえること数秒。爺さんが言った通り、背後から『ガラガラガラ』という引き戸の音とともに店に1人の女の子が入ってきた。







「遅れてゴメンなさいアル! ラノベ読んでたら家出るのが少し遅くなったアル!」



 めっちゃ知ってる女の子だった。

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