カッコつけたいお年頃
祝、レールガン3期放送開始。
ていうか、いつのまにか自分が上条より年上になっててビビる。
それでは続きです。お楽しみください。
-side 田島亮-
翔からメッセージが届いていることに気づいたのは夕食を終え、自分の部屋に戻った後だった。
『なんか合宿に来てから仁科の様子がおかしい。俺から声を掛けたいところだが、民宿では男女が隔離されてる上に俺たち男子は毎晩バカ騒ぎしてるからなかなかアイツとゆっくり話す機会が作り出せない。だからお前から仁科に少し声を掛けてみてくれないか? アイツに一言メッセージ送るだけでもいいからさ』
翔にしては珍しく長文のメッセージだった。それだけ仁科の様子がおかしいということなのだろう。
『了解、晩飯終わって暇になったから今からメッセージ送っとくわ』
翔にすぐさま返信をして画面を仁科唯のトーク欄に切り替える。普段はあまり暗い感情を他人に見せない仁科の様子がおかしいというのは少し心配だ。早速何かひと言送ってみることにしよう。
...と思っていたのだが。
「どんな言葉を掛ければいいんだ...」
送信する内容が全く思いつかない。
そういえばいつも会話を始めるのって大体は翔か仁科からだったな...うわ、マジでどう声を掛ければいいのか全然わかんねぇ...俺って意外とコミュ力無いのかも...
記憶喪失直後は謎のスーパーコミュ力お化けモードを発動し、ある程度の人間関係を築けた俺であったが、今思い返すとそれ以降は基本的に話の聞き手となることが多かったように思う。
別に意識的に聞き手になろうとした訳ではない。俺の周囲の人間が個性派揃いであるため、基本的に俺から話を始めなくてもガンガン会話が進むのだ。結果、俺はボケまくる友人達にツッこむことが多くなったというわけである。
「しかし何と声を掛ければよいのやら...」
『何か悩みがあるなら相談に乗るぞ?』とかでいいのか? いや、それだと話が唐突過ぎる気がするな...
うーん...『合宿の調子はどうだ?』とかでいいか。これなら一応自然な流れで仁科の様子を伺えるような気がするしな。
しかしここまで考えた俺の脳裏に突然、去年仁科が放った『ある言葉』が過る。
『私、本当は結構臆病で傷付きやすいし泣き虫なの。臆病で友達が離れていくのが怖いから普段は『明るい人気者の仁科唯』を演じているの』
普段の自分は本当の自分では無いと。でも本当の自分を知られるのが怖いから偽り続けるしかないのだと。そう言って儚げに笑った彼女のことを思い出す。
「......電話してみるか」
何を話そうか、なんて全然考えていない。仁科がどんな悩みを抱えていて、どんな言葉を伝えればその悩みが解決されるのか、なんて俺には全然分からない。そもそも平々凡々の俺が才能に恵まれた仁科の力になれるのかも分からない。
それでも友人として、仁科唯と深く関わる者として俺はせめてアイツの本音を受け止めるくらいのことはできるかもしれないと思ったのだ。
俺が記憶を失っても今まで楽しく過ごして来れたのは仁科と翔がいつも近くに居てくれたおかげだ。アイツらがいつも俺の傍でくだらない話をしてくれたから俺は1人で暗いことを考えて塞ぎ込まずに楽しく過ごすことができた。そしてまた一歩ずつ前に進もうと思うことができたんだ。
ーーだからこれからは俺がアイツらに俺が恩返しをしていく番だ。
「...まあ気負い過ぎかもしれないけどな」
そう思いつつ俺は携帯の発信ボタンを押したのだった。
-side 仁科唯-
「ど、ど、ど、どうしよう! ていうかなんでこんなタイミングで田島から電話かかってくんのよ!?」
鳴動する携帯を両手で握りしめたままベランダで慌てふためく私。
「お、落ち着け私...落ち着くのよ...相手は田島...いつも話してるヤツなんだから...今さら電話なんかで緊張することなんて無いわ...!」
そう自分に言い聞かせ、フゥーッと軽く息を吐いた私はなるべく平静を装うことを意識しながら画面の通話ボタンを押した。
「も、もしもし田島? き、急にどうしたの? こんな時間に電話なんて珍しいじゃにゃい」
うっ、思いっ切り噛んだ...
「......お前猫好きだったっけ?」
「違うから! そういう意図の話し方じゃないから! 噛んだだけだから!!」
「はは、冗談だよ、冗談。それで最近どうだ? そっちでは元気にやってるか?」
「げ、元気......かな」
「なるほど。元気が無いのか」
「いや、だから元気だって言ったよね!?」
「嘘つけ。だったらもう少し明るい声を聞かせてみろよ」
「......LED?」
「違う。確かに明るいけどそういう意味じゃない」
さすがに誤魔化せなかったか...
「...何か悩みがあるなら相談に乗るぞ?」
「...」
この時、私は優しく語りかけてくれた田島にすぐに返答することが出来なかった。
...確かに最近部活が上手くいかないという悩みはある。入浴中に東雲先輩から『今はちょっと調子が悪いだけだよ!』と言って貰えたのはとても嬉しかったけど、どうも私は先輩みたいに上手く切り替えることができない性格みたい。だから明日からまた練習が始まることを考えるとまだ少し憂鬱になっちゃうのよね。
でも私はどうしてもこのことを気安く田島に相談する気にはなれなかった。
ーーだって田島も今まで色んな悩みを抱えてきたはずなのに私は未だにアイツの力になれていない気がするから。
『そんな先輩たちのことなんて気にするな。あの人達はお前の才能に嫉妬しているだけだ』
あの時も。
『お前はもっと堂々としていいよ。少なくとも俺はお前が頑張ってること知ってるからな』
あの時も。
『頑張ってる仁科の事を悪く言う奴は誰であろうと俺が許さねぇから』
......あの時も。
私は田島に勇気をもらってばかりだ。
だから田島に何も返せていない私がこれ以上アイツを頼って迷惑をかけるのは嫌なのよ。
-side 田島亮-
『悩みがあるなら相談に乗るぞ?』と仁科に言ってはみたものの、なぜか沈黙が流れて微妙な空気になってしまった。
...え、俺なんかマズイこと言った?
やっぱ唐突に悩み聞くのとかダメだった? ていうかそもそも仁科に悩みとか無かったりする? でもなんか声に元気が無かったから何か悩んでそうな気はするしな...
そんな風に迷っていた時だった。
「な、悩みはあるけど...た、大したことないから! 自分で解決できるから!」
明らかに取り繕ったような仁科の声。やはり翔が言っていた通りどこか様子がおかしい。
「その悩みって俺に言いたくないようなことなのか?」
「い、いや、別にそういうわけじゃないんだけど...」
「じゃあなんで話さないんだよ」
「い、いや、それは......な、なんか私個人の悩みでアンタに迷惑かけるのは嫌だな...みたいな」
...は? 迷惑? もしかして仁科は自分の悩みに俺を付き合わせることを迷惑なことだと思ってんのか...?
「はぁーー......」
仁科の言葉を聞いて思わず漏れ出すクソデカ溜息。
「な、なによ! その溜息は!」
「バーカ」
「バッ!? い、いきなり何よ! ていうか田島にだけはバカって言われたくないんですけど!」
「いや、今回に限って言えばお前は俺よりバカだな。だってお前は誰でも分かるような当たり前のことを分かっていないんだから」
そう、仁科は当たり前のことを分かっていない。翔や俺でも分かるようなことをコイツは分かっていない。
「な、何よ。私が分かっていないことって」
そして彼女の本音と向き合う前に俺はまず自分の本音を伝えることにした。
「友達に頼られるのが迷惑なわけねぇだろ! つーか頼ってもらえたら嬉しいに決まってんだろうが!」
-side 仁科唯-
「...」
いきなり『頼ってもらえたら嬉しい』なんて言われると思っていなくて。驚いたけどなんだか心が楽になった気がして。
...色んな感情が湧き出た私は何も言葉を返すことが出来なかった。
「俺は仁科が本当は臆病で打たれ弱いっていうのを知ってるから友達として放っておけないんだよ。もしかしたら誰にも弱音を吐き出せなくて1人で苦しんでるんじゃないかとか考えちまうんだよ」
田島...私が去年言ったことをちゃんと覚えてくれてたんだ...
「これは俺の考えすぎなのかもしれない。もしかしたらお前にとって俺はお節介なヤツに見えるかもしれない。でもな、お前にお節介だと思われようが、ウザいと思われようが俺は絶対にお前を見放さない!!」
「...!」
「...だからもしも仁科が1人で抱え込んでいることがあるなら話してくれないか? 俺でも少しなら力になれるかもしれないからさ」
その偽らざる本音に。私に真っ直ぐ向けられた言葉に私は心を打たれてしまった。
「...ふふ、うふふふ」
そして思わせぶりなことを平気で言ってしまえる田島と話していると、本当の自分をひた隠しにしている自分がなんだがバカバカしく思えて少し笑ってしまった。
「なぜそこで笑う」
「いや、なんか珍しく田島がカッコつけてるなーって思って」
「仕方ないだろ。カッコつけたいお年頃なんだよ」
「ふふ、何よそれ」
田島は本当に自分勝手だ。だっていっつも自分が言いたいことを包み隠さず全部伝えちゃうんだから。
「......カッコ良かったよ」
少し気持ちが昂った私はアイツに聞こえないように携帯を少し顔から話して普段言えないような言葉を呟いてみる。
「...今何か言ったか?」
「いや? 別に何も?」
「...そうか」
「ねぇ田島」
「...なんだ?」
「あのね、実は今悩んでることがあるの。ちょっと相談に乗ってくれないかな?」
そして誰かさんのせいで心を動かされた私は、また以前のように自分の悩みを打ち明けることに決めたのであった。
次回、合宿編完結(予定)




