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かわいい後輩

ここで一句。クリスマス

      非リア達は

      悲しみます  Taike


以上、独り身の嘆きの一句でした。


それでは続きをどうぞ。

-side 田島亮-


 習慣とは不思議なものだ。毎朝7時に起きるという生活を続けていれば、アラームをかけてなくても大体その時間に目が覚めるようになるし、『学校行くのダルいなぁ』とか頭で思っていても、気づけば体は勝手に身支度を整え始めている。『昨日と全く同じ今日』というのは無いが、『昨日とあまり変わらない朝』っていうのは結構ありふれていると思う。


 まあ要するに個人差はあるとはいえ、一般的な高校生は毎日『いつも通りの朝』というのを繰り返しているわけだ。起きて、飯食って、そして学校に行く。朝にやることなんてそれくらいだ。



 しかし、今朝の俺が体験したのはそんな『いつも通りの朝』とは少し違っていた。




「え、えっと......お、おはよう兄貴」


「......おはよう、友恵」


 目が覚めたらなぜか部屋に妹が居たのである。




「......YOUは何しに兄部屋へ?」


「え、えっと...それはその...」


 制服姿の友恵は部屋の中央で突っ立ったまま何やらモジモジしている様子。


 ...なんだよ可愛いなお前。お前のお陰でちょっと目覚めてきたわ。




「...こ、これで昨日のやつはチャラだから!!」


「......は? どういうこと?」


 昨日のやつ? 俺がうっかり友恵の着替えを見ちゃったことか? でもそれがチャラってどゆこと?



「...だ、だから! 今朝は私がノックせずに兄貴の部屋に入ったから! こ、これでチャラで良いって言ってるの!!」


「...ほう」


 ふむふむ、なるほど。つまり今日は友恵さんがノックせずに俺の部屋に入ったと。そしてさっきまで俺の寝顔を勝手に眺めていたから昨日のことはそれでチャラで良いと。なるほどそういうことか。


 ......え、なにその主張。かわいいなオイ。ちょっと萌えるんだけど。



「友恵...」


「な、なによ」


「...生まれてきてくれてありがとう」


「は!? いきなり何なの!?」


 しまった。ついうっかりこの尊い命が誕生したことに感謝の意を表してしまった。




「...じゃあ私先に学校行くから」


「おう、いってらっしゃ...ストップ友恵。ちょっと話がある」


「今度は何よ...」


「明日からも俺を起こしに来てくれよ。毎朝50円払うからさ」


「え、何その絶妙な価格設定... うわ、どうしようかな... 毎朝50円かぁ...」


 軽い冗談のつもりだったんだけど意外と真面目に検討してくれるのな。

 

「話っていうのはそれだけ?」


「いや、それだけじゃない。つーか今のは軽いジョークだ。本題は別にある」


「...本題?」


 そう、色々あって忘れかけていたが、元々俺は友恵に用事があったから昨日わざわざ部屋まで訪れたのだ。アンラッキースケベ(着替え中の妹に遭遇)のせいで昨日は用件を伝えられなかったが、今日は機嫌を直しているみたいだしここで友恵に用件を伝えても問題無いだろう。



「...なあ友恵、3年の渋沢アリス先輩って知ってるか?」




-side 渋沢アリス-


 ダーリンとの勉強会の翌日の朝、教室の自分の席に着いた私は意外な人物からメッセージが届いていることに気づいた。


 

『初めまして。天明高校1年の田島友恵と申します。失礼かとは思いましたが、先輩の連絡先を兄から伺い、こうして直接連絡させていただきました。取材の件についてですが、テスト期間の昼休みはどうしても外せない用がありますので本日18時に弓道場で、というわけにはいかないでしょうか。私の都合で突然連絡してしまい本当に申し訳ありません』



 なんとメッセージの送り主はダーリンの妹ちゃんだった。


 ...ていうかこの子めちゃくちゃ礼儀正しいわね。取材頼んでるのはこっちなのに超腰低いし。しかも空いてる時間まで教えてくれたし。


 うーん、放課後に弓道場...か。まあ私も放課後は特に用事もないし友恵ちゃんの提案は悪くないわね。なんで弓道場を指定されたのかはよく分かんないけど。ていうか彼女の提案を受けるべきよね。テスト期間に取材しようとしてるこっち側にも問題があるんだし。部活生って忙しいからテスト期間にしかインタビューできないっていうのが辛いところなのよね...


 まあ今そんなことを考えても仕方ないわよね。とりあえず返信するとしますか。


『うん、分かった! じゃあ今日の18時に弓道場で!』


 よし、これでOKっと。





-side 田島亮-


 昼休み。いつもなら翔、仁科、俺の3人でくだらない話をしながら弁当を食っている時間だ。


 しかし今日の昼休みに翔と仁科の席に座っているのは別のクラスの人物だった。



「おー、3組って俺らのクラスよりかわいい女の子多いな! なぁ、脇谷!」


「そうだな西川。だが今の俺は友恵ちゃん以外の女の子に興味は無い。彼女に比べればこのクラスの女子など有象無象に過ぎない」


 なぜか脇谷と西川がわざわざ俺のクラスに来たのである。


亮「えーっと...なんでお前ら3組に居るの?」


西「いや、新島と仁科が居ないから田島が寂しがっているかなと思って」


脇「あいつらすげぇよな。指定強化選手に選ばれたんだもんな。俺らも一応駅伝部だけどあの2人はやっぱり別格だわ。でも合宿があるのを理由にしてテストをサボるのは許せん」


亮「まあそれに関しては同意だな。なんでこんな時期に指定強化選手の合宿をやるんだろうな。俺たち学生の本分は勉強だろ」


脇、西「「どの口が言ってんだよ」」



 そう、今はテスト期間であるのにも関わらず仁科と翔は長距離走の指定強化選手が集う合宿に参加しているのだ。柏木先生曰く、この合宿は今年度から始まったものだとか。『これからの陸上会を担うであろう高校生たちがお互いに刺激し合い、高い意識を持ってもらう』というのが目的らしい。


 仁科には先日、『ごめん! 一緒に勉強する予定だったのに急にダメになっちゃった!』と言われたが、俺はあまりそのことは気にしていない。むしろ自分の友人の凄さを改めて実感できて誇らしい。まあ、ちょっと寂しいのは事実だけど。



西「なぁなぁ、田島。ちょっといいか」


亮「なんだよ西川」


西「今から俺がお前にいくつか質問をする。お前はその質問全てに『田島だよ!!』という台詞で返答してくれ」


 こいつはいきなり何を言っているんだ?


西「では行くぞ」


亮「...おし、来いや」


脇「お前西川のノリに対応するの早すぎじゃね?」


西「...あなたって確か川島さんですよね?」


亮「田島だよ!!」


西「あ、分かった。西島さんだ」


亮「田島だよ!!」


西「え、野島さんだったっけ?」


亮「田島だよ!!」


西「じゃあ新島?」


亮「田島だy......ってなんだよコレ!」


西「いや、なんかこの前テレビでさ、やたらと『児島だよ!!』って言ってる芸人がいたんだよ。だから一回同じようなことをやってみたかったわけ。えーっと、あの芸人誰だったっけ? チュート◯アルだっけ?」


 違う、アンジ◯ッシュだ。今すぐ渡部と大島に謝れ。



亮「はぁ...なんか結局いつもの昼休みと大して変わらない気がするわ...」


脇「いつも通りか。良いことじゃないか」


西「そうだぞ田島。結局のところ平穏な日常というのが1番尊いものなんだぞ」



 ......まあそうかもな。つーか西川、お前いきなり良いこと言うのやめろや。




-side 渋沢アリス-


 現在時刻は18時。友恵ちゃんに指定された時刻になった。というわけで新聞記者のアリスちゃんは現在弓道場の入り口前に居ます。


 うーん、なんか緊張するなぁ...2年以上この高校に居るけど弓道場って入ったことないのよね...弓道場ってなんか厳かなイメージがあるからちょっと入りづらい...


「...まあ今そんなこと考えても仕方ないわよね。とりあえず入るとしますか!」


 そして意を決した私は弓道場の扉を開くことにした。


「へ、へぇー、弓道場って意外と広いのね...」


 扉を開けて私の目に飛び込んできたのは想像していたよりも少し大きな弓道場だった。


 横長に広がった板間の射手用スペース。そしてその先に広がる広大な芝生。さらに芝生の奥には練習用の的が9つ。強豪とはいえない天明高校の弓道部にしては十分設備が整っているように思える。


 そしてそこには弓を構える1人の少女の姿があった。


「......」


 真っ直ぐに的を見据える目。そして微動だにしない細身の身体。堂々とした袴姿の少女に思わず見入ってしまう。


「ふぅ......」


 そして軽く息を吐いた少女から放たれた矢は見事に的の中心に命中した。





「え、えーっと......渋沢アリス先輩ですよね?」


「...え!? あ、うん、そうだよ! き、今日はよろしくね!」


 構えを解いた少女に声を掛けられて現実に引き戻される。いけないいけない。弓道を見るのなんて初めてだったから完全に見入っちゃったわね。


「あ、そうだ。このまま立ち話するのも疲れますし、イス用意しますね。少々お待ち下さい」


 友恵ちゃんはそう言うと弓道場の奥へ駆け足で向かい、パイプ椅子を2つ抱えてこちらに戻ってきた。


「なんかゴメンね...押し掛けたのはこっちなのにイスまで用意してもらって...」


「いえいえ、私は後輩ですから。これくらいは当然のことですよ!」


 あらやだ、何この子。超良い子じゃない。


「よし! じゃあ早速インタビューを始めるわね!」


「了解です。今日はよろしくお願いします」



----------------------



 友恵ちゃんが椅子に座ったのを確認した私は早速話を始めることにした。


 よし、まずは取材にあまり関係ない軽い話から始めようかな。2つ上の先輩と話すのってやっぱり緊張するだろうし。


「いきなりなんだけどさ、友恵ちゃんって私のこと知ってた?」


「はい、一応...なんていうか、その...渋沢先輩は有名人なので...」


 ...え? そうなの? (※自覚無し)


「そういえば友恵ちゃんは今日はどうして弓道場に居たの? 確かテスト期間って自主練も禁止になってるよね?」


「あ、やっぱそこ気になりますよね。実はテスト期間に弓道場を使えるように顧問の先生に私から頼んだんですよ」


「なるほどね...でも弓道場って頼んだら使わせてもらえるものなの? ウチの先生って結構厳しいよね?」


「まあそうですね。だから最初は普通にダメだって言われました。でも何回も頼み込んだら条件付きで使用許可をもらえたんです」


「...条件? それってどんな内容?」


「定期テストで1位をキープし続けることです」


「...え!? 何それ!? めちゃくちゃ厳しくない!?」


「ふふ、そうかもしれないですね」


「でもどうしてそこまでしてテスト期間に弓道場を借りようと思ったの? 勉強しとかないとテストきつくなったりしない?」


「私って毎日弓を引いてないと感覚が鈍るんですよね。テスト期間もここを借りてる理由はそれが1番です。私って結構身体の感覚を大事にして弓を引いてるんですよ。『的を狙う』というよりは『的が当たった時の身体の動きを再現する』っていう感覚で弓を引いてるんです。だからその良い感覚を忘れないためにも毎日弓を引いていないと不安になるんですよね」


 おぉ...なんか友恵ちゃんがアスリートっぽいこと言ってる...インタビューしてないのに取材っぽくなってる...今聞いたことメモしとこ...


「なるほどね...でも勉強は大丈夫なの?」


「はい、勉強についてはあまり心配していません。定期テストは日々の授業を真面目に受けていれば解けるようにできているものですから」


「へ、へぇー...なるほどね...」


 さ、さすが天明高校主席合格者ね...そんなセリフ1回でもいいから言ってみたいわ...



----------------------



 最初は緊張した様子を見せていた友恵ちゃんだったけど、途中からはリラックスして私の質問に答えてくれた。そしてその後もつつがなく取材は進み、先ほど無事取材を終了することができた。


「友恵ちゃん、今日はありがとうね。おかげで良い記事が書けそうだよ」


「いえいえ、こちらこそ」


「じゃあ外も暗くなってきたしそろそろ帰ろうか」


「すみません、先輩。帰る前に先輩に1つ聞きたいことがあるんですけど...」


「ん? 何?」


「......先輩はどうして私を取材しようと思ったんですか?」


「そ、それは...と、友恵ちゃんが優等生だからかな...」


 弓道場から出ようとした刹那、彼女から突然投げかけられた核心を突く質問。私はその質問に取り繕った返答をするだけで精一杯だった。


 確かに私は優等生として有名な彼女についての記事を書くためにインタビューをしたわ。でも今回の取材の目的はそれだけじゃなかったの。だから私は友恵ちゃんの質問には半分しか答えることができていないわ。


 私が今日取材をしようと思ったもう一つの理由。それは過去の田島亮くんを知る人物から彼についての話を聞きたかったから。


 もちろんこんなのは私の勝手な都合だっていうことは分かってるわ。でも彼のことを知りたいという気持ちがどうしても止められなかったの。


『記憶を失う前の田島亮くんはどんな人物だったんだろう』


『田島亮くんの過去、そして今を知る人達の目には彼が今どんな風に映っているんだろう』

 


 以前の彼のことをよく知らない私は彼と関わっていくうちにそんな考えを抱くようになっていた。


 最初は今の彼に出会えたことで満足していた。でも会話を重ねていくうちに彼のことを知りたいという気持ちはどんどん高まっていっく一方で。それがどうしても抑えられなくて。


 私は募っていくこの気持ちを止めることができない。彼はもしかしたら過去を詮索されるのは嫌なのかもしれないのに。そんなことをしたら彼から嫌われてしまうかもしれないのに。



 --それでも私は、彼の全部を知りたい。




 ...まあ結局友恵ちゃんからダーリンの話を聞くことはできなかったんだけどね。友恵ちゃんの気持ちを考えたら過去のダーリンの話なんて聞けるわけないよ。少なくとも友恵ちゃんと深い関係を築いていない私が聞いていい話じゃないと思う。




-side 田島友恵-



 理由はよく分からないけど、さっきから渋沢先輩は暗い表情のまま俯いている。兄貴からは明るい性格の人だと聞いていたし、天明高校内でもハイテンションな人物として有名だったから正直少し戸惑ってしまう。うーん、どう声を掛けたらいいんだろう...


 ...あ、そういえば今朝兄貴が『万が一アリス先輩と居る時に何を話せばいいか分からなくなったらとりあえず俺の話題を出せ』って言ってたわね。よし、ここはとりあえず兄貴の話題を出してみようかしら。


「あ、あのー、し、渋沢先輩...」


「...ん? どうしたの友恵ちゃん?」


「え、えっと......せ、先輩って兄貴のことが好きなんですよね?」



 って何言ってんのよ私!?




-side 渋沢アリス-


「先輩って兄貴のことが好きなんですよね?」


 突然。それは本当に突然のことだった。予想外の質問に思わず固まってしまう。なんとなく気づかれてるだろうな、とは思っていたけどまさか直接聞かれるとは思っていなかった。


「え、えっと、違うんです渋沢先輩! なんか先輩が元気無さそうな様子だったから兄貴の話題を出そうとして...じゃなくて! えっと兄貴の話題を出したのは私の意思じゃなくて兄貴の指示なんです! それで話題がどうしても思いつかなくてつい気になってたことを渋沢先輩に尋ねてしまったというか......す、すいません、自分でも今何言ってるか分からないです.....」


「......ぷっ! あははは!!」


 さっきまで大人っぽく話していた友恵ちゃんが急に別人のように慌てているのを見て思わず吹き出してしまった。


「そ、そんなに笑わないでくださいよ...」


「うふふ、ごめんね友恵ちゃん。急に私が黙り込んじゃったから心配してくれたんだよね? 気を遣わせちゃったみたいね。でも私は大丈夫だから。ちょっとボーッとしてただけだから」


「そ、それなら良かったです...」


 ふふ、正直最初は田島兄妹は全然似ていないと思っていたわ。ダーリンには悪いけど友恵ちゃんの方が大人っぽいイメージがあったし。でもそういうわけでもないみたいね。今の慌てている様子なんて私がからかっている時のダーリンとソックリじゃない。


 ......それと人を気遣える優しいところもお兄ちゃんとソックリ。


「ふふ、友恵ちゃんってダーリ...亮くんと似てるね!」


「...え? そうですか? そんなこと言われた初めてかもしれないです...」


「ねぇ友恵ちゃん、これからも時々私とお話してくれない?」


「......恋愛相談とかですか?」


「...ダメかな?」


「いいえ、全然OKです。私は恋する乙女の味方なので。それと兄の愚痴などがあれば是非お聞かせください」


「...ふふ、わかったわ。これからもよろしくね!」


「はい! よろしくお願いします!」


 こうして今日、私には可愛い後輩の友達が出来た。




-side 田島亮-



『あ、もしもしダーリン? さっき友恵ちゃんの取材終わったよー!』


 現在時刻は19時。テスト期間なのでいつも通り部屋でゲームをしているとアリス先輩から電話がかかってきた。

 

『どんな感じの取材になりましたか?』

 

『うーん......とりあえず友恵ちゃんが可愛かったかな』


『めっちゃ分かる』



 友恵推しが1人増えた瞬間であった。




アリスの取材編は今回までです。



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[一言] ここで一句。 クリスマス リア充めがけ 爆弾を
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