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俺の幼馴染

最近更新遅くてすいません...


まだ読んでいただいている方がいるのなら楽しんでいただけると幸いです...


それでは続きをどうぞ!

-side 田島亮-


 俺は今まで自分の過去に何があったのかを深く考えようとしたことが無かった。




 別に自分の過去から目を背けようとしていたと言うわけではない。今まではただ単純に『今』を生きるのに精一杯だっただけなんだ。正直自分の過去について詳しく考える余裕なんて無かった。


 それに加え、俺の部屋にはアルバムの類が一切無かった。おそらく俺が余計な事を考えないようにするために母さんが俺の部屋からどこかに持っていったのだろう。まったく、ウチの母親は普段はガサツなくせに変なところで気を遣っちまうんだよな。まあその気遣い自体は悪くないことだと思うが。


 多分咲に『アルバムを見せてほしい』なんて言ってしまったのこういう背景があったからだ。きっと今まで目にしたことがなかった過去の自分や咲に対して少し興味が湧いたのだろう。




-side 市村咲-


 現在、私たちは部屋の隅で2人並んで一緒にアルバムを眺めている。正直に言うと幼いころの私を見られるのは少し恥ずかしいわ。でも今までの思い出を久しぶりに振り返ることが出来て少し嬉しく思っている自分もいるの。



「なぁ咲、これは一体何をしている時の写真なんだ...? なんか俺の顔泥だらけになってるんだけど...」


「ふふ、これは小学校の時みんなで田植えをしていた時の写真だよ。亮はこの時足が泥にハマって動けなくなってたの」


「えぇ...なんで足がハマってただけなのに顔が泥だらけになってんだよ...」


「多分足がハマったままバランスが崩せなくなって顔からダイブしたんだと思うよ」


「うっわ、大惨事じゃねぇか...しかも俺の後ろに映り込んでる咲はめっちゃ笑ってるし...」


「ふふ、だって面白かったんだもん」



 そして私たちはさっきからこんな会話をしながら思い出を共有している。


 正直最初は記憶を無くした亮に昔の写真を見せるのは少し怖かったわ。でもそれは要らない心配だったみたいね。だって私たちは今こうして楽しく語り合うことが出来ているんだもの。



-side 田島亮-


 咲と一緒にアルバムを見始めてから30分ほど経った頃、俺は気になる写真を1つ見つけた。



「これは...中学校の卒業式の時の写真か」


「...そうね」



 その写真には『第53回卒業証書授与式』と書かれた看板の隣で制服姿の俺と咲が一緒に写っていた。



「......その写真が気になるの?」


「...ああ、なんとなくな」


 今まで見てきた写真に映っている咲は笑っていることが多かったのだが、その写真に映っている咲はどこか暗い表情を浮かべていた。


 ーーそう、それはまるで昨年俺が『初めて』咲に病院で会った時のような、あの時のような暗い表情。


「...ふふ、そういえばこんな時期もあったわね」


 その写真を見た咲はなぜか笑っていた。まるで過ちを犯した過去の自分を嘲笑っているような、そんな笑みだった。




-side 市村咲-


 今私が見ているのは写真の中に居る中学生の時の私。亮に近づきたくて。でも変な勘違いをして必要以上に亮にきつく当たって。やることなすことが全て空回りして。それで結局ワケがわからなくなって素直に自分が思っていることが言えなくなって。


 そんな、何もかもが上手くいかなかった過去の自分。思い出したくもないようなあの日々。


「...ふふ、ほんと懐かしい」


 でもそんな過去の自分を見ても今私の心にあるのは『懐かしい』という感情だけだった。『なんであんなことをしてしまったのか』という恥ずかしさや『あんなことしなきゃよかった』という後悔は不思議と無かった。



 確かにあの時のことを思い出しても良い気分になるわけじゃないわ。でもあの時の自分を無かったことにしたいとは思わないのよ。だってあの時失敗してしまった自分が居るからこそ今の私が居ると思うから。


 中学生の私、そしてそれより前の私。過去に存在していた全部の自分が今の私を形作っていると思うから。




-side 田島亮-


「......いろんなことがあったんだな」


 先ほどアルバムを見終えた俺が抱いたのはそんな感想だった。俺の知らない出来事、でも確かに存在していた幼い頃の友恵や咲との思い出。それを見られて嬉しいと思う反面、なんだか寂しい気分になった自分もいる。なんだか不思議な感覚だ。


「...うん、いろんなことがあったんだよ」


 アルバムを見終えてベッドに戻った咲は窓の外に目線を向けながらそう言った。



「なんかごめんな、急にアルバムを見たいなんて言って。突然そんなこと言われても戸惑うだけだったよな」


「...うん、ちょっと戸惑ったかな」


 ...いや、マジですいません。ちょっと興味本位で咲と俺の過去を見たくなっただけなんです。決して悪気があったわけではないんです。


「でも私は一緒にアルバムを見られて良かったと思ってるよ。今までは昔の話をしたくてもあんまりできなかったらね」


「...そうか」


 おそらく咲は今まで俺に気を遣って昔のことを話したくても話せなかったのだろう。それに過去を失った俺に昔のことを話すというのはきっと勇気が必要なことだ。生半可な気持ちでできることではなかったのだろう。


「.....亮っていつも頑張ってるよね」


「......え? 急にどうしたんだ...?」


 いや、ホント急にどうしたんだよ...俺が頑張ってる...? 一体どういうことだ...?


「亮はいつも頑張ってるよ。忘れてしまったことを気にしないで前に進み続けてる。立ち止まらずに今を大事に生きようとしてる。それってすごいことだと思う」


「......そんなことねぇよ」


 振り返っても後ろに何もないから前に進み続けてきただけだ。何もないから今を大事に生きようとしているだけだ。だから俺は咲が思うほどすごいやつなんかじゃない。


「亮はそう思うかもしれないわね。でも私はそんな亮の姿を見たから辛い出来事を乗り越えられたんだよ? 1番辛いはずの亮が前に進もうとしてるなら私も前に進まなきゃって思ったから」


「...!」

 

 きっと咲が言う「辛い出来事」とは俺だけが咲との思い出を忘れてしまったことだ。咲だけが昔の出来事を覚えている、というのは多分俺が想像もできないほど辛いことだったのだと思う。


 でもそれを乗り越えられたと言う言葉を聞けて良かった。なんだかその言葉を聞けただけでとても救われたような気持ちになった。


「それに亮の姿に励まされたのはきっと私だけじゃないと思うよ。仁科さん、新島くん、それに柏木先生、あとは多分事故に遭った岬さんも...みんな前を向いてる亮が居たから辛いことを乗り越えられたんだと思う。きっと亮は自分が思っているよりも周りの人たちに影響を与えてるんだよ」



「......え、何それちょっと待って。そんなこと言われると思ってなかったんだけど。嬉しすぎて泣きそうなんだけど」


 まさか看病に来たのに咲に励まされることになるとは思わなかった。ぶっちゃけめっちゃ嬉しい。でも俺の涙腺はゴブリン並みに弱いからそろそろやめてほしい。


「...でもね、今を大事に生きようとするのはいいと思うけどね、少しくらいは昔何があったかとか気にして欲しいの。前に進み続けるのもいいけどね、少しくらい立ち止まってもいいと思うの...まあこんなこと考えちゃうのは私のワガママかもしれないんだけどね」


「...いや、それはワガママなんかじゃないさ。咲がそう思うのはきっと当たり前のことだ」


 少し自意識過剰かもしれないが俺が咲との思い出を忘れていたとしても、咲にとっては『幼馴染との大事な思い出』ということに変わりはないんだろう。誰だって大事な思い出は相手と共有したくなるものだ。咲が俺に昔のことを気にして欲しいと思うのは決してワガママなことなんかじゃない。



 ーーああ、そうか。俺は今まで過去を失ったと思っていた。でもきっとそれは大きな間違いだったんだな。



 確かに俺は記憶を失った。でも過去を失ったというわけではなかったんだ。俺と過ごした時間を覚えてくれている人たちがいるから。そしてそんな彼らとの思い出が今の俺を形作っていると思うから。




「咲ちゃんただいまー! お母さん帰ったわよー!」


 咲の言葉に感銘を受けていると突然市村家の一階から咲のお母さんの元気な声が聞こえてきた。どうやらパートから帰ってきたみたいだ。


「もう...お母さん声大きすぎでしょ...」


「じゃあおばさん帰ってきたみたいだし俺はそろそろ帰ろうかな」


「うん、わかったわ。今日は看病しに来てくれてありがとう。助かったわ」


「いや、お前寝たらすぐ元気になったじゃないか。礼を言われるほどのことはしてねぇよ。むしろ俺が礼を言いたいくらいだ」


「...え? 亮が私にお礼? なんで?」


「...お前が大事なことに気づかせてくれたからだよ」


「え? なんて言ったの? 声小さくてよく聞こえないー!」


「...じゃあ帰るわ」


「ちょっと待ってよ! なんて言ったのよ!」


 ......仕方ない。今日は咲に救われたような気持ちになったしな。最後は素直に今の自分の気持ちを伝えてウチに帰るとするか。



「咲が俺の幼馴染で良かったって言ったんだよ」


「へ!?」


「...じゃあまた明日な」


 そしてなんだか照れ臭くなった俺はそそくさと咲の部屋を後にした。




-side 市村咲-


 熱は下がったはずなのに顔の火照りが収まらない。彼が最後に放った一言が頭から離れてくれない。


『咲が俺の幼馴染で良かったって言ったんだよ』


 こんなことは今まで言われたことがなかった。それにこんなことを言ってもらえるようなことをした覚えもなかった。私はただ亮に昔の亮と私を知って欲しくてアルバムを見せただけ。ただそれだけなのにいきなりこんなことを言われると少し困惑してしまう。



 ...まあ困惑よりも幸福の方が勝っちゃってるんだけどね。 



「〜〜〜!!!」


 嬉しすぎて思わず枕に顔を押し当てて足をバタバタさせてしまう。たった一言だったけど私にとってはその一言が言葉では言い表せないくらい嬉しかったのよ。私と過ごした時間を忘れても、なお彼が私を『幼馴染』として認めてくれていると分かったのがたまらなく嬉しいの。



「なんなのよ亮ったらもう...! アンタが変なこと言ったせいでもっと好きになっちゃったじゃない...!」



 渋沢先輩、それと多分仁科さん。2人とも強力なライバルだわ。


 でも絶対負けないんだから。絶対私が1番亮のこと好きだし。もう相手が誰であろうと弱気になったりなんてしないわ。






 よーし! 覚悟しなさいよ亮! 絶対アンタが私をただの幼馴染と思えないようにしてやるんだからね!!


 


 


 


看病編は今回まででございます。


次回はアリスメインの回になる予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず面白いなぁ。 キャラがみんな可愛くて誰を推せばいいのかわからん...。 とにかく、続き楽しみにしてます!!
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