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幼馴染の覚悟

お待たせしました...久しぶりの更新です...

-side 市村咲-


「良かった...やっと布団から顔を出してくれたか...」


 亮が私の部屋に入ってきてから数分後、私は観念して布団の中から顔を出した。さっきまでは寝癖がついたままでボサボサになっている髪型を亮に見られたくなくて布団を被っていたけど、さすがに暑くてもう限界だったのよ。ボサボサの髪を見られるのは嫌だけど汗をかいた姿を見られるのもそれはそれで嫌だし。



「体調はどうだ?」


「...ちょっときついかも」


 自業自得かもしれないけどさっき布団の中に篭っていたせいで体調が悪化してしまったみたい。最初は亮が来るって聞いて少し緊張してたけど正直今はそんなことを考える余裕もないくらい体がだるい。なんだか頭がボーッとする。



「じゃあまずは薬を飲んでもらおうかな」


 亮はそう言うと買い物袋の中から水が入ったペットボトルと風邪薬を取り出し、ベッドの上に置いた。


「すまん、きついかもしれないけど少し起き上がってもらってもいいか? さすがに寝たままじゃ薬飲めないだろうし」


「...うん、分かった」


 亮に言われた通り身体を起こしてみた。なんだか頭が重くてフラフラする。


「結構キツそうだな。今日は薬飲んで1日寝といた方がいいだろう」


「そうするわ...じゃあ早速薬貰うわね...」


 そして私はさっき亮がベッドの上に置いてくれた風邪薬を飲んだ。


「...よし、飲めたな。一応聞いとくけど腹減ったりしてないか?」


「うーん、あんまり食欲は無いかな...きついから今はとりあえず寝ときたいかも...」


「そうか。ならゆっくり寝た方がいいだろうな。一応俺は咲の母さんが帰ってくるまではここにいるから何かあったら遠慮なく言ってくれ」


「うん、分かった。それと言い遅れたけど今日は休日なのにわざわざ来てもらってごめんね。私が体調を崩したばっかりに...」


「気にすんなって。それに元々俺たちは今日会う約束をしてたじゃないか。ちょっと予定が変わっただけさ」


「いや...それでもなんか申し訳なくて...」


「いいから気にすんな。とりあえず今は寝て風邪を治すことに専念しろ。色々言いたいことはあるかもしれないけどそれは風邪が治った後にいくらでも聞いてやるから」


「...わかった」


「よし、それじゃあおやすみ」


「...うん、おやすみなさい」


 そして私は亮の気遣いに感謝しつつ、ゆっくりと目を閉じた。




----------------------ーーー




「あー、よく寝た......ってうわ、もう15時じゃない。体調が悪かったとはいえさすがに寝過ぎたわね...」


 目を覚まして壁に掛けている置き時計を見ると針は既に15時を回っていた。えーっと、確か亮が来たのが8時30分とかだったから...うわ、それって私6時間以上寝てたってことよね? いくらなんでも寝過ぎでしょ私。ていうか亮に申し訳なさすぎるわよ。まあたっぷり寝たおかげで体調は結構良くなったんだけど。


「あ、亮寝てる...」


 周囲を見回してみると部屋の隅で棚に寄りかかって寝ている亮の姿が目に入った。まあこんなに長い時間話し相手もいない状態で私の部屋に居たら寝ちゃうのもしょうがないよね。





「...なんかイタズラしたくなってきたわね」


 看病に来てくれた亮にはとても感謝している。だから本当はイタズラするのなんて良くないんだと思う。でも無防備な亮の姿を見るとどうしてもそんな気持ちが抑えられない。


 ...あれ、もしかして私ってSなのかしら。


「ち、ちょっとくらいならイタズラしても大丈夫よね...?」


 そう考えた私はベッドから降りて部屋の隅に座って寝ている亮に近づいてみることにした。


「全然起きないわね...」


 亮は私が目の前に来ても全然起きそうな気配が無い。静かに寝息を立てて気持ち良さそうに寝ている。


「...」


 最初はイタズラするつもりだった。でもいざ亮に近づくとドキドキしてどうすればいいか分からなくなってしまう。だって昔からずっと近くには居たけど私ってあんまり亮に触れたことないんだもん。


「なんでこんなに好きになっちゃったんだろうね...」


 目を閉じている彼を見ていると本音がポツリと漏れてしまった。どうやら普段言いたくても言えないことが思っていたよりも自分の中に溜まっていたみたいだ。次々と言いたいことが思い浮かんでくる。


 ...良い機会だわ。目の前の鈍感野郎が寝ているうちに色々言ってスッキリしちゃおうかしら。


「亮って本当バカだよね」


 昔からずっと好きなのに全然私の気持ちに気づかないんだもん。まあ去年までの私の態度が悪かったのもあるんだろうけど...でも鈍感過ぎよ、このバカ。


「なんで昔のことを忘れちゃったのよ。寂しいじゃない。私だけ昔の思い出を覚えてるのって結構辛いんだからね?」


 こんなことを亮に言っても仕方ないと思う。でも寂しいっていうのは紛れもない事実なのよ。だって『あの時こんなことがあったね』とか『あの頃は楽しかったね』って言いながら語り合うことが出来なくなってしまったんだから。さすがに事故から半年以上経ったから以前ほどは寂しさを感じていないわ。でもまだちょっとだけ寂しさは残っているのよ。


「アンタは私のことどう思ってるのよ。昔のことを覚えていなくても幼馴染だと思ってくれているの?」


 これは今まで私が1番気にしていたことだ。『幼馴染』っていうのは幼少期から馴染みのある関係のことでしょ? でも今の亮には幼少期の記憶がない。つまり私と一緒に居た時のことを覚えていないってこと。


 -ーだったら私は、私たちは、本当に幼馴染としてこれからも付き合っていていいのかな?


 今まではあまりそんなことを気にしていなかった。でもそれはきっと好きだという気持ちが1番になっていたから気づかなかっただけだ。多分私はずっと心のどこかでそんなことを考えていたんだと思う。


「ねぇ亮、私のことをちゃんと女の子として見てくれてる?」


 これが1番大事なことね。うん、間違いなく1番大事なことだわ。ていうかこの男は同じ部屋で無防備な女の子が寝ていたというのに全く手を出してこなかったじゃない。いや、本当に手を出されたらそれはそれで困るんだけど。でも同じ部屋に女の子が居るんだから少しくらい緊張する様子を見せなさいよ。なに寝てんのよ、このバカ。



「...ふふ、そんな亮くんにはお仕置きが必要ですね」


 お仕置き、といってもそんなに大それたことをするわけじゃないわ。ちょっと顔を触らせてもらうだけよ。幼馴染なんだしそれくらい別に良いわよね?


「...えいっ」


 まずは亮の右頬を指でつついてみた。亮は少し顔を歪ませたけど全然起きる気配は無い。


「...よし、じゃあ次は両方いってみましょうか」


 そして今度は亮の両頬を指でつついてみる。


「ふふっ、変な顔」


 両頬をつつくと思いのほか亮の顔が歪んで面白くなってしまった。ふふ、にらめっこでこの顔されたら負けちゃいそうだわ。


「...それにしても全然起きないわね。よし、もうちょっと遊んじゃお」


 そして今度は思い切って亮の鼻をつまんでみた。


「......フガッ!」


「あ、力加減間違えちゃった...」


 うわ、どうしよう...思いっきり鼻つまんじゃった...いくら亮が寝てるからといってさすがにここまでされたら...




「......え、咲? お前なんで俺の目の前に居るんだ? 寝てたんじゃなかったのか?」


 案の定亮が起きてしまった。


 ...え、どうしよう。どう頑張ってもこんな状況になってしまった言い訳が思いつかないんだけど。


「あ、あはは...亮おはよう...」


「え...? あー、うん...おはよう...?」


 ...うん、完全に怪しまれてるわね。ちょっと待って。何か言い訳しないとこのままじゃ辛いんだけど。え、えーっと...何か言い訳のきっかけになりそうなものはないかしら...


 頭をフル回転させながら周囲を見回してみる。幸いなことに亮はまだ少し寝ボケていてまだ私が焦っていることに気づいていないみたいだ。よし、今のうちに何か言い訳のきっかけになりそうなものを見つけてみせるわ...!


 周囲を見回すこと数秒。私は亮が寄りかかっている棚の上段に大きな冊子があることに気づいた。


 ...よし! これならいけるはず!


「あ、あのね、亮。私が亮の目の前に居るのはね、本当に偶然のことなの。決して寝ている亮に何かしようとしていたわけではないのよ?」


「ん...? あ、そうなんだ...」


 え? もしかしてアンタまだ寝ボケてるの? 


 ...まあ、いいわ。このまま押し通させてもらいましょう。


「私はね、棚の上段にあるアルバムを取りにここまで来たの。なんだか亮と2人でここにいると昔のことが懐かしくなっちゃってね。だから久しぶりに昔の写真を見たいなーって思ったの」


 ...ふふ、完璧な言い訳ね。これできっと怪しまれることもなくなるはず...


「...アルバムか。もし嫌じゃなかったら俺にも見せてくれないか」


 この瞬間、私は軽々しくアルバムを見ようとしたことを後悔した。


 ーーこのアルバムを見せるということ。それはつまり彼の記憶に無い『市村咲と田島亮』の姿を見せるということになる。


 きっとそれは軽々しい気持ちでやっていいことじゃない。でも私は何の覚悟もないままその選択をしてしまった。


 だけど今さら後には引けない。だって軽々しくやってはいけない事だからこそ軽々しく取り消すのも絶対にダメだと思うから。


 それに『今の亮と一緒に過去の私たちと向き合う』というのは彼に近づくためにはいずれ通らなければならなかった道だと思う。もっと近づきたいならきっと嬉しいことや楽しいことを共有するだけじゃいけないんだ。もっと関係を深めたいなら辛さや悲しさを一緒に共有することも必要なんだと思う。


 だから、だからこそ、私はあえてこう言うことにした。




「うん! 一緒にアルバム見よ! 昔私たちがどんなことをして遊んでたのか教えてあげるね!」

次回、亮と咲の思い出話編


面白いと思っていただけた方は感想などいただけるとめちゃ嬉しいです。

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