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天使のようなお嬢様

※岬京香は普段家の中では伊達眼鏡をかけずに前髪を上げてピンで留めています。今回の話はそれを踏まえた上でお楽しみ下さい。

-side 岬京香-


 6月中旬の日曜日、休日だというのに朝早く目覚めた私は自分のベッドの上で寝転がりながら携帯画面とにらめっこしていた。


『田島くんおはよう! 期末テストが近づいてきたね! それでさ、もし田島くんに迷惑じゃなければ数学が苦手な田島くんために勉強を見てあげたいなって思ってるんだけど...予定が空いている日を教えてくれたら嬉しいな』


 メッセージの内容はこれでいいよね...? テストが近づいてきてるのは事実だし自然に誘えてるよね...? 変に勘繰られたりしないよね...?


 そんな風にメッセージを送る前に不安になっていた時だった。


「失礼します、お嬢様」


「うぇっ!? 大崎!? なんでいきなりノックもせずに部屋に入ってきたの!?」


 突然メイドの大崎が部屋に入ってきた。


 もう、いきなり入ってくるのはやめてよね。完全に自分の世界に入っていたから必要以上にビックリしちゃったじゃない。


「いえ、何度もノックしたんですよ? ですがお嬢様の返事が無かったので失礼ながら無断で部屋に入らせていただきました」


「え、そうなの?」


「ええ、そうです」


 なるほど...私ったらノックの音が耳に入らないくらい携帯の画面に夢中になっていたのね...


「ねえ大崎、何か用件があるから私の部屋に来たんでしょ? どんな用件?」


「大した用件ではありません。朝食の時間になりましたのでそれを伝えに来ただけです」


「分かったわ。今すぐ食事部屋に行く」


「それとお嬢様、ベッドに放り出された携帯画面に大変可愛らしい内容のメッセージが映っているのですがそれは誰に向けて送られたものですか?」


「...は?」


 おそるおそるベッドの上を見ると確かに大崎の言う通りさっき私が田島くんに送ろうとしていたメッセージが携帯画面に映っていた。しかも画面をよく見るとそのメッセージは既に田島くんに送信されていた。


「...え!? なんで!? さっきまで心の準備が出来てなくて送信できてなかったのに! なんでもう送信されてるの!?」


「おそらく私が部屋に入ってきてお嬢様が驚かれた時に偶然送信ボタンに手が触れたのではないでしょうか」


「えぇ...そんなぁ...」


 うぅ...まだ心の準備が出来なかったのに...


「...ふふ」


「ちょっと大崎、何で私の顔を見てニヤニヤしてるのよ」


「いえ、お嬢様もお年頃なんだなと思いまして。1人で携帯とにらめっこしながら頭を悩ませているお嬢様のお姿はとても可愛らしかったです」


「...え? なんで大崎がそんな事知ってるの?」


「申し訳ありませんお嬢様。あまりに悩んでいるお姿が可愛らしかったのでついついドアを半開きにしてお部屋を覗かせていただきました」


「えぇ...全然気づかなかったわ...ていうかあなたメイドなのに何やってんのよ! 一応私この家の娘なんだけど!? 失礼だとは思わなかったの!?」


「えーっと、その、なんと言いますか、私とお嬢様って歳が4つしか離れてないじゃないですか。ですのでどうしてもお嬢様の事を妹のように見てしまうというかなんというか...」


 なるほどね...まあ確かに私にとっても大崎はメイドというより姉のような存在になってるのよね...まあ大崎が言いたいことも分からなくはないわ。


「はぁ...もういいわ。あなたとはもう長い近い付き合いだし部屋を覗いたことは許してあげる。でも今後はそういうのやめてよね」


「分かりました。では今後はお嬢様に迷惑をかけないように心がけながらお嬢様の恋のサポートをさせていただきます」


 ...え? あなたいきなり何言ってるの?


「べ、別に私は恋なんてしてないけど? い、いきなり訳の分からないことを言うのやめてくれない?」


「お嬢様、お顔が真っ赤ですよ。言葉に全然説得力がありません」


「もう! 私は本当に恋なんてしてないんだから! いきなり変なこと言うのやめてよね!」


「意中のお相手は田島様ですか? 田島様ですよね?」


「へ!? そ、そんなわけないじゃない!! もう用は済んだんでしょ! なら早く部屋から出てってよ!」


「ふふ、お嬢様って本当かわいいですよね」


「いいから早く出てけぇー!!」


「はいはい、分かりました分かりました。では食事部屋でお待ちしております」


 そう言い残すと大崎はニヤニヤしながら私の部屋を出ていった。


 まったく...大崎ったら雇い主の娘である私への敬意が足りてないんじゃないかしら...




---------------------------



 現在時刻は13時。昼食を終えて部屋でくつろいでいると突然枕元に置いている携帯が鳴動した。


「多分田島くんからの返信だよね...うぅ、通知確認するだけでもちょっと緊張するなぁ...」


 田島くんは優しいから多分私の誘いを断らない。でも断られる確率が0というわけではない。


 今さらそんなことを考えて緊張してしまう。そしてそんな事を考えてしまうネガティブな自分が嫌になる。はぁ...私にも田島くんみたいな前向きさがほんの少しでもあればいいのになぁ...



 ...いや、今さらウジウジしてもダメよ私! 何よ、ただ通知を確認するだけのことじゃない! たったそれだけで悩んでたらこの先田島くんを誘うことなんてできるわけないじゃない! 


 ...よし! じゃあ通知見るわよ!


 そして覚悟を決めた私はおそるおそる携帯画面を覗き込んだ。


『学年トップの岬さんが俺の勉強を見てくれるなんて感謝カンゲキ雨嵐。俺は基本的に暇だから岬さんの都合が良い日程に合わせるよ』


 良かった...断られなかった...ああ、なんか安心したら体の力が抜けてきちゃった...


 ...って体の力抜いたらダメじゃない。早く返信しないと。


『じゃあ来週の土曜はどうかな? 何か予定あったりする?』


 来週の土曜日はパパとママが家に居ないから田島くんをウチに呼ぶことができる。唯一の懸念は大崎が居ることなんだけど...まあ大量に仕事を与えとけば私たちを冷やかす暇なんて無くなるでしょう。問題無いわ。


『その日は予定無いから大丈夫だよ』


『それなら良かった。じゃあ来週の土曜日に私の家集合ってことでいい? ちょうどその日は私の両親が家に居ないの』


『...え? 俺岬さんの家行っていいの? えーっと、それはつまり岬さんの家で俺と岬さんが2人きりという状況になるんだけど...女の子的にはその辺大丈夫?』


 あ、言われてみれば確かにそうだ...今まで田島くんと2人きりになったことはあるけど自分の家でってことになると話は別よね...ていうか私の部屋で田島くんと2人きりとか多分ドキドキし過ぎて私死んじゃうし。


 なんでそんなことに気づかなかったんだろ...なんか私っていつも舞い上がって肝心な事を見落としてる気がするなぁ...


 ...いや、ちょっと待って。よく考えたら無理に2人きりになる必要は無いじゃない。だって大崎が居るもの。それに大崎は頭も良いから多分私たちに勉強を教えることもできるわ。


 そうだわ! 大崎にも教師役として勉強会に参加してもらえばいいのよ! さすがに教師役として参加させれば私たちを冷やかすことなんて出来ないだろうし! 


 よし、決まりだわ!


『田島くん、その辺の心配は無用だよ。その日は大崎も教師役として参加してもらうから』


『あ、そっか。そういえば岬さんの家ってメイドさん居たね。へぇー、教師役もできるんだ。大崎さんって凄い人なんだね』


『そうなのよ。だからその...田島くんが心配してるような状況にはならないと思うよ』


『分かった。じゃあ来週の土曜日にお邪魔するね。大崎さんにもよろしくって伝えといて』


『了解! じゃあ来週土曜のお昼に集合ね!』


『おっけー!』


 こうして想定外の事態は起きたものの私はなんとか勉強会の約束をすることに成功した。


 良かった...なんとかウチに田島くんを招待できた...ウチ以外だと人目につく場所で勉強することになってただろうから本当に良かった...


 あ、大崎に来週の勉強会のこと伝えないといけないわね。また朝の時みたいにからかわれそうな気もするけど...でも今回私は大崎にお願いする側なんだしやっぱり前もって伝えとくべきよね...


「じゃあ早速大崎に伝えに行くとしますか...」


 そして私はおそらく広い家のどこかで掃除をしている我が家のメイドを探すべく自分の部屋を後にした。




-side 大崎-


「あ、大崎やっと見つけた!」


 岬家の裏庭を掃除していると突然背後から声が聞こえてきた。そして少し驚きつつ背後を振り向いてみるとそこにはお嬢様が居た。わざわざ裏庭まで何をしに来たのだろうか。


「私に何か用ですか?」


「ええ、そうよ」


「ではご用件を聞いてもよろしいですか」


「え、えっとね、用件っていうのはね、えっとね...」


 用件を尋ねるとなぜかお嬢様が手を後ろに組んで少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら私を見上げてきた。心なしか頬も少し赤く染まっているように見える。


 ...やめて下さいお嬢様。かわいらし過ぎて抱きしめたくなってしまいます。


「ね、ねえ大崎」


「はいお嬢様」


「今から私が言うことを聞いても絶対私をからかわないと約束できる?」


「...え? はい、まあ約束できます」


 なぜわざわざそんな確認をするのだろう。お嬢様は今から一体どんな事を言うつもりなのだろうか。


「えっとね、大崎に1つ頼みがあるの」


「頼み、ですか」


「うん。あのね、実は今週の土曜日に田島くんと勉強会をすることになったの。それでね、大崎には私達の教師役を頼みたいなーって思ってるの」


 お、お嬢様...! やっぱり朝私が偶然見てしまったメッセージは田島様に向けてのものだったんですね...! ちゃんとお誘いをOKしてもらえたみたいで私は嬉しいです...!


 でもちょっと待ってくださいよ? その勉強会って私居る必要ないですよね? むしろ私的にはお嬢様と田島様が2人きりになって欲しいのですが。


「なぜ私が教師役を? 確かに高校レベルの勉強なら教えられますけどお嬢様って成績学年トップですよね? お嬢様が教えればいいのでは?」


「そ、それはそうなんだけどね、なんていうかその...ドキドキして田島くんに上手く教えられる自信が無いから大崎にも居て欲しいの......ダメかな?」


 お、お嬢様...! 朝は恋なんてしてないと言ってましたけどやはり田島様に恋をしているのですね...!


 それと大きな目をウルウルさせながらそんな可愛らしい台詞を言わないで下さい。あと首傾げながら『ダメかな?』って言ったりするのも可愛すぎて反則レベルですからね? もう! お嬢様は一体どれだけ私を悶えさせれば気が済むんですか!

 

「わかりました。では教師役はお姉ちゃんにお任せを」


「え? お姉ちゃん?」


 しまった。つい目の前の天使を本当の妹にしたいという欲望が口から出てしまった。


「い、いえ! 何でもありません! 土曜日の件、了解いたしました!」


「ありがとう大崎! じゃあ私はそろそろ部屋に戻るね! お掃除頑張って!」


 そう言い残すとお嬢様は私に手を振りながら裏庭を後にした。


「うーん、教師役か...」


 土曜日の件は私のメイド人生史上最大のミッションになりそうね。勉強を教えるだけではなく、どうにかしてお嬢様と田島様の距離をもっと近づけられるようにしなれば。


 

 よーし! この大崎、来週はメイドとして、そしてお姉ちゃんとしてお嬢様のために全力でご奉仕致します!!

次回は主人公と仁科唯のやりとりをお届けします!

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