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I ask you

お待たせしました。続きです。

-side 田島亮-


 空はオレンジ。隣には美少女。


 おそらく、というよりは確実に、誰もが羨む帰り道である。こうして岬さんと並び歩いている今この瞬間も、羨望やら嫉妬やらの眼差しが突き刺さっているわけではあるのだが、それも当然だと思えてしまった。


 バッサリと髪を切った彼女は、それほどのレベルの美少女なのである。


「……」


「……」


 無言。ひたすら口を閉じ、並び歩く俺たち。


 しかし不思議と、その沈黙は嫌なものではなかった。


 どこか遠く、懐かしく、ノスタルジックに。俺たちは口を噤み、互いに、思い思いに、思い出を反芻している。


 何か物的証拠があるわけではないのだが、そんな気がした。


 思えば、彼女──岬京香との出会いは、ある意味運命的なものだった。


 命の危機に瀕していた少女を、なんでもない普通の少年が救った。今となっては文字通り取り戻せない記憶ではあるが、ドラマチックな出会いだったとも言えるだろう。半ば非現実的ではあるが、俺がヒーローで、岬さんがヒロイン、みたいな。見る人によれば、新たな青春ストーリーの始まりのようにさえ思えるかもしれない。


 しかし、現実は現実。都合よく俺の記憶が戻ることもなければ、急速に彼女とのラブストーリーが進むわけでもない。様々な変化はあったものの、俺と彼女は急激に近づくわけでもなく、かといって他人というわけでもなく……と、いった形で。自然に距離を近づけていった。


 最初はある種、俺のわがままだったのだろう。『せっかく救った人なんだから他人でいるのは悲しい』という、俺自身の都合でもあった。


 だが彼女はそんな俺を拒絶せず、一人の友達として接してくれるようになった。最初はどこか俺に負い目を感じている様子も見られたものの、思いのほか早く、対等な関係になっていった……と、俺は勝手に思っている。


 だから別に、彼女と帰路を共にすることへの抵抗はないのだ。むしろ、気持ち的には嬉しい。多少周囲の視線は気になるものの、この言いようもない心地よい時間を過ごす代金としては、安いくらいのものだ。


 だからこそ、その心地よさに甘んじて、無理に会話をすることを避けている自分も居るような気がした。


「ねぇ、田島くん?」


 むしろ、いつもより堂々としている彼女に、どこか気圧されているような気さえしていた。


-side 岬京香-


 ウサギとカメで言えば、私は間違いなくカメなんだろう。


 引っ込み思案で、周りの目が怖くて。誰かを避けるように生きる人生は、とてもゆっくり進んでいるように感じていた。望んで一人になっていたけれど、一人で歩む道のりの足取りは、きっと鉛のように重かった。


 ──けれど、彼と出会ってから。私の人生は、大いに変わってしまった。


 例えるなら、ジェットコースターのような。

 毎日がずんずんと、早く進んでいって。

 些細なことで、心がアップダウンを繰り返して。


 君の、その一挙手一投足に。私は見惚れて、鼓動は加速し続けた。


 確かに、きっかけはあの事故だった。始まりの感情は、申し訳なさだった。


 でも、あの事故が無くても。たとえ、あなたが記憶を失くさずに、前のあなたのままだったとしても。


 きっと、私は。


「ねぇ、田島くん?」


 ──それでも、君に恋をしていた。


「な、なに?」


 ちょっとだけ声を震わせて、彼が私を見つめる。


 ──その顔を見てるだけで、私だけのものにしたくなる。


「ひとつ、意地悪なこと、聞いてもいい?」


 だから私は、君を困らせたくなるんだ。


 君と過ごすようになって、少しは人の気持ちが分かるようになったから。

 人の気持ちが分かって、みんなの気持ちの変化に気づけるようになったから。

 咲ちゃんも、渋沢先輩も、そしてきっと、仁科さんも。

 みんな、みんな、どんどん“それ”が大きくなっていっているのが、分かっちゃったから。


 だから──







「もし私が、また危ない目に遭ったら。その時はもう一回、私だけを助けてくれる?」


 ──私は、悪い女の子にならなきゃいけないんだ。


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