夢、いつかは唯一に
今回は唯視点です。
-side 仁科唯-
「よーし、皆おはよう! じゃあ、ホームルームを始めようか!!」
亮との初めての登校は、なんだかあっという間で。楽しい時間とか嬉しい時間は、ほんとに風のように過ぎ去っていくんだなぁ、なんて考えながら、教壇に立つ柏木先生をぼんやりと見つめる。
「はあ、ねむ……」
ふと、隣でふわりとあくびをする彼を見つめる。
【来週の陸上県予選、亮に見に来てほしいの。そこで、強くなった私を見てもらいたい】
……本当はこんなこと、言うつもりじゃなかった。
この想いはまだ大切にしていたいし、バレちゃうのは怖いから。私はただ、亮と一緒に学校に行くだけのつもりだった。
だけど──
【私はね? 亮のことが大好きなんだよ?】
修学旅行、夕暮れの清水寺。そう言って少し背伸びをして、亮と唇を重ねた市村さんを……私は、見てしまった。
あの時の気持ちは、うまく言葉に出来なくて。
胸がチクっとして、なんだか泣きそうになったけれど。
悲しいとか悔しいとか、そういう感じじゃなくて。
──このままじゃ、負けちゃう。
焦って。もっと頑張らないと、って。むしろ私の心に火が付いたような気がした。
だから、きっと私は。彼に宣戦布告のような真似をしてしまったんだろう。
「ん、唯? 俺の顔に何か着いてるか?」
「んーん、何もついてないよ?」
「お、おう、そうか。しかし、なんというか……今日はえらく上機嫌だな?」
じぃっと見つめていたことがバレちゃって、話しかけられてしまった。
それは、いつも通りの私たちの会話で。だから私は、今日が特別上機嫌というわけでもない。
「ふふ、そうでもないと思うよ?」
──だって私は、亮の隣に居られるだけで。いつも上機嫌なんだから。
「そ、そうか。まあ、元気なのはいいことだな」
「うん!!」
本当に。我ながらどうかと思ってしまうくらいに、単純だなぁと思う。
だって、これまでずっと。私は好きな人の近くに居たから、頑張ってこれたし。裏を返せば、好きな人が居なかったら頑張れなかったんだろうなぁとも思う。
それくらいに、亮は私の一部なんだ。
でも……きっと私は、このままじゃいけなくて。
市村さんに負けないようにするためには。
亮に、振り向いてもらうためには。
私はまだ、弱いんだ。
だから、私は強くなりたい。いや、強くなるんだ。
何もかもを忘れても立ち上がれた彼に並び立てるように、私はもっと強くならなきゃいけないんだ。
一人でも頑張れるんだよ、って。私も、亮を支えられるくらい強くなったんだよ、って。
それを証明して、私は亮と対等にならなきゃいけない。
だって……私は、彼に助けてもらってばかりだったのだから。
だから、次の大会──私は、誰にも頼らずに一人で最後まで頑張って見せる。
亮が見てるところで、カッコいい私を見せて。
誰よりも速く走って。一番、速く走って。
もう私しか見えないくらいに、最高の走りをして──
「……ふふ、覚悟しといてよね?」
「ん? なんのことだ?」
──私は、君の一番になる!!!