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大事だから

本日で連載開始から2年が経ちました。長らくの間読んでいただき、本当にありがとうございます。読者の方々には本当に感謝で頭が上がりません。

それではお待たせしました、続きでございます。

-side 田島亮-


 修学旅行から帰宅し、一晩明けて翌朝。ぼうっとした頭のまま制服に着替えた俺は、いつものように学校へと向かうべく玄関の戸に手を掛けた。非日常は終わりを告げ、今日からは通常授業である。


「うおっととと」


 ……と、気持ちを切り替えようとしたのだが。急なめまいに襲われた俺は、突如としてバランスを崩し、ドアノブの前でスカりと腕を空振りさせてしまった。


「いや、何やってんの、兄貴」


 情けない兄貴の背中に呆れたのだろうか。セーラー服姿の妹が背後から、冷淡に声を掛ける。


「あ、あー、いや、少し寝不足でな。少しフラついてしまった。あっはっは、面目ない面目ない」


「……ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」


 どこか不穏な間をおいて、訝しげにこちらを見やるマイシスター。


「ん? 聞きたいこと?」


「うん。聞きたいこと」


 妙にキリッとした視線。なぜだろう。少し嫌な予感がする。


 なんて、ヒヤリとしたのも束の間。


「ねぇ、修学旅行でなんかあった?」


 我が妹はピンポイントで俺の図星を突いてきた。


「……べ、べつに? 特に何もないぞ?」


「嘘。笑顔が引きつってるもん。そんなんで妹の目を誤魔化せるとでも思った?」


 少しプクリと頬を膨らませ、友恵が不満げな視線を向ける。


「……まあ、何も無かったってことはない」


「ほら、やっぱり」


 白状すると、友恵は若干の優しさを瞳に宿らせながら言った。


 けれど、何があったのか。何を言われて、何をされたのか。その全てを妹に告げる勇気は、残念ながら今の俺には無かった。咲とただならぬ関係にある彼女だからこそ、


【大好きだよ、亮】


 告白された、なんて。寝ぼけて思考もままならない今の状態で、軽々しく口にすることはできなかった。


 清水寺で想いを告げられた後も、修学旅行は続いた。スタンプを集めて皆でゴールして、次の日は翔たちと自由気ままに京都観光もした。


 しかし、俺はそのほとんどをハッキリとは覚えていない。どこに居たのか、という記憶だけがうっすらと頭に残っているだけで、何を話したか、だとか、何をしたのか、だとか。そういった記憶は、まるで思い出したくても思い出せない夢のように、曖昧なのだ。


 こんな状態になってしまうほどに、幼馴染からのアイラブユーは衝撃的で。何より、俺の頭を悩ませていた。


「……まあ何があったのか、までは聞かないでおくよ。親しき仲にも礼儀あり、兄妹の仲にも気遣いあり、ってことで」


「はは、そうしてくれると助かる。さすが、出来た妹だな。愛してるよ」


「っ! な、何よそれっ!! 相変わらずキモいんだから!! もうっ、心配して損しちゃったっ!!」


 そう言って、「フンっ!」とそっぽを向き、顔を真っ赤に染める我が妹。毎度毎度その姿に癒されてはいるが、寝不足の今朝は特に心に染みる。


 それと同時に、やはり咲とのことは早いうちに話さなければ、とも思った。この可愛い妹に隠し事をしておくのは気分が良くないし、今回のことは咲と友恵の関係に影響が出かねない話でもある。


 『想いを寄せられると思っていなかった』なんて言ったら、嘘になる。けれど、今までは咲が俺のことが好きだという証拠もなければ、確信があるわけでもなかった。


 推測の範疇だったから、ただの痛々しい自意識過剰かもしれないから。あくまで俺は幼馴染として、彼女のことを大事にしてきたつもりだった。


 ──でも、これからはそういうわけにいかない。


 一度想いを告げられたら、俺は真剣に彼女のことを考えないといけない。大事だからこそ、時間をかけて答えを出さなければいけない。


「はぁ。つくづく優柔不断なんだな、俺」


 友恵に聞こえないように小さく呟き、再度ドアに手を掛けなおす。結局、出した結論はアリス先輩から告白された時と同じだった。


 世の中には告白されてすぐにOKを出せるヤツも居るというが、どうにも俺は理解できない。大切な人から想いを告げられたのなら、相手が自分を想ってくれたのと同じくらい真剣に、自分も相手とのことを考えなければいけない。そう思ってしまうのだ。きっと俺はまだ、考え足りていない。


 はは、まあ単に俺がバカだから答えを出せないかもしれないんだけどな。


「そんじゃ、行きますかね」


 笑い、嗤って戸を開けた。いつまでも変わらずにはいられない。分かっていたはずの事実を噛みしめ、なぜか泣きそうになりながら、差し込む朝日を浴びた。


 そして、扉を開けた、その先に。








「お、おはよう、亮!!」


 ──仁科唯が、立っていた。

修学旅行編(完)

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