命短しバカやれ変態
お待たせしました。続きです。
卒論無事に書き終わりましたので、しばらくは少し更新ペース上げられると思います。
-side 田島亮-
連れ立つメンツが普段と変わらずとも、やはり学校外で過ごす特別な時間というものは、あっという間に過ぎていく。気づけば一日目の全日程が終了し、俺たちは、宿泊するホテルのロビーを訪れていた。
「おお、これが高級ホテルってやつか……」
「なんつーか、こう……すげぇな……」
「なぁ、俺たち、こんなとこに泊まってもいいのかな……?」
まるでミステリー映画にでも出てきそうな高級感漂うロビー内にて、ザワザワと騒ぎ立てる天明高校2年生一同。ウチは一応日本一の私立進学校ということになっているのだが、この反応を見るに、どうやら金持ちのボンボンばかりではないようだ。なるほど。一定数は庶民派も居るってことか。
「はは、なんかアレだな。高級感ありすぎて逆に殺人事件とか起きてそうなホテルだな」
「ちょ、ちょっと新島! 物騒なこと言うのやめてよ!!」
そして俺たち推薦入学組、もといバカ3人組は言うまでもなく庶民派である。なんなら翔に関しては、ホテル見た時の第一印象まで俺とほぼ同じだった。物騒なこと考えてごめんな、唯。でも高級ホテルでの殺人ミステリーって割と王道だしテンション上がっちまうんだよ。
ま、かといって実際に事件なんて起きようもんならシャレにならないんだけどな。まあ同級生の中にコ〇ン君が居るわけでもないし、さすがにその辺の心配は無用だとは思うけど。結局ああいうのって全部フィクションだからな。リアルの世界じゃ犯罪なんてのは、そうポンポン起こるものでもないし、大丈夫だろう。
そんな取るに足らないことを考えつつ、チェックインを済ませた奈々ちゃん先生の指示を受けた俺たちは、それぞれ自分の部屋へと向かった。
◆
「なあ田島! 女湯に行こうぜ!!」
前言撤回。秒速で犯罪の臭いが漂い始めた。
「ったく、いきなりなんなんだよ西川……急にドンドンノックしてくるから事件でも起きたのかと思ったじゃねえかよ……」
「はっはっは! なんでい! せっかく友人が来てやったというのに冷たい反応じゃあないか! ここはもっと喜ぶところだろうに! あっはっはっはっは!!!」
人の部屋の前で高笑いしつつ、バシバシと俺の背中を叩く西川。今日は修学旅行テンションも相まってか、普段以上にウザい。
天明高校はやたらと金持ち&寛大な学校なようで、生徒一人に対して一部屋(フカフカベッド付き)が用意されている。せっかくの高級ホテルだし、まだ夕食まで少し時間があるし、ということで、ゆるりとベッドの上でくつろごうかと思っていたタイミングで、このバカの登場。なんなんだ、一日歩き回って普通に疲れてるのに、さらに疲れが上乗せされそうな、この展開は。神よ。そろそろ俺に休憩時間を与えたまへ。
「はあ……まあ、とりあえず部屋に入れよ」
部屋に入れたいわけではないが、おそらくこうするしかないのだろう。これまでの経験上、コイツは「帰れ」といっても素直に帰らないヤツだということは分かっている。“女湯覗き”とかいうワードをこのまま廊下でベラベラ話されたら俺まで変な目で見られかねないし、とりあえず部屋に招くのが無難だ。
「そんじゃあ、おっじゃまっしまーす! とうっ!!」
「おい、このバカ! 勝手に人のベッドに飛び込むのやめろ!」
「ノンノンノン、違うぞ田島。これはお前のベッドじゃない! ホテルのベッドだ!!」
「どっちにしてもお前が非常識なことに変わりはないよな!?」
チクショウ……相変わらず無茶苦茶な野郎だ……
「と、まあくだらん話はこの辺にして、早速本題に入るとしよう。どうだ、田島? 俺と一緒に女湯に行かないか?」
「行くわけねぇだろ」
至極当然の回答を返しつつ、ベッド脇のソファに腰掛ける。
「は? 行かないの? え、マジで?」
「いや、逆になんで行くと思ったわけ? 女湯覗きとか普通に犯罪じゃねえか」
「チッチッチ。分かってないなぁ、お前は。確かに女湯覗きは迷惑防止条例違反で1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金に問われるが、俺は別に“覗き”をやるとは一言も言ってないぞ?」
「お前、無駄に法律に詳しいのな」
しかし、覗くつもりが無いのなら一体コイツは何をしに女湯に行くというのだろうか。
「あのなぁ、田島。真の男ってのは妄想力さえあれば、浴場に近づくだけで欲情できるものなのさ」
「ちょっと上手いこと言ってんじゃねえよ。いや、何がしたいのかはサッパリ分らんけど」
「まあ聞け。要するに俺はギリギリ許されるくらいのレベルで浴場の脱衣所に近づき、耳を澄ませて女子たちのキャッキャウフフな声を聞きつつ、肌を露わにしながら会話している彼女たちの姿を想像しようじゃないか、と言いたいだけなのだよ」
「あっそ。なるほどな。じゃあ犯罪にならない程度に頑張れよ。陰ながら応援してる」
間違いなくこれは関わるとロクなことにならない。無視だ、無視。
「ちょっとぉー! 田島の旦那ぁー!! 冷たいじゃないっすかー!! 一緒に行きましょうよぉー!!」
「あー、もうウゼェな! さっきからそのテンションなんなんだよ!! 行きたかったら一人で行けばいいじゃねえか!!」
「は? 一人とか嫌に決まってるだろ。俺に一人で行く勇気があるとでも思ってるのか?」
凛々しい顔からクソダサいセリフ吐くのやめろ。
「つーか一人で行くのが嫌にしても俺を連れてく必要ないだろ。吉原と脇谷も連れてRBIみんなで行けばいいじゃないか。いや、もちろん行かないのがベストなんだけどさ」
「フッ、何を言っているんだ田島。もちろんアイツらは連れてくさ。でもな、RBIってのは3人とも腰抜けクソビビり陰キャなんだよ。んで、ビビりが3人寄ったところで文殊の知恵にもならないし、心強くもならない。だからお前が居ないと心細いんだ」
「もうRBIに名前変えろよ。そんなんで今までよくもまあ、リア充撲滅なんて言えたな」
「後生だ田島! 脱衣所に近づくのが嫌なら、遠くから俺たちの勇姿を見守ってくれるだけでいい! なんか3人だけで決行するのって怖いんだよ!! 頼む! この通り!!」
からの、まさかの土下座on ベッド。一体コイツの中の何がここまでの行動をさせているというのだろうか。
……と、一瞬考えてみたが、どう考えても性欲だった。
「ったく、しゃあねぇな……わかったよ。とりあえず離れたところからお前たちのことは見とくよ」
もうここまでくると、逆にコイツらの行動に興味が沸いてきた。まあバカな事件ってのは往々にして、後で振り返った時に案外笑い話にもなったりするからな。バカ3人が迎えるバッドエンドを見るのも、また修学旅行の一興というものだろう。
────以上、“RBI vs 体育教師(通称:爆弾岩)”開戦1時間前の回想。