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painful paradox

お待たせいたしました。続きでございます。

-side 田島亮-


 商店街の入り口で合流を果たした、俺、唯、翔、そしてキャサリンの4人は、その足で10分ほど歩いて河川敷へと到着。翔曰く、『花火はここから見るのが1番なんだ!』とのことで、俺たちはなだらかな傾斜になっている河川敷の芝生の上に直接座り、花火の開始を待つこととなったのだが......


「あ、スマン、亮。俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」


「あ、一応私も行っておこうかな」


 翔、唯のそんなセリフとともに、気づけば友人の彼女--キャサリンと2人きりという、若干の気まずさを感じる状況になっていた。


 さて。一体全体どう話題をふればいいものか。個人的には翔と付き合うことになった経緯とか、そのあたりが気になるのだが直接聞いてもいいものなのだろうか。


 と、取るに足らぬ自問自答をしてみたものの。


「ねぇ、亮と翔と唯って普段どんな感じなの?」


 隣に座っているキャサリンのその一言により、俺の小さな悩みは即座に解決されたのであった。


「うーん、普段の俺たちねぇ......」


 長いこと一緒に居るから、もちろん話せることはたくさんあるはずだ。しかし不思議なもので、いざ普段の様子を直接聞かれると、コレといった解答が導き出せない。はてさて、どうしたものか。


「あ、ごめんね。ちょっと答え辛かったかな?」


「あー、いや、別にそういうわけじゃないんだけど......一緒に居るのが当たり前過ぎて、いざそういう風に聞かれると、なんて言えばいいのか分かんねぇな、みたいな」


「へぇー、そうなんだ。なんか羨ましいなぁ。そういうの、ちょっと憧れちゃう」


 稲穂のようにきめ細やかな髪をなびかせつつ、どこか少し寂しげな笑みを浮かべているキャサリン。様子を見るに、俺にとっての"当たり前"が彼女にとっては羨望の対象となっているようだが、それは一体なぜなのだろうか。


 一抹の疑問を抱く俺を尻目に、キャサリンは話を続ける。


「私ってさ、小さい頃からずっと翔と一緒だったんだよね。5歳の時にパパの仕事の都合で日本に来たんだけど、その時からずーっと一緒。幼稚園で『ガイジンだ! ガイジンだ!』って言って私のことをイジメてくる子たちが居たんだけど、いつも助けにきてくれたのが翔だった。そこから仲良くなって、日本語とかも教えてもらったりして......あとは、ね? まあ、自然とお互い好きになって、気づいたら今みたいな感じになってたかなぁ」


 直後、初対面であるにも関わらず、俺に馴れ初めを話してくれたキャサリンは「やだ、なんか恥ずかしくなってきちゃったっ!」と言いながら、俺の肩を叩いた。


「まあ、だからさ? 今は翔と離れてるし、友達がゼロってわけでもないんだけどさ? 中学生の時までは友達もロクに作らずに翔と過ごしてばっかりだったから、亮たちの友情みたいなのが、なんだか羨ましくなっちゃったの」


「友情......か」


 それは今の俺たちの関係を定義するには、最も適切な言葉なのだろう。なんでもない日常を分かち合い、くだらないことで笑い合っている俺たちの間柄を表すにふさわしいことばなのだろう。


 しかし。しかしである。


 じゃあ俺が今アリス先輩に感じている親しみは。本気で俺のことを好いていてくれる彼女に対して抱いている、この感情の正体は一体なんなのだろう、と。そんなことを考えてしまう。


 咲も、岬さんも、そして唯も。長い間俺と一緒に過ごしてくれた彼女たちに抱いている気持ちは一体なんなのだろう、と。そんな、抽象的で不明瞭な疑問を抱いてしまう。


 男である翔に対して抱いている感情とは、明らかに異なっているということは分かっている。でも、分かっているのはそれだけだ。


 全員が大切で。けれど、このままではいけないんだろうな、ということが、なぜだか痛いほど実感できて。なのに、俺は明確な答えが出せなくて。


 二律背反、パラドクス。答えを急かす心と、靄がかかった思考。痛々しいほどの自己矛盾。


 ああ、痛いイタい。色んな意味でイタい。たかだか17年そこらしか生きてないくせに、頭ん中で生意気にカッコつけた言葉を並べてしまう自分もイタいし、色々考え過ぎて頭も痛くなる。


 ずっとこのままではいられないんだろうなってことだけは、なんとなく分かってるから......そう考えると、心もひどく痛む。


「なぁ、キャサリン。人を好きになるってどういうことなんだと思う? 俺、分かんねぇよ。みんな大好きだから分からないんだよ。誰か1人だけを特別に思うって気持ちが分からないんだ。その、さっき『自然と好きになって』って言ってたけどさ......それってどういう感覚なんだ?」


 




 そして初対面の相手に、それも親友の彼女に。なんの脈絡もなく、矢継ぎ早にこんなことを尋ねてしまう俺は、きっとどうしようもないくらいに痛々しい。

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