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新島翔の消失

大変お待たせしました。続きでございます。

-side 田島亮-


 4人でファミレスに入店し、そこそこの時間が経過。最初は一抹の不安を抱いている様子の唯であったが、


「そういえばさ。キャサリンってめっちゃ肌きれいだよね。ねぇねぇ、スキンケアとかどうやってるの?」


「ん? 別に特別なことはやってないよ? お風呂あがりに化粧水と乳液使って保湿してるだけかな」


「へぇー、そうなんだ。あ、化粧水は何使ってるの? めっちゃ気になるんだけど」


 このように、気づけば2人で女子ならではのトークを繰り広げるほどに仲良くなっていた。 


 いやはや、コミュ力の高い女子とはこんなにも早く打ち解けるものなのか。唯のトラウマの話を聞いたものだから少し心配しながら見守っていたのだが、これだけ普通に喋れてるなら俺が気を遣う必要は無さそうだ。まったく。心配して損したぜ。


「おい、そこの女子2人。盛り上がっているところに水を差すようで申し訳ないが、もう少しで秋祭りが始まる時間だ。そろそろ店出るぞ」


 キャピキャピと盛り上がっているキャサリンと唯に向けて翔が言う。まだ昼過ぎではあるのだが、秋祭りまではもう時間がないようだ。どうやら、この街の秋祭りとやらは思っていたよりも早く始まるらしい。


「うん、わかった。あー、でも翔と亮は先に店出ててくんない? 唯と私はちょっと祭りの前に行かなきゃいけないところがあるからさ」


 そして翔の言葉に納得しつつも、俺たちとは別行動をとるように促すキャサリン。唯と2人で寄るべき所があるらしいが、はてさて、俺らと別れてまで行きたいところとはどこなのだろうか。純粋に気になるところではある。


「OK、分かった。よし、亮。じゃあ俺たちは先に行くか」


 しかし、翔は別段2人のことを気にする素振りもなく、キャサリンの言葉に納得している様子。もしやコイツは2人が俺たちに内緒でどこに向かおうとしているのか察しているのだろうか。


 え、俺は全くもって見当が付いていないんだけど? なんだ? 彼女が居るか居ないかってのは、こういうとこで差が付くのか?


 と、翔の勝ち組オーラを感じつつも、


「ああ、そうだな。じゃあ俺らは先に出るか」


 それを口に出したところで大した意味も無い気がした俺は、彼女たちの指示通りに翔と共に一足先に店を出ることにした。


♦︎


 駅前のファミレスから10分ほど歩き、秋祭りの開催地である千ノ宮商店街に到着。今日は休日ということもあり、老若男女を問わず多くの人で賑わっている。既に金魚すくいや、焼きそば屋等の出店も繁盛しており、まさに"街の一大イベント"といった盛況具合だ。


「いやー、今年も盛り上がってんなー。夏休みは亮とあんまり遊べなかったもんだから、一回こういうとこにお前と来てみたかったんだよ。どうだ? 商店街での祭りっていうのも、捨てたもんじゃねぇだろ?」


「だな。つーか、思ったより盛り上がっててビビるわ。でも、まあ......こういうのも悪くないな」


 俺は、どちらかと言うと人混みはあまり得意な方ではない。だが今この瞬間に限っては、大勢の地元の人達でごった返している、この光景を悪くないものだと思えた。些細な非日常を楽しんでいる人々を見ていると、不思議とこちらの気分も高揚してくるような感覚になってくるのだ。


「今日は細かいことはなんも考えずにみんなで楽しむ日だ。だからお前もちゃんと楽しむんだぞ? 俺はそのためにわざわざお前をここまで連れてきたんだからな」


「......ああ、分かってるよ」


 そんなぶっきらぼうに返事をしながらも、俺はふと悟った。ああ、やはりコイツは俺の親友なんだな、と。


 俺の記憶上、翔と共に過ごした時間はわずか1年余りだ。それでも、やはりコイツだけは他のヤツと違う気がするのである。


 きっと翔は、文化祭の時に色々あって俺がウジウジ悩んでいることを見抜いたのだろう。その上でコイツは俺の事情に踏み込み過ぎず、『悩んでばかりじゃ良くないぞ』というメッセージを込めて、わざわざこんな所まで連れてきたのだ。


 一緒に居た時間は決して長くはない。しかし、こういうことを自然にやられると、やはり新島翔という存在は俺にとって特別なんだろうな、と自覚させられた。


♦︎


「翔ー! 亮ー! お待たせー!」


「え、えっと......お、お待たせ......」



 そんな掛け声と共に浴衣姿のキャサリン&唯コンビが現れたのは、俺と翔が商店街の入り口に着いてから30分程経った頃だった。

 

「やっぱ、そうきたか。まあ、キャサリンが仁科を連れて行った時点でお前らが浴衣に着替えてくるだろうなってのは、大体分かってたよ。お前の家メッチャ浴衣あるしな」


「ごめんね! 着付けに時間かかって遅れちゃった! でも、その分私たちの魅力も増したでしょ? どう? 似合ってる? 似合ってるぅー?」


 そう言ってドヤ顔で花柄の浴衣姿を翔に見せつけるキャサリン。 

 

「あー、うん。似合ってる。似合ってるよ。世界一かわいい」


 一方、翔は若干照れ臭そうに目を逸らしつつも、キャサリンをしっかりと褒めている。


 はは、ファミレスではそんなにイチャついている様子はなかったけど、翔もちゃんと彼氏やってるんだな。なんか新鮮な気分だわ。


 --と、2人の様子を見て頬を緩めていた時だった。


「もうっ、キャサリン達の方ばっかり見てないで少しは私のこと見てくれてもいいんじゃないの?」


 気づけば唯が俺のすぐ目の前まで来ていて、少し不機嫌そうに頬を膨らませいた。


「私も浴衣に着替えてるし、髪型もちょっと変えてるのよ? ちょっとは気にしてくれてもいいんじゃないの? それとも、なに? 私が着替えててもなんとも思わないって言うの?」


「いや、別にそういうわけじゃなくてだな......」


 普段と違い、長い黒髪を束ねたポニーテール。そして赤を基調とし、シンプルながらも鮮やかな色合いの浴衣姿。いつもは大抵、制服姿かユニホーム姿の唯しか見ていない俺にとって、彼女のその姿は意外というか、なんというか......とてもギャップのあるものだった。


「ねぇ、お世辞でもいいから似合ってるって言ってよ。私、普段あんまりこういう格好しないんだよ?」


「いや、お世辞抜きで普通に似合ってるよ。けど、ちょっとビックリして言葉が出なかっただけというか、なんというか......うん、そんな感じだ」


「ふ、ふーん......なら、まあ、いいんだけど?」


「......お、おう」


 おい、ちょっと待て。なんだ、この小っ恥ずかしい感覚は。翔とキャサリンのせいで、俺らまでなんか変な雰囲気になってきてんぞ。


 つーか......







「アイツらいつのまにか消えやがった......」




 なんか、気づいたら唯と2人きりになってたんだが。

次回、唯と亮のお祭りデート

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