ハジメマシテ
すみません、最近卒業研究が忙しくて執筆時間がなかなか確保できずに更新が遅くなってしまいました。
ゆっくりになるかもしれませんが、今後も更新は続けていきますので、これからも読んでいただけるととても嬉しいです。
それでは続きです。お楽しみください。
-side 田島亮-
4連休初日の朝。誰一人寝坊することもなく無事に駅で集合を果たした俺たちは、翔の故郷へと向かうべく、現在、左から順に唯、俺、翔という立ち位置で並び、吊革を掴んで電車に揺られているところである。
「そういえば、こうして3人で出かけるのも久しぶりだな。なんだろ。いっつも顔合わせてるはずなのに、私服姿でお前らに会うのって、すげぇ違和感あるんだよな」
いつもの制服とは違い、今日は随分とシャレた格好をしている翔が言う。きっと今日のコイツは彼女に会うからファッションにも気合が入っているのだろう。前回3人で遊園地に行った時は割とカジュアルな格好だったのだが、今日は打って変わってビシッと決まった服装をしている。
「あー、確かに新島の気持ちは分かるかも。普段は部活とかで忙しすぎて私服を着る機会すらほとんどないもんねぇ。はぁ、もう少しオシャレとかしてみたいんだけどなぁ」
一方、唯は翔に同意を示しながら溜息をついている。まあ、おそらく女子ならではの悩みというものもあるのだろう。つっても、俺はファッションに疎いし、その辺のことはよく分からないのだが。
「ん? 亮? どうしたの? ジーっと私の方見て......」
うーん、しかし言われてみれば唯の私服姿を見るのは久しぶりだな。今日は唯がヒールを履いてるもんだから、いつもより目線の高さが近く感じる。
「ねぇ、亮、ちょっと......」
つーか、唯って意外とオシャレなんだな。白のブラウスも、丈が長めのデニムもよく似合っている。なんだかいつもより大人っぽい雰囲気が出ているな。きっと、スタイルが良くて脚も長いからなんでも似合ってしまうのだろう。ちくしょう、このハイスペック女子め。
「もう! 亮ってば! 黙ってこっち見るのやめてよ!! なんか恥ずかしいから!!」
「あ! す、すまん......」
やっべぇ、唯の私服姿が新鮮過ぎてついつい見入ってしまった。
「感想......言ってよ」
「ん、? 今なんか言ったか?」
「だ、だから、その......私の今日の服の感想を聞かせてって言ってるの! こういう服着るの久しぶりだし、なんか不安だし、もし似合ってなかったら嫌だし、えーと、それから......それから......!」
「いや、なんでそんな慌ててんの。とりあえず落ち着けって。普通に似合ってるから」
「! へ、へぇー、そうなんだ......ふぅーん......」
そう言って一瞬だけ身体をピクッとさせると、唯はプイっと目線を逸らして窓の方に視線を移してしまった。
えーっと、なんつーか......やっぱ文化祭終わってから唯の様子がちょっとおかしいんだよな。なんとなく、会話が前より続かなくなったような気がする。
この状況はあまり良くないのかもしれないとは思うものの、俺はいつも通り話そうとしてるつもりだし、別に態度を変えたつもりもないんだよな。だから、こんなことになってる原因も分からないし、正直どうすれば良いか分からないっていうのが現状で。
つーか、アリス先輩のことといい、唯のことといい、マジで文化祭終わってから悩んでばっかだな、俺。明確な答えも出せないまま、小さい脳みそで色々考えてばっかだ。自分で自分の心がうまく理解できないというか、なんというか。ハッキリ言葉にはできないけど、とりあえずそんな感じだな......
『次の停車駅は千ノ宮。千ノ宮。降り口は左側です』
あれやこれやと考え事をしていると、電車内に案内アナウンスが流れてきた。『千ノ宮』は確か翔の地元だったはずだ。なんだ、もう着いてしまったのか。思ったより早かったな。
「よし。亮、仁科、次で降りるぞ。忘れ物とかしないように気を付けろよ」
「おう、これでやっとお前の彼女のご尊顔を見られるわけだな。いやー、楽しみ楽しみ」
「うぅ、どうしよう......私、なんか急に緊張してきちゃった......」
純粋に翔の彼女と会うことを楽しみにしている俺とは違い、少々不安混じりな様子を見せている唯。校内屈指の人気者である唯なら翔の彼女とも問題なく打ち解けられるような気がするのだが、どうやら初対面の相手と会う時は少々緊張してしまうらしい。
そして、唯の横顔を眺めながらそんなことを考えていると、千ノ宮に到着したこと告げるアナウンスが流れた。
「よし着いたぞ。あ、ちなみに彼女はもう駅に着いてるらしいから、改札とかは出来るだけ急ぎめでよろしく。つーわけで、レッツゴー!」
そう一言告げると、電車を出た翔は猛スピードで改札口の方へと走り始めてしまった。
「あ、ちょっと! 待ちなさいよ新島! さすがに駅で走るのはマズイでしょ!!」
「はは、翔のヤツ、久しぶりに彼女に会うもんだからテンションが上がりきっちゃってんだろうな。まあ、今日くらいは大目に見てやろうぜ」
「そ、そうね......じゃあ、とりあえず私たちも改札済ませちゃおっか」
「ああ、そうだな」
そして、俺と唯も軽く言葉を交わしつつ改札口へと歩みを進めた。
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改札を済ませて千ノ宮駅を出た俺と唯は、駅から数十メートルほど離れた噴水広場のベンチに腰掛けている翔を無事発見。彼女さんを待たせるわけにもいかないと思い、俺は少し歩くペースを早めようとしたのだが......
「あ、ちょっと待って亮! 隣! 一回新島の隣に座ってる子を見てみて!!」
と言いながら唯が肩を叩いてきたので、俺は一度歩みを止めることに。
「え? どうしたんだよ、唯」
「ね、ねぇ、亮、あのさ、新島の彼女ってあの子なのかな......?」
「ん? あの子ってどの子だよ?」
と、わざわざ俺を呼び止めてきたことに疑問を抱きつつも、なにやら唯が驚いているようなので俺も彼女の言葉に従って翔の隣に人物を見てみることにする。
「............おう、マジか」
「だよね。やっぱそういう反応になるよね。目を疑いたくなるよね」
「......そうだな。ちょっとこういうパターンは想像してなかったわ」
翔の隣に座っているのは、エメラルドのような緑の瞳を持つ1人の少女だった。綺麗なブロンド色の髪を肩まで伸ばしており、フランス人形を彷彿とさせる真紅のミニドレスは、透き通った白い肌によく似合っている。
つーか......
「ねぇ、亮。あの子、こっち見て手ブンブン振りながら何か言ってない?」
オイ、翔、お前......
「ユイー! リョー!! はじめましてー!! 私はキャサリン・スージーといいマース!! ショーのガールフレンドデスー!!!」
お前の彼女、バチクソ欧米系じゃねぇか。