お前らにも俺の彼女と仲良くなってもらおうツアー
お待たせしました。続きでございます。
-side 田島亮-
文化祭が終わってから、今日でちょうど2週間。文化祭期間中は立て続けに色々なことがあって混乱しそうになった俺であったが、ここ数日は特にイベントが起きることもなく、あの忙しなかった2日間とは打って変わり、俺は平穏な日常を過ごしていた。
まあ......俺の心中は穏やかであるとは言い難いのだが。
「おい、どうした亮。弁当開けっぱなしでボーッと窓なんか眺めやがって。もう昼休み終わっちまうぞ。さっさと食えよ」
真後ろの席から声を掛けられて、ハッと我に返る。いかんいかん、最近は以前にも増して考え事が増えてしまっているみたいだな。弁当残したら母さんに悪いし、さっさと食わねぇと。
「なあ、亮。なんかお前、文化祭終わってから様子おかしくねぇか? 心ここにあらずというか、なんというか。何かあったのか?」
「......いや、別になにもないよ」
振り返って翔と向き合ったものの、俺はそう言う他無かった。俺のことを心配してくれている翔には申し訳ないが、ここで文化祭の時のことを話すわけにはいかなかったのだ。
相談したい気持ちが無いと言えば嘘になるが、教室で話せるような内容じゃないからな。それにアリス先輩の気持ちを考えれば、いくら相手が翔であるとは言え、おいそれと『先輩に告白された』なんて言葉は軽々しく口にすることはできなかった。
「フン、本当にお前は嘘をつくのが下手だな。何も無いんだったら、せめて顔に出さないようにする努力くらいしろよ。まあ、話したくないんだったら無理に聞き出そうとは思わねぇけどよ」
「......すまん」
「いや、別に謝る必要はねぇって。でもな......なんか調子狂うんだよ。お前も仁科も文化祭の後からなんか元気無いしよ。別にテンションブチ上げろとまでは言わないが、修学旅行も近いんだし、もうちょい元気出してほしいところなんだが......」
と言いつつ、翔は俺の右隣の席に座っている仁科の方をチラリと見る。
「な、なによ新島......」
「いや、なんか最近仁科が元気無いなーって思って」
「! べ、べべ、別に? そんなことないはないわよ......?」
そう言いつつも、目線をキョロキョロさせながら苦笑いを浮かべる唯。いやはや、相変わらずこの女は分かりやすい性格をしている。
まあ確かに翔の言う通り、最近の唯からはどことなく、よそよそしさを感じるのも事実だ。セリフを覚えられなく悩んでいた俺を明るく励ましてくれた時とは打って変わり、最近は唯から話しかけてくれる回数が減ってきているような気がする。
つっても、俺から話しかければいつも通り振る舞ってくれるし、そのうち今まで通りの態度に戻ってくれるとは思うのだが。
「まあさっきも言った通り、俺は亮と仁科がテンション下がってる原因を無理に知ろうとは思わないし、聞き出すつもりもないさ」
「お、おう、そうか」
「だが、しかーし! お前らがそんなんだと俺がつまらないので、ここで『ある企画』を提案させてもらう!!」
「ん? なんだよ、『ある企画』って」
「よくぞ聞いてくれた! それはズバリ! 『お前らにも俺の彼女と仲良くなってもらおうツアー』だ!!」
いや、ネーミング。
「つーか、え? それって翔が俺らに彼女を紹介してくれるってことなのか? まあ、興味が無いというわけでもないし、むしろメチャメチャ興味はあるから魅力的な提案ではあるんだが」
「そ、そうね......でも新島? どうして急にそんなことを?」
「いや、今週って4連休だし部活も休みじゃん?そんで、俺の地元では毎年秋祭りってのがあるんだけどさ。今年はちょうど連休中に、その秋祭りがあるわけよ。だからさ、どうせならお前ら誘ってパーっと俺の地元で遊ぼうかなって思って」
「なるほどなるほど。んで、そのついでにお前の彼女を俺たちに紹介してくれるということか」
「イエス。ザッツライト」
え、やべぇ。普通に超行きてぇ。前々から翔の彼女のことは気になってたし、祭りとか全然行ったことないし。
「俺の地元は県外だけど電車に2時間乗っとけばいいだけだし、普通に日帰りはできる。だから、距離的な心配は一切無用だ。どうだ? 一緒に秋祭り行かねぇか?」
「行く。いや、絶対行く」
「えっと......じゃあ私も行こうかな。連休中は特に予定あるわけでもないし」
「よし、決まりだな! じゃあ明後日の朝7時に天明高校前駅集合ってことで!」
こうして俺と唯は、新島翔主催の『お前らにも俺の彼女と仲良くなってもらおうツアー』という、なんとも奇妙な企画に参加することとなった。