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出会った場所で、2人きりで

亮くん視点に戻ります。

-side 田島亮-


 当初は迷子の女の子の親を直接探そうとしていた俺と岬さんであったが、咲の『実行委員本部に行って放送で親御さんを呼び出してもらえばいいんじゃないの?』という提案により、俺たち3人は女の子を連れて1階の本部へと向かうことに。


 そして先刻、本部からの呼び出しを受けて親御さんが駆けつけて女の子と合流したことにより、くだんの迷子問題は解決。岬さんと咲がクラスの仕事に戻ることになり、再び手持ち無沙汰になった俺は現在、特に何をするでもなく1人で校内をうろついているところである。


「さーて、唯にメッセージ送るのも終わったし、いよいよ暇になったぞぉ」


 知っているメンツとは大体会ったし、特に行きたいところがあるわけでもない。いやはや、困った困った。


「.......あ、そういや新聞部室にまだ行ってなかったな。さすがに顔出さないとマズイか」


 部員じゃないけど新聞部の出し物についての話し合いには、一応俺も参加したからな。つーか、最終的に『校内新聞の特別号書け』って言ったの俺だし。


 いや、まあ部外者の俺が指示を出すのとか本来ダメだと思うよ? でも、あの人達『コスプレお好み焼きチョコバナナ陶芸たこ焼きメイド喫茶』がやりたいとか言ったんだぞ? ンなことできるわけないだろ? だから今回ばかりは俺が冷静に意見を出すしかなかったわけよ。


 さて。『去年は手書きで大きな新聞を書いた』って瀬奈ちゃんは言ってたけど、今年はどんな新聞が出来上がったんだろうか。確認ついでに新聞部室に寄ってみるとするか。



-------------------ーーー


 渡り廊下を経由し、部室棟2階の新聞部室前に到着。軽くドアをノックをしつつ、『失礼しまーす』と一声かけながら部室の中へと入る。


「お! ダーリンいらっしゃい!」


 相変わらず殺風景な新聞部室。そして、そんな地味な雰囲気とは正反対のキラキラオーラを纏っているハイテンション金髪少女が1人。俺が部室に入ると、室内中央でパイプ椅子に座っていた先輩が立ち上がり、いつものように明るい笑顔で俺を歓迎してくれた。


「あれ? 今日はリンさんと瀬奈ちゃんは居ないんですか?」


 素朴な疑問を先輩に投げかけつつ、俺は壁際に折り畳んであるパイプ椅子を手に取り、先輩の正面に移動して腰掛ける。


「うん。なんか2人ともクラスの方が忙しいみたいでね。今日は顔を出せないみたいなの」


「なるほど。じゃあ先輩はずっと1人で部室に居たんですか?」


「いや、そういうわけでもないよ? クラスの友達とテキトーにぶらついたり、リンちゃんと瀬奈ちゃんに会いに行ったりって感じかな。で、その後なんとなく部室に寄ってみたい気分になったから今はここに居るの」


「あー、そういうことだったんですね。いやー、危なかったっす。タイミングが悪かったらアリス先輩と入れ違いになってたかもですね」


 つーか、よくよく考えたら校内新聞の特別号を部室に飾ってるわけなかったわ。なんで部室に来たんだよ俺。頭悪過ぎだろ。


「そっかぁ。タイミングが悪かったらダーリンに会えなかったかもしれないのかぁ。ふふ、そう考えたら私たちが今こうして一緒に話せてるって運命かもしれないね♪」


「いや、それはちょっと大袈裟なのでは......」


「えぇー、別に大袈裟なんかじゃないと思うけどなぁ。よくよく考えてみたらダーリンと2人きりって結構久しぶりな気がするし」


「まあ、それはそうですけど......」


「ねぇねぇ、ダーリン? こうして部室に2人で居たらさ、出会った時のこと思い出さない?」


「あ、あはは......あの出会いは中々強烈でした......」


 アリス先輩との出会いかぁ。アレ以上にインパクトのあるイベントはなかなか経験していない気がするな。なんてったって、いきなり部室に監禁されて、壁ドンされて、壁ドン返しして、先輩に説教して、いきなり先輩に告白されて抱きつかれたんだもんな。いや、ホント。1年くらい経ってるけど、アレは忘れらんないわ。


「ダーリンと出会ってからは本当に楽しかったなぁ。リンちゃんと瀬奈ちゃんも前より明るくなったし。そういえば4人ですごろくしたり、ダーリンの家でゲームしたりしたんだよね。ふふ、今思い返すと随分昔のことみたいに感じちゃう」


「ホント色々ありましたよね。いや、マジで色々あり過ぎましたよ」


 体育祭の借り物競走でリンさんと瀬奈ちゃんと腕組んだり、夏休みに4人で映画見たり......こうして過去を辿ってみると、新聞部員たちとの思い出は本当に多いと思う。


 はは、個性が強すぎて時々困ることもあるけど、3人が居てくれたおかげで俺は退屈しない日常を過ごせているのかもな。


「はぁ、卒業まであと半年かぁ。なんか、あっという間だったなぁ」


 窓をぼんやりと眺めつつ、ため息まじりに先輩はポツリとつぶやいた。


「ダーリン、今まで本当にありがとう。私が高校生活最後の年をこんなに楽しく過ごすことが出来たのは君のおかげだよ。だから......本当にありがとう」


「や、やだなぁ。やめてくださいよ、先輩。急にしおらしくなんないでくださいよ。らしくないじゃないですか。まだ、あと半年もあるんですよ?」


「ふふ、きっと半年なんてあっという間よ? だから言いたいことは言える時に言っとかないと。あとで後悔しても遅いんだから」


 いつものハイテンションとは違い、真剣な表情の先輩は、その大きい瞳で俺をまっすぐに捉えている。


「えぇ、そうよ。そうよね。言いたいことがあったら早く言うべきだったのよ。ふふ、先延ばしになんてするべきじゃなかったわね」


「せ、先輩? どうしたんですか、急に......」


「君の"先輩"でいられるのが心地良かった。少しの間でも君の隣に居られるのが嬉しかった。みんなで遊ぶ時間が楽しくてしょうがなかった。でも......そんな時間を失ってしまうのが嫌だから、私は今までずっと見ないフリをしてた。言ってしまえば、この関係が崩れてしまうって分かってたから」


 そう言うと、俺の正面に座っていた先輩は突然俺の頬に手を触れてきた。


「っ! せ、先輩!?」


「ねぇ、田島亮くん? 君にとって私はどういう存在なのかな? ただの先輩なのかな?」


「っ! そ、それは......!」


「ごめんね。去年『いつか真剣に交際を申し込むよ』なんて言って、全部先延ばしにしてたのは私の方なのに、いきなりこんなこと言っちゃって。でもね、私もこの1年間精一杯君にアピールしてきたつもりなの。だから......今日はちゃんと言うね?」


 儚げな表情でそう言うと、頬を上気させた先輩は少しうるんだ瞳で俺を見つめたまま、徐々に、その整った顔を近づきてきて---








「私をあなたの彼女にしてください」


 昼下がりの新聞部室。その言葉とともに彼女から唇を奪われたのは本当に突然の出来事だった。

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