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会いたいけど会いたくない

大変長らくお待たせしました。大学院試が無事終了しましたので、本日から連載を再開させていただきます。


前回までの話の流れを忘れてしまった方は大変申し訳ないのですが、111話「二日目スタート!」のあたりから見直していただけると、内容が頭に入りやすくなるかと思います。


さて、今回は保健室で亮くんにキスをしちゃった唯ちゃんの葛藤を描いたお話となっております。楽しんでいただければ幸いです。

-side 仁科唯-


「うぅ......あたま痛い......」


 昼下がりの1人きりの自室。ベッドの上で情けないうめき声をあげつつ、私はこめかみに軽く手を当ててみる。悪寒や身体のダルさはそれほど無いけれど、今日はいつになく頭痛が酷い。


 はあ、今日は文化祭最終日なのに、風邪引いちゃったなぁ。


 来年は受験があって忙しいだろうし、みんなと純粋に楽しめる文化祭は多分今年で最後。そう考えると『今日は学校に行けない』という単純な事実が、いつも以上に私の心にダメージを与えているような気がした。


「そっかぁ。皆でワイワイやれる時間って、思ってたより残ってないんだなぁ......」


 最近は色々と忙しくて、こんなことを考える暇も無かった。けれど、よくよく考えてみれば今年の私たちが控えている大きなイベントは、文化祭を除けば修学旅行くらいのものだ。


 そして修学旅行が終わって、3学期が終わってしまえば私たちは受験生。きっと今以上に忙しくなって『今まで通りに楽しく』というわけにはいかなくなるんだろう。


 もしそうなってしまえば......亮と話せる時間も減っちゃうのかもしれない。




「......って、あぁーん、もうっ! アイツのこと考えたら昨日の保健室でのこと思い出しちゃった......!!」


 ああ、もう、ホントいやだ......今すぐ消えて無くなってしまいたい......


 いや、ホントに昨日の私はどうかしてたわよ。なんで私は『あんなこと』をしちゃったんだろう。


 ーー寝ている亮にキス、なんて......


 あの後、自分がしでかした事の大きさに気づいた私は、罪悪感を感じたり、胸がドキドキしたりし過ぎて、なんだかワケが分からなくなって、気づけば猛ダッシュで保健室を出て行ってしまった。そしてその後、家に帰るまでの記憶はほとんど残っていない。


「はぁ......」


 ひとりぼっちの静かな部屋に大きな溜息が響きわたる。頭が痛いはずなのに余計な考え事が止まらない。


【これからどんな顔をしてアイツと話せばいいんだろう】


【キスしたことがバレたらキモいって思われちゃうのかな?】


【アイツは私が今日学校を休んでるのを気にしてくれているのかな?】


 疑問、不安、そして淡い期待。色んな感情が胸の中でグルグル渦巻いて、とめどなく溢れ出す。はぁ、私ってダメだな。体調が悪い時はどうしてもネガティブになっちゃうよ。


 もうっ、アイツには本当に悩まされてばかり。こんなに私を困らせているんだから、アイツには少しくらいは責任をとってほしい。


 ーーこんなに私を悩ませてるんだから......キスのひとつくらいは許してほしい。


 だって私って多分顔は悪くないし、胸も他の子より大きいし......そこそこ魅力だってあるはずだもん! むしろそんな私からキスしてもらえたんだからアイツは喜ぶべきじゃない!


「......ふふっ、なーんてね」

 

 ああ、私って思ってたより自分勝手なんだなぁ。気持ちを抑えきれなくなった私が全部悪いのに、アイツのせいにしようとするなんて。ほんっと、なんかイヤになってきちゃうなぁ。


「うーん、もう全部言っちゃった方が良いのかなぁ......」


 本当は年末の部活の全国大会に亮を呼んで、アイツの前で最高の走りを見せて、区間賞をとって......それから告白するつもりだった。だって私が1番私らしくいられるのは、みんなの前で走っている時だから。


 それに......アイツも『一生懸命走っているお前の姿は人に感動を与えることができる』って言ってくれたから。


 だから私はアイツの前で『最高に私らしい私』を見てもらってから、この気持ちを伝えるつもりだったのよ。


 でもアイツと過ごせば過ごすほど私の想いは募っていって、胸がいっぱいになって......今は耐えきれないほどに苦しくなってくる。


「はぁ、恋にも正解があれば良いのになぁ......」


 そもそも正解がある問題すらロクに解けないくいバカな私が、正解の無い問題を解けるワケが無いのよ。ほんっと。恋愛なんて、難しいったら、ありゃしないわ。


 街でデートをしているカップルを見かけることが結構あるけれど、私にはどうしてもそれが理解できない。あの人達はどうして告白する勇気を出せるんだろう。振られた後のことを考えたり、関係性が壊れたりすることを怖いとは思わないのだろうか。


 ............と、そんな乙女チックなことを考えていると、枕元でバイブ音がした。



「え、え、え、え!? り、亮からメッセージ!?」


 唐突に鳴動した枕元のスマホ。そして、画面に表示されたのは紛れもなく"絶賛私を悩ませ中"なアイツからメッセージが届いたという通知だった。


「お、お、お、落ち着くのよ、私。そ、そう。私と亮は男女である前に友達。だから体調を気遣って私にメッセージを送ってくるのも普通。変に舞い上がっちゃダメ.......」


 え、えぇ、そうよ。ワタシ、リョウ、トモダチ。リョウ、マイフレンド。リョウ、アイラブユー。


 と、慌てふためきつつも私はアプリを起動してメッセージを確認。



【田島亮: えーっと、俺は爆睡してたから覚えていないんだが、昨日は劇が終わった後にすぐ唯が保健室にかけてくれてたっていうのを保険医の先生から聞いたよ。お前が居てくれてたのに、ずっと寝ちゃっててごめんな。そして、心配してくれてありがとう。おかげで俺も体調は結構マシになったよ。あと、具合悪くて文化祭に来られないのは辛いと思うけど、今日はちゃんと休むんだぞ? 俺はお前が元気になるまで待ってるからさ】


【田島亮: あ、すまん。なんかスゲェ長文になってんな笑 あと、やっぱお前が居ないから、今日はちょっと寂しいわ笑】


「..............はうぅっ!」


 いきなり不意打ちを喰らったような気分になり、驚きや嬉しさで感情がオーバーヒートしかけた私は枕に顔を押し付けた。


「え、えへへ......亮が待ってるって言ってくれた......それに私が居なくて寂しいって言ってくれた......!」


 おそらくとてつもないニヤケ顔になっているであろうことを理解しつつ、体調が悪いことも忘れかけた私は、自分のほっぺたに両手を当てて『えへへ......えへへ......』と情けない声を上げながら身体をグネグネさせる。


 はぁ、やっぱり私ってチョロいのかなぁ。たったこれだけのことでこんなに舞い上がっちゃうなんて......


 うーん......でも、実際に飛び上がっちゃいたくなるくらい嬉しいんだし、もうこれはしょうがないよねっ!


 と、自分がバカ丸出しの考えをしていることを自覚しつつ、私はスマホと睨めっこをしながら彼にメッセージを返してみる。



【仁科唯: ありがとう、亮! 早く元気になれるように頑張るねっ!!】


 あはは、なんか浮かれすぎててすっごく普通の返事になっちゃった。まあ、でも、いっか。長文を送っちゃったら、それはそれで嬉しさ丸出しになる感じがしちゃいそうで、なんか悔しいし恥ずかしいし。


 はぁ、次学校で会った時、私ってアイツの顔をちゃんと見られるのかな......


「あ、いや、多分無理......最近も結構直視するのは恥ずかしかったのに、次会ったら絶対キスしたこと思いだしちゃう......」


 嬉しさで舞い上がりまくったものの、その反動で次に会った時は問答無用でアイツの前で顔を真っ赤にしちゃいそうで......なんだか、私が"いつもの私"ではいられなくなるようか気がして。


 そして、気づけば私は『アイツに会いたいけど会いたくない』という、自分でもよく理解できない複雑な感情を抱いていた。

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