2日目スタート!
今回は久々にヤツらが登場します。
-side 田島亮-
諸々あってブッ倒れた俺は、なんと保健室で3時間も爆睡。結局、文化祭1日目の大半はベッドの上で過ごすこととなった。
そしてまあ、夕方に目が覚めたら隣には保険医の先生と母さんが居て、『一応病院には行っときなさい』って言われたもんだから、とりあえず放課後は病院に直行した。んで、診断結果は背中の重度の打撲と右足首の捻挫だった。医者が言うには全治1週間程度の怪我らしい。
まあ、歩く時に多少の痛みはあるものの、日常生活に影響が出るほどの怪我ではなかったというわけだ。いつも通り平和に過ごしておけば、そのうち治るだろう。
と、まあそんな感じで俺の文化祭1日目は終了。アクシデントはあったものの、劇はちゃんと成功させることができたし、俺的には及第点を与えて良い1日だったと思う。
そして本日は文化祭2日目.......つっても、天明高校の文化祭は2日間しか無いから今日は最終日なんだけどな。まあ、なにはともあれ今日も文化祭だ。俺らの出し物は昨日終わったし、今日は純粋に客として楽しむとしよう。唯と翔を誘って色んなとこを回るのもアリかもな。
なーんてことを思いつつ、今日の俺はいつもより若干浮ついた気持ちで登校を果たしたわけだが.......
「すまん亮。今日は実行委員の方で忙しいんだわ」
翔は朝っぱらから足早に教室から消え、
「あー、仁科は体調不良で今日は休みだぞ。先ほど親御さんから連絡があった」
唯に至っては学校にすら来ておらず、
「あ、あれ? 俺、今日どうしよう.......」
気づけば俺は1人、廊下で立ち尽くしていた。
「やべぇ.......そういえば俺ってクラスに一緒に文化祭を回れるような友達が全然居ねぇんだよな.......」
いや、まあクラスメートと仲が悪いってわけじゃないし、『一緒に回ろうぜ』って言えば仲間に入れてくれるとは思うんだよ? でも、ほら、一概に友達って言っても、距離感は相手によって違うわけじゃん? だから出来れば俺は気心が知れてる唯とか翔と回りたかったわけよ。他のクラスメートと回ると、なんかこっちが気を遣いそうな気がしてさ。
うーん、だが折角の文化祭だ。このまま廊下で立ち尽くしているのはもったいないな。
「.......よし」
暇だし、RBI&新聞部のところにでも行くとするか。
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『文化祭のしおり』によると、西川と脇谷が所属する1組はパンケーキ屋を、そして吉原が所属する4組ではおにぎり屋を、それぞれ校庭で出店しているとのことであった。
というわけで、とりあえず俺は玄関で靴を履き替えて外に向かおうとしたのだが.......
「パンケーキ〜、パンケーキはいかがっすかぁ〜? JKお手製の〜、あ〜、パンケーキはいかがっすかぁ〜?」
「おにぎり〜、おにぎりはいかがっすかぁ〜? JKの手が直接触れた〜、おにぎりはいかがっすかぁ〜?」
なぜか玄関前にはクーラーボックスを両手に抱え、気怠げな声で宣伝をしているバカ3人の姿があった。
亮「.......いや、なにしてんのお前ら」
吉「.......」
脇「.......」
西「.......」
亮「.......いや、無視するのやめてくんない!? せめて何か言ってくんない!?」
吉「いやー、なんというか」
脇「仁科とキスシーンを演じたリア充野郎の田島を粛清したいところではあるんだが」
西「俺らは怪我をしてまで仁科を守ったお前のことも見てたもんだから」
吉、脇、西「「「ぶっちゃけ複雑な心境なんだわ」」」
随分と丁寧なセリフ分けだな.......
亮「はぁ.......まあいいや。で、お前らはこんなとこで何してんだ? 校庭で店を出してるんじゃなかったのか?」
脇「いやー、それがウチのクラスの女子軍団がパンケーキを作りすぎたらしくてな。店だけじゃ売り捌けなさそうだからっていう理由で、俺らは出張販売を命じられたんだよ。半強制的にな」
吉「まあ、ウチのおにぎり屋も似たような感じだな」
西「はぁ、陰キャってこういう時辛いよな。女子の頼みとか断れねぇもんな。あー、怖い怖い。売れ残ったら多分殺されるぞ」
西川はクラスの女子をなんだと思っているのだろうか。
亮「あー、うん。まあ、大体の事情は分かったわ。つまりお前らはそこそこ人通りがある玄関前で売り子をしてるってわけだな」
脇「そういうことだ」
吉「つーわけでお前も買え。ちなみにおにぎりは1個200円な」
西「パンケーキは250円だ。ほら、さっさと買え」
亮「ひっでぇ押し売りだな! いや、まあ買うけどさ!!」
というわけでRBIの圧に負けた俺は、少々ボッタクリなんじゃないかと思いつつも、パンケーキとおにぎりを購入。
吉、脇、西「「「はい、毎度ありぃ!!!」」」
チ、チクショウ.......コイツら、今日イチの笑顔じゃねぇか.......
しかし、さっき買う時にコイツらのクーラーボックスを見た感じだと、まだまだ在庫はある感じだったんだよな。とても今日1日で売り上げられる量とは思えなかった。
うーん、コレは俺も手伝った方が良いパターンか?
亮「なあ脇谷、クーラーボックスの余りってあったりするか?」
脇「あ? なんだよ急に。クーラーボックス?」
亮「いや、なんか在庫がハンパなかったから俺もお前らを手伝おうかなーと思ってな」
脇「.......」
吉「.......」
西「.......」
亮「いや、だから3人揃って急に黙るのやめてくんない!?」
脇「.......いや、まさかお前がここまでバカだとは思ってなくてな。つーか、クーラーボックスの余りとか無いし、お前の出る幕も無い」
吉「そうだそうだ。怪我人は黙って校舎でもウロウロしてろ」
西「つーかお前、ナチュラルにイケメンムーブしようとしてんじゃねえよ。さっきお前に押し売りした俺らのクズさが際立つじゃねぇか。消すぞコラ」
ひっでぇ言われようだな。
亮「あー、はいはい、そうかいそうかい。分かった分かった。じゃあ俺はこの辺で大人しく退散しときますよ」
まあ口汚くはあるが、一応コイツらも俺に気を遣ってくれているのだろう。会うのも久しぶりだったし、そこそこ名残り惜しい気もするが、ここは大人しく校舎に戻るとしよう。
そして3人と雑に別れの挨拶を交わした俺は、踵を返し、今度は新聞部室へ向かうことにした。
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2日目も依然として賑わっている校内を眺めつつ、新聞部室へと歩みを進める。最初は『1人で校内を歩く』という行為に少しばかりの抵抗があったものの、実際にこうしてブラついてみると、案外これが悪くない。うむ、第三者的な目線で文化祭を見るのも意外と楽しいものだな。
なんてことを考えつつ、廊下の角を曲がった時だった。
「メルンリリルン☆キュリリリ☆魔法少女メルン参上っ! 今日もリリカルパワーでアナタを狙い打ちっ☆」
「わー! すごいすごい! 本物のメルンちゃんみたい!!」
「.......」
無言。絶句。ただただ沈黙。曲がり角を曲がった瞬間に『それ』を見た俺は、衝撃のあまり、何も言うことが出来なかった。
いや、だって.......いきなり魔法少女姿の岬さんが目に飛び込んできたら何も言えないっしょ。しかも、小さい女の子相手に決めゼリフを言ってるとこまで見ちゃったし。
.............よし、ここは何も見なかったことにして退散するとしよう。うん、それがお互いのためだ。俺は何も見ていない。つーわけで、回れ、右。
「待って! 待って田島くん! 無言で立ち去るのだけはやめて! せめて話を聞いて! お願いだから話を聞いてぇぇ!!!」
あっはは、やっぱそうなるよねー。うん、まあ、なんとなくそんな気はしてたよ。こういう時って全部無かったことにした方が絶対良いのに、なぜかどうしても呼び止めちゃうんだよね。うんうん、岬さんの気持ちは俺もよく分かるよ。
つーか.......顔を真っ赤にして恥ずかしがっている岬さんを放置するっていうのが、そもそも最初から無理な話だったんだわ。
次回も文化祭編が続いていきます。