私の王子様
続きでございます。
-side 仁科唯-
「おい、そこの3人! 何をやっているんだ! 劇は10分後に再開だぞ! さっさとお前たちも配置につけ!!」
未だに話し込んでいる私たち3人に向けて、舞台袖から柏木先生が大声で声をかける。どうやら、このままゆっくり話している時間は無いみたいだ。
「はは、ごめんな仁科、亮。なんかいきなり重い空気にしちまってよ。でもさ、やっぱ俺はどうしても亮に無理をしてほしくないと思っちまうんだよ」
先ほどまでは真剣な顔をしていた新島。けれどその険しい表情も今は崩れていて、気づけば彼はいつものように明るい笑顔を浮かべながら亮と向き合っていた。
「ありがとう......ありがとう、翔。お前が俺の心配をしてくれているのはよく分かったし、すげぇ嬉しい。でも......それでも俺は......」
「はは、最後まで劇をやりたいんだろ? んな事分かってるよ。お前がそういう性格だってことはよく分かってるさ。どうせお前は『みんなのため』とか『自分のせいで劇を台無しにしたくない』とか思ってるんだろ? フン、全部お見通しなんだよ。俺が何を言ったところでお前の意思が曲がらないことも、俺はよーく分かってるからな」
「でもお前は俺の身体を心配してくれてるんだよな......クソ。自分でもどうしたらいいのか分かんなくなってきちまったよ......」
「フッ、相変わらずお前はバカだな。どうしたら良いのかわかんなくなったら、そりゃあ自分がやりたいようにやるしかねぇだろ」
「......え?」
「まあ、もちろんさっき言った通り、俺はお前の身体が心配さ。それは変わんねえ。でもお前がどうしても最後までやりたいって言うんなら、さ。もうあとは親友としてお前を全力で後押しするしかないだろ。友達がやりたいことを応援できないで、何が親友だってんだよ」
「翔......」
「まあ、なんだ。俺はとりあえず『お前に無理して欲しくない』っていう自分の気持ちを言いたかっただけだ。あとはお前がやりたいことをやりたいように全力でやってくれれば、それで良い。もしそれでお前が無理してブっ倒れたりするようなことがあったら......まあ、そん時は俺がダッシュでお前を保健室に運んでやるよ」
そこまで言うと、新島は亮の肩を掴んで最後に言い切った。
「だからお前は何も心配せずに最後までやり切れ! 頼むぞ、親友!!」
そう言うと新島は、軽やかな足取りで舞台袖のマイクスタンドがある方へと戻っていった。
「あ、あはは......なんかごめんね、亮。私も何か気が利いたことを言えれば良かったんだけど......」
亮と2人でステージ中央に取り残され、なんだか申し訳ない気分になった私は、力無くそう呟くことしかできなかった。
「はは、そんなの気にすんなって、唯。さっきはちょっと翔の勢いが凄すぎたからさ。まあ、あの雰囲気じゃ唯が何も言えないのもしょうがねぇよ」
「で、でも......私、亮に助けてもらったのに、何も言葉をかけられなくて......亮に何か返さなきゃいけないのに、何も返せなくて......」
って、何言ってんのよ私......! もうすぐ劇が再開されるってところなのに、暗い雰囲気にしてどうすんのよ......!
と、弱気な自分に嫌気がさした時だった。
「は? 何言ってんだよ。お前が俺に返さなきゃいけないことなんて何も無いんだぞ?」
そう言うと、亮は少しキョトンとした表情を浮かべながら、私をじーっと見つめきた。
「え? それって、どういう......」
「いや、まあ結果的に俺は唯を助けることになったかもしれねぇよ? でも......俺だって今まで唯に助けられてきたんだ。だからお前が俺に返さなきゃいけないものなんて何も無いんだよ」
え、私が亮を助けた......?
いや、でもそんな覚えは全然......
「......お前さ? 『この文化祭は2人で頑張ろうよ!』って俺に言ってくれたよな?」
「ま、まあ言った気はするけど......でもそれがどうしたの?」
「いやアレさ、すっげぇ嬉しかったの」
「......!」
「お前のあの言葉のおかげで、俺は1人じゃないってことを思い出せたからさ。まあ、なんだ、その......お前は気付いてないかもしんないけど、俺はあの言葉にめちゃくちゃ救われたんだぞ?」
そう言って明るく笑った亮の表情はいつもみたいに優しくて。今も背中が痛くて仕方がないはずなのに、その視線は私を捉えて離さなくて。
ーー私はただただ胸の高鳴りを感じながら、彼に見惚れることしかできなかった。
「唯は俺を助けてくれた。俺は唯を助けた。それでいいじゃねぇか。友達ならお互い助け合っていけばいいんだよ」
「う、うん......!」
「それにさ、お前はさっきからずっと『ごめん』って言ってるけど、俺としては『ありがとう』って言ってもらえる方が嬉しいんだぞ? まあ、何が言いたいかっていうとさ......やっぱりお前が謝る必要なんて全然無いんだよ」
そこまで言うと、私の右肩にポンと手を置いた亮。
ーーすると彼は今日1番の笑顔を見せながら、言い切った。
「だから唯は暗い顔をしてないで、いつもみたいに笑ってくれればいいんだ! へへ、ここまで来たら最後まで2人で頑張ろうぜ!」
「......!」
その眩し過ぎる笑顔を見た時。私は不意に思った。
ーーああ、やっぱり私はダメな女の子なんだな、と。
だって......
亮は傷ついているのに。亮は辛いはずなのに。亮は立っているだけで精一杯のはずなのに。私は......亮のことを心配しなきゃいけないはずなのに。
ーーそれでも、どうしても"嬉しい"っていう気持ちの方が勝っちゃうんだもん。
体を張って私を庇ってくれただけでも嬉しいのに。こんなの......こんなの、ずるいよ。
そんなこと言われたら......嬉しすぎて、もうどうにかなっちゃいそう。
「よし、じゃあみんなのところに戻ろうぜ、唯! ほら、行くぞ!!」
そんな私の気持ちも知らず、明るく私に声を掛けながら、舞台袖に戻り始めた亮。しかしその元気な声とは裏腹に、やはり痛みがあるせいか、その足取りは普段より少し弱々しいものになっている。
そしてそんな背中を見て、なんだか気持ちが抑えきれなくなってきた私は、勇気を出していつもよりチョットだけ積極的になってみることにする。
「ほら、亮! 一緒に戻ろっ! はい! 肩貸してあげる!!」
「え? い、いや、普通に自分で歩けるんだが......」
「もうっ! つべごべ言わない! ほら行くよ!」
そして一方的にそう告げた私は、少し抵抗感を示している亮のことを無視しつつ、無理やり彼と肩を組んでみた。
「え!? ち、ちょっと唯さん!? いや、だから普通に歩けるんだけど!? ていうか、ちょっと密着し過ぎじゃね!?」
「ふふ、怪我人は文句を言わないのっ。いいからアンタは私に身体を預けなさい♪」
「......え、唯さん? なんか急に元気になってない? いや、まあ、確かに"いつもみたいに笑え"とは言ったけども」
「ふふ、そういうことよ。何もかもが全部アンタのせいなんだから」
「いや......ちょっと何を言ってるのか全然分からないんですけども......」
ふふ、ほんっと。全部亮のせいなんだから。
今こうして身体を密着させたいと思ってしまったのも。もっともっと近づきたいと思ってしまうのも。前よりも胸がドキドキ言ってて苦しくて仕方がないのも。
そのぜーんぶが......アンタのせいなんだから。
-side 新島翔-
いや、お前ら、はよ付き合えや。
なーんてことを思いつつ、肩を組んで舞台袖に戻っていく2人を見届けてから5分ほどが経過。ようやく劇の再開時刻である。
まあ、つっても残ってるのはラストシーンだけなんだけどな。ニッシーナとリョー王子が想いを伝えあって、キス(実際にするとは言ってない)をして終わるだけなんだけどな。
まあ、あとは俺もやれることをやるだけだ。さて。ステージの幕も上がったことだし、ナレーションの方も気合を入れていきまっしょい。
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【ナレーター: 遂に魔女を倒し、地下牢に辿り着いたニッシーナ。そこには魔女の宣言通り王子が囚われていました。そして王子を見つけた彼女は、地下牢の鍵を剣で壊し、王子を救出しました】
【ニッシーナ: 王子様! 助けに来るのが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!!】
【リョー: いいえ、ニッシーナ。あなたが謝ることはありません。こうして私を助けに来てくれただけでも十分なのです。貴女は傷だらけになりながらも私を助けてくれた。それだけで十分なのです】
【ニッシーナ:私は......貴方を助けるためならば、どんなに傷ついても平気でした。他でもないリョー王子、貴方のためなら私はどんな困難も乗り越えられるのです! 私は......私は貴方を愛しているから......!】
【ナレーター: 騎士から王子への告白。それはまさに禁断の愛でした。王宮に仕える身である彼女からの告白は、どんな事情があろうと決して許されざることだったのです。しかし......リョー王子の気持ちもまた、騎士ニッシーナと同じでした】
【リョー: ニッシーナ。私は今まで幾度となく貴女が国を救ってきた姿を見てきました。そして、それと同時に私は......貴女に惹かれてしまったのです】
【ナレーター: もはや2人の間に騎士と王子という関係は無くなっていました。そこにあるのは、ただ純粋に想い合っている2人の男女の姿だったのです】
【ニッシーナ: リョー......】
【リョー: ニッシーナ......】
【ナレーター: 互いに名前を呼び合った2人は、お互いに吸い寄せられるように顔を近づけていきます】
-side 田島亮-
よ、よし......あとは唯と顔を近づけて、照明が落ちて終わり......
(い、いくわよ、亮......)
(お、おう......)
そして少しドギマギしつつも、唯と合図を交わした俺は、顔が触れ合わない程度に彼女との距離を詰め始める。
......って、やっべ。なんか息遣いとかめっちゃ聞こえてくるし、めちゃくちゃいい匂いするし、なんか頭がクラクラしてきて視界がボヤーっと......
あれ? なんでだ? すぐ目の前に居るはずの唯の顔が霞んで見えて......
「あ、あはは......ちょっとこれヤバイかも......」
そして、そう力無く呟いた俺の意識は、ステージの照明が落ちるのと同時に闇の中へと消えていった。
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背中に激痛を感じつつ、次に意識を取り戻した時に俺が居た場所はなんと......廊下を歩く新島翔の背中の上だった。
「あれ、翔......? これは一体どういう状況で......?」
「おー、気がついたか。はは、お前ったら劇が終わって照明が落ちた瞬間に、まるで電池が切れたようにブっ倒れちまったんだぜ? んで、まあ、その直後に駆けつけてくれた保険医の先生が言うには『呼吸は整ってるし、ただ意識を失ってるだけ』って話でな。それで、今はこうして俺が約束通りにお前を保健室に運んでるってわけよ」
「......はは、ゴメンな、翔。結局お前を頼ることになっちまったな。でも、そうか......俺が倒れたのは劇がちゃんと終わった後だったんだな」
なら、ちょっと安心したかな。
「......なぁ、亮。お前はどうしてそんなに無理をしてまで、最後までやりたがってたんだ? どっちかっつーと、お前は主役を押し付けられた感じだろ? なぁ、一体何がお前をそこまで突き動かしたっていうんだよ?」
「......うーん、なんでだろうな。よくよく考えてみると、心当たりが無いかもしれん」
「はは、なんだよそれ。ワケわかんねぇ」
うーん、確かにクラスのためとか、みんなのためとか思ってはいたけど......俺がただそれだけの理由でブッ倒れるまでやれるかっていうと、疑問なんだよな。
まあ、でも、強いて理由を挙げるとするなら......
「楽しみたかったから、かな」
「? 楽しみたかった......?」
「なんかさ。俺、こういうの初めてだったんだよ。みんなでワイワイやりながらイベントの準備をするのとか、初めてでさ。まあセリフが覚えられなくて悩んだこともあったけど......やっぱ今思うと、文化祭の準備期間って結構楽しかったんだよ」
そして俺が今そんな風に感じられるのは、きっと......昨日の放課後に唯が元気をくれたおかげなんだろう。
「まあ、だからさ。楽しい思い出は楽しいまま終わらせたかったんだよ。みんな一生懸命練習したのに、俺のせいで劇が中止になったりしてさ。それで文化祭に後味が悪い思い出が残る、っていうのが嫌だったんだよ。俺だけじゃなくて、みんな頑張ってたからさ。だから、まあ、みんなには......できるだけ良い思い出を残して欲しかったんだ」
誰かと何かを成し遂げるっていうのが初めてで。1つの目標に向かってクラスで団結するってのも、俺にとっては初めてのことだった。
そして......それがすっげぇ楽しかった。
「だから、まあ......ブっ倒れるまでやり切ったことに後悔はねぇよ」
「......はは、そうか」
俺の声を聞くと、なぜか少しだけ嬉しそうに笑った翔。
--すると翔は前を向いたまま、最後に俺に向けてこう言い放った。
「うん、やっぱお前ってカッケーわ」
-side 仁科唯-
時刻は15時。劇の衣装から制服に着替えた私は脇目も振らずに全力疾走をし、ようやく保健室に辿り着いた。
「し、失礼しますっ!!」
新島がちゃんと亮を保健室に運んでくれたのは知っているものの、自分の目の前で倒れた亮のことが心配で心配でたまらなかった私は、少し乱暴に保健室のドアを開けてみる。
「あら、仁科さん、いらっしゃい。ふふ、田島くんならそこに寝てるよ」
そう言って保険医の先生が指をさした先には、ベッドの上で気持ち良さそうにスヤスヤと寝ている亮の姿があった。
「せ、先生! 亮の! り、亮の怪我は大丈夫なんですか!?」
「まあまあ、仁科さん。そんなに慌てないの。確かに田島くんは少し怪我をしていたけれど、大事に至る怪我ではないわ。背中の打撲と、あとは右足の捻挫。多分しばらく走ってなかったものだから、足を変な方向にひねっちゃったんでしょうね」
よ、良かった.....酷い怪我じゃなかったんだ......
「まあ田島くんが気を失っちゃったのは、精神的な影響が大きいと思うわ。彼、多分相当な痛みを我慢しながらステージに立ってたはずよ。まあ劇が終わった瞬間に緊張の糸が切れちゃって、そのまま倒れちゃったんでしょうね。それに、目の下のクマも酷かったわ。まあ徹夜で台本を読み込んでたってところでしょう。寝不足で疲れが溜まってた、っていうのも結構大きいと思うわ」
「な、なるほど.......詳しい説明ありがとうございます......」
そっか......亮は寝不足の状態で激痛を我慢してたからこんなことに......
はぁ......亮は『気にするな』って言ってたけど、やっぱ責任感じちゃうなぁ......
「まあ、田島くんはしばらく目が覚めないと思うけど......ふふ、心配ならベッドの近くに居てもいいわよ? 彼も目覚めた時に貴女が傍に居てくれた方が嬉しいだろうし」
「え、えぇ!? いや、え、えっと......じゃあ、その、はい......お言葉に甘えて、しばらくここに居させてもらいます......」
保険医の先生から急にからかわれて驚きはしたものの、やっぱり今はどうしても亮の傍に居たい。ここは恥ずかしさを堪えて、亮が寝ているベッドの傍に移動することにしよう。
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「仁科さーん、ちょっと急用ができちゃったから、私はしばらく保健室を空けるわね。じゃあ、田島くんのことはよろしくー」
丸椅子を用意して、亮が寝ているベッド隣に腰掛ける。すると、そう言った先生は、室内に私と亮だけを残して足早に保健室を出ていってしまった。
つまり......亮と2人きりになってしまった。
「スー......スー......」
「ふふ、ほんとに気持ち良さそうに寝てるわね」
あはは、まさか昨日の放課後に続いて、こうして亮の寝顔をもう1度見ることになるとは思っていなかったな。
今寝ている亮の表情は本当に穏やかで、それでいてなにかスッキリしているように見えて。さっきまでステージで痛みを耐えながら、気を張っていた時の表情とは全然違っていて......どっちかというと、ちょっと頼りないようにも見えるのだけど。
それでも亮が私を守ってくれたあの瞬間から、ずっと胸がドキドキしっぱなしなわけで。
体調を崩して寝ている亮を心配しなきゃいけないのに、やっぱり"2人きりになれて嬉しい"っていう気持ちの方が大きくなっちゃったりして。
顔に触れたいとか、抱きついてみたいとか、キスをしてみたいとか......こんな状況なのに、私はそんなことばかり考えてしまう。
「これも全部......アンタのせいなんだからね」
未だに高鳴りっぱなしの鼓動を感じつつ、そう呟いた私は亮の髪に触れてみる。
すると、男子のくせに意外とサラサラしていて、ちょっと驚いてみたり。
試しに腕に触れてみると、運動部でもないのに意外とガッシリとしているなー、っていうのが分かったりして。
ああ、やっぱり亮も男の子なんだなーって思ってみたりして。
そして、寝ている亮にそんなことをしてしまう私は......
「好き。好き。好き。好き......好き......」
彼の手を取りながら、抑えきれないこの気持ちを、誰にも聞こえないような声でそっと呟いてみたりする。
ほんっと......どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう。
誰にでも優しくするっていうのは分かってるのに。きっと亮は私以外の女の子も助けるはずなのに。私だけを見てくれているわけでもないのに。
【少なくとも俺は、お前が頑張ってることを知ってるんだから】
【頑張ってる仁科の事を悪く言う奴は誰であろうと俺が絶対許さねぇから】
【友達に頼られるのが迷惑なわけねぇだろ! つーか頼ってもらえたら嬉しいに決まってんだろうが!】
【だから唯は暗い顔をしてないで、いつもみたいに笑ってくれればいいんだ! へへ、ここまで来たら最後まで2人で頑張ろうぜ!】
そんなアンタの言葉が一字一句頭から離れなくて。明るく笑ってくれたアンタの顔が、頭の中でこびりついたまま全然離れてくれなくて。
ただでさえアンタはいつも私の心をかき乱しているのに......今日のアンタはみんなのために、そして私のために無茶をして......!
そんなの......そんなの、もっと好きになるに決まってるじゃん......
「スー......スー......」
「.......」
未だに私の目の前で無防備に寝ている亮。その顔は昨日、放課後の教室で見た時とほとんど同じで。昨日の私は『こんなに近いのに、どうして遠く感じるんだろう』なんて思っていた。
その気持ちは、やっぱり今この瞬間も同じで。そう思ってしまうのは.......やっぱりまだまだ私が亮の『特別』になれていないからなんだろう。
ーーだからこそ私はこれからアンタの特別になっていきい。
「スー......スー......」
劇の衣装を着たまま眠っている私の"王子様"。そんな彼を眺めていると、私の胸の中では『特別』になりたいって気持ちがどんどん溢れ出してきて......なんだか胸が苦しくなってきて。
ーー気づいた時には、昨日まで遠く感じていた亮との距離が少しずつ縮まってきてて。
ーー"そんなことをしたらダメだ"って分かってるはずなのに.......私の顔は息が直接当たっちゃうくらい、亮の寝顔に近づいていっちゃって。
「ごめんね、亮。でも......亮が悪いんだよ?」
夕日が差し込む午後の保健室。気づけば私は、寝ている男の子の唇を奪ってしまうような"悪い女の子"になっていた。
次回、文化祭2日目。