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宣伝デート

文化祭開始です。

-side 田島亮-


 漫画やラノベの世界の文化祭では、絶対と言っていいほどに『伝説』という言葉が付きまとっているように思う。


 『ハート形のものを送り合った2人は結ばれる』だとか、『キャンプファイヤーの時に手を触れ合っていた男女は結ばれる』だとか、『文化祭の最後に一緒に花火を見た2人は結ばれる』だとか、エトセトラエトセトラ。なぜかは分からないが、フィクションの世界の文化祭では出典不明の謎伝説がワンサカ存在している。


 しかし、フィクションはフィクション。残念ながら天明高校には、そういった類の伝説は存在しない。『記憶喪失』という、半ばフィクションのような体験をした俺ではあるが、漫画やラノベのような甘い伝説を体験することはできないのである。


 だが、それはそれとして。やはり文化祭がビッグイベントであるということに変わりはなく、本日の我がクラスは、いつもより若干騒がしい様相を見せている。


「よし! これで最後の打ち合わせは終わりだ! 俺たちの出番は14:00からだからな! 今から他クラスの出し物を見に行ったり、ステージ発表を見に行くのは構わねぇが、遅くても13:30までには全員体育館のステージ裏に来るんだぞ! はい、じゃあ一旦解散!!」


 そして時刻は12時ジャスト。全員がなんとなくソワソワしていて会議に集中できていなかった気はするが、本イベントのリーダー格、新島翔の掛け声によって最終打ち合わせは終了。教室の真ん中に形成されていた人の輪が崩れ、2年3組に残っているのは主役の俺と唯、そして監督兼ナレーターの翔の3人のみとなった。


「なんだよ、翔。いきなり『お前らは残れ』なんて言いやがって。打ち合わせとリハーサルは十分やっただろ。まだ何かあるのか?」


「そ、そうよね。劇はもうほぼ完璧に仕上がってるから何もやることはないと思うんだけど......新島? もしかしてまだ私たちの演技に至らないところがあったりするのかしら?」


 理由も伝えられず、突然教室に残るように指示された俺と唯は首を傾げつつ、翔に尋ねてみた。


「いや、お前らの演技は高校生にしては上出来だぞ。俺から言うことは特に何もない。まあ、本番もその調子で頼むわ」


「......は? だったら、なんでわざわざ俺たちを教室に残したんだ?」


 俺はてっきり居残りで演技の練習をすると思っていたんだが......どうやらそれは見当違いだったようだ。だとしたら、一体翔は俺たちに何をさせるつもりなのだろうか。


「まあ、なに、別にお前たちに難しいことをさせるつもりじゃねぇよ。俺はただお前たち2人に"宣伝役"をやってもらいたいだけなんだ」


「「せ、宣伝役......?」」


「そう、宣伝役。せっかく劇をやるんだ。どうせなら大勢の人達に見に来て欲しいじゃねぇか」


「なるほどな。まあ、宣伝役をするのは別に構わねぇが.......でもどうやって宣伝すりゃいいんだ? 『見に来てくださーい!』って言いながら校内を回ればいいのか?」


「いや、別にそこまでしなくてもいいぞ」


「じ、じゃあ一体私たちは何をすれば良いって言うのよ......」


 すると、唯の不安げな声を聞いた翔は、ニヤリと笑いながら俺たちの疑念に答えた。





「お前たちは本番用の衣装を着て2人で校内を回ってくれ。結構目立つだろうし、十分宣伝にはなるだろう」



----------------------


「なぁ、唯。やっぱ俺たちって超目立ってるよな......?」


「う、うん。私たちの衣装って結構派手だし、めっちゃ目立ってると思う......うわぁ、なんかちょっと恥ずかしくなってきたなぁ......」


 正装を身にまとった王子と、鎧で武装した女騎士。その2人が校内を歩いているというのは、俺の想像以上に人の目を引くものだったようで......現在、俺たちはすれ違いざまに生徒たちからジロジロ見られつつ、校内を歩いているところである。


「い、いやー、まさかこんなに注目されるなんて思ってなかったよ。えへへ、鎧を着た女騎士って結構目立つんだね......」


 少々恥ずかしそうに頬を染めながら、俺の隣を歩く唯。どうやら本人は鎧を着ているから目立っていると思っているようだが、俺は唯自身がかなり美形であることも大いに関係していると思う。


 スタイル抜群で、顔のパーツも整ってて、何を着ても似合っていて......普段は距離が近過ぎて忘れがちになってしまうが、仁科唯とは常に人の目を集めてしまう魅力的な女の子なのだ。今は確かに俺も注目されているのかもしれないが、やはり大半の人は唯の方を見ているのだろう。


「......ど、どうしたの、亮? も、もしかして私の顔に何か付いてる?」


 いかん。鎧姿の唯なんて滅多に見られないもんだから、新鮮過ぎてついつい見入ってしまったな......


「え、あ、いや、その......ほら、アレだよ。唯は何を着ても似合うだろうから羨ましいなー、って思っただけだよ」


 友恵から『女の子は褒めとけ』って口酸っぱく言われてるからな。ここは下手に誤魔化すより素直に本心を言っておいた方が良いだろう。



-side 仁科唯-


 亮が。いきなり。突然。私のことを褒めてきた。


「え、えぇ!? な、な、な、なに!? そ、そそそんな急に褒めないでよ、もうっ! びっくりするじゃない!!」


 って、ちょっと褒められただけでなに取り乱してんのよ私!? もうっ! たったそれだけのことでドキドキしてんじゃないわよ!!


「え? もしかして鎧姿を褒められるのって、女子的にはあんまり嬉しくなかったりする? だったら、その、うん。なんかごめん」


「い、いや、別に嬉しくないわけじゃないわよ。そ、それに、亮の王子姿も......に、似合ってるわよ」


「! お、おう......サ、サンキューな」


「う、うん......」


「......」


「......」






 あー、もうっ!! なんなのよ、この空気!? ドキドキし過ぎて全然話せないんだけど!!!


 ていうかコレってよくよく考えたら文化祭デートよね!? 2人で文化祭を見て回ってるんだから、そう捉えても良いのよね!? ってことは、私って今まさに亮と初デート中ってことなのよね!?


「いやー、それにしても色んな店があるんだな。はは、こうして歩いてるだけでも結構楽しめるよ」


「え、えぇ、そ、そうね......」


 あー、ダメだ、私ぃー。王子姿の亮がカッコ良すぎて顔を直接見れないぃー。鼓動がうるさすぎて、口が思うように動かないぃー。でもデートを出来てるのが嬉しすぎてニヤニヤが抑えられそうにないぃー。


 .......あー、うん。新島。アンタ、今回はホントにグッジョブよ。よくやったわね。褒めてつかわすわ。



-side 田島亮-


「なあ、唯。そろそろ昼飯食わねぇか? 喫茶店とか結構あるみたいだし、テキトーにどこかに入ろうぜ」


 目立ちに目立ちながら2人で校内を歩き回ること30分。十分に宣伝の役目を果たせたような気がした俺は、腹ごなしついでに他クラスの店に入ることを唯に提案してみた。


「そ、そうね。私もちょっとお腹空いてきたから何か食べたいかも。でもどこのお店に行く? 今年は意外と出店が多いから選択肢は結構あるけど」


「うーん......よし、ちょっと待っててくれ。確か『文化祭のしおり』に出店一覧が載ってたはずだ。唯が特に行きたい店が無いって言うんなら、俺がテキトーに店を決めるけど、それでも良いか?」


「うん。それで良いわよ。亮に任せるわね」


「あい、分かった。では、少々お待ちを」


 そして唯の許可を得た俺は、衣装のポケットに仕舞い込んでいた『しおり』を手にとり、出店一覧を眺めてみる。


 --すると、しおりを見ていた俺の目は一瞬で『あるクラス』の出店を強く認識することとなった。










【1年1組: 萌え萌えメイド喫茶 

〈かわいいメイドさん達がご主人様達をもてなしちゃいます!!〉】



 ......ふむふむ、なるほど。そうか、そうか。そういうことだったのか。友恵のヤツ、なぜかかたくなに自分のクラスのことを俺に話そうとしていなかったが......なるほど。そういうことだったのか。


「よし、唯。店を決めたぞ。1年1組にしよう」


「おっけー。じゃあ、行こっか」


 そして唯に一言告げた俺は、我が妹の晴れ姿を見るべく、軽やかな足取りで歩みを進め始めた。




 --さて、今日は俺がアイツのご主人様になってみるとするか。

次回、友恵ちゃん(メイドver.)登場。

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