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お待たせしました。続きでございます。

-side 田島友恵-


 私はとんでもない美少女を作り上げてしまったのかもしれない。


 とりあえずなんとなく軽いノリで咲さんを洗面所に連れ出して、母さんの見よう見まねで習得した付け焼き刃のメイクスキルで咲さんにお化粧をしてみたんだけど......なんか、こう、私の想像を遥かに超えるレベルの美人が完成してしまった。


「こ、これが私...?」


 そして現在、くだんの美少女は自分の顔を鏡を見ながら驚いた表情を浮かべている。


「す、すごいね、咲さん。まさかこんなにかわいくなるとは思わなかったよ。アレだね。咲さんって化粧映えする顔だったんだね」


「いやいや、多分友恵ちゃんのメイクが上手なんだよ。ありがとうね、友恵ちゃん」


「あー、うん。ど、どういたしまして...」


 いやー、メイクっていっても口紅を塗って、ファンデーションをちょっと乗せて、あとは睫毛まつげを少しイジっただけなんだけどなぁ...お礼を言われるほどのことはしてないと思うけど...


 ていうか小さい時からずっと一緒に居たからあんまり意識してなかったけど、咲さんってやっぱり可愛いんだよね。胸の大きさはギリギリ私が勝ってるけど、咲さんの目っておっきいし、顔も超小さいし......って、ヤバ。ちょっと嫉妬しちゃいそうになってきたんだけど。


「と、とりあえずリビングに戻ろっか、咲さん! そろそろチャーハンも完成してるだろうし! 早く兄貴を驚かせに行こっ!!」


「うわっ! ち、ちょっと、友恵ちゃん! 手ぇ引っ張んないでよ〜! ま、まだ心の準備が出来てないからぁ〜!!」


 そんな咲さんの嘆きを聞きつつも、若干変なテンションになった私は咲さんを半ば強引にリビングへと連れ戻したのであった。



-side 田島亮-


 チャーハン完成。そして食卓への配膳も完了。あとは『いただきます』を言って目の前の熱々チャーハンを食べるだけというところまで来たのだが......


「あいつら遅いな...」


 なぜか俺の調理中にリビングから出て行った2人がまだ戻って来ない。まったく。アイツらは一体何をしているというんだ。早く戻って来てくれないと折角のチャーハンが冷えてしまうじゃないか。


 つーか、腹減ったからマジで戻ってきて。早く食べたいから。


 と、心の中で弱々しく願っていると、突然リビングの扉が開く音がした。


「ごめん、兄貴〜! ちょっと遅くなった〜!」


「ご、ごめんね、待たせちゃって」


「ったく、何してたんだよお前た......ち!?」


 部屋に戻ってきた2人を見た瞬間。明らかに普段と様子が違う咲を見た俺は思わず仰天してしまった。


「ち、ちょっと、亮。あんまりジロジロ見られると恥ずかしいから...あんまり見ないで...」


「! す、すまん! え、えっと! じ、じゃあとりあえずお前ら席に着けよ! 飯はもうできたからさ!! 早く食おうぜ!!」


「おー、おいしそうじゃん。さすが兄貴。チャーハンの腕前だけはピカイチだね。じゃあ食べよっか、咲さん。ほらほら座って座って」


「う、うん、分かった...」


 すると友恵は空いている俺の正面の席に先を座らせつつ、彼女自身も咲の隣の席に座った。

 

「え、えっと......じゃあ、適当に食べ始めていいぞ」


「うん、分かった。じゃあ早速いただくわね。ありがとうね、亮。今日はわざわざお昼ご飯作ってくれて」


「い、いや! 全然いいってことよ!」


「よし! じゃあ私も食べ始めよっと! いっただっきまーす!!」


 そして、なんやかんやあったものの、女子2人は俺のお手製チャーハンを食べ始めてくれた。


 つーか......この咲の変化に対して俺は何か言うべきなのだろうか。なんか自然な感じで昼食が始まっちゃったけど、俺はこのままチャーハンを食べ始めてもいいのだろうか。


 ていうか女子って化粧しただけで、こんなに印象が変わるもんなんだな。いや、元々咲が美人な部類に入ることは分かってたけどさ。こうして改めて正面から見てみると、やっぱメイクってすげぇんだなぁと思う。


 あー、うん。つーか、ぶっちゃけ超かわいいっす。


「なになに、どーしたの兄貴ぃー? さっきから咲さんの方ばっかジロジロ見ちゃってぇー」


「え!? あ、いやー、その、なんだ。チャーハンの味が咲の口に合うかなーと思ってな...」


 うっ、また俺は苦しい言い訳を......つーか、友恵はなんでニヤニヤしながら俺の方を見てるんだ...? もしかして咲が化粧をしたことに対して何かツッこめって遠まわしに合図してるのか...?


「え、えーっと、どうですかね、咲さん。俺のチャーハンのお味の方は」


「うん、とっても美味しいよ。ふふ、また今度も作ってもらいたくなっちゃった」


「! そ、そうか。そりゃ良かった」


 え、なんなの。めっちゃ良い笑顔なんですけど。ちょっとドキッとしちゃったんですけど。


 つーか、さっきから友恵がジーッとこっちを見てくるんですけど。これって明らかに『咲さんに、何か言え!!』っていうアイコンタクトですよね。絶対そうですよね。だってお前、普段から『女の子の変化には敏感になれ』って言ってるもんね。


 しかし、どう声を掛ければいいんだ? 普通に『メイク似合ってるね』でいいのか? それともシンプルに『かわいい』って言った方が良いのか?


 いや、つーかそもそもなんで突然メイクしたのかもよく分からんしな。よし、ここは単刀直入にメイクをした理由を聞いてみるとしよう。



-side 市村咲-


「な、なぁ、咲はどうして急に、そ、その......化粧をしたんだ...?」


 昼食中。正面に亮が座っていて少しドキドキしつつ、『亮の手料理を食べられるなんて幸せだなぁ』なんてことを呑気に考えていると、彼から突然核心を突く質問を投げかけられた。


 ていうか、え!? ど、ど、どうしよう! なんて答えればいいのかな!? いや、メイクした1番の理由は『亮にかわいい私を見てもらいたかったから』なんだけど、そんなこと言えるわけないし!! ていうか、そもそも私のメイクをしてくれたのは友恵ちゃんだし!! 私が自分の意思でやったわけでもないし!!


「......咲?」


「え!? あ、いや、えーっとね! そ、その、私もたまにはオシャレしたいなって思って!! で、友恵ちゃんがメイクできるらしいから、ちょっとやってもらったの!!」


「な、なるほど......そういうことだったのか......」


「う、うん! そうなの!!」


 ふぅ、なんとか上手く誤魔化せたみたいね......


 うーん、でもやっぱりちょっとメイクした程度じゃ亮に『かわいい』とは言ってもらえないかぁ。それはちょっと残念かも......


 って、なに期待してんのよ私! 今日は友恵ちゃんにお菓子作りを教えてもらいに来ただけじゃない! それにこうして亮の手料理を食べることもできてるんだから! これ以上を望んだらバチが当たっちゃうわよ!!


 でも......折角メイクしてもらったし、やっぱり褒めてもらいたいなぁ......


「ん? どうした咲? 浮かない顔をしているみたいだが......ハッ! まさか本当は俺のチャーハン味が気に入らなかったのか!?」


「い、いや! 全然そんなことないよ! おいしい! おいしいから!!」


「そ、そうか。良かった。安心した」


「ふふ、亮ったら心配性なんだから」


「そ、そうか...?」


「まあ、確かに兄貴は心配性なところはあるかもね。ていうか過保護過ぎ。良い加減妹離れしろ」


「いやいや、それは友恵が兄離れできてないだけじゃないのか? つーか、お前も心配性だろ。去年俺が熱出した時なんか、お前泣いて...」


「わ、わー! わー! あー! なにそれなにそれー! そんなの知らなぁーい! 覚えてなぁーい!!」


「ふふふ。亮と友恵ちゃんは相変わらず仲が良いね」


「「いや、仲良くないから!!」」


「その割には息ピッタリだね」


「「ぐぬぬ...」」


 ふふ、楽しい。楽しいなぁ。そういえば、こんな風に3人で過ごすのって結構久しぶりな気がする。なんか懐かしくなってきちゃったな。


 田島兄妹は昔から仲が良くて、私は2人の言い合いを見て笑うことが多かったな。ズバズバ言いたいことを言い合っているのに、なんだかそれが楽しそうに見えて。小さい頃はそばで2人を眺めているだけでとっても楽しかった。


 私はこの兄妹のことが大好きだ。もちろん恋愛的な意味で亮のことは好きだけど、家族的な意味合いも込めて私はこの2人のことが大好き。


 --そして願わくば、将来私も2人と一緒に......なんてことを考えちゃう時もある。


 だからこそ私は絶対にこの恋を成功させたいの。同級生の友達とかは告白して、試しに付き合ってみて......みたいなことをしているけれど、私はそんなことはできないの。そういう『普通の恋』に憧れはあるけれど、私は今の気持ちを大事にしていたいの。


 重い想いだと思われてもいい。だって、それが私を形作っている原点なんだから。初恋を引きずって一途に亮を想い続けるのが市村咲という女の子なのだから。


「あ! そういえば、兄貴! せっかく咲さんがメイクしたのに感想言ってない!! このボケナス!! 女の子がオシャレをしてたら声を掛けるのが男の子の役目でしょ!!」


 え!? ちょっと友恵ちゃん!? 急になに言ってんの!? 私は別に亮から感想なんて言われなくても......


 などと考えつつも『グッジョブ友恵ちゃん!』と思ってしまった自分がいるのもまた事実だった。

 

「ほら、兄貴。早く咲さんになんか言いなさいよ」

 

「あー、やっぱ似合ってるなら似合ってるって言った方が良かったか。ごめんな、咲。メイクした女の子を見るのとか始めてだったもんで、何て言えばいいかよく分からなかったんだ」


「......え、亮? 今、似合ってるって言った?」


「いや、誰がどう見ても似合ってるっしょ。言わなきゃ分からなかったか?」


「そ、そうなんだ。へ、へぇー、誰がどう見ても似合ってるんだ......」


 似合ってるってことは、つまり亮が私のことをかわいいって思ったってこと...? そういえばリビングに戻ってきた直後はジーッと私のこと見てたし...じゃあ、あの時からずっと亮はメイクをした私のことを気にしてて...


 ああ、もうダメ! 嬉しすぎてニヤニヤが止まらない! このままここに居たら亮に気持ち悪いって思われちゃう!!


「お手洗いをお借りしますっ!!」


「え、ちょ、急になんなんだ!?」


「どしたの咲さん!?」


 そして私は田島兄妹の戸惑いの声を聞きつつも、真っ赤になりそうな顔を両手で抑えながら猛ダッシュでリビングを後にしたのであった。



----------------------


「どうしちゃったんだろ、私......前までは逃げ出すことなんてなかったのに......」


 とりあえず田島家のトイレに駆け込んだ私は、高揚した心を落ち着かせるために先程の自分の行いを反芻はんすうしていた。


「いや、確かに亮から褒められて嬉くて、照れそうになったことはあるけど......それでもこんなにドキドキしたことはなかったのに......」


 夏休みに亮から服が似合っているって言われた時も、まあ確かに嬉しかったけど彼の前から逃げ出してしまうほど照れ臭いわけでもなかった。なのに、今日はメイクが似合ってるって言われただけで嬉しくて顔から火が出そうになっちゃって......


 おかしい。こんなのは絶対おかしい。いくら私でも、たった一言でこんなに舞い上がっちゃうほどチョロくはなかったはずだ。


「なんで...なんでまだこんなにドキドキしてるんだろう...」


 1人になって冷静さを取り戻そうとしているのに、舞い上がった心はまだまだ全然落ち着いてくれない。一体いつから私はこんなに情緒不安定になってしまったんだろう。


 いや、きっと情緒不安定になってるってわけじゃないんだよね。多分私はもう......


 --亮への想いが抑えきれなくなってきている。


 きっともう私は募りに募った想いが溢れ出しそうになっていて。何年間も抱いてきた恋心に歯止めが効かなくなっていて......だから、私はもう亮と一緒に居るだけでドキドキが止まらなくなっているんだと思う。


「はぁ......そろそろ潮時なのかな......」


 好きになってもらえるまでアピールを続けるつもりだった。"両思いになった"と確信できるまで、伝えないつもりだった。何がなんでも私のことを好きにさせるつもりだった。


 --でも、もう私の亮へのラブがキャパオーバーしちゃいそうなの。


 あーあ。人生って上手くいかないなぁ。今まで私は亮の方から『好きだ』って言わせるくらいのつもりだったんだけどなぁ。


 --でも、もう自分を抑えきれなくなってるから仕方ないわよね。


「ふぅ......よし、決めた」


 うん。今までは恥ずかしかくて中々決断することができなかったけど、もう決めたわ。亮が私のことをどう思っているかはよく分からないし、成功するかどうかも分からないけど、きっとこのまま想いを募らせ続けても何も変わらないし、胸が苦しくなっていくだけだもの。


 ......だから今度こそ決意したわ。






 --私は2学期が終わるまでに亮に告白する!

次回も文化祭準備編が続きます。

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